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2013年3月18日 (月)

Bookcover 藝人春秋 [a]
水道橋博士 / 文藝春秋 / 2012-12

ノンフィクション(2011-) - 読了:「芸人春秋」

Bookcover なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記 (岩波現代文庫) [a]
H.S. クシュナー / 岩波書店 / 2008-03-14
アメリカのユダヤ教のラビが、広く一般に向けて、人の苦しみと信仰について語った本。1981年のベストセラーだったのだそうだ。普段は絶対に読まないタイプの本だけど、岩波現代文庫に入っていたせいで、気づかずに手に取った。
 非常に印象深い内容であった。いろいろ感想があるんだけど、うまく整理できない。

Bookcover イスラムの神秘主義―スーフィズム入門 (平凡社ライブラリー) [a]
レナルド・A. ニコルソン / 平凡社 / 1996-04
原著1914年、スーフィズムについての古典だそうだ。正直言って、ぜんぜん頭にはいらなかった。このたびはご縁がなかったということで...

哲学・思想(2011-) - 読了:「なぜ私だけが苦しむのか」「イスラムの神秘主義」

Bookcover よつばと! 12 (電撃コミックス) [a]
あずま きよひこ / アスキー・メディアワークス / 2013-03-09
現代マンガを代表する傑作の最新刊。いやあ、物事のディティールって大事なんだなあ、と感銘する次第である。

Bookcover 百合男子 1 我思う、ゆえに百合あり。 (IDコミックス 百合姫コミックス) [a]
倉田 嘘 / 一迅社 / 2011-08-18
過剰なまでの百合マニア (つまり女性の同性愛的恋愛のマニア) であるイケメン高校生の葛藤を描くコメディ。同級生の美少女が手を取り合って歩くのを尾行しつつ、ああ俺はこの世界にはいてはならない存在なのだ、とむやみに苦悩したりして、なかなか面白い。

Bookcover 暗殺教室 3 (ジャンプコミックス) [a]
松井 優征 / 集英社 / 2013-03-04

Bookcover 事件記者トトコ! 1巻 (ビームコミックス) [a]
丸山 薫 / エンターブレイン / 2013-02-15

Bookcover 補助隊モズクス 1 (ビームコミックス) [a]
高田 築 / エンターブレイン / 2013-01-15
一言でいうとスプラッタSFなんだけど、これ、ヘンに面白いなあ。二回読み直したが、どこが良いのか、いまいちつかめない。。。

Bookcover 神は細部に宿るのよ(3) (ワイドKC Kiss) [a]
久世 番子 / 講談社 / 2013-03-13
女性のファッションを題材にしたコミック・エッセイ。女の人の話なので、よくわからない部分もあるんだけど、毎回考え抜かれた比喩やギャグが盛り込まれていて、感心させられる。

Bookcover 泣き虫チエ子さん 2 [a]
益田 ミリ / 集英社 / 2013-02-25

コミックス(2011-) - 読了:「よつばと!」「暗殺教室」「事件記者トトコ!」「百合男子」「補助隊モズクス」「神は細部に宿るのよ」「泣き虫チエコさん」

Wallendorf, M. & Arnould, E.J. (1988) "My favorite things": A cross-cultural inquiry into object attachment, possessiveness, and social linkage. Journal of Marketing Research, 14, 531-547.
 ちょっと自分とは縁遠い感じの人類学的研究だけど、多少は仕事の足しになるかと思って、ぱらぱらと目を通した。著者らはマーケティング研究者と人類学者らしい。
 研究の目的は:

 調査地はアメリカ南西部(著者所属から見てアリゾナかしらん)、そしてアフリカのニジェール(どうやら第二著者のフィールドらしい)。データ収集は... アメリカでは、(1)質問紙調査、(2)MFTを写真に撮ってもらう。ニジェールでは、(1)アメリカと同様の質問紙調査、(2)FGI。なおアメリカのみ、MFTはリビングにあるものに制限。
 結果は... アメリカ人のMFTは思い出と結びついていたのに対して、ニジェール人のMFTは道具としての効率性に依存していた(すぐに換金できるとか)、綺麗なモノだったりした。その他、性差とか年齢差とかいろいろ議論していたけど、飛ばし読み。
 考察は:

云々。ふーん。

 気楽に読み流してしまった。こういうタイプの研究を読みつけていないので、良し悪しはさっぱりわからない。
 アメリカで集めた写真の分析方法、いまいちよくわかんなかったんだけど、写真における対象者とMFTとの物理的近接性をコーダーが5段階評定したんだそうだ。「あなたとあなたのお気に入りのものが両方うつっている写真をください」とでも教示したのかしらん。Collier & Collier (1986) "Visual Anthropology: Photography as a Research Tool" という本が引用されている。
 Chiksezentmihalyu & Rochberg-Halton(1981) は、「私は物質主義的じゃありません、だって特別な意味を感じるモノなんて持ってないですから」と主張する人は親友がいない、と書いているのだそうだ。ひえー。翻訳書を読んでみないといけないな。

論文:マーケティング - 読了: Wallendorf&Arnould (1988) 「マイ・フェイバリット・シングス」の文化差

2013年3月14日 (木)

Vincent, J. (2005) Emotional attachment to mobile phone: An extraordinary relationship. in Hamill, L., & Lasen, A. (eds.) "Mobile World: Past, Present and Future." Springer.
 昨年暮れに目を通した Vincent (2006) とほぼ同内容かもしれないが (正直、良く覚えていない)、まあもう一度ちゃんと読んでおこう、と思ってめくった。

 モバイルはいまやomnipresentだけど、その歴史は浅いし、音声通話を除けば旧技術から断絶している。よって使用のエチケットがもともと存在せず、人々は無線通信と固定電話の経験を参照せざるを得なかった。
 携帯電話使用の大部分は既存の社会的結合の維持である。2000年頃のUKでの著者らの調査では、モバイルは同僚・家族・友人との間では良く用いられていたが、仕事の客先とのあいだではあまり使われていなかった。公共空間での一部ではモバイル機器の使用が禁止された。Katz(2003)は、公共空間での携帯電話使用のありかたを、モバイル通信の「コレオグラフィー」と呼んだ(振付ってことですかね。上手いことをいう)。
 モバイルを持っていない人はいるけれど、いまやモバイルを持っていないということに意味が生じている("absent presence"。社会構成主義のGergenの言葉らしい)。
 人々は自分の携帯について語るとき、パニック、違和感、カッコよさ、不合理性、スリル、不安といった感情的用語を多く用いる。こうした感情は、モバイルとユーザの結合から生まれてきたもので、モバイルが社会的結合をどれだけ助けているか、モバイルが社会参加のためにどれだけ重要か、を示している。他のICTと異なり、モバイルへの感情的愛着はデバイス自体にではなく、デバイスが可能にする内容と対人接触、デバイスに貯蔵されている情報に対して生じている (あれれ、この先生が他の場所で書いてたこととちょっと違うような気が...)。
 感情的表現の背後にあるユーザとデバイスとの心理的関係については、いろいろ研究がある。まず、モバイル通信が社会的ボンディングを促進しているという研究。Ling&Yttri(2002, in Katz&Aakhus)は、ノルウェーのティーンエイジャーがSMSを一種の贈与システムとして用いていることを示している(ああ、これは面白そう)。ほかに、Puro(2002, in Katz&Aakhus), Kopomaa(2000, 書籍), Taylor&Harper(2003, CSCW), など。
 ユーザとモバイルの間には感情創造のプロセスが反復されているのだが、社会的結合の要求だけでは、なんでモバイルに限って強い感情的愛着が生じるのかの説明になっていない。ここにはおそらく行動と技術のsynthesisがあるわけで、この点について理解するにはオートポイエシスの概念が役に立つであろう(で、出たあ...)。
 モバイルへの感情を有効活用するというのは難しい問題だけど、これからの製品・サービスにとってはすごく重要だ。まずはユーザの感情についてもっと理解しないといけない。たとえば、SMSをただのコミュニケーション技術だと思ってはいけない。過去の個人的なメッセージを蓄積していることが感情的に価値があったりするのだ。
 云々。。。

 この先生の文章がなんで頭に入ってこないのか、やっとわかった。この先生、現象観察が大好きな人に時々みかける、ちょっとまとまりのない文章を書く人なのだ。

論文:マーケティング - 読了:Vincent (2005) 携帯電話への感情的愛着

de Vries, I. (2005) Mobile telephony: Realising the dream of ideal communications? in Hamill, L., & Lasen, A. (eds.) "Mobile World: Past, Present and Future." Springer.
仕事の足しになるかと思って先日買った論文集の第一章。著者はユトレヒト大のメディア研究者。電信、電話、ラジオ、テレビ、そしてモバイルと、通信技術の発達を概観する、いささかのんびりした内容であった。こんなの読んでる場合じゃないんだけどな、と焦りながら一読。
 通信発達の社会史は、天使のような完全な意思伝達という夢と、その失敗による失望との繰り返しだった、というようなことをJohn Petersという人が"Speaking into the air"(1999)という本の中で云っているのだそうだ。たとえばラジオの登場は電波による死者との対話という試みを生んだ(エジソンだって霊界通信機をつくった)。この本、面白そうだなあ。英語がスラスラ読めたらいいのだけれど。

論文:マーケティング - 読了:de Vries (2005) 電信からモバイルまでの社会史

2013年3月13日 (水)

Bookcover アーサー・ミラー〈1〉セールスマンの死 (ハヤカワ演劇文庫) [a]
アーサー・ミラー / 早川書房 / 2006-09-20
恐るべしアーサー・ミラー。時間がないのでなにも書けないけど、とにかくもうこれは大変な作品で... 読み終えてから数日は、老セールスマン・ウィリーのことばかり考えていた。

フィクション - 読了:「セールスマンの死」

Bookcover 昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書) [a]
川田 稔 / 中央公論新社 / 2011-12-17
永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中新一ら、昭和陸軍幹部の戦略構想に焦点を当てた本であった。
 それにしても、なんで田中新一という人は戦犯に指定されなかったんだろう...

日本近現代史 - 読了:「昭和陸軍の軌跡」

年明け以来、ほんとにばたばたしていて、本を読んでいる時間がないし、たまに読んでも記録する時間がない。嘆かわしいことだ。。。

Bookcover 建設業者 [a]
/ エクスナレッジ / 2012-10-01
宮大工からカーペット張りまで、建築業の職人36人のインタビュー。この本はほんとに面白かった。スタッズ・ターケル「仕事」を思わせる傑作。

Bookcover カウントダウン・メルトダウン 上 [a]
船橋 洋一 / 文藝春秋 / 2013-01-27
Bookcover カウントダウン・メルトダウン 下 [a]
船橋 洋一 / 文藝春秋 / 2013-01-27

Bookcover 吉田神道の四百年 神と葵の近世史 (講談社選書メチエ) [a]
井上 智勝 / 講談社 / 2013-01-11

Bookcover 仲代達矢が語る 日本映画黄金時代 (PHP新書) [a]
春日 太一 / PHP研究所 / 2013-01-17
30代の映画研究者による仲代達矢ロング・インタビュー。

Bookcover イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書) [a]
内藤 正典 / 筑摩書房 / 2012-08

Bookcover 紅の党 習近平体制誕生の内幕 [a]
朝日新聞中国総局 / 朝日新聞出版 / 2012-12-20

Bookcover 林彪春秋 [a]
姫田 光義 / 中央大学出版部 / 2009-07
近代中国史の研究者による、林彪に焦点を当てた本。前半は日本敗戦後の国共内戦についての細かい叙述。後半は71年にとんで、林彪事件の謎解き。なんというか、研究とエッセイがないまぜになったような文章であった。なにしろ最終章は、閻魔大王が開廷した毛沢東以下勢揃いの法廷による林彪裁判の実況中継である。なんで俺こんな本読んでんだろうと不思議に思いながらも、それなりに楽しく読了。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「建設業者」「カウントダウン・メルトダウン」「吉田神道の四百年」「仲代達矢が語る日本映画黄金時代」「イスラームから世界を見る」「紅の党」「林彪春秋」

木野, 岩代, 石原, 出木原 (2005) モノへの愛着の分析: 対人関係とのアナロジによる測定. 感性工学研究論文集, 6(2), 33-38.
大学生に愛着のあるモノを挙げさせ、それを家族とか友人とかにたとえた文章を提示し、当てはまるかどうか答えさせる。さらに、それに愛着を持つ理由を9項目のMAで聴取する。前者を後者で説明するロジスティック回帰をやると、「使いやすい」「役に立つ」は「××は身体の一部だ」評定に効くが、「××は自分自身だ」評定には効かない。なるほどね。

話の本筋からは離れるが、Okada(2001, J. Consumer Res.)という研究は、古いものを十分に使い切ったかどうかの主観的判断が買い替え阻害要因になることを示しているのだそうだ。おおお。。。

論文:心理 - 読了:木野ほか (2005) 愛着あるモノを人にたとえると

小川, 原田, 菊池 (2012) エージェントによるユーザ特性の把握が愛着感に与える影響. HAIシンポジウム 2012, 35-40.
 著者らは早稲田の所沢の方々。RFIDタグをかざして音声で対話する本の貸出管理システムがあって、その端末がちょっと可愛いロボットみたいな形をしてて、タグをかざすとロボットは「こんにちは」といい、ユーザの返事の音声を適当に分析してその人が元気かどうか判別し、「元気ですね」ないし「元気がありませんね」という。このロボットの使用前後でロボット君へのユーザの愛着がどう変わったかという話。きれいな結果じゃないけど、元気かどうかちゃんと判別したほうが愛着感が増した、という主旨。卒論とか修論とかかしらん。

 こういう風ないわゆるaffective computingの研究って、いまや山のようにあるんだろうなあと思って検索してみたら、なんとAffective Computing and Intelligent Intaractionという隔年の国際会議が、すでに2005年からあるらしい。へー。

論文:心理 - 読了:小川ほか(2012) 察してくれるロボットには愛着がわく

橋本, 寺内, 久保, 青木, 鈴木 (1998) モノに対する愛着の体系化. 日本デザイン学会研究発表大会概要集, 45, 28-29.
 仕事の都合で集めた資料のなかのひとつ。たった2ページの大会発表要旨だけど、頭の整理のためにとても助かったので、感謝を込めてメモしておく。著者らは千葉大のデザイン科学の方々。
 愛着のあるモノについての質問紙調査とインタビューの報告。まとめによれば、(1)性能、(2)素材感の良さ、(3)差別的特徴、の3つの要素に、(4)出会いの経験や思い出などの二次的価値観が付け加わることで、モノへの愛着が発生する。なるほど。

論文:心理 - 読了:橋本ほか (1998) モノに対する愛着

Lasen, A. (2005) Understanding mobile phone users and usage. Wireless Future Studies, No.4. Vodafone Group R&D.
 イギリスのSurrey大学というところに、Vodafoneが金を出しているDigital World Research Centreというのがあって、そこに属していた研究者によるモノグラフ。固定電話網と携帯電話網の社会的形成の歴史的比較、ロンドン・マドリード・パリの携帯電話使用の比較、デジタル機器と感情、の3部構成。全部で200頁近いので、第3部だけめくった。
 社会学系の研究者が書いたこういう文章って、実証と思弁をわざと複雑に混在させているような気がして、どうにも苦手なんだけど、まあそれは私の側の問題である。
 ユーザと携帯電話との感情的関係の発現として、著者は以下を列挙している。

 後半は「未来のaffective mobile phoneはこうなる」というような話になっちゃったので斜め読みで済ませたが、それはそれで面白かった。

論文:マーケティング - 読了:Lasen (2005) 携帯電話ユーザを理解する

Greenleaf, E.A. (1992) Improving rating scale measures by detecting and correcting bias components in some response styles. Journal of Marketing Research, 29(2), 176-88.
 x件尺度の調査項目への回答における回答スタイルの影響についての実証研究として、よく引用されているらしき論文。先日用事があって大急ぎでめくった資料のなかの一本。なんだかちょっと腹が立ったので最後まで目を通した。

 回答スタイルとして黙従傾向(yea-saying)と個人内SDの大きさに注目。たとえば、ある調査におけるyea-sayer (なんでもyes方向に回答しちゃう人) は、ほんとにすべての項目に対してポジティブな態度を持っている人なのかもしれないし、単にそういう回答バイアスを持っている人なのかもしれない。この二つが分離できないと、なにかと困る。分離してみましょう。という主旨。ただし、仮に回答スタイルの影響を受けない外的基準が手に入っていたら... という、いささか現実味のない状況についての話である。

 対象者 i が行動項目 k について示す行動頻度 B_{ik}(これが外的基準)についてのモデルをつくる。態度項目 j への反応を A_{ij}, 反応の個人内平均を M_i, 個人内SDを S_i として、

B_{ik} = \alpha_0
+ \alpha_1 A_{ij}
+ \alpha_2 M_i
+ \alpha_3 (S_i - S_{med})
+ \alpha_4 (S_i - S_{med})(A_{ij} - M_i)
+ \epsilon_{ik}

S_{med}というのは個人内SD S_i の標本中央値。5つ目の交互作用項がわかりにくいけど、以下のような理屈である。話を単純にするために、態度項目と行動項目に正の相関がある場合についてのみ考える。つまり、\alpha_1は正。

 さらに、こんなモデルもつくる。態度項目への回答を個人内で標準化したスコア A^*_{ij} = (A_{ij} - M_i) / S_i をつかって、

B_{ik} = \delta_0
+ \delta_1 A^*_{ij}
+ \delta_2 M_i
+ \delta_3 (S_i - S_{med})
+ \delta_4 (S_i - S_{med})(A^*_{ij})
+ \epsilon_{ik}

さっきと同様、\delta_1は正として、

うーん、こういう「白じゃなかったらそれは黒だ」的仮説設定はあんまり好きになれないのだが、well-formedではある。

 というわけで、アメリカの広告代理店がやった大規模な郵送調査データで検証する。さまざまな6件法態度項目が224項目、いろんな行動の頻度の聴取が127項目はいっていた由。それでいて回収率81%って、どんな調査なんだか...。
 まず、態度項目から個人内平均と個人内SDを求める。年齢、性別、年収との関連はあったが、行動項目との相関はなかった由。よかったですね、そこが崩れると、この話、滅茶苦茶になってしまう。
 次に、態度項目と行動項目を突合せ、関連が強くて筋もとおっているペアを49個つくって、それぞれのペアに上記の2つのモデルを当てはめOLS推定する。その結果、

まとめていうと、yea-sayingってのはバイアスではない(H1, H3は不支持)、個人内SDは部分的にバイアスだが、それだけじゃない。とのこと。

 では、個人内SDに起因するバイアスを除去してみましょう、というので、以下の指標をつくる。
A^{**}_{ij} = w_i A_{ij} + w_2 ( (A_{ij} - M_i) / (S_i / S_{med}) + M_i)
ただし w_1 + w_2 = 1。右辺第二項は、回答を個人内平均に向かって縮小してやった値で、その縮小率は個人内SDとその標本中央値の比で決める、という主旨である。
 この指標のw_1を0.25刻みで動かしながら、下のモデルに当てはめたところ

B_{ik} = \gamma_0
+ \gamma_1 A^{**}_{ij}
+ \gamma_2 (S_i - S_{med})
+ \gamma_3 (S_i - S_{med})(A^{**}_{ij} - M_i)
+ \epsilon_{ik}

w_1 = 0.5のとき、R^2が最大になり、\gamma_1と\gamma_3の符号が一致するペアはだいたい半分(28ペア)になった。
 よしよしこれで修正できたぞ、というわけで(信じるって素晴らしいなあ)、修正によって生じるインパクトを2例示す。12個の態度項目から2つの主成分を抽出し、対象者を各主成分の上位10%/中位80%/下位10%に分類する分析を、修正前と修正後で比較すると、修正によって上位/下位群から出て行った人と入ってきた人の年齢・教育水準が違う、とか。クラスタ分析だったらどうだったか、とか。このへんは、まあ実務家むけのデモンストレーションのつもりだろう。

 著者が想定している回答スタイルは、Baumgartner&Steenkamp(2001) がいうところのARS, ERS, MPRだと思う。なにもそれだけがバイアスの源じゃないだろうと思うが、もともと回答スタイルの実証研究には、問題とする回答スタイルを各研究者が好き勝手に定義しちゃうという悪弊があるものなので、ここでそれをあげつらっても仕方ない。ひとつの横断調査データのなかから態度項目と行動項目のペアを見つけ、ひとたび見つけるやいなや「この行動はこの態度で予測できるはずだ」と信じる、というのも相当強引なアプローチだと思うけど、それもまあいいとしよう。態度から行動を予測するにあたり、「態度の個人内偏差と個人内SDの交互作用項が負に効いたらそれはERSバイアスの証拠だ」という理屈も、多重共線性の心配はないのかしらんと不思議だが、まあよしとしよう。
 いっちばん引っかかるのは、交互作用項の係数の大きさではなく、符号にのみ注目していることだ。「49個のモデルのうちそれが負になったのは何個」だなんて、1992年に至って、なぜそんなローテクな話を? さっぱりわからない。個々のモデルについて効果量を求めるのが筋だろうに。
 後半の、回答スタイルがセグメンテーション・スタディを歪めるという例示も、ちゃんと読んでないけど、ちょっとげんなりする。著者が示しているのは、ある指標群をつかった対象者分類と、その指標群をちょっぴり変換した(回答の個人内分散が大きい人の回答を個人内平均に向かって少しずらした)指標群をつかった対象者分類が、デモグラフィック特性の観点から異なっていました、という話だ。それは要するに、回答の個人内分散がデモグラフィック特性によって異なるということだろう。だったらなぜそれを直接示してくれないのかと思う。わざわざセグメンテーションの文脈に持ち込むのは、なにかこの論文誌のお作法のようなものなのだろうか。

 素直に考えれば、たとえばある人がなんでもyes方向に回答しちゃったとして、それはその人がほんとに全項目についてポジティブな態度を持っていることを表しているのかもしれないし、単にそういう回答スタイルの人なのかもしれない。それは常に両方ありうることで、どっちかだけが正しい、なんてことはありえないだろうと思うのである。だから「yea-sayingは回答バイアスを含んでいるか否か」というような、白か黒かという仮説設定自体が、ああ論文のための仮説、研究のための研究だなあ、という気がする。
 現実には、回答スタイルらしきものはいつも存在する。その効果を全然除去しないのも困るし、完璧に除去しちゃうのも困る。そのさじ加減を決めるのが一番の悩みどころだし、その合理的な方法こそが、回答スタイル研究に強く期待されるところだろう。この論文でいえば、w_1の値を決めるところがそれだ。ところがこの先生ときたら、w_1を0から1まで0.25刻みで動かし、たった5通り試しただけで、よしw_1=0.5だと決めてしまう。なんだかなあ、もう...

 などとぼやきつつ最後のパラグラフまで読んでから気が付いたのだが、よく引用されているのはこの論文じゃなくて、著者が同じ年にPublic Opinion Quarterlyに載せたほうだ。ガアアアッデム...

論文:データ解析(-2014) - 読了:Greenleaf(1992) 回答スタイル由来のバイアスを検出・補正する

2013年3月 6日 (水)

やれやれ、読み終えたマンガの山をようやく整理できる...

Bookcover 暗殺教室 1 (ジャンプコミックス) [a]
松井 優征 / 集英社 / 2012-11-02
Bookcover 暗殺教室 2 (ジャンプコミックス) [a]
松井 優征 / 集英社 / 2012-12-28
週刊少年ジャンプ連載。最近ふと手にして、奇妙な引っ掛かりを覚えたマンガ。
 冒頭シーンはこうだ。中学校の教室。教壇には、両腕があるべき場所から長い触手を伸ばした、とても人間とは思えない姿をした担任教師が、にやにやと不気味な笑みを浮かべている。「起立」の声とともに、教室の生徒全員が教師に銃を向け、「礼」の声とともに一斉に発砲する。しかしこの教師は目にもとまらぬ速さですべての銃弾から身をかわす。この謎の担任教師こそは人類の最悪の敵、あらゆる国の軍隊が倒そうと試みて果たせなかった最強の宇宙人であり、教室の生徒たちは、なぜか教職に執着するこの怪物を抹殺せよと日本政府から命じられた幼き殺し屋たちであり、従ってこの物語の舞台は文字通り「暗殺教室」なのである。
 アウト・ローの教師を中心にした学園ストーリーはマンガのひとつの定番だと思う。私でさえ、いくつかのタイトルを即座に挙げることができる。このマンガはその系譜につながるもので、2巻まで読んでみた印象を一言でいえば、これは変形された「金八先生」だ。担任である宇宙人は世界中の政府に命を狙われつつ、疎外された生徒たちをその超自然的な能力でそっと支える。結局のところこの宇宙人は「僕たちの型破りな先生」であり、生徒ひとりひとりに全人的に寄り添う教師という、夢のイメージをなぞっている。
 逆にいえば、教育システムに対する不信のなかで、金八先生は屈折に屈折を重ね、ついには宇宙人にならざるを得なかった、ということではないかと思う。うーむ、2013年に至っても、学校はいまだ金八先生を必要とするのか。そのような歪んだ理想像こそが、初等中等教育をめぐるあれこれを息苦しくさせているのではないかと思うのだが。

Bookcover すーちゃんの恋 [a]
益田 ミリ / 幻冬舎 / 2012-11-09

Bookcover まんが親 2―実録!漫画家夫婦の子育て愉快絵図 (ビッグコミックススペシャル) [a]
吉田 戦車 / 小学館 / 2013-02-15

Bookcover イかれポンチ [a]
田中 圭一 / ベストセラーズ / 2013-02-16

Bookcover トラップホール 1 (Feelコミックス) [a]
ねむ ようこ / 祥伝社 / 2013-02-08

コミックス(2011-) - 読了:「暗殺教室」「すーちゃんの恋」「トラップ・ホール」「まんが親」「イかれポンチ」

Bookcover あっちもこっちも―星里もちる短編集 (ビッグコミックススペシャル) [a]
星里 もちる / 小学館 / 2013-01-30
Bookcover ちゃんと描いてますからっ! 3 (リュウコミックス) [a]
星里 もちる / 徳間書店 / 2013-01-12
Bookcover ハルコの晴れの日 (2) (まんがタイムコミックス) [a]
星里 もちる / 芳文社 / 2012-12-07
著者は軽いコメディを得意とするベテラン漫画家。新刊が同時期に立て続けに出版された。前から不思議なんだけど、異なる出版社間でのこういう日程調整、どうやって行っているのだろうか。

Bookcover それでも町は廻っている 11 (ヤングキングコミックス) [a]
石黒 正数 / 少年画報社 / 2013-02-28

Bookcover ブラック・ジャック創作(秘)話~手塚治虫の仕事場から~ 2 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ) [a]
吉本 浩二 / 秋田書店 / 2013-01-08

Bookcover 大砲とスタンプ(1) (モーニング KC) [a]
速水 螺旋人 / 講談社 / 2011-12-22
Bookcover 大砲とスタンプ(2) (モーニング KC) [a]
速水 螺旋人 / 講談社 / 2012-12-21

Bookcover めしばな刑事タチバナ 8 [ああ激辛ブーム] (トクマコミックス) [a]
坂戸 佐兵衛 / 徳間書店 / 2013-02-05

コミックス(2011-) - 読了:「それでも町は廻っている」「ブラック・ジャック創作秘話」「大砲とスタンプ」「あっちもこっちも」「ちゃんと描いてますから!」「ハルコの晴れの日」「めしばな刑事タチバナ」

先月あたりから、読んだきりメモしてない本が貯まってしまっている。とりあえずマンガだけ、新旧ごっちゃのまま記録しておく。

Bookcover アイアムアヒーロー 11 (ビッグコミックス) [a]
花沢 健吾 / 小学館 / 2013-02-28

Bookcover 就職難!! ゾンビ取りガール(1) (モーニング KC) [a]
福満 しげゆき / 講談社 / 2013-02-22
講談社モーニング誌に連載されていた、「ゾンビ回収会社」を舞台にしたコメディ。福満しげゆきさんの作品だから、もちろん主人公は自意識過剰の気弱な青年である。
 同僚の娘たちの肉感的な身体が、物語上の必然性を無視した大ゴマで描かれるあたり、単なる読者サービスというより、なんだか主人公の歪んだ認知を反映しているようで、かすかな不安を呼ぶ。やっぱり一筋縄ではいかないマンガである。

Bookcover ラブやん(18) (アフタヌーンKC) [a]
田丸 浩史 / 講談社 / 2013-02-22

Bookcover 闇金ウシジマくん 27 (ビッグコミックス) [a]
真鍋 昌平 / 小学館 / 2013-02-28

Bookcover 夜の須田課長 (リュウコミックス) [a]
クマザワ ミキコ / 徳間書店 / 2012-12-13

Bookcover 世界の果てでも漫画描き 3(チベット編) [a]
ヤマザキ マリ / 集英社クリエイティブ / 2013-02-25

Bookcover ニッケルオデオン「緑」 (IKKI COMIX) [a]
道満 晴明 / 小学館 / 2013-02-20
Bookcover ニッケルオデオン 赤 (IKKI COMIX) [a]
道満 晴明 / 小学館 / 2012-01-30

Bookcover 不器用な匠ちゃん 2 (フラッパーコミックス) [a]
須河 篤志 / メディアファクトリー / 2013-02-23
奇妙な趣味が縁で集まった平凡な男女が織りなす、ささやかな「社会人青春ラブコメ」。なかなか面白い。

コミックス(2011-) - 読了:「就職難!! ゾンビ取りガール」「アイアムアヒーロー」「ラブやん」「闇金ウシジマくん」「夜の須田課長」「世界の果てでも漫画描き」「不器用な匠ちゃん」

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