2011年6月29日 (水)
「神道」の虚像と実像 (講談社現代新書)
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井上 寛司 / 講談社 / 2011-06-17
著者は41年生まれの歴史学者。
著者は柳田国男の神道概念について詳細に批判した後,それらの問題点は柳田のみに属するのでなく,大正デモクラシー期の研究者に特有な歴史的限界に起因しているのだ,と述べている。すなわち,(1)独善的な日本中心主義,(2)天皇制支配との非対決,(3)日本の歴史や宗教についての不正確な理解。
そのあとで著者は,柳田の流れに属する議論として80年代の梅原猛の著作をとりあげ,こんなもん学問じゃねえ!と斬って捨てているのだが,いっちゃなんだが著者の本より梅原猛の本のほうが多くの読者を得ているだろう。その背景にある歴史的限界ってのはなんなんでしょうね。やっぱり(1)(2)(3)ですかね。だとしたら,それは大正デモクラシー期に特有な限界ではなかった,ということになってしまうけれども。
哲学・思想(2011-) - 読了:「『神道』の虚像と実像」
出版大崩壊 (文春新書)
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山田 順 / 文藝春秋 / 2011-03-17
著者は光文社に長く勤めた方。「ロサンゼルスの若きIT起業家」であるという触れ込みの,とあるブロガーをこてんぱんに悪く描いているところが面白かった。PHP新書から電子出版についての本を出している方のことですね。
12 (Feelコミックス)
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やまがた さとみ / 祥伝社 / 2011-06-08
ローティーンの少女を主人公に,性にまつわる混乱を描いた業の深ーい短編連作。質の高い作品ではあるが,こういうのが載るレディース・コミック誌「フィール・ヤング」って,なんというか,コワイ。。。
おかめ日和(11) (KCデラックス BE LOVE)
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入江 喜和 / 講談社 / 2011-06-13
地味な作品なのに11巻まで続くところをみると,根強い読者を獲得しているのだろう。入江喜和さんはこの連載以前は青年誌で描いていたから,現在の掲載誌「ビー・ラブ」では読者をほぼゼロから積み上げたことになる。大変なことだ。
とりぱん(11) (ワイドKC モーニング)
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とりの なん子 / 講談社 / 2011-06-23
コミックス(2011-) - 読了:「12」「とりぱん」「おかめ日和」
2011年6月24日 (金)
オバマの戦争
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ボブ・ウッドワード / 日本経済新聞出版社 / 2011-06-18
ウッドワードの米政権内幕ものは,いつも俺の心を慰めてくれる。「優秀な人材をたくさん集めれば物事万事うまくいく」とは限らない,と教えてくれるからだ。優秀な人材ではない俺としては,大企業・大組織なにするものぞ,とカラ元気が出ますね。ま,害のない錯覚である。
ファッションから名画を読む (PHP新書)
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深井 晃子 / PHP研究所 / 2009-02-14
ノンフィクション(2011-) - 読了:「オバマの戦争」「ファッションから名画を読む」
Amazonランキングの謎を解く: 確率的な順位付けが教える売上の構造 (DOJIN選書)
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服部 哲弥 / 化学同人 / 2011-05-30
著者は数学者で,amazon.co.jpの売上ランキングがどのように決まっているかに関心を持つのだが,データを広く集めたりamazonに取材したりする気はさらさらない。なんと,著者は(1)アマゾンはこうやってランキングを決めているにちがいない(1冊でも売れたらそれを1位にジャンプさせているにちがいない)という一見素っ頓狂な仮説を設け,(2)この仮説に基づいて数理モデルをつくり,(3)このモデルに基づいて「アマゾンはロングテールビジネスではない」と主張するのである。
これはなかなかの奇書だなあ... と,ところどころでケタケタ笑いながら読み進めていたのだが,途中ではた,と気がついた。著者の先生は大真面目なのだ。だってこれ,自然科学の方法論としては当然のことだ。この大自然をどうやってつくったんですか,と神様に聞くわけにもいかないし。
というわけで,途中から心を入れ替えて真剣に読んだのだが,残念ながら数学音痴の俺には,6章の専門的な議論はもはやちんぷんかんぷんだった。でも,まあ,少し頭が良くなったような気がするので,よしとしよう。
それにしても,先生はなかなか人を食ったことを仰る方で... ポワソン分布について説明するくだりで,本筋から脱線して交通事故の分析の話を紹介しはじめるのだが,先生いわく,「ポワッソン分布を重視する理由となる『小さな確率の原因が多数ある』という視点が,社会現象の分析のどこに隠れているかについての例題という建前だが,誰もが関心を持ちそうな話題で読書欲を維持する目的が本音である」 いや!先生!そこまでセキララに書かなくてもいいから!
Chandon, P., Wansink, B. (2002) When are stockpiled products consumed faster? A convenience-salience framework of postpurchase consumption incidence and quantity. Journal of Marketing Research, 39(3), 321-335.
特売でビールの6本パックを買っちゃったのが間違いのもとで、ついつい毎晩飲んでます... というように、あてのない買い置き(外生的買い置き)は消費を促進する場合がある。そのメカニズムについてモデルを提案し検証いたします、という論文。
モデルといってもかんたんなパス図のようなもので、「買い置き」と「製品の消費容易性」(食品でいえば、個別包装になっているかとか) が、「消費時点での顕著性」「知覚されたコスト」を通じて消費の「頻度」と「量」に影響する、というもの。
モデルから出てくる仮説が3つ:
- P1. 外生的買い置きは消費を促進する。その影響は消費容易性が高い製品において強い。
- P2. 外生的買い置きは消費の量を増大させる。さらに消費の発生率も増大させる。ただし後者は消費容易性が高い製品に限る。
- P3. 外生的な買い置きが消費容易性の高い製品の消費発生率に対して与える効果は、製品の顕著性によって媒介される。
P3. がちょっとわかりにくいのだが、「買い置きする」→「製品の顕著性が高まる」→「消費発生率が高くなる」という仕組みがあるものの(ここで顕著性はメディエータ)、消費容易性が低い製品では顕著性が高まっても消費発生率が高くならない(消費容易性はモデレータ)、という理屈らしい。有名な純米酒が安売りだったので思わず買い求め、心はもうすっかり日本酒モードなのだが、しかし日本酒はうかつに開封すると風味が落ちるからじっとがまん、よって消費発生率は増大しない、というようなことですかね。
で、まずP1を世帯スキャンデータで支持する(研究1)。ジュース、クッキー、洗剤について、ある購入における購入量を次回購入までの期間で割った値を消費速度の指標とみなしてこれを従属変数とし、「外生的買い置き」「内生的買い置き」を表す2つのダミー変数を独立変数にした回帰モデルを作ったら、ジュースとクッキーにおいては外生的買い置きによる消費速度の増大がみられました、とのこと。気になるのは独立変数の作り方だが、「プロモーション・パックだけを買った」ら外生的買い置き(あてのない買い置き)、「レギュラーパックを含んだ買い物で、しかも普段よりも量が多い」のは内生的買い置き(あてのある買い置き)、なのだそうだ。訳あって多めに買う際にはきっとバラエティ・シーキングするでしょう、という理屈である。こ、これは... かなりな無理筋ではないでしょうか。 「孫が遊びに来ているからジュースを多めに買っとこう」というのは内生的買い置きだが、その際おばあちゃんが孫の好むブランドのLLサイズを買ったとしても、なんら不思議ではないだろう。この理屈、この業界では通るのかしらん?
まあいいや、本命は実験のほうだ。研究2はフィールド実験。クラッカー、グラノーラ・バー、フルーツ・ジュース(以上が消費容易性=高)、麺、オートミール、電子レンジ用ポップコーン(以上が消費容易性=低)の6製品の詰め合わせを56世帯にプレゼントする。その詰め合わせには、3製品(買い置き=高)が12個づつ、3製品(買い置き=低)が4個づつ入っている。で、冷蔵庫に紙を貼り、2製品(顕著性=妨害)についてその消費履歴を日々書き付けるよう頼む。ところがこの紙には、この2製品の写真のほかに、なぜかほかの2製品(顕著性=高)の写真も載っている。対象者はこの4枚の写真を日々眺めて過ごすわけで、顕著性も高くなろうというものでしょう、という理屈である。2週間後に予告なく調査票を送りつけ、全製品の消費履歴を聴取する。妨害条件の2製品のデータを捨て,世帯当たり4件のデータを得ると考えると、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) X 製品の消費容易性(高/低) という3要因デザインである。で、消費回数、一回当たり消費量、全消費量を従属変数とし、要因やら製品名のダミー変数やら世帯特性やらを独立変数に放り込んだ回帰モデルをつくり、P2を支持してみせる。1世帯から複数件のデータを取っているので、ほんとは階層回帰モデルじゃないといけないような気がするのだが...ちゃんとやっているのかしらん。
研究3は実験室実験。学生に台所の棚の写真を見せる。それはオレオやらキットカットやら計8ブランドのスナック菓子が詰まっている棚で、うち4ブランドは16個づつ(買い置き=高)、残り4ブランドは4個づつ(買い置き=低)入っており、また4ブランドは上の棚(顕著性=高)、残り4ブランドは下の棚(顕著性=低)に入っている。で、1週間のテレビ番組表を渡してどの番組を見たいか尋ね(これはダミー課題)、ついでに各曜日に消費したいお菓子のブランドと数量を答えさせる。一人あたり8件のデータを得ると考えれば、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) という2要因デザイン。で、消費回数の回帰モデルで買い置きと顕著性の交互作用を出してP3を支持し、さらに顕著性をモデルに出し入れしてそれがメディエータであることを示す。研究4もそんな感じの実験室実験(面倒なのでスキップ)。
いろんなアプローチの実証研究を繰り出すところが面白かったんで、ついつい最後まで読んでしまったが、考えてみると、個別の知見自体はまあ当たり前な話ばかり、という気もする。いろんな話をひとつのモデルで整理しているところが偉いのであろう。
論文:マーケティング - 読了:Chandon & Wansink (2002) 買い置きを使ってしまうのはいつ?
Calder, B., Phillips, L., Tybout, A. (1982) The concept of external validity. Journal of Consumer Research, 9(3), pp. 240-244.
Lynch, J. (1983) The role of external validity in theoretical research. Journal of Consumer Research, 10(1), pp. 109-111.
Calder, B., Phillips, L., Tybout, A. (1983) Beyond external validity. Journal of Consumer Research, 10(1), pp.112-114.
個々の理論検証的研究においては外的妥当性はそんなに大事じゃないよ、という短い意見論文→引き合いに出されたLynchさんの反論→返答、という一連のやりとり。Campbellの外的妥当性/内的妥当性の区別について調べたかっただけなのに... 読みながらだんだん関心をなくしてしまってナナメ読み。
論文:データ解析(-2014) - 読了: Calder, Phillips, Tybout (1982), Lynch(1983) 外的妥当性は重要か論争
乙嫁語り(3) (ビームコミックス)
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森 薫 / エンターブレイン / 2011-06-15
衣類や絨毯の模様が,相変わらずパラノイアックなまでに美しい...
黒田・三十六計 8 (SPコミックス)
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平田 弘史 / リイド社 / 2011-05-27
このマンガ,連載が続いていたとは知らなかった。70を超えたこのマンガ界の巨人がお元気でご活躍とは,誠にありがたいことだ。
コミックス(2011-) - 読了:「乙嫁語り」「黒田三十六計」
2011年6月17日 (金)
Dahan, E., Kim, A.J., Lo. A.W., Poggio, T., Chan, N. (2011) Securities Trading of Concepts (STOC). Journal of Marketing Research, 48(3), 497-517.
仕事の都合で読んだ。
ほかのところに詳しく書いたので、内容のメモは省略するが、これは確かにものすごく革新的だと感じたし、かつ、いまこの発想が出てくるのは必然だとも感じた。これからの市場調査のひとつの方向性を示していると思う。
それにしても、誤植は多いし説明はわかりにくいし、読むのはかなり苦痛だった。なんとかしてくださいよ、もう...
論文:予測市場 - 読了:Dahan, et.al. (2011) コンセプト取引
2011年6月15日 (水)
前の勤務先で働き始めてしばらく経った頃、新しいサービスの利用経験者がそのリリース日から徐々に増加する、というようなことについて調べる消費者調査を手伝ったことがあって、利用経験者の増加が描く曲線はなにかの理屈で説明したり予測したりできるんじゃないか、どう思いますか、という話になった。ナントカモデルを使えばいいんじゃない、と電話会議装置ごしに誰かが云うのが聞こえたのだが、英語だったせいもあって聞き取れず、いちいち聞き返すのも恥ずかしい。そうですね、考えてみます、と平然と安請け合いした。
で、横軸に時間、縦軸に経験者数をとればどうせS字型になるだろうから、ロジスティック関数でも当てはめようか、それとも治癒率・致死率ゼロな伝染病の感染だと思えばいいか... とあれこれ考えていて、試しに本を調べてみたら、なんのことはない、ちゃんとモデルがあるではないか。マーケティングの世界では常識に属する話らしい。知りませんよ、そんなの。
新製品の上市からの時間 t を横軸、購入経験者数 N(t) を縦軸にとった曲線について考える。天井をN*、時点 t に未購入者が購入者に転じる率を g(t) とすると、まだ買っていない人は N*-N(t) 人だから、時点 t での新規購入者数は n(t) = g(t) [N*-N(t)] となる。ここまではまあ、思いつく話だ。
で、この g(t) を定数とみる手もあれば、「みーんな持ってるよ、ねえ買ってよお母さん」を念頭に、購入経験者の割合 N(t)/N* に比例して速くなると考える手もあるだろう。そこで、欲張ってこの二つを足し合わせ、g(t) = P + Q[N(t)/N*] と考える。うまくしたもので、曲線 N(t) はS字型の関数になるし、パラメータの推定も容易だ(n(t)はN(t)の二次式になる)。なんといっても、単に適当なS字型関数を当てはめるのとちがい、パラメータの意味を解釈することができるところが良い。Pは周囲と関係なく購入する程度だからinnovation係数、Qは周囲につられて購入する程度だからimitation係数という。提案者の名前を取ってこれをBassモデルという由。やるなあBassくん、君はなかなか頭がいいぞ。
Chandrasekaran, D. & Tellis, G.J. (2007) A critical review of marketing research on diffusion of new products. in Malhotra, N.K. (ed), "Review of Marketing Research," vol. 3, 39-80.
新製品普及モデルのレビュー。仕事の都合で読んだ。
著者らによれば、Bassモデルに美点は多々あれど、以下の欠点もある。まずモデリング自体についていえば、
- 価格や広告のようなマーケティング変数や、供給側の制約を、直接にモデルに含めていない。
- 製品カテゴリ自体の変化を扱うことができない。
- たいていの実用場面では、初回購入に限定した売上データは手に入らないし、上市直後のデータも手に入らないことが多い。
どの点についても、モデル拡張の提案が山のようにある。なんと、初回購入でない売上が含まれたデータもBassモデルの拡張でどうにかしちゃおうとする提案があるのだそうだ。耐久財の買い替えを含めたモデルは Kamakura & Balasubramanian(1987, J. Forecasting)、消費財のリピート購入を含めたモデルはHahn, et.al.(1994, Marketing Sci.)。
パラメータ推定の面では、
- 普及が急加速する時点(takeoff)と減速する時点(slowdown)の2時点がデータに含まれていないと、Bassモデルの当てはめはうまくいかない。しかしこの2時点こそマーケッターが予測したいことである。
- BassはパラメータをOLS推定したが、(1) N(t)とその二乗との相関は高いから、n(t)の回帰式にはマルチコが生じ、推定は不安定。(2) パラメータの標準誤差がわからない。(3)離散データで連続的モデルを推定する分、バイアスが生じる。
- データに新しい時点が追加されると、パラメータが大きく変わる。パラメータに実質的な解釈を与えているぶん、それってどうよ、という気持ちになる。
これも新提案が腐るほどある模様。非線形最小二乗法はもちろんのこと、たくさんの新製品の曲線を用意し一気に階層ベイズモデルを当てはめるとか、遺伝的アルゴリズムで推定するとか、増補型カルマンフィルタでほにゃららするとか(ナンダソレハ)。
いっぽう、Bassモデルとは別の系統の新製品普及モデルとして以下のものがある由。
- 新製品のaffordabilityに注目したモデル。売上を価格やら年収やらの積へと分解するコブ=ダグラス型モデルとか (裸足で逃げ出したい)。
- 個人レベルのモデル。マーケティング分野では以下の7つ:
- Robert&Urban(1988, Mngmnt Sci.): 新製品の主観効用をベイズ流に更新していくモデル。
- Oren & Schwartz(1988, J. Forecasting): リスクテイクするかどうかの選択モデル。リスク志向性に個人差がある。
- Chatterjee & Eliashberg (1990, Mngmnt Sci.): みんなリスク回避的だが、効用についての情報に個人差があるモデル。
- Bammor & Lee (2002, Mktg Sci.): 個人の受容時期の確率分布を考えるモデル。
- Song & Chintagunta(2003, Quantitative Mktg & Econ.): 将来の価格と品質レベルを考慮した行動のモデル。集団レベルのデータで推定できる。
- Sinha & Chandrashekaran (1992, JMR): 個人を群にわけて、群ごとに受容確率とタイミングを考えるモデル。
- Chandrashekaran & Sinha (1995, JMR): これも似たような感じ。
- メーカーや小売の戦略についてのモデル。
- 新製品普及の空間モデル。
- 映画やエンタメに特化したモデル。興味ないのでパス。
このほか、takeoff や slowdown が生じる時点のみに注目した研究もある由。slowdownのほうが研究の歴史が短い(「キャズム」とか「情報カスケード」とか)。この辺、面倒になってきたので流し読み。
論文の本筋も大変勉強になったが、注釈で紹介されていた画期的新製品の販売予測の話(Urban et.al., 1997, JMR)が一番面白かった。これはどうしても読まないといけない。
論文:マーケティング - 読了:Chandrasekaran & Tellis (2007) 新製品普及モデルレビュー
Strauss, M.E., Smith, G.T. (2009) Construct validity: Advances in theory and methodology. Annual Review of Clinical Psychology, 5, 1-25.
測定の妥当性についての最近の展開を知りたくて読んだレビュー。なにか資料を探していて、clinical psychology関係の雑誌の論文をみつけると、やったあ、って思いますね。概して数学が苦手な臨床心理学関係者向けに、親切な書き方になっていることが多いように思うもので。。。すみません、失礼をお許しください。
妥当性研究の歴史のあたりについてメモ:
- 初期の妥当性研究として知られているのが、米陸軍のWoodworth Personal Data Sheet(1919)。これは情緒的安定性の測定で、まず神経症患者のケース記録から項目を集め、次に健常者の回答に基いて項目を削った。この手順からみて、測定の妥当性についての考慮があったわけだ。しかしなにぶんにも精神病理学的知識が不十分な時代の話であり、神経症という概念も精緻化されておらず、出来上がった116項目はあまりに多様であった。また、きちんとした外的基準もなかった。
- 20世紀中盤まで、測定の妥当性はもっぱら予測的妥当性として理解されていた。Anastasi(1950)というひとはこう書いているそうだ:「テストの妥当性を客観的に調べることができるのは、それが明確に定義された基準についての測定である限りにおいてである。テストがその外的基準以外のなにかを測っているという主張は、なんであれただの思索にすぎない」。ううむ、強気だなあ。このアプローチは心理検査に多大な影響を与えた。たとえば、広く用いられている性格検査のひとつであるMMPIの項目は外的基準の予測という観点で選ばれている。いっぽう、こういう基準関連主義にはふたつの限界がある:(1)外的基準には妥当性があることが前提となっている。(2)理論の発展に寄与しない。
- 50年代から上記(2)のタイプの批判が高まり、Meehl&ChallmanによるAPA心理検査部会勧告に結実する(1954)。構成概念妥当性という概念の登場である。
- 臨床心理の分野では、50年代の4つの研究が理論展開の原動力となった。
- MacCorqudale & Meehl(1948)による仮説的構成概念の基礎づけ。
- Cronback & Meehl (1955)による構成概念妥当化の方法論の定式化。妥当化が演繹的プロセスであることが強調された。
- Loevinger(1957)による理論構築のなかでの妥当化の役割の定式化。構成概念妥当性は予測的妥当性・併存的妥当性と内容的妥当性を包含する概念であるということになった。
- Campbell & Fiske(1959) による、MTMM行列による妥当化の提唱。収束的妥当性と弁別的妥当性の区別がここで登場した(Campbellらはこの段階ではどちらも同程度に重視している。のちに収束的妥当性のほうをより重視するようになった)。
- Cronback & Meehl(1955)にいわせれば、妥当化(validation)とは結果ではなくプロセスであるわけで、だからある測定の妥当性が「示されました」という言い方はおかしい。
どうやら、構成概念妥当性を「ザ・妥当性」として包括的に捉える考え方は、すでに50年代からあったらしい。では、よく本に載っている「妥当性には基準関連妥当性と内容的妥当性と構成概念妥当性があります」という話はどこからやってきたのだろうか。あれこそAPAの基準が典拠だと思うのだが。よくわからんなあ。
ほかに面白かった話:
- Whitely(1983, Psych.Bull)は、妥当性をnomothetic spanとconstruct representationの二面に分けて考えようと主張している由。前者は他の概念との相関、後者は測定の基盤にある心的メカニズムを指すらしい。これは話の整理に役立つなあ。今の仕事の関連でも、このふたつがごっちゃになって混乱することがあると思う。
- ずっと前にBorsboomという若い人の、「法則定立ネットワークだのなんだのって奴らはみなアホだ」と関係者に喧嘩を吹っ掛けるような論文をみた覚えがあるが、著者らは一部賛成、しかし「理論たるものは明確に定式化されてないといけない」という点には反対、である由。
- 論文の後半はMTMM行列の分析の最近の進展について。いずれも知らない話ばかりだったが、いずれ必要になったら読み直そう、と流し読み。
最近折にふれて、前の勤務先(市場調査の会社)で働きはじめた5年前のことを思い出す。市場調査のことなんてもちろん全然知らなかったから、いろいろ戸惑うことが多かったものだ。そのころ面食らったことのひとつに、たとえば集計値の信頼区間の話をしているときに、まあ「買いたい」と答えた人が必ず買うとも限らないんだから、購入意向の信頼区間なんて考えたってねえ... などという話を始める人がいる、ということだった。いやいや、犬は犬で猫は猫、信頼性は信頼性で妥当性は妥当性でしょう、ちがう話をごっちゃにする人に明日はないですよ、と思わず憤ったわけだが、長年この仕事をしていた人でさえそうだということは、この混乱にもなにかしら俺の知らない背景と意義があるはずだし、第一、ちがう話をきちんと分けたからといって、俺に輝かしい明日が開けるわけでもない。
まあそれはともかく、そのとき思ったのは、どうやらこの業界では測定の信頼性と妥当性をあまり区別していない人が多いようだ、ということだったのだが、それがなぜなのかが不思議であった。というのは、そのまた前のご奉公先(教育産業)で会った人々のことを思い出すと、データ解析についてのトレーニングなど受けていなくても、この手の話には理解が速く的確であったように思うからだ。いまにして思えば、主に集団レベルの特性に関心を持つ消費者調査の関係者と、たとえ集計値をみていても本質的には個々人に関心を持つ教育関係者の違いかもしれない。
論文:データ解析(-2014) - 読了:Strauss & Smith (2009) 構成概念妥当性レビュー
写楽
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皆川 博子 / 小池書院 / 2007-11
表題作は,96年の映画「写楽」の公開に合わせ,皆川博子の原作小説を漫画化したものである由。映画はみてないけど,フランキー堺が生涯を掛けてついに実現した,という話を聞いたことがある。原作があったのか。
2011年6月13日 (月)
世界の歴史 22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩 (中公文庫 S22-22)
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谷川 稔,鈴木 健夫,村岡 健次,北原 敦 / 中央公論新社 / 2009-03
すごく面白い本(「ルイ・ナポレオンのブリュメール18日」)を読み始めたのはいいが,背景知識があまりに足りないことに気づき,そちらは中断して,とりあえず19世紀欧州史の入門書を読んでおくことにした。しかし,こういう本を真剣に読んでいるおっさんって,現代日本のサラリーマンとしてはどうなんでしょうね。いかにも窓際族という感じで,ちょっと気が引ける。
無知を晒すようで恥ずかしいが,1848年という年は実に大変な年だったのだなあ。フランスでは王政が倒れ(二月革命),ルイ・ナポレオンが権力を握る。オーストリア,プロイセンにも革命が波及し,メッテルニヒは亡命するが,ウィーン三月革命は無惨に鎮圧される。ベネチア,ミラノでもオーストリア軍に対して市民が蜂起する。イギリスでは労働者階級の政治闘争(チャーチスト運動)が最後の高潮を迎える。ベルリンの壁崩壊を上回る大動乱だ。ええと,黒船来航の5年前,安政の大獄の10年前の出来事である。
新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦 (朝日選書)
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保坂修司 / 朝日新聞出版 / 2011-06-10
9.11の直後に緊急出版された本に,1章だけ追加した内容であった... ちゃんと確認すればよかった...
シェイクスピアを観る (岩波新書)
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大場 建治 / 岩波書店 / 2001-10-19
ノンフィクション(2011-) - 読了:「世界の歴史」「オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦」「シェイクスピアを観る」
リバースエッジ大川端探偵社 3巻 (ニチブンコミックス)
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ひじかた 憂峰 / 日本文芸社 / 2011-05-28
3巻にして,ますます起承転結も落ちもない世界に突入している。原作は大ベテラン・狩撫麻礼の変名。なんというか,独特の語り口だ。
2011年6月 9日 (木)
Bentler, P.M. (2010) SEM with simplicity and accuracy. Journal of Consumer Psychology, 20(2), 215-220.
昼休みには仕事と関係ない本を持ち歩くことが多いのだが、いま読んでいる本がちょっと面倒な内容だもんで,どうもその気になれず、かわりにこれに目を通した。うーむ、現実逃避だなあ。。。
えーと、このJ. Consumer Psychologyという雑誌に(かなりマイナーな雑誌だと思う)、2009年にIacobucciさんという方がSEMの啓蒙論文を書いた。市場調査の有名な教科書を書いた方ですね。タイトルは"Everything you always wanted to know about SEM but were afraid to ask"、ウディ・アレンのもじりであろうか。ところがこの論文が、古参のソフトウェアLISRELに準拠し、ギリシャ文字てんこ盛りのヤヤコシイ書き方をしているのだそうで、これではいかん、わしがもっともっと簡単に説明してみせよう... と、かのBentler先生がおんみずから乗り出してきてお書きになった、超簡単なSEM入門。「簡単な」というのは、要するに「わしが開発したEQSに準拠して」ということである。はっはっは。
ついでに元論文の誤りや不十分さを指摘する記述があったが,そちらは元論文が手元にないのでよくわからなかった。そのほかのコメントは,IacobucchさんはLMのような修正指標の使用について否定的だがわしはそうは思わん,ランダム欠損に対するわがtwo-stage ML法の威力を知るがよい,などなど。ははぁー(平伏)。
論文:データ解析(-2014) - 読了: Bentler(2010) SEMについて簡単かつ正確に語ろう
2011年6月 8日 (水)
戴晴 (1990)「私の入獄」(抄訳), 田畑佐和子訳、中国研究月報, 44(5), 10-22.
1989年からもう22年も経つのだなあ、と先日ぼんやり感慨にふけっていて、ふと著者の名前で検索して見つけた記事。戴晴は中国の改革派知識人で、天安門事件の際にキーパーソンのひとりと目された人だと思う。この文章は事件後の拘置体験を綴ったエッセイであった。
当時の状況からしてあまり厳しいことを書けなかったのかもしれないが、監房は広く清潔であった由。彭真や王光美も入れられた、中央公安部の由緒正しき監獄だったそうだ。まあ、著者も国際的な有名人だしね。
Cinii に加入してしまうと、こういう雑誌記事もクリックひとつで購入できてしまう... おそろしいことだ...
シェイクスピア全集 (〔28〕) (白水Uブックス (28))
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ウィリアム・シェイクスピア / 白水社 / 1983-01
感想1. リア王は第一幕の段階からべらべらと実によく喋る男なのだが,これは以前からそういう饒舌な王様だったと考えた方がいいのか,それとも冒頭部分からすでに,なにかしら非日常的な状態に突入していると考えるべきか。
感想2. しみじみと思うに,一番悪いのは三女コーディリアじゃないかと思うのだが,どうか。正直ならいいってもんでもないだろう,年寄りの気持ちも考えろ,といいたい。
午前3時の危険地帯 3 (Feelコミックス)
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ねむ ようこ / 祥伝社 / 2011-06-08
零細企業で働く若い男女の恋愛模様を描く。たわいもない話ではあるのだが,ディティールがいちいち良い。密かに慕っている上司とオフィスの机の下に潜り込んだまま会話する場面とか,恋の悩みを忘れるため仕事に没頭する描写とか。。。
。。。いや,そんなことはどうでもいい。ヒロインの地味な眼鏡女子・たまちゃんが!もうホントに!可愛いんだ,これが!!
Friedman, L. & Wall, M. (2005) Graphical views of suppression and multicollinearity in multiple linear regression. The American Statistician, 59(2), 127-136.
机に積んである資料の山にちょっと飽き飽きしてきたので、息抜きとしてぜんぜん関係ないやつに目を通した。以前読みかけて途中で放置していた論文。たしか、講義だか社内研修だかの準備で、抑制変数という言葉の定義について調べているときに見つけた論文だったと思う。
重回帰における抑制と多重共線性についてわかりやすく説明する図示手法をご提案します、という内容。知っている人はみんな知っている抑制という概念だが(そりゃそうか),これが案外あいまいなものであって、著者らの整理によれば:
- 抑制についての最初のフォーマルな議論は Horst(1941) という文献なのだそうで、そこでは(1)従属変数と相関がなく、(2)他の独立変数と相関し、(3)重回帰に投入するとR^2が増える、ような変数のことを抑制変数と呼んでいる。これが古典的な定義らしい。Cohen&Cohenの重回帰の教科書(2003, 3rd ed.) もだいたいそんな感じ。
- Darlington(1968, Psych. Bull.)は、独立変数と従属変数との相関はすべて非負なのに偏回帰係数が負になる場合を指して抑制と呼んだ。Conger(1974)はこれを拡張し、相関の正負を問わず、「それを重回帰式に含めることで他の変数(群)の予測的妥当性が高くなる」ような変数を指して抑制変数と呼んだ。Tzelgov & Stern (1978, Edu. Psych. Measurement) もこのラインで、「すべての独立変数において、従属変数との相関の絶対値よりも偏回帰係数の絶対値のほうが大きい」場合を指して抑制と呼んでいる。
- いっぽうVelicer(1978)はもっと限定的に、「独立変数と従属変数との単相関の二乗の和より、重回帰のR^2のほうが大きい」場合のみを指して抑制と呼んでいる。
著者らはVelicerのいうところの抑制を「拡張」、拡張ではないがTzelgov & Sternのいうところの抑制であることを「抑制」、他の場合を「冗長」と呼ぶ。で、X1, X2, Y の3変数を考え、YとX1, YとX2の相関を固定し、X1とX2の相関を横軸、R^2や標準偏回帰係数を縦軸にとったグラフを描き、抑制・拡張・冗長がいつ起きるのかを図示する。
なんというか、頭の体操としては面白かったのだけれど。。。この論文の視点は、所与の相関行列のもとで重回帰式の振る舞いを調べる、というものである。たとえば、X1とYの相関を+0.8, X2とYの相関を0に固定し、X1とX2の相関を動かしたら、重回帰のR^2はどうなるか? X2とYとの相関が+0.4だったら? という風に考えていくのである。正解は「X1とX2の相関が0から離れるほど高くなる」「+0.6から離れるほど高くなる」。納得するために、コーヒー片手にしばしベランダで外を眺めなければならなかった。
いやはや、こういう考え方ってかえってわかりにくくないですか? 所与のパスモデルのもとでの相関行列と重回帰式の振る舞いについて考えるほうが、どうみてもわかりやすいと思うんだけど。そんなことないっすかね。単に俺の修行不足だろうか。
論文:データ解析(-2014) - 読了:Friedman & Wall (2005) 重回帰における抑制と多重共線性の図示
2011年6月 7日 (火)
Bell, D.R., Iyer, G., Padmanabhan, V. (2002) Price competition under stockpiling and flexible consumption. Journal of Marketing Research, 39(3), 292-303.
値引きに伴う基本需要増大を考慮した、価格競争のゲーム理論的モデルをつくりました、という論文。
ある商品を値引きすると、ブランドスイッチが起きるだけでなく、カテゴリの基本需要も増える。後者には、純粋に買い置きされるという面と、消費が増えるという面がある。つまりカテゴリによって、買い置きのみ増えたり、消費のみ増えたり、両方増えたり、するわけである。なるほど、安売りのティッシュを山ほど買っても鼻をかむ回数は変わらないが、格安ワインを「買い置きするだけよ」と買ってもついつい飲んでしまうものだ。こうした買い置きと消費増大の両方を考慮します、というのがこの研究の売りである模様。
論文の前半では、ものすごく抽象化した状況を考えてゲーム理論的モデルをつくる。著者様には誠に恐縮だが、全然関心ないのでスキップした(仮に読んだところで理解できそうにない)。何だか知らんが、消費が増大する程度だとか、貯蔵コストだとか、そういう定数を与えてやると、値引きの頻度やら値引き率やらの均衡点が出てくる、というモデルであるらしい。ふーん。
後半は、このモデルによる予測と実データの比較。買い置きのみ起きると考えられる4カテゴリ(ティッシュなど)、買い置きと消費増大の両方が起きると考えられる4カテゴリ(ヨーグルトなど)のスキャン・パネル・データをつかう。モデルから導かれる「消費が増大するタイプのカテゴリでは、(1)値引きの頻度がより多くなり、(2)値引き率はより大きくなり、(3)平均価格はより安くなる」という予測が、データと整合することを示す。3つの変数をカテゴリ間で単に比較するだけでなく、3つの変数についてそれぞれ階層ランダム効果モデルをつくったりする。いっけん小難しく見えるけど、階層モデルになるのはカテゴリとアイテムの両方を考えるから、ランダム効果モデルになるのはアイテム間のちがいをランダム切片で表すためで、そんなに難しい話ではなさそうだ。ちゃんと読んでないけど。
途中からもう死ぬほど面倒になったので、スキップ、スキップ、スキップ。。。結局なにもかも飛ばし読み。スミマセン。
論文:マーケティング - 読了:Bell, Iyer, & Padmanabhan (2002) 値引きが買い置きやカテゴリ消費増大をもたらすような商品カテゴリにおける価格競争
2011年6月 6日 (月)
Lemon, K.N., & Nowlis, S.M. (2002) Developing synergies between promotions and brands in different price-quality tiers. Journal of Marketing Research, 171-185.
マーケティング分野の論文をちびちび読んでいる今日この頃だが、これはめずらしく感銘を受けた論文。残念ながら自分のいまの仕事の役には立ちそうにないし、専門家の方から見てどうなのかもよくわからないけど、とにかく感心した。理屈がすっきりしていて、デザインがスマートで、言い訳が少なくて、実世界に対するストラテジックな示唆がある。どんな分野にもプロがいるものだ。
小売店の販促(エンド陳列、チラシ広告、値引き)とブランド価格帯の、それぞれの効果ではなく、組み合わせによって生まれる効果についての実証研究。以下の5つの交互作用について検討している:(1)価格帯 x 陳列有無、(2)価格帯 x チラシ有無、(3)価格帯 x 値引き有無、(4)価格帯 x 値引き有無 x 陳列有無、(5)価格帯 x 値引き有無 x チラシ有無。
データに解釈を後付けするのではなく、認知的な前提から話をはじめているところが素晴らしい。著者らいわく、
- 刺激反応適合性の原理からいえば(おっと、大きく出たね)、意思決定においては決定プロセスと適合的な属性が重視されるはずである。異なるブランド間の比較がなされる場合は、比較しやすい属性、すなわち価格がより重視されるだろう。さて、棚の端(エンド)での陳列やチラシ広告は、ブランド間比較を阻害するだろう。つまり価格はより軽視されることになる。したがって、エンド陳列やチラシの効果は高価格帯ブランドのほうが大きいだろう(交互作用1と2)。
- 今度は値引きの話。高価格帯ブランドの値引きは「高いという短所がよりましになる」こと、すなわち損失の低減である。低価格帯ブランドの値引きは「安いという長所がより良くなること」、すなわち利得の増大である。Kahneman&Tversky の昔から、ひとは利得より損失に敏感だと相場がきまっておる。したがって値引きの効果は高価格帯ブランドでより大きいはずである。しかしそれもこれも、ブランド間比較のもとでの話だ。エンド陳列なりチラシなりでブランド間比較が阻害されると、当該ブランドの通常価格が参照点になるので、値下げの効果は高価格帯でも低価格帯でも変わらなくなるだろう(交互作用3,4,5)。
...美しいロジックだ。こうでなければならない。
実証研究は3つ。
- 研究1はソルト・クラッカーの個人スキャンデータの分析。ブランドはNB3つ、PB1つ。ブランドの購入を、販促変数(10個)、ブランド・ロイヤルティ(その時点までの全購入のうち当該ブランドを買った割合)、通常価格、の12変数で説明する多項ロジットモデルをつくる。販促変数は、まず以下の5つのダミー変数:{値引き販促のみあり、陳列販促のみあり、チラシ販促のみあり、陳列&値引き販促あり、チラシ&値引き販促あり}。加えて、この5つそれぞれと価格帯(NB/PB)との交互作用を表すダミー変数。推定されたパラメータとシミュレーション結果は、上記仮説をすべて支持。
- 研究2,3は学生実験で、ブランド間比較の有無を直接コントロールする。研究2は質問紙、研究3は架空のネットショッピング。ある製品カテゴリについて、高価格帯製品と低価格帯製品を示す。要因は課題タイプ×値引き。課題タイプは、直接選択(2選択肢を並べ、どちらを買うか決定), 分離選択(それぞれを提示し、買うかどうか決定)の2水準。値引きは、高価格帯値引き, 低価格帯値引き, 値引きなし, の3水準。どちらも被験者間で操作。これを4カテゴリについて行う。その結果、値引きの効果は、ブランド間比較があるときは高価格帯で大きいが、比較がないときは価格帯によらなかった。
実務的な示唆としては... チラシやエンド陳列といった販促と値引きを同時に行うのは、廉価品ならいいけれど、高級品の場合はむしろ負のシナジーが生じるかもしれない。
チラシだの陳列だのといった現象的な変数について、3要因交互作用を含むようなややこしい仮説をつくってしまうが、それらは観察研究(スキャン・パネル・データ)で一気にサポートしてしまう。で、疑い深いあなたのために、仮説のキーになる媒介変数(ブランド比較の有無)の効果だけ、要因を減らした統制実験で検証する... という戦略である。うまいことやるもんだ。
論文:マーケティング - 読了:Lemon & Nowlis (2002) 販促とブランドのシナジー構築
レコンキスタの歴史 (文庫クセジュ)
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フィリップ コンラ / 白水社 / 2000-01
記述がとことん単調で,ほとんど頭にはいらなかった。恐るべしクセジュ文庫。フランス人はこんなんでも文句言わずに読むんだろうか。
即戦力は3年もたない 組織を強くする採用と人事 (角川oneテーマ21)
[a]
樋口 弘和 / 角川書店(角川グループパブリッシング) / 2010-12-10
人事コンサルタントによる本。
業務への情熱と愛社精神を二軸にとって,社員の散布図を描いて,それを経年で追跡したら面白かろう。。。なあんてことを妄想したことがあるのだが,驚いた,人事って,ホントにそういうことをやってるんですね。人材ポートフォリオというんだそうだ。へえええ。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「レコンキスタの歴史」「即戦力は3年もたない」
インド人と練馬で子育て。
[a]
流水 りんこ / ぶんか社 / 2011-04-29
「インド夫婦茶碗」などの過去の作品から,子育て関連のエピソードを抜き出した再録本であった。。。御布施してしまった。。。
コミックス(2011-) - 読了:「インド人と練馬で子育て」
2011年6月 2日 (木)
7人のシェイクスピア 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
[a]
ハロルド 作石 / 小学館 / 2011-05-30
アイアムアヒーロー 6 (ビッグコミックス)
[a]
花沢 健吾 / 小学館 / 2011-05-30
どちらも「ビッグコミックスピリッツ」連載。長く低迷しているという印象があったが,最近は面白いマンガを載せているようだ。。。
コミックス(2011-) - 読了:「7人のシェイクスピア」「アイアムアヒーロー」
日中国交正常化 - 田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦 (中公新書)
[a]
服部 龍二 / 中央公論新社 / 2011-05-25
本屋でぱらぱらめくっただけでなんだか引き込まれてしまい,他の読みかけの本を中断して一気に読んでしまった。
この本は日中国交回復の際の田中首相・大平外相のリーダーシップに特に焦点をあてていて,だからあやうく「昔の政治家は偉かったなあ」などというろくでもない感想を持ちそうになってしまうのだが,よく考えてみると,手放しで誉められる話ばかりではない。たとえば,北京との交渉と並行して台湾に特使として派遣された椎名悦三郎に対して,首相も外相もろくな指示をしない。椎名は好き勝手な発言をし,台湾当局を混乱させてしまう。国内事情がどうであれ,結果オーライで誉められるような話ではないと思う。
ところで,田中訪中団とのハードな交渉のなかで,周恩来が日本の外務省高官(高島益郎条約局長)を「法匪」となじった(そして最後の歓談の場では逆に誉め讃えた)という話がある。俺が知っているくらいだから有名な話だと思うし,実際俺がこの話を読んだのも一度や二度ではないと思うのだが,この本によれば,実は「法匪」という発言は無かったのだそうだ。
いま試しにwebを検索してみると,この「法匪」発言を引き合いに出しているページが山のようにヒットする。たった40年ほど前の話なのに,怖いものだ。
2011年6月 1日 (水)
Fader, P.S., Hardie, B.G.S., Huang, C.Y. (2004) A dynamic changepoint model for new product sales forecasting. Marketing Science, 23(1), 50-65.
個々人の購買速度が動的に変化するような新製品販売予測モデルをつくりました。という論文。
ええと。。。まず,新製品販売予測の核心はmultiple-event-timing processであり,問題はマーケティング・ミクス変数をコントロールしようがなにをしようがこの過程が本質的に非定常であるという点だ,との仰せである。multiple-event-timing processという言葉の意味がよくわからなかったのだが、おそらく、新製品の購買データとはtime-to-eventデータのeventが複数になったやつ、いわば「患者が何度でも死ねる生存データ」だ...ということではないかと思う。たぶん。
著者いわく、古典的なトライアル・リピート・モデル(購買を初回購買=トライアルとその後の購買=リピートに分けて予測するモデル)には以下の問題がある。
- リピートの過程も定常ではない。たとえば、初回リピートは実は「もう一回だけトライアル」かもしれない。
- トライアルとリピートは独立ではない。たとえば、初期のトライアル購入者はカテゴリ・ヘビー・ユーザで、だからいったんリピートしはじめるとスゴイ、とか。
- ふたつモデルを作る分、パラメータ数が多い。
いっぽうこの論文の作戦は:
- ある対象者の j 回目の購買について、マーケティングミクス変数を共変量とした比例ハザードモデルをつくる。つまり、まずは瞬間死亡率、じゃなかった瞬間購買率について考えるわけだ。基準ハザード(つまり平均的マーケティングミクスにおける瞬間購買率) を \lambda_j とする。これは個人ごとに異なる。
- 基準ハザードは一回購買が起きるごとに変わったり変わらなかったりする、と考える。j 回目の購買の直後に基準ハザードが変わる確率を \gamma_j とする (どう変わるかは別にして)。これは個人間で同じ。
- なんどもリピートするうちに、購買速度はだんだん安定してくるだろう (速くなるか遅くなるかは知らないが)、というわけで、\gamma_j = 1 - \psi ( 1 - e^{-\theta(j+1)}) と考える。つまり、変化点が起きる確率が減少する曲線を考え、その形状を2つのパラメータ \psi, \theta で表す。
- 基準ハザード \lambda_j は同一のガンマ分布に従うと考える。基準ハザードがたくさん入った、みんなで使う大きな壺がひとつあり、ある人に変化点が訪れるたび、その人はいま持っている基準ハザードを未練なく捨て去り、壺から新しい基準ハザードをランダムに一個引く、というわけだ。著者らも認める通り、ここが一番現実離れした部分なのだが、まあとにかく、消費者間異質性はガンマ分布の2つのパラメータで表される。
こうして、購買データをたった4つのパラメータ(と、マーケティングミクス変数の係数)だけでモデル化できたことになる。パラメータはちょっと工夫すれば最尤推定できる由。いったん推定すれば,その先の販売予測が可能。なお,このモデルでは配荷や競合のことは一切考えていない。
もうちょっとシンプルに、「個人の基準ハザードが購買のたびごとに少しづつ変わる」と考えたほうがいいんじゃないかと思ったのだが、著者らはそういうモデルも作っているらしい(Moe&Fader,2003)。はあ、さいですか。
論文では、テストマーケットのホームスキャンデータを使い、上市後26週を学習データにして52週の売上ボリュームやリピート率を予測している。で,学習期間をためしに12週まで減らしてもどうにかなったそうだが、そのあたりの体系的な検討は今後の課題である,とのこと。
いやいや,ちょっと,あなた!そこが肝心な所じゃない! とずっこけたのだが,よく考えてみたら,この論文が想定しているのは,上市後少し経った新製品のその先を予測するというようなせせこましい使い方ではなく,もっと壮大な使い方であろう。ホームスキャンデータを持っている会社が,あらゆる新製品にこのモデルを当てはめて片っ端から4つのパラメータを求め,カテゴリ別のノームをつくる,というような。あーあ,だんだんどうでもいいような気がしてきた。
論文:マーケティング - 読了:Fader, Hardie & Huang (2004) 新製品販売予測の動的変化点モデル
現代の外食産業 (日経文庫)
[a]
茂木 信太郎 / 日本経済新聞社 / 1997-04
仕事の関係で読んだ本。97年刊というところがちょっと残念だが,勉強になった。
勤務先の近所の商店街に新規開店したカフェに入ってランチセットを頼んだら,オペレーションが大混乱しており,なんと40分も待たされた。しかしその間ずっとこの本を読んでいたので,大変心の広い状態で過ごすことができた。いやあ,飲食業って実に大変な仕事ですね。尊敬に値する。