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2007年11月28日 (水)

Lilien, G.L., & Rangaswamy, A. (2006) Marketing decision support models. in Grover, R. & Vriens, M. (eds.) "The handbook of marketing research," Chapter 12.
ハンドブック一人読書会の第二弾。これはマーケティング・リサーチの本だから,勤務時間中と通勤時間でしか読まないぞ,とルールを決めていたのだが,さすがに実現困難であり,早々に破ってしまった。業界団体の大会の開始待ちのため,ホテルの茶店で時間を潰した際に読了。会社員の鏡だねえ。
 テクニカルな話はごく一部。広告投入量と売り上げの関係を示すというような,市場反応の簡単なモデルのバリエーションを紹介(ADBUDGモデルってどう発音するんだろうか)。個人ベースのモデル構築の話は1/2頁だけ。なあんだ,つまんないの。
 残りの話はすべて,マーケティング意思決定を支援する情報システムはかくあるべし,という非常に一般的な話であった。将来のマーケティング工学は,(アナリストにではなく)一般従業員に対し,(予測や最適化に留まらず)説明を提供してくれる,(グループウェアを越えた)知的決定モデルへと進化するのだそうである。それはすごいですね。市場調査会社なんていらなくなっちまいますね。あーあ。
 いや,たった二章で挫折するわけにはいかん。馬鹿高い本だったのだ,意地でも読まねば。

論文:データ解析(-2014) - 読了:11/28まで (A)

Bookcover 絶対弱者―孤立する若者たち [a]
三浦 宏文,渋井 哲也 / 長崎出版 / 2007-11-23
著者はインド哲学研究者にして塾講師という人と(大変だなあ),売り出し中の若手ライター。コミュニケーション能力に欠けるタイプの若者がいて大変だぞ,という本。

Bookcover それでも、ゆとり教育は間違っていない [a]
寺脇 研 / 扶桑社 / 2007-09-27
ゆとり教育推進の旗手であった有名官僚の文章と対談を集めた,なんというか,ファンブックみたいな本。俺が大変お世話になった方が対談相手の一人なので,公平に読めていないかもしれないけれど,対談はどれも面白いと思った。いっぽう著者の主張そのものについては,賛否が分かれるところであろう。著者のいう「ゆとり教育」とは教育改革が目指した理念のことだが,批判者たちが問題にしているのは(というか,そのなかのまともな人たちが問題にしているのは),理念というよりもその運用のほうだと思う。
 著者によれば,教育社会学者が教育に対して発言権を強めていることが混迷を招いているんだそうである(この部分,苅谷剛彦さんが念頭にあるんじゃないかと思う)。ああややこしい。。。どこかから機械仕掛けの神かなにかが降りてきて,かつて市川伸一先生が「学力低下論争」のなかでやっていたように,2007年時点のみんなの論点を整理してくれないかしらん。

心理・教育 - 読了:11/28まで (E)

Bookcover おかめ日和(2) (KCデラックス BE LOVE) [a]
入江 喜和 / 講談社 / 2007-11-13

BookcoverバーバーハーバーNG (KCデラックス) [a]
小池田 マヤ / 講談社 / 2007-11-22
この作者が以前週刊モーニングで連載していた「バーバーハーバー」は4コマのストーリーマンガで,毎回ある特定のコマで登場人物がある決まった台詞を口にするという,よく考えてみると大変なルールの下で描かれていた。作者の職人芸に感心し,単行本を全部買いそろえてしまったものである。
 この本は,その後web上で連載した後日譚をまとめたもの。どうやら相当気合いが入った企画だったようで,webの特性を生かしたいろいろな試みがなされている。しかし皮肉なもので,本だと大変読みにくく,理解しにくい。
 webでも課金していたようだが,それほど多くのユーザがいたとは思えない。おそらくは単行本の売り上げのほうが大きいのではないかと思う。だからこれでは本末転倒なんじゃないか,と思うのだが,それをあえて試みるくらいに,版元もマンガ家も,紙媒体への危機意識を持っているのだろう。
Bookcover 星降る夜は千の眼を持つ (BEAM COMIX) [a]
上野 顕太郎 / エンターブレイン / 2007-11-26
作者は,時に面白さを犠牲にしてまで,前衛的なギャグを追求している人。
 マンガに時々登場していた奥さんが,数年前に急逝していたそうである。知らなかった。

コミックス(-2010) - 読了:11/28まで (C)

2007年11月25日 (日)

Bookcover 明治を生きた会津人 山川健次郎の生涯―白虎隊士から帝大総長へ (ちくま文庫) [a]
星 亮一 / 筑摩書房 / 2007-11
艱難辛苦をくぐり抜け帝大総長にまでなった,会津出身の物理学者の伝記。日本の慈善活動の始祖・山川捨松はこの人の妹だそうだ。
 日経の「私の履歴書」欄と同じで,正直なところ,偉くなってからの話はつまんない。

日本近現代史 - 読了:11/25まで (CH)

 3連休を潰して臨床疫学の集中講義に出てきた。医学部修士課程の講義がなぜか一般にも無料公開されていたので,勉強のために潜り込んできた次第である。わざわざオランダからやってきた高名な先生の講義が無料で聴けるとはいえ,秋の快適な休日を日がな一日薄暗い講堂で過ごしたいという物好きは珍しいと見えて,参加者名簿をのぞき見たところ,医療・製薬関係の人がほとんどであるようだった。俺はなにをしておるんだ,と思わないでもない。
 講義の内容は,俺のような完全な素人からみてもかなり初歩的だと推察できるレベルで,たとえば仮説検定のところでは,p値の話はするけど二種類のエラーの話はしない,という具合であった。ちょっと拍子抜けしたが,それよりも感銘したのは講義の圧倒的なわかりやすさである。説明がうまいことといったら。。。講義を混乱させかねないタイプの質問も,ものの見事に整理してみせる。それもわかりやすい英語のままで。流石にプロはちがう。かつての自分の講義の混乱ぶりとついつい比べてしまい,泣きたくなった。皆さんほんとに申し訳ありませんでした。(いや,比べるほうが間違ってますけどね。でも受講者の立場になってみれば,講師が一流の研究者か,それともドロップアウトした屑かという区別はどうでもよいのである。)

 まあ,それは置いておいて。。。
 なにがいらいらするといって,ことばが英語にスイッチしたとたん,自分の知能(?)がみるみる落ちていくのが手に取るようにわかる。日本語ならフンフンと聴ける話のはずなのに,英語だと大変な集中力を必要とするし,日本語ならできる質問も英語ではできないし。なんだか自分が6歳児に戻ったような気がしてしまい,そういえばマッカーサーは日本人のことを12歳の少年だっていってたよな,あああああの時あんな風に戦争に負けていなければ,いや国際語をラテン語のままにしておけば。。。などと余計なことを考えはじめ,ますます集中力を削がれてしまう。実は勤め先での英語のミーティングのときもそうで,認知能力と自尊心が手に手をとって果てしなく降下していき,毎度毎度もうひどい目にあっているのだが(そして周囲に八つ当たりし,ひどい気分をもれなくお裾分けしているのだが),さいわい会議は集中講義ではないので,朝から晩までぶっ続け,なんてことはない。
 英語漬けの三日間がどのくらいストレスフルであったかといえば,帰りの地下鉄で,英語をマシンガンのようにばらまいている西欧人の若者に,手前らここは日本だ,もっともっとゆっくり話せ,と怒鳴りつけたくなってしまった。ここで「英語を話すな」という発想にはならないところが泣かせる。なんという植民地根性。

 英語で苦労している人は俺だけではないはずだが,他の人も俺のように屈折した思いを抱えているのだろうか。ひょっとするとこういうことにも臨界期があって,ある年齢を超えると,物事を心穏やかに学ぶことができなくなってしまうのかもしれない。結局俺が無駄に年を食っているのがいかんのか。ああいらいらする,ほんとにいらいらするぞ。

雑記 - 臨床疫学の集中講義 (神様,この世界から英語を滅ぼして下さい)

2007年11月23日 (金)

Bookcover 誰のための「教育再生」か (岩波新書) [a]
/ 岩波書店 / 2007-11-20
教育基本法改正反対陣営の研究者たちが書いた本。

一昨年,郵政民営化法案が参院で否決されたら,首相が衆院を解散してしまい,果たして民営化賛成派が馬鹿勝ちし,法案は衆院を通過して,もう一度参院で採決されることになった。もう反対票を投じても否決の見込みはないというこの場面で,解散前は反対派であった自民党の有力議員が(元首相の息子だっけ,そんな感じの人),郵政民営化の他にも喫緊の政治課題がある,だから今度は涙を飲んで賛成票を投じます,と述べていた。たしかに,いま反対しても党から処分されるだけだから,それはまあひとつの見識だよなあ,と思った。
 さて,この政治家が信念を曲げてまで優先したいと考える,緊急を要する政治課題とはなんだろうか? 新聞で読んであっけにとられたのだが,なんと,教育基本法の改正だったのである。なぜ? 改正の是非は別にして,教育基本法が重要だと思うのはわかる。でも,教育基本法を変えるとなにかすぐに良いことがあるのか? 基本法を変えないと実現できない緊急の政策があったとも思えない。それとも,急いで基本法に「我が国と郷土を愛する」と書き込まないと,子どもが我が国と郷土を愛するようにならない,とか?
 俺は教育そのものには特に興味がないのだが,人々が教育に向けるこの不思議な情熱,それを支えている摩訶不思議なファンタジーに強く関心を惹かれる。不謹慎な言い方だけど,なんだか面白くて仕方がない。どんな問題にだってなにかしら不思議なところがあるとは思うが,教育を巡る議論ほどに不合理さと思いこみに充ち満ちたものは,ほかにないんじゃないかしらん。

心理・教育 - 読了:11/23まで (P)

Bookcover NHK未来への提言 ロメオ・ダレール―戦禍なき時代を築く [a]
ロメオ ダレール,伊勢崎 賢治 / 日本放送出版協会 / 2007-09
R.ダレールさんとは,ルワンダ虐殺の時に国連PKO司令官だった人(映画「ホテル・ルワンダ」におけるニック・ノルティですね)。カナダに帰国後PTSDで大変な目にあったというところまでは聞いたことがあったのだが,その後回想録が大ベストセラーとなり,いま国会議員である由。
 インタビューを読んでいると,日本でもカナダでも似たようなものね,と苦笑する部分と(アメリカの悪口が一種の気晴らしになっている,とか),ずいぶんレベルがちがうなあ,と思わされる部分とがある。まあ,俺がいくら政治を憂いてもしょうがないんだけどさ。

Bookcover 増補 敗北の二十世紀 (ちくま学芸文庫) [a]
市村 弘正 / 筑摩書房 / 2007-11

Bookcover 勝手に絶望する若者たち (幻冬舎新書) [a]
荒井 千暁 / 幻冬舎 / 2007-09
今年一月の朝日新聞の連載記事の紹介に10頁(著者は記者でもなんでもない。ただ,こんな面白い記事がありました,という主旨である)。記事に対するネットや知り合いの反応で4頁。東洋経済に載ったとあるコンサルタントへのインタビューの紹介が8頁,それを読んだ自分の感想で6頁,という案配である。これを水増しと呼ばずしてなんと呼ぶか? まあいいや,ことによるとなにか独創的な提言があるのかもしれないし,と我慢して読み進めたのだが,もちろんそんなことがあるわけもない。若い人はやりたいことにこだわらず社会における自分の居場所を探せ,社内でフリートークができる会社を目指せ,だってさ。
 こんな世間話で本を一冊出してしまう著者様の偉大さに敬服すべきであろう。消費者としては買う本を選んで自衛するしかない。反省。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/23まで (NF)

2007年11月19日 (月)

Smith, S.M., & Albaum, G.S. (2006) Basic Data Analysis. in Grover, R. & Vriens, M. (eds.) "The handbook of marketing research," Chapter 11.
 私費で買っちゃったので,暇を見つけてちびちび読んでいくことにした。31章もあるから途中で挫折しそうだが。そういえば一昨年,"New methods for the analysis of change"のひとり読書会をはじめたのだが,数章読んだところで転職してしまい,本は前の勤務先に置いてきてしまった。心残りだが,私費で気軽に買い直せるほど安い本ではないし。いつもこんなんばっかしだ。
 とりあえず,一番つまんなさそうな章を読んでみた。クロス表とか相関とか検定とか。ほんとにつまんなかったけど,この種の本にはこういう章も必要であろう。

論文:データ解析(-2014) - 読了:11/19まで (A)

2007年11月18日 (日)

Bookcover エンドレス・ワーカーズ―働きすぎ日本人の実像 [a]
小倉 一哉 / 日本経済新聞出版社 / 2007-11
著者は昔の労働研究機構(いまの名前なんだっけ)の人。労働時間に関する大規模調査を紹介した本。
誠実な良い本だったけど,そこはちょっと表を読み込みすぎじゃないか,と思うところもあって。。。定量調査の結果に基づく実質科学的推論というのは,どのへんまで許されるものなのだろうか。難しいなあ。
文中にヘックマンの二段階推定というのが出てきて,恥ずかしながら初耳だったのだが,google様によれば要するに打ち切りデータの分析方法で,計量経済学の分野で有名らしい。勉強しておこう。

Bookcover うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書) [a]
岩波 明 / 筑摩書房 / 2007-11
うつ病が「心のかぜ」だなどというのは世迷い事である由。うつについての専門家のうち,心理学科の教員は要注意である由(医者であっても臨床から遠ざかっているから)。そういうもんですか。

Bookcover インドの衝撃 [a]
NHKスペシャル取材班 / 文藝春秋 / 2007-10

Bookcover この国の品質 [a]
佐野眞一 / ビジネス社 / 2007-10-31
最近の講演やエッセイをまとめたもの。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/18まで (NF)

Bookcover あたしンち 第13巻 [a]
けら えいこ / KADOKAWA(メディアファクトリー) / 2007-11

Bookcover ドロヘドロ 10 (BIC COMICS IKKI) [a]
林田 球 / 小学館 / 2007-07-30
少し前に読んだが,書くのを忘れていた。

Bookcover 阿佐谷腐れ酢学園 エマニエル編 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL) [a]
SABE / ワニマガジン社 / 2007-10-31
この人のマンガをはじめて読んだとき,この人にはなにか特別なところがある,いつかメジャー誌で大ヒットを飛ばすに違いない,と俺は確信した。エロマンガから純粋なギャグに移行した最初の作品「Beautiful money」は,随分粗っぽい四コマだったけど,たしかに斬新な才能の煌めきがあった。ペンギンを目の敵にする若い女とか,強姦魔の前に現れて「若い人はいいですね」と愚痴る中年男とか,無意味に淫乱なアライグマとか,突き刺さるような可笑しさがあったと思う。
それが10年くらい前の話だ。この人はその後,人気マンガ家と結婚して離婚し(その人気マンガ家は別の有名人と結婚して離婚し,また結婚し,いまや不動の人気を得ている),東京から北海道に移住し,連載をいくつかはじめて,途中で終わらせた。
俺はこの人のマンガがいまでも好きなのだけれど,結局この人は人気作家にはならなかったし,これからもたぶんそうならないだろうと思う。いまこの人が月刊アフタヌーンでやっている連載を読むと,それはそれで面白いんだけど,少し胸が痛む。なぜ才能だけでは十分でなかったのだろうか。

コミックス(-2010) - 読了:11/18まで (C)

2007年11月15日 (木)

Bookcover ゆうちょ銀行 [a]
有田 哲文/畑中 徹 / 東洋経済新報社 / 2007-09-07

Bookcover 「計画力」を強くする―あなたの計画はなぜ挫折するか (ブルーバックス) [a]
加藤 昭吉 / 講談社 / 2007-05-18
残念,これは俺にとっては得るところなかった。
 たとえば風呂を沸かして,良い案配の湯加減だと思って足を突っ込んだら底の方が水だったとき,俺が最初に考えるのは,ああこんなことだから人生に失敗したのかなあ,ということである。一日に十回はそういうことを考える。これはべつに俺が悲観的な思考回路を持っているからではなく,客観的にみて明確に,疑いようもなく人生をしくじっているからであって,だから自己評価を下げる材料は事欠かないのである。そんな次第で,こういう本を読んで計画を成功に導くそれ以前の問題として,そもそも俺はもう計画を立てることができない。なにを考えてもそれは実現できないような気がするし,実際にも決して実現できないに違いない。どうしたもんですかね。

Bookcover トヨタの闇 [a]
渡邉 正裕,林 克明 / ビジネス社 / 2007-11-07
他業種に比べて低めだと紹介されている正社員の年収が,しかし俺にとっては目もくらむような高給である。実名で書いているブログにこういうことを書くのは勇気が要るけれど,本当に深刻な問題は失業と非正規雇用であって,終身雇用の慣行に守られた大企業の正社員が,過労死しようが自殺しようが。。。ご家族に同情はするけれども,連帯は期待しないでほしい。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/15まで (NF)

2007年11月11日 (日)

Bookcover 化粧品のブランド史―文明開化からグローバルマーケティングへ (中公新書) [a]
水尾 順一 / 中央公論社 / 1998-04
著者は資生堂の人で,内容の半分くらいは資生堂の話,そのうちさらに半分くらいは資生堂のヨイショ。リファレンスとしての価値は高いと思った。
 日本最初の広告効果測定は,上野陽一という早大講師がライオン歯磨の広告について行ったもので,大正十二年に発表されているそうだ。専門家に7点の刺激を見せ,それぞれについて評価,注目の程度,購買促進の程度を聞いたものである由。へー。

→ いまこのブログを自分で読み返して,はたと気が付いたのだが,この上野陽一って,テーラーの科学的管理法を日本に紹介した上野陽一だ。うわー。

マーケティング - 読了:11/11まで (M)

Bookcover E.L.カニグズバーグ (現代英米児童文学評伝叢書) [a]
横田 順子 / KTC中央出版 / 2006-10
児童文学作家カニグズバーグの評伝。評伝の「伝」のほうの内容は充実しているが,「評」のほうについていえば,実におっとりとした,どうでもいいような内容であった。国語科の教材研究みたいというか,なんというか。。。業界の人にとってはなにか意味があるのかもしれない。ついつい清水真砂子「子どもの本のまなざし」と比較してしまうのだが,あのような批評性を期待してはいけないのだろう。

Bookcover 組織を強くする技術の伝え方 (講談社現代新書) [a]
畑村 洋太郎 / 講談社 / 2006-12-19
高名な研究者だけあって,面白い本だったんだけど,ではどこが面白かったかというと,これが難しい。たとえば,技術を伝えるためのポイントとして挙げられているのは,実体験させること,はじめに全体像をみせること,相手のレベルにあわせること,などなのだけれど,さてこのように項目にまとめてしまうと,どれも皆当たり前の事柄に思えてしまう。なぜだろう? 「神は細部に宿る」からだろうか,それとも単に事例が面白いだけで,実はごく平凡な内容の本だからなのだろうか?
 むしろこういう本を読むときは,要点を掴もうと思ってはダメで,読みながらあれこれ細かい教訓を学ぶべきなのかもしれない。そういう観点からみて面白かった部分を抜き書きしてみると:
- 作業指示書の裏に,もしその正しいやり方に従わないとどういう目にあうかを書いておくとよい
- 失敗事例を伝えるときには,原因と結果を述べるだけでは駄目だ。そのときに何が原因だと思ったか,どんな対処をしたか,総括と教訓,そして後日談や四方山話が大事である
- 図面はいわば表の知識だが,その裏にある暗黙知を伝達するために,設計過程を裏図面として残しておくと良い
- 世の中には別に伝達しなくてもよい,消えちゃった方がいい技術もたくさんある (はははは)

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/11まで (NF)

2007年11月 8日 (木)

Bookcover なぜ新しい戦略はいつも行き詰まるのか? [a]
清水 勝彦 / 東洋経済新報社 / 2007-08
著者はコンサル出身の経営学者。
いまや戦略思考はすっかりコモディティ化してしまい,それだけでは差別化できない。そもそも世界はあまりに不確定なので,正しい戦略など立てられない。かといって日本企業が誇る現場主義も,ただ現場力を競う消耗戦に陥ってしまう(←な・る・ほ・ど)。むしろ,個人のこだわりを生かし,小さな工夫,小さな実験を積み重ねていくことが大事だ。というような主旨であった。
 前半の戦略主義批判のところは大変面白く,膝を打つ思いであった。ときおり焦燥感に駆られて,経営戦略とかなんとかについての本をめくってみたりするのだが,ここに書いてある事って結局ほとんど後知恵だよなあ,と白けてしまうことが多いのである。そうだよね,わからんことはわからんというべきだよね。
 いっぽう後半の提言の方は,ちょっと具体的なイメージがわかなかったのだけれども,まあそれは俺の問題で,組織を中から動かすという経験を積んでいないからだろう。

 こうやって振り返ると,最近は読みやすい本ばかり読んでいる。つまんない人生だなあ。

マーケティング - 読了:11/08まで (M)

Bookcover 神社の見方―歴史がわかる、腑に落ちる (ポケットサライ) [a]
/ 小学館 / 2002-07
現実逃避の一環として,なんとなく手に取った。団塊向け雑誌「サライ」のムックを買ってるようじゃ,俺も終わってるなあ。
 鳥居は大きく神明鳥居と明神鳥居に分類され,さらに細かく分けていくと何十種類にもなるんだそうだ。ご丁寧に分類木まで載っている。では,鳥居のちがいは神社とどのような関係があるのか,社格なり神様なりと関連しているのかと思ったら,別に関係ない,単に寄進者や職人の趣味の問題なんだそうだ。うーん,おおらかにも程があるぞ。

Bookcover 赤い春 私はパレスチナ・コマンドだった [a]
和光 晴生 / 集英社インターナショナル / 2007-10-26
著者は日本赤軍のメンバーで,クアラルンプールの大使館占拠の実行犯(日本の服役囚を「超法規的措置」で解放する羽目になった,あの有名な事件ですね)。そういえば,重信房子が大阪で捕まった前後に,この人が強制送還されてきたというニュースを目にした覚えがある。いま東京拘置所にいるんだそうだ。
 本の内容は日本赤軍の話ではなく,その後パレスチナ解放人民戦線に移ってレバノンで兵士として過ごした日々の回想。もちろん生死を賭けた毎日ではあるのだが,案外どこにでもありそうな話題も多く,なんというか,読んでいて奇妙な気分であった。ゲリラ戦の研修のため海外出張させてもらえるエリートコマンドと叩き上げコマンドの反目とか。いずこも同じですね。

Bookcover 日本の怨霊 [a]
大森 亮尚 / 平凡社 / 2007-09
古代史上の有名な怨霊として,井上内親王と早良親王という人がいるんだそうで,この二人を中心に日本の怨霊のありかたについて考察する,という内容の本であった。なんでこんな本を読んでんだ俺,と思わないでもないが,本屋で手にとって,ひょっとするとこれは面白いかも,と虫が知らせたのである。
 著者は民俗学者で,内容は学者らしくきちんとしているんだけど,書き方がどこか人を食っていて,妙におかしい。突然小説風になったり,むやみな推測を拡げてみたり,「怨霊ツアー」と称して史跡巡りをはじめたりするのである。

Bookcover バチカン―ローマ法王庁は、いま (岩波新書) [a]
郷 富佐子 / 岩波書店 / 2007-10-19
別にニュース中毒というわけではないけれど,この記者のクレジットがはいっていたら必ずチェックする,という人が二人いて,ひとりはアメリカ公共ラジオのSylvia Poggioliという人,もうひとりは朝日新聞の郷富佐子という人である。この郷さんという人が書いた本なので迷わず手に取ったのだが,略歴をみるとまだ若い人なのであった(1966年生まれ)。高校からイタリアに留学していた由。
 あいにく俺は世間が狭いもので,カトリックの世界の事情について聞かされても,いまいち実感できないのだけれど。。。面白い内容ではあった。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/08まで (NF)

Bookcover データ解析への洞察―数量化の存在理由 (K.G.りぶれっと) [a]
西里 静彦 / 関西学院大学出版会 / 2007-07
薄いブックレット。会社を抜け出して著者の講演を聴きに行ったので,これを機に読んでみた。はじめての和書なんだそうだ。
 リッカートスケールの問題点について初学者向けに諄々と説く,という内容。とても勉強になりました。双対尺度法の紹介はごく簡単に済まされていて,その点は残念であったが,勉強したけりゃ英語で読め,ってことなのだろう。

データ解析 - 読了:11/08まで (D)

Bookcover 極道めし 2 (アクションコミックス) [a]
土山 しげる / 双葉社 / 2007-10-27
刑務所の雑居房の男たちが,正月のおせち料理を賭け,かつて食った美味いものを競う,という設定。それぞれの思い出話から人生模様が浮かび上がるという,実に素晴らしいアイデアのマンガである。
 双葉社って不思議な出版社だ。旗艦誌「漫画アクション」はいまいち誰が読むのかはっきりしない感じの雑誌で,経営的にも決して楽ではなさそうなのだが,こうの史代といい「大阪ハムレット」といい,時々こういう光り輝く作品を放つ。いまはぱっとしなくても,いつかの日か再び「クレヨンしんちゃん」級の大ヒットを飛ばすかも,と思わせるなにかがある。その秘密はどこにあるのだろうか。
Bookcover アップルシード (3) (MF文庫) [a]
士郎 正宗 / メディアファクトリー / 2001-08

Bookcover 平田弘史傑作選 3 鬼刃 (ニチブンコミック文庫 HH 3) [a]
平田 弘史 / 日本文芸社 / 2007-07

Bookcover 俺はまだ本気出してないだけ 1 (IKKI COMICS) [a]
青野 春秋 / 小学館 / 2007-10-30

Bookcover インド夫婦茶碗 (10) (ぶんか社コミックス) [a]
流水 りんこ / ぶんか社 / 2007-10-31

Bookcover ナッちゃん 21 (ジャンプコミックスデラックス) [a]
たなか じゅん / 集英社 / 2007-04-04
最終巻。

コミックス(-2010) - 読了:11/08まで (C)

2007年11月 1日 (木)

Bookcover 沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫 [a]
/ 新潮社 / 1999-07-28

Bookcover 知られざる証言者たち―兵士の告白 [a]
太平洋戦争研究会 / 新人物往来社 / 2007-07

Bookcover 枢密院議長の日記 (講談社現代新書) [a]
佐野 眞一 / 講談社 / 2007-10-19

 ちょうど大本営参謀・瀬島龍三についての本を読んでいるときに風邪を引いた。鼻水,寒気,それから頭痛。
 俺は特に強健でも病弱でもないが,熱を出して寝込むとものすごい悪夢をみるという特徴があって,だから風邪のなにがコワイといってあの長い長い夜が怖いのである。たしか最初の経験は学生時代で,卒論提出の数日前の夜,チョムスキーがホワイトボードの前に立ち,お前の卒論はくだらない,本当にくだらない,犯罪的にくだらないからその激しい頭痛は決して治ることがないし朝も決してやってこない,いますぐ根本的に反省し生まれたあたりからやりなおしなさい,と論理的に説明してくれた(日本語で)。明け方になって,ちがうこれは妄想だ,頭が割れそうなくらいに痛いのは風邪を引いているからだと気が付いたときには,安堵で身体中が溶けそうになった。
 妄想の内容はそのとき考えていることに強く影響される。だから戦中戦後史の本を読んでいるときに風邪を引くのはいかにも具合がわるい。掛け布団を重ねて寝込んだところ,旧満州でソビエト軍に追われながら女性と子どもを次々に刺し殺し,最後は自分も。。。という夢を見始めて,これはいかん,いま寝るわけにはいかん,と青ざめた。
 で,布団に潜り込んでかわりに手にとったのが「知られざる証言者たち」という本で,これは戦中体験の聞き書きではあるものの,ちょっとくだけた内容なので(戦艦大和ではいかに男色が多かったか,とか),具合がいいんじゃないか,と思ったのである。間違っていました。ガダルカナル島の密林を舞台にした,ちょっとここでは文字に出来ない,とんでもない内容の夢をみました。
 運悪く,枕元に積んであるのはたまたま現代史の本ばかりだった。そのなかでは最も気楽そうな,記録魔の宮内官僚が残した膨大な日記についての本を読んだ。面白い本だったが,学習院大のキャンパスで家柄の良い青年たちに取り囲まれ,徹底的に馬鹿にされる夢をみた。
 本棚から探すとしても,アカデミックな本やビジネス書はもちろん論外である。布団に座り込み途方に暮れた末,思い切って起き出して,四コママンガの傑作「OL進化論」(既刊27冊)を手当たり次第に読みまくり,ようやく短い眠りを得た。秋月りすさんに心から感謝。お歳暮でも送りたい心境である。
 

日本近現代史 - 読了:11/01まで (CH)

Bookcover 竹光侍 3 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
松本 大洋,永福 一成 / 小学館 / 2007-10-30

Bookcover ドロヘドロ 9 (BIC COMICS IKKI) [a]
林田 球 / 小学館 / 2007-01-30

コミックス(-2010) - 読了:11/01まで (C)

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