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2013年8月27日 (火)

山口洋(2007) 反応性の問題と予測妥当性の自己発生:意図の測定の行動への影響. 佛教大学社会学部論集, 45, 83-91.

 質問-行動リンクのせいで、意図測定の予測妥当性が誤って高くなってしまう(自己発生)、という問題についての議論。科研費の報告書の一部である由。
 まず、Sherman(1980)の実験1と3を再分析してファイ係数を算出しなおし、これって偽りの予測妥当性が生じてるってことだよね、と論じる。でもって、Shermanみたいなケースはきっとレアで、(1)社会的に望ましいが比較的実行されない行動で、(2)意図調査と行動の間隔が短くて、(3)1to1の調査をやったときに生じるんじゃないかしら、と推量。後半では、Shermanのは予測の系統的誤差が自己消去されるという話だけど、ランダム誤差が小さくなることもあるんじゃないかしら、でもそんなん起きてても気づきようがないよね、と推量。

論文:調査方法論 - 読了: 山口(2007) 意図の予測妥当性の自己発生

Sprott, D.E., Spangenberg, E.R., Block, L.G., Fitzsimons, G.J., Morwitz, V.G., Williams, P. (2006) The question-behavior effect: What we know and where we go from here. Social influence, 1(2), 128-137.

 著者のうちSprott (Washington State U.), Spangenberg(同), それからGreenwald(同)らは、調査対象者に社会的に望ましい行動のリストを提示し、自分がどれを実行しそうかを聴取すると、のちにそれらの行動が生じやすくなるという現象を研究していた(「自己成就予言」)。いっぽうMorwitz(NYU), Block (CUNY), Fitzsimons(Duke), Williams (Penn U.)らは、調査対象者に自分の将来の行動についての予測や見込みを聴取すると、のちにその行動が増えるという現象を研究していた(「単純測定効果」)。でもこの2つは共通点が多いから、これからは両チームとも「質問-行動効果」と呼ぶことにしたいと思います。という宣言&ミニ・レビュー論文であった。

 今後の課題としては...

助かりました。レビューというのは人助けになりますね。
 

論文:調査方法論 - 読了: Sprott et al. (2006) 集え、「質問-行動効果」の旗の下に

Morwitz, V.G., Johnson, E., Schmittlein, D. (1993) Does measuring intent change behavior? Journal of Consumer Research, 20(1), 46-61.
 質問-行動リンクの初期研究としてよく引用される論文。

 えーっと、著者らは類似の先行研究として以下を挙げている:

で、この研究の仮説は次の3つ。

 大規模な郵送パネル調査データを分析する。この調査では7時点にわたり、PCと自動車について今後買う予定を聴取している。途中でパネルに入ってきた世帯がいっぱいあるので、聴取された回数で世帯をわけることができる。従属変数はそのあとで実際に買ったかどうか。聴取回数は実験的に統制できていないので、かわりにデモグラ変数でウェイティング。細かい話がいっぱいあったけど、すいません、読み飛ばしました。
 結果: 一回聴取しただけで購入発生率は向上する(仮説1を支持)。一回聴取した群と複数回聴取した群を比較すると、初回の購入意向が高い場合は複数回聴取によって購入発生率が上がり、低い場合は下がる(仮説2を支持。ただし、統計的には有意だったりそうじゃなかったり)。PCの場合、すでに使用経験があると、聴取の効果は小さくなる、などなど(仮説3を支持)。云々。申し訳ないけど超めんどくさいので、スキップ、スキップ。デモグラ変数を共変量にいれたモデルで再検証しているけど、スキップ、スキップ。ほんっとにゴチャゴチャめんどくさい!

 ... 気を取り直して結論。まずは単純測定効果の大きさに驚くべし。市場調査会社は危機感を持つべし。今後は質問と行動のあいだの心理的メカニズムの研究が期待される。云々。

 あー、もう、途中でイライラして悶え死ぬかと思った。もう少しスマートに書けないものですかね?
 ともかく、実際の市場調査データを用いて、質問が行動にもたらす効果(単純測定効果)が実質的なサイズを持っているということを示した点が、この研究の先駆的な貢献なのだろう。
 ところで、購入意図と購入とのあいだに購入の心的シミュレーションを想定するLevav&Fitzsimons(2006)流の考え方は、すでにKalwani & Silk (1982, Marketing Sci.)で提案されている由。ふうん。

論文:調査方法論 - 読了: Morwitz, Johnson, & Schmittlein (1993) 購入意向を訊くと購入が生じやすくなる

Fitzsimons, G.J., Shiv, B. (2001) Nonconscious and contaminative effects of hypothethical questions on subsequent decision making. Journal of Consumer Research, 28(2), 224-238.

 調査が及ぼす効果についての実験研究。架空の前提に基づく質問に回答すると、調査対象者はその前提が架空であることを知っているにも関わらず、その後の意思決定でバイアスを被る、という現象に注目する。「ときに、仮にこの候補が犯罪者だったらあなたは投票しますか?」 というような状況ですね。

 説明枠組みとして、Wilson&Brekke(1994, Psych.Bull.) のmental contaminationというのを採用する。これ、よく知らないんだけど、ステレオタイプの研究から来ているのだろうか。紹介を読んだ限りでは、表象のアクセス容易性に依拠するタイプの説明だと思う。
 で、架空の前提の提示による心的汚染のモデレータとして認知的精緻化に注目するのだが、精緻化水準が高い方がアクセス容易性が高くなって汚染もひどくなるという仮説と、逆に低くなるという仮説がありうる。後者のほうは、まず命題の自動的な処理があって、そのあとで意識的な訂正処理がなされる、という二段階を想定した場合の仮説。Gilbert (1991, Am.Psych.)というのが引用されている。要するに、ひとことで精緻化っていっても、それがシステムIIによる修正を伴っているのかどうかで話が変わってくる、ということであろう。

 実験1a. ペンシルバニア大の学生に実験。話題はカンザス州の下院選(そんなの誰も知らない由)。コンピュータ画面上で二人の候補者についての5つの新聞記事を読ませたのち、

でもって、最後に投票を求める。
 気になってちょっと調べてみたんだけど、事実条件の新聞記事の日付となっている1998年にはたしかに下院選が行われているが、カンザス州第二選挙区の候補はJim RyunとJim Clarkという人だ。新聞記事の発行元となっているManhattan Mercuryのバックナンバーを調べてみたんだけど、類似の記事はみあたらない。どうやらこれ自体フィクションみたいだ。
 結果: Bobの得票率は、無情報条件で79%, 事実条件で35%, 架空質問条件で25%。架空質問は意思決定に影響する。

 実験1b. ほぼ同じ実験だが、最初の教示で認知的精緻化の水準を操作する:

実験1aの事実条件を削って、3x2の2要因実験。
 結果: 無情報条件でのBobの得票率は、精緻化の抑制, 通常, 促進の下で、83, 82, 92%。ところが架空質問条件では、55, 39, 10%。つまり、精緻化を促進すると、架空質問の効果は大きくなるわけだ。

 実験2. 著者いわく、やりたいことは盛りだくさんで、

とかなんとか。
 というわけで、精緻化の水準(通常/精緻化促進)に加え、架空質問で提示された情報が意思決定に対して持つ関連性(関連性高/低)を操作する。2x2の被験者間計画、統制条件を追加して5セル。
 手続きは以下の通り。学生に調査票のブックレットを渡す。まずケーキなどの消費頻度を聴取。次に架空質問を提示(ここで要因を操作する)。で、「全然別の実験です。環境が回答に及ぼす変化を調べたい」と称し、別の部屋に移動させる。その際、廊下でスナックのチケットをもらうように教示する。行ってみると、チョコケーキとフルーツサラダが並んでいて、好きな方をもらってよい(どちらも地元食料品店の「$1」という値札が貼ってある。芸が細かい)。次の部屋に入ってきたら、なんでそっちを選んだの、と問い詰め、それからケーキとフルーツサラダの健康に対する良し悪しを聴取。最後に、架空設問が自分の選択に影響したかどうかを聴取。
 架空質問は:

さらに精緻化促進群では、架空設問のあとに「良く考えて答えてくれ、あとで理由を尋ねるからな」と付け加える。なお、統制条件ではまるごと提示なし。別のサンプルで操作チェックする。
 結果: 廊下でケーキを選んだ割合は、統制条件で26%。低関連性の場合、通常で26%, 精緻化促進で36%。高関連性の場合、通常で48%, 精緻化促進で66%。ロジスティック回帰で、関連性の主効果と、精緻化と関連性との交互作用が有意。つまり、精緻化による効果は関連性が高いときに大きい。

 その他、Baron&Kennyの方法でもって、ケーキについての信念がケーキ選択のメディエータになっていると示唆。二番目の部屋での「なんでそっち選んだのよ」質問に対して誰も架空質問の話をしなかったということを根拠に尋問効果説を叩き、「架空設問に影響されたか」質問への回答が全員Noだったということを根拠に会話公準説を叩いている。
 さらに、一部の対象者の事後インタビューに基づいてふたつの対抗説明を攻撃。なにもそこまでやんなくても... と思ったけど、これ、面白いから小理屈こねて無理に載せたんじゃないですかね。被験者はことごとく「最初の部屋の質問には全然影響されてない。だってあれ架空の話じゃん、ケーキが身体に良いわきゃないよ」と答えた由である。ははは。

 えーと、本研究の理論的貢献は、まず心的汚染理論を(記憶課題じゃなくて)選択課題で再現した点。さらに、精緻化がバイアスの訂正を引き起こさず、むしろ汚染を促進してしまうことを示した点。実務的貢献は、第一に、架空質問によるpush-pollingのテクニックがほんとに効くことを示した点。熟慮してもバイアスを取り除けない。第二に、リサーチ手法としての問題点。フォーカス・グループ・インタビューではよく架空質問を使うし、意思決定の促進のために類推やストーリーなんかを使うことも多いが、ああいうのも皆まずいかもしれない。云々。

 消費者行動研究の皮をかぶったバリッバリの心理学の研究で、いささか疲れました。こういうの、できればあまり読みたくないんだけどな。
 架空質問を対象者の行動変容のテクニックとして使う例が増えている、というところで、Bowers(1996), NY Times(2000), Sabato & Simpson(1996)、というのを挙げている。順に、Marketing Newsの記事、96年のテキサス州知事選でブッシュの側近カール・ローブがそういうテクニックを使っていたという記事、政治学者が書いた一般向けノンフィクション、らしい。

論文:調査方法論 - 読了: Fitzsimons & Shiv (2001) 「仮に××だとしたら?」的質問による心的汚染

2013年8月26日 (月)

Bookcover 洗い屋稼業 (カナダ現代戯曲選) [a]
モーリス パニッチ / 彩流社 / 2011-09-06
なんで本棚にあるのか思い出せないけど、ずっと前に衝動買いしたのだろう。著者は52年生まれ、カナダの高名な劇作家・俳優だそうだ。この戯曲は日本でも上演されているらしい。
 高級レストランの地下の食器洗い場を舞台にした会話劇であった。軽妙にして哀しい。

Bookcover 冬の灯台が語るとき (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) [a]
ヨハン テオリン / 早川書房 / 2012-02-09
海外ミステリ自粛により、ずっと前に買ったきり放置してあった本。舞台はスウェーデンのエーランド島という、冬の天候のたいそう厳しいところ。突然に家族を喪った男を描いた佳品であった。

フィクション - 読了:「洗い屋稼業」「冬の灯台が語るとき」

Bookcover 消費税 政と官との「十年戦争」 [a]
清水 真人 / 新潮社 / 2013-08-23
小泉内閣から野田内閣まで、消費税増税へのプロセスを政治部的な視点で追ったノンフィクション。おそらく重要な情報源のひとりは与謝野さんだと思う。
 増税ってのが政治的にいかに大変か、という話であった。

Bookcover 新・ローマ帝国衰亡史 (岩波新書) [a]
南川 高志 / 岩波書店 / 2013-05-22

Bookcover 鉄炮伝来――兵器が語る近世の誕生 (講談社学術文庫) [a]
宇田川 武久 / 講談社 / 2013-05-10

Bookcover 増補 ケインズとハイエク―“自由”の変容 (ちくま学芸文庫) [a]
間宮 陽介 / 筑摩書房 / 2006-11

Bookcover チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える (ちくま新書) [a]
丸川 知雄 / 筑摩書房 / 2013-05-07

ノンフィクション(2011-) - 読了:「鉄砲伝来」「ケインズとハイエク」「チャイニーズ・ドリーム」「新・ローマ帝国衰亡史」「消費税 政と官との十年戦争」

Bookcover 日本ファシズム論争 ---大戦前夜の思想家たち (河出ブックス) [a]
福家 崇洋 / 河出書房新社 / 2012-06-09

日本近現代史 - 読了:「日本ファシズム論争」

Bookcover データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人 (ソフトバンク新書) [a]
橋本 大也 / ソフトバンククリエイティブ / 2013-08-19

マーケティング - 読了:「データサイエンティスト」

Bookcover とりあえず地球が滅びる前に 3 (フラワーコミックスアルファ) [a]
ねむ ようこ / 小学館 / 2013-02-08
高校の弱小女子バスケット部が負けたら地球は滅亡、そのためイケメンの神様がコーチに来ている。という極端な設定の下、思春期の日常を細かく描く。面白い。

Bookcover スティーブ・ジョブズ(1) (KCデラックス Kiss) [a]
ヤマザキ マリ / 講談社 / 2013-08-12
ジョブズの公式評伝のマンガ化。うまくいえないのだけれど、コマ割が日本のマンガのそれと少し異なるような気がする(著者のこれまでのマンガと比べても)。最初から翻訳出版を意図しているからだろうか。

Bookcover グッドアフタヌーン・ティータイム 下巻 (ビームコミックス) [a]
新居美智代 / エンターブレイン / 2013-08-12

Bookcover 進撃の巨人(11) (講談社コミックス) [a]
諫山 創 / 講談社 / 2013-08-09

コミックス(2011-) - 読了:「スティーブ・ジョブズ」「グッドアフタヌーン・ティータイム」「進撃の巨人」「とりあえず地球が滅びる前に」

2013年8月25日 (日)

Bookcover 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(1) (ガンガンコミックスONLINE) [a]
谷川 ニコ / スクウェア・エニックス / 2012-01-21
Bookcover 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(2) (ガンガンコミックスONLINE) [a]
谷川 ニコ / スクウェア・エニックス / 2012-05-22
昨年あたりから人気があるマンガだと思うのだが、まったく眼中になかった。このたびふと手に取ってみて、あまりの面白さにびっくり。不覚であった。
 ものすごく端的にいってしまえば、対人恐怖症というか、いまはSADってんですかね、そういう女子高生を主人公にしたギャグマンガ。その意味では「喪女っ子」などと呼んでいる場合ではないのだが、単純に診断名をラベリングすることと、クラスに一人くらいはいそうなちょっと変わった女の子の物語として共感的に捉えることと、どちらが良いことなのか、一概にいえないと思う。
 ヒロインのピント外れな悪戦苦闘が、もうかわいらしくて仕方ないんだけど、これは笑いと共感を可能にする仕組みが注意深く設計されているからだと思う。第一に、暖かい家族関係や中学生時代の親友が存在すること。第二に、これは彼女にとって思春期限定のトラブルで、10年後にはちょっぴり挙動不審だけど魅力的な女性に成長しているんじゃないか、というふうに読めるところ。うーん、現実には、どうなんですかね。
 それにしても、廊下で教師に「あっ、あっ、さ、さよなら...、ふふ、へへへ...」と呟いた直後に、「やったー!! 普通にものすごく自然に人と会話できたー/コンビニでアイス買って帰るー!!」って... わかるわかる。涙が出そうだ。

Bookcover いつかティファニーで朝食を 3 (BUNCH COMICS) [a]
マキ ヒロチ / 新潮社 / 2013-08-09

Bookcover テラフォーマーズ 6 (ヤングジャンプコミックス) [a]
橘 賢一 / 集英社 / 2013-08-19

Bookcover 聖☆おにいさん(9) (モーニング KC) [a]
中村 光 / 講談社 / 2013-08-23

コミックス(2011-) - 読了:「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い」「いつかティファニーで朝食を」「テラフォーマーズ」「聖☆おにいさん」

Zwane, A.P., et al. (2011) Being surveyed can change later behavior and related parameter estimates. PNAS, 108(5), 1821-1826.
 質問-行動リンクのフィールド実験研究。14名の共著で、所属先は経済学系と公衆衛生系の名前が多い。第一著者の所属はゲイツ財団で、面食らったが、本文を読んでなるほどと納得。

 えーっと、冒頭の整理によれば、survey/interview がその後の行動に影響するという現象のうち、「質問-行動効果」(単純測定効果, 自己充足的予言)は、未来の行動の意図ないし見込みについて質問することがその後の行動を変えることを指す。「ホーソン効果」は、実験場面での処置・観察に対する反応の結果として行動が変わること。良く似た概念として、設問文の操作で対象者の行動に影響を与えようという企み(push polling)がある。なるほど。

 でもって、実験は5つ。すべて開発途上地域のフィールド実験で、サンプリングや実査やら、どれもこれもすごく大変そう(すべて訪問調査らしい)。実験2-4の従属変数は自己報告ではなく、企業側の契約データである。

 実験1. ケニアには家庭の飲み水を塩素消毒するWaterGuardというサービスがあるそうだ。料金は月0.3ドルで、農業の日給の1/4くらい。さて、ケニアの330世帯を抽出。ランダムに2群にわけ、一方は隔週・全18回の調査対象とし、他方は半年ごと・全3回の調査対象とする。対象者には測定器を渡して、飲み水に塩素が入っているか測ってもらう。対象者はその結果から我が家のWaterGuardの使用有無がわかるのだということを知っている。だからこの状況は、単なるsurvey effectを引き起こす状況であるだけでなく、特にホーソン効果を引き起こす状況であるわけだ。
 結果: 隔週群のほうが、報告された子どもの下痢の発生率(発生回数かな? よくわからない) が少なく、塩素が含まれている率(量かな?)が高い。これはまあホーソン効果だと解釈できるけど、興味深いのはここから。子どもの下痢を従属変数にし、独立変数に調査頻度と水質管理(別の事情で操作している)をいれると、調査頻度と水質の交互作用が有意になる。つまり、調査頻度によって水質の効果の推定値が変わってしまうわけだ。おー、なるほど、これは深刻な話かも。

 実験2. フィリピンの地域銀行の入院・自動車保険加入者を対象者にする。ランダムに2群にわけ、一方の群に調査を行う。すごく長い調査票のなかに、6問だけ保険関連の項目がある。保険購入の意向は聴いていない。銀行については触れないし(そんなことが可能なのか。銀行のリストをつかっているのに)、あとで営業があることに触れない。なお、もともとこれは保険加入者の価格感受性についての調査だったので、掛け金があらかじめ実験的にランダム割り当てされている(??? なんだそれは?)。従属変数はその後の保険金請求。
 結果: 掛け金の効果のみ有意。調査の有無は効かない。

 実験3. 同じくフィリピンで、実験2と同じ銀行と組んで、同じような実験。ただし、今度は保険商品が異なり、また掛け金の操作がない。
 結果: 今度は調査の有無が効く(調査された群は保険金を請求しやすい)。実験2とプールしても有意。

 実験4: モロッコの地方部で、ある大手マイクロファイナンス組織が提供するローン商品のtake-upに注目する(恥ずかしながらよく理解できない。融資を申し込むことだろうか)。対象者をランダムに2群に分け、一方の群に調査を行う。すごく長い調査票で、うち15%くらいがクレジットの話。なかにちょっと意向を聞いている項目もある。
 結果: 調査の有無の効果なし。

 実験5: インドの地方部で、あるマイクロファイナンスの契約更新に注目。対象者をランダムに2群に分け、一方の群に調査を行う。すごく長い調査票のうち一部がクレジットの話。意向や見込みは聞かない。
 結果: 調査の有無の効果なし。

 というわけで、調査はその後の行動を変容させる可能性があるから、リサーチャーはベースライン調査をやることのバイアスとメリットを秤にかける必要がある、という実務的指摘のが最大のポイント。
 とはいえ、ちゃんと心的基盤にも言及があって... 単純測定効果や自己充足的予言の研究では、注目している行動への事前の態度や経験が調査の効果のモデレータになると指摘されている(と、ここでMorwitz, Johnson, Shmittlein, 1993, JCR; Levav & Fitzsimons, 2006, Psy.Sci.を引用)。いっぽう本研究では、実験1ではそういうのはみつからなかったけど、これの実験では、調査の反復実施がWaterGuide使用のリマインダになったのだろう。いっぽう残りの実験はもっと「システム I 」な感じで、うち実験2-3は概して無関心・無経験、実験5は関心・経験ともありだったから、そのせいで有意差が出たり出なかったりしたんじゃないか。云々。

 おそらくは他の目的のために走ったフィールド実験の副産物をつなぎ合わせた研究であるから、きれいな結果ではないのだが(実験2では有意差ないのに、実験3とプールして語るという強引さ)、とても面白かった。頭が下がります。
 先行研究概観や考察のところも、ちょっと気がつかない視点があって、勉強になった。恥ずかしながら、質問-行動リンクとホーソン効果を結びつけて考えたことはなかった。
 最後にいろいろ疑問を投げかけっぱなしで終わっている論文なのだが、調査の効果の関連領域(プライミングとか説得とか)として、Chartrand et al.(2008, JCR), Sela & Shiv (2009, JCR), Bertrand, et al.(2010, Q.J.Econ.)が挙げられている。順に、目標、プライミング、広告の話らしい。また、目標形成に関してBargh et al.(2001, JPSP), Webb & Sheeran (2006, Psy.Bull.), バイアスの統計的除去についてMcFadden et al.(2005, Mark. Lett.), Chandon et al.(2005, J.Mark.)をみよとのこと。最初の2件はたぶん実行意図の話、最後のは単純測定効果の話だが、3番目のはなんだかわからない。やれやれ、意外に大きな話だなあ。

論文:調査方法論 - 読了: Zwane et al.(2011) 公衆衛生に対する水質管理の効果が、調査のせいでわからなくなった

2013年8月24日 (土)

Hekkert, P. (2006) Design aesthetics: Principles of pleasure in design. Psychology Science, 48, 157-172.
 昨年ざっと目を通していたのだけど、都合により再読。著者はインダストリアル・デザインの研究者。みたこともない誌名だが ("Psychological Science"ではない!)、ドイツの学術誌で、紆余曲折あって現在はPsychological test and assessment modelingという誌名になっているらしい。日本にも購読している大学図書館があるようだから、そんなに変な雑誌ではなさそう。

 えーっと、経験には3つの側面がある。著者はそれぞれについていろいろな言い回しで呼んでいるので、目に留まったのを書き出すと、

 この3つは概念上の区別で、現象としては分けられない、とのこと。はっきり書いていないけど、どうやら生起の順序として、aesthetic → meaning → emotion というふうに考えているらしい。してみると、著者のいうaestheticをなんと訳せばいいのか、難しいところだ。日本語で「美学的経験」などと呼んでしまうと、高次なappraisalのことになってしまう。「感覚的な喜び」という感じだろうか。
 でもって、僕はねえaestheticsには進化心理的な基盤があると思うのよ、などという与太話をはさみ(ごめんなさい。でもこういうの、ほんとに与太話にしか聞こえない)、すべての感覚様相を通じてaesthetic experienceを支配する4つの原理、というのを挙げる。いわく、「最小の手段で最大の効果を挙げている」「多様性の中に統一性が見いだされる」「受容可能な中でもっとも進んだものが採用されている」「異なる感覚様相の間で最適なマッチングがなされている」とかなんとか。

 今回もまた、途中から飛ばし読みになってしまった。残念ではあるが、こういう種類の文章を読んでいると、なんと申しますかその... 心情的に耐えがたいのである。「飛行機に乗っていて、離陸後に窓の外を見たら雲の上だった」というのなら大丈夫だけど、「新幹線に乗っていて、ふと窓の外をみたら雲の上だった」ら、それはものすごく怖いだろう。そういう恐怖を感じるのであります。いま読んでいるのが実証的議論なのか、そうでないのかがわからなくて。

論文:心理 - 読了: Hekkert (2006) デザインにおける美的経験とはなにか

Levav, J., & Fitzsimons, G.J. (2006) When questions change behavior: The role of ease of representation. Psycholocigal Science. 17(3), 207-213.
 いわゆる質問-行動リンクについての実験研究。仕事の都合で読んだ。
 ある行動の意図を聴取したせいで、その後でその行動が生じやすくなることがある。たとえば自動車の購入意向を聴取すると、被験者はそのせいで自動車を購入しやすくなっちゃう、とか。これを単純測定効果(mere-measurement effect)という。指摘自体は前からあるが(Sherman, 1980, JPSPというのが早い)、この名前を付けたのはMorwitz, et al.(1993, J. Consumer Res.)である由。
 単純測定効果はプライミングで説明されることがあるのだけど、それにしては効き目が長すぎる。Shermanは、意図聴取のせいで被験者が「行動前認知作業」を行ってしまうせいだと説明したが、その作業がなにかは特定していない。
 で、著者らの説明は以下の通り。それは(Kahneman&Tverskyいうところの)シミュレーション・ヒューリスティクスの使用である。つまり、行動の意向を聴取すると、被験者はその行動を心的に表象する。そのせいで被験者はその行動を実際に行いやすくなる。さらに、被験者はその行動の表象しやすさを、被験者はその行動の起こりやすさ(likelihood)として解釈する。つまり、行動を表象しやすいとき、行動は起こりやすいと感じられ、かつ単純測定効果は高くなるであろう。

 というわけで、実験1。ターゲットとする行動は歯のフロッシング。学生を3条件に割り当てる。

  1. 自己意図条件。むこう2週間のあいだに歯のフロッシングをする見込みを聴取。
  2. 他者意図条件。むこう2週間のあいだにクラスメートの誰かがフロッシングをする見込みを聴取。
  3. 統制条件。むこう2週間のあいだに趣味として読書する見込みを聴取。

2週間後、歯のフロッシングを何回やったかどうかを聴取。被験者間1要因3水準のデザインだ。
 結果: フロッシングをした回数は自己意図条件で多かった。単純測定効果は、(心的に表象しにくい)他者の行動の見込みの聴取では生じない。

 実験2。ターゲットとする行動は高カロリー食品の摂食。学生を4条件に割り当てる。

  1. 意図条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「食べる」見込みを聴取。
  2. 否定条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「食べない」見込みを聴取。
  3. 回避条件。むこう1週間のあいだに高カロリー食品を「避ける」見込みを聴取。
  4. 統制条件。むこう1週間のあいだにオレンジジュースを飲む見込みを聴取。

回答直後に実験室に連れて行き、「味覚テスト」を行う。低カロリーな餅菓子とチョコチップ・クッキーがあって、どちらを食べても良い。はっはっは。被験者が試料を自由に選べる味覚テストなんてありえないわけで、学生さんはこれが陰謀だと気が付くべきですね。
 結果:チョコチップクッキー選択率は、順に65%, 68%, 38%, 92%。つまり、「避ける」見込みの聴取は行動を抑制するが、「食べない」見込みの聴取は行動を促進する。「食べる」であろうが「食べない」であろうが心的にはいったん「食べる」を表象するからだ、とのこと(ここでJohnson-Lairdを引用。ああ古き良き認知心理学)。別の実験で反応時間を取ってサポートしてるけど、省略。

 実験1と2では、条件間で行動の表象しやすさがちがうだけでなく、表象の中身も変わってしまっている。表象しやすさだけを操作してみよう、というわけで実験3。
 著者らいわく、定期的な行動について、それが定期的な頻度で生じる見込みを評価するのは、それが非定期的な頻度で生じる見込みの評価よりも楽だろう。たとえば、「ふつう一日一回行う行動」が「週に7回生じるかどうか」を評価するのはたやすいが、「週に8回生じるかどうか」を評価するためには、それを一日二回以上行う日があるかしらん、と考える必要がある。いっぽう非定期的な行動についてはこのような差は生じないだろう。というわけで、今度は二要因。

どちらも被験者間で操作する。一週間後に歯のフロッシングと読書の両方について実際の回数を聴取。従属変数が2つあって、たとえばフロッシング回数の分析では読書についての聴取が統制条件になるわけだ。
 結果: 読書のほうは、聴取する行動の主効果が有意。単純測定効果は聴取フレームと関係なく出現する。しかしフロッシング回数では交互作用が有意。単純測定効果は、フロッシング回数を定期的フレームで聴取したときのみ出現する。これは単なる態度のアクセス容易性だけでは説明できない。

 というわけで、行動の見込みについて聴取したとき、心的シミュレーションがしやすいと行動が生じやすくなる、という論文なのだが、その途中のメカニズムについてはわからない。著者らが挙げている説明案は、Gollwitzerいうところの実行意図 (implementation intentsions) が形成されやすくなるから説と、アクセス容易性が高くなるから説。

 本題とは関係ないが、ちょっと気になっていることがあって...
 行動の意図 (intent) と行動の見込み (likelihood) は、少なくとも聴取法の文脈では区別したほうが良いものだと思う。実際、消費者調査による購買予測の文脈では、今後の購買の主観的見込み(買いそうな程度)を11件法で聴取する方法(Juster scale)の妥当性が高いといわれているが、これをいわゆる購入意向評定(買いたい程度)にするとうまくいかない、という話をどこかで耳にしたような気がする。
 しかしこの論文では、本文中では「行動のintentを聴取する」といっているのに、実験手続き上ではlikelihoodを聴取している。これ、ごっちゃにしていいものなのだろうか。確かに他のところでも、行動のintentをsubjective likelihoodとして定義しているのを見かけたことがあるので(Fishbein&Ajzenだったかしらん)、あまり気にしなくていいのかもしれないけど。。。

論文:調査方法論 - 読了: Levav & Fitzsimons, G.J. (2006) 食べる見込みを尋ねても食べない見込みを尋ねても調査参加者はチョコチップクッキーを食べるようになる

2013年8月18日 (日)

半泣きでひたすら机に向かっている週末だが、飯の合間に目を通した論文。いや、仕事はしてます、ほんとです。

Kross E., Verduyn P., Demiralp E., Park J., Lee D.S., et al. (2013) Facebook Use Predicts Declines in Subjective Well-Being in Young Adults. PLoS ONE 8(8).

 Facebookの使用と主観的幸福度との関係を時系列で調べたという研究。著者らはミシガン大の心理学者。日本のメディアで短く報道されているのをどこかでみかけて(それこそFacebookだったかも)、ひょっとしてこれ、経験サンプリングやってんじゃない? と思って原典を探してみたら、まさにビンゴ!であった。我ながら勘がいいぞ。ちょうど仕事の関係で、経験サンプリングを使った研究にいくつか目を通してみたいと思っていたところだったのである。

 対象者はFacebookユーザでスマフォを持っている人たち。まず事前調査票であれこれ聴取。で、14日間、タイミングを揺らしながら一日五回、スマフォにテキストメッセージを送ってリマインドし、即座に調査票に回答させる。項目は5つ:

順序は最初が(1)、次に(2)(3)をランダム順で、最後に(4)(5)をランダム順で。回答は100点満点のスライダー。最後に、事後調査票でいろいろ聴取。ふむふむ。
 対象者はチラシで募集、平均20歳。インセンティブは$20、さらに抽選でiPad2をプレゼント。82人でスタートして3人脱落、完遂者のリマインダに対する反応率は全体で83%、うち反応率33%以下の対象者を2人除外して分析、だそうだ。経験サンプリングの実証論文を読むのははじめてなので、この反応率がどの程度の水準なのかわからないが、なかなかたいした実査チームだという気がする。

 お待ちかねの分析方法。基本的に、ある対象者の時点t_2における情緒的幸福(項目1)を、時点t_1からt_2のあいだのFB使用(項目5)で予測する階層回帰モデルである(betweenレベルでは人を単位に、withinレベルでは人x時点を単位にモデリングする)。withinモデルはランダム切片・ランダム係数。時点t_1における情緒的幸福を投入してコントロールするが、日をまたぐ投入は避ける。情緒的幸福は寝るとリセットされるという発想であろう。
 こんなモデルを組んじゃうと、無回答の時点があるぶん話がややこしくなるだろう、いったいどうするつもりだ、と勝手にハラハラしていたのだが、そこはあっさりしたもので、無視して詰めて分析してしまっている。そっか、まあ別にいいのか。

 結果は... 時点t_2における情緒的幸福は、時点t_1からt_2のあいだにfacebookを使用しているときに低くなる。逆のモデル(「情緒的幸福がfacebook使用に影響する」)だと有意にはならない。facebook使用を直接的対人接触(項目5)に差し替えると、逆向きに有意になる(他人と直接に会うと情緒的幸福が向上する)。いやあ、狙った結果が出てよかったですね。

 そのほか、まあツケタリではあろうが、いろいろ分析している。

 というわけで、楽しい論文であった。facebook使用の心理的効果を調べようとする際に、従属変数をムードや自尊心といった純粋に心理学的な指標にしないで(普通そうするわね)、「情緒的幸福」というなにやら社会厚生的な感じの変数として位置づけているところが面白い。ちょっと大向こうを狙いすぎというか、評価が分かれるところかもしれないけど、私は好きです、こういうの。
 これ、きっとfacebookの普段利用頻度や情緒的関与がモデレータになるだろうと思ったのだが、事前・事後の調査票でfacebook利用の理由とか友達の数とかを聞いているのに本文中に報告がないから、きっと効いていなかったのだろう。

 正直言って、facebook使用がユーザの幸福度と関係しようがしまいが、そんなことはどうでも良いことだと思うのである。案外、facebookの表示アルゴリズムがちょっと変わっただけで、結果は変わってしまうのかもしれない。それに、もしfacebook自体の研究に価値があるというのなら、じゃあ次はtwitterでやりますか、instagramでやりますか、mixiはどうよ、という話になりかねない。不毛だ。
 そんなことより、SNSの使用が幸福度の低下につながることがあるとして、それはいったいどういうメカニズムによるのか、という問いのほうがはるかに大事だ。著者らも触れているように、社会的比較と関係があるのだろう。きっとこれからそういう研究が量産されるんだろうな。モデルなんかできちゃったりして。教科書に載っちゃったりして。あー、やだやだ。してみると、やはり草創期のほうが面白いですね。

論文:心理 - 読了:Kross et al. (2013) Facebookにアクセスした後は幸福感が低くなる

2013年8月12日 (月)

Bookcover 冬のフロスト<上> (創元推理文庫) [a]
R・D・ウィングフィールド / 東京創元社 / 2013-06-28
Bookcover 冬のフロスト<下> (創元推理文庫) [a]
R・D・ウィングフィールド / 東京創元社 / 2013-06-28
久々に海外ミステリに手を出してしまった。フロスト警部シリーズに外れなし。
 未訳の長編があと一作だけ残っている。著者は数年前に亡くなってしまっているから、下品ではた迷惑なヒーロー・フロスト警部に会えるのはあと一回だけだ。寂しいなあ。

フィクション - 読了:「冬のフロスト」

Bookcover プロタゴラス―ソフィストたち (岩波文庫) [a]
プラトン / 岩波書店 / 1988-08-25
ここしばらくカバンに入っていた本。他の対話篇と比べて、丁々発止の緊張感があり、ちょっと戯曲に近い。個別の論点について、ソクラテス先生がどこまで本気なのかわからないところがあって、その点もなんだか怖い。

哲学・思想(2011-) - 読了:「プロタゴラス」

Bookcover NA選書 手すり大全 (日経BPムック NA選書) [a]
/ 日経BP社 / 2008-10-30
文字通り、ひたすら「手すり」(あの、階段とか便器の脇の壁とかについている奴) について述べる本。日経アーキテクチャーの特集号を元にしたものだから、基本的には専門家向けなのだけれど、手すりに対する無闇にハイテンションな愛がつまっているところ、面白くて仕方がない。何でこんな本を読んでんだかわからないが、ついつい読み終えてしまった。
 「大学セミナーハウス」などで知られる建築家の吉阪隆正は、手すりを大変重視し活用した人なのだそうだ(そうそう、お茶の水のアテネ・フランセの階段にはものすごく重厚で印象的な手すりがある)。で、この先生、階段の手すりを支える縦の桟(「手すり子」)の本数を少なく、間隔を空けて設計することが多かった。隙間から足を踏み外したりして危なそうだが、その背景には、建築は身体感覚を呼び覚ますべきだ、危ない場所は危なそうにみえるべきだ、というような信念があったのではないか、とのこと。
 この信念に従い、自宅の外階段には手すりそのものをつけなかったが、「ちょっとヒヤッとするくらいのほうがかえって落ちないものだ」という見込みは正しく、そこから落ちたのは吉阪隆正本人だけだったそうである。

Bookcover 商店街再生の罠:売りたいモノから、顧客がしたいコトへ (ちくま新書) [a]
久繁 哲之介 / 筑摩書房 / 2013-08-07
著者は「地域再生プランナー」という肩書きの方。全く知識のない方面の話で、興味深く読み終えたが、別の角度からの本も読まないといけないかもしれない。千葉県の民間図書館の話が面白かった。

Bookcover 民族紛争 (岩波新書) [a]
月村 太郎 / 岩波書店 / 2013-06-21

Bookcover ヤバい社会学 [a]
スディール・ヴェンカテッシュ / 東洋経済新報社 / 2009-01-16
数年前に大変な評判となった本。邦題はちょっと下品だが、これは別のベストセラーの邦題を踏まえたもので、原題は"Gang Leader for a Day." 社会学専攻のの院生がシカゴの団地に潜り込み、インフォーマントのギャングと奇妙な友情を結ぶ。参与観察のモノグラフというより、一種の青春小説として読めるところが、ベストセラーとなった理由だろう。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「手すり大全」「ヤバい社会学」「民族紛争」「商店街再生の罠」

人生うまくいかないことばかりなので、せめて机周りを整理するために、読んだ本を記録しておく。

Bookcover 海月と私(1) (アフタヌーンKC) [a]
麻生 みこと / 講談社 / 2013-08-07
人里離れた民宿に、謎めいた美人の有能な仲居さんがやってきて... という、臆面もないファンタジー。

Bookcover Sunny 2 (IKKI COMIX) [a]
松本 大洋 / 小学館 / 2012-02-29
Bookcover Sunny 3 (IKKI COMIX) [a]
松本 大洋 / 小学館 / 2013-01-30
完成度が高すぎて気が抜けないので、途中で放り出していた本。ようやく読了。

Bookcover サルヴァトール (ShoPro Books) [a]
ニコラ・ド・クレシー / 小学館集英社プロダクション / 2012-06-15
これはずいぶん前に読んで、記録するのを忘れていた。ナンセンスなおかしさに溢れたバンド・デシネ。

コミックス(2011-) - 読了:「海月と私」「銀のニーナ」「Sunny」「サルヴァトール」

2013年8月 6日 (火)

Bookcover 北朝鮮秘録 軍・経済・世襲権力の内幕 (文春新書 932) [a]
牧野 愛博 / 文藝春秋 / 2013-07-19
記録するのを忘れてたけど、先週読んだ本。著者は朝日の記者。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「北朝鮮秘録」

Gustafsson, A., Johnson, M.D., Roos, I. (2005) The effects of customer satisfaction, relationship commitment dimentsions, and triggers on customer retention. Journal of Marketing, 69, 210-218.
 顧客満足(CS)が大事だってよく言いますけど、じゃCSが高かったら顧客はほんとに離脱しないの? というのを(企業レベルじゃなくて)顧客レベルで調べました、という有名な論文。数年前にCS関連の論文を山積みにして狂ったようにめくりまくったことがあって、そのときに目を通したはずだが、このたびちょっと都合があって再読。 

 顧客維持の規定因として、著者らは次の3つに注目する。

 スウェーデンのある通信サービス会社の、固定電話・携帯電話・ネットサービスにおける顧客の維持/離脱に注目する。謝辞から勘繰るにTeliaという会社らしい。調べてみたところ、現時点でのこの会社のシェアは固定電話61%, 携帯電話40%, ブロードバンド38%で、いずれも1位。この研究は2003~2004年にデータをとっているが、このころのシェアはどうだったんだろう。
 まず、この会社からの離脱経験者にインタビューしてトリガーを収集する。状況的トリガーとしては「電話を掛ける必要が減少した」「長距離電話を掛ける必要が増大した」「ネットに契約する必要が生じた」、反応的トリガーとしては「サービスが利用できなくなった」「サポートがひどかった」などがあった由。
 次に、この会社が定期的にやっている月次顧客調査に乗り込んでいって、以下の項目を突っ込む: CS関連を3項目、情緒的コミットメントを4項目、計算的コミットメントを3項目、状況的トリガーの有無、反応的トリガーの有無。全部10件法。CS関連項目はFornellらのスウェーデンのでの研究から引用(SCSBっていったっけ? 1992, J. Mktg.)。コミットメント項目も先行研究から集めてきている。トリガーの有無は、ありそうなトリガーをずらずら並べて「こういうようなことありました?」とSAで10件法評定させるというちょっと無理矢理な聴き方で、笑ってしまった。
 回答から信頼性と弁別的妥当性を調べているけど、省略。さすがに、Fornellが推しているAVEを駆使しておられる。世間ではCronbachのアルファを定型的に報告する人が多いが、この方面の通の皆さんの間ではアルファは意外に評判が悪いのだ。

 さて、ここからが本題。調査対象者2,734名を追跡して、調査回答月以降9ヶ月間のあいだの契約維持期間 Churn_{t+1} を調べる。で、これを従属変数としたモデルをつくる。独立変数は、まず調査時点のCS, 情緒的コミットメント(AC), 計算的コミットメント(CC), 状況的トリガー(CT), 反応的トリガー(RT)。CS, AC, CCは因子得点である。そして、調査回答月より前の4ヶ月間において契約していなかった月数(Churn_{t-1})、サービスの種類を示すダミー変数。
 モデルはOLS回帰。以下の4本を推定する。記号を省略して右辺の項だけ並べると、

モデル1と2はわかりやすい。モデル1では、CSと調査前非契約月数が有意。モデル2では、CS, 計算的コミットメント、調査前契約月数が有意。情緒的コミットメントが有意にならないのは、やっぱりCSと相関が高いからだ、という理屈を捏ねて、以降のモデルからはACを抜く。
 モデル3では、CSと調査前非契約月数との交互作用を推定、有意。つまり、直近チャーン歴がある顧客はCSの効き目が小さい。
 モデル4ではトリガーを放り込んだが、主効果も交互作用も有意にならなかった。

 というわけで... やはり満足しているお客さんは離脱しにくいようです。CRMマネージャのみなさん、CSと競合環境(計算的コミットメント)をきちんと監視しましょうね。また、(チャーン歴の有無といった)消費者の異質性に気をつけましょうね。云々。

 読み直してみて、やはり納得できないところがあって...
 まず、Churn_{t+1} の平均が3.52ヶ月だというのは一体どういうことか。スウェーデン人ってどんだけ移り気なんだろうか? ひょっとして、9ヵ月間離脱しなかった顧客を抜いて集計しているのかしらん。それとも、この会社はものすごい顧客流出に直面していたのかしらん。
 第二に、会社側はおそらく各対象者の契約時点を知っているだろうから、調査参加月から離脱までの月数を従属変数にしたOLS回帰モデルじゃなくて、契約から離脱までの時間を従属変数にした生存モデルをつくったほうがよかったんじゃないのか。モデル1で調査前非契約月数が有意ということは、離脱発生率が契約からの経過時間の関数になっていることでもある。それに、いくらなんでも9ヶ月間離脱しない顧客くらいはいただろうし、そういう右側打ち切りのケースが多いほど、持続時間に対するOLS回帰は不適切になるはずだ。このへん、私がなにか読み落としているか、勘違いしているのかもしれないけど...。
 第三に、調査前非契約月数とCSとの交互作用は、たぶん著者らのいうように「チャーンの傾向性における消費者間異質性を捉えている」のだろうけれど、論理的には、契約してまだ日が浅い人にとってはCSの確信度が低く、行動に影響しようがないということを意味している可能性もあるわけで、もうひとつなにか別の分析が必要であるような気がする。
 第四に、トリガー(すなわち、広義の顧客経験)が有意でないのは、著者らがいうように「トリガーの効果をみるには9ヶ月は短すぎた」からじゃなくて、モデル4にCSが入ったままだからではないか。サポートで不愉快な目にあったり、毎月金払ってんのにあんまり使わなくなったりしたら、そりゃCSは下がるでしょう。トリガーの効果はモデル上はCSの効果として推定されるはずだ。
 第五に、なんでSEMにしないかなあ? トリガー→ CSのパスを組み込めるし、せっかく多重指標になっているんだし...

 と、いろいろ疑問はあるのだが、やはり勉強になる論文である。それに、課題が明確かつ手法がローテクで、読んでいて気分が良い。こういう研究自体当時はフロンティアだったんだろうなあ、などと考えると、なかなか楽しい。
 こういう研究があるいっぽうで、「CSが高い顧客が平気でブランド・スイッチする」という報告もいっぱいあるわけで、消費者の態度-行動リンク(顧客満足-顧客維持のリンク)の経験的な強さそれ自体については、残念ながら、財の性質や市場環境によって決まるとしか言いようがないだろう。

論文:マーケティング - 読了:Gustafsson, Johnson, Roos (2005) 満足しているお客さんは去っていかないか

2013年8月 5日 (月)

Bookcover ミリオンジョー(1) (モーニング KC) [a]
市丸 いろは / 講談社 / 2013-07-23

Bookcover あさひなぐ 9 (ビッグコミックス) [a]
こざき 亜衣 / 小学館 / 2013-07-30

Bookcover 深夜食堂 11 (ビッグコミックススペシャル) [a]
小学館 / 小学館 / 2013-07-30

Bookcover 富士山さんは思春期(1) (アクションコミックス) [a]
オジロ マコト / 双葉社 / 2013-05-28

Bookcover 団地ともお 22 (ビッグコミックス) [a]
小田 扉 / 小学館 / 2013-07-30

Bookcover 月影ベイベ 1 (フラワーコミックスアルファ) [a]
小玉 ユキ / 小学館 / 2013-06-10

コミックス(2011-) - 読了:「ミリオンジョー」「あさひなぐ」「深夜食堂」「団地ともお」「富士山さんは思春期」「月影ベイベ」

Bookcover 鉄楽レトラ 4 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル) [a]
佐原 ミズ / 小学館 / 2013-07-12

Bookcover 繕い裁つ人(4) (KCデラックス Kiss) [a]
池辺 葵 / 講談社 / 2013-07-12

Bookcover よるくも 4 (IKKI COMIX) [a]
漆原 ミチ / 小学館 / 2013-07-30

Bookcover 犬神姫にくちづけ 3巻 (ビームコミックス) [a]
宮田紘次 / エンターブレイン / 2013-07-13

Bookcover シュトヘル 8 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
伊藤 悠 / 小学館 / 2013-07-30

コミックス(2011-) - 読了:「鉄楽レトラ」「繕い裁つ人」「よるくも」「犬神様にくちづけ」「シュトヘル」

Bookcover 生活保護リアル [a]
みわよしこ / 日本評論社 / 2013-07-03

Bookcover SWEET HOME CHICAGO(1) (ワイドKC) [a]
ヤマザキ マリ / 講談社 / 2012-08-10

Bookcover 美しい昔 近藤紘一が愛したサイゴン、バンコク、そしてパリ (小学館文庫) [a]
野地 秩嘉 / 小学館 / 2013-08-02
早世したジャーナリスト、近藤紘一さんの生涯をたどる紀行エッセイ。JALの機内誌に連載していたのだそうだ。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「生活保護リアル」「スイート・ホーム・シカゴ」「美しい音」

Bookcover 出口なお――女性教祖と救済思想 (岩波現代文庫) [a]
安丸 良夫 / 岩波書店 / 2013-07-18
大本教の開祖・出口なおが神憑りとなって記した膨大な預言書「お筆先」を、教団の聖典としてではなく、幕末から明治を極貧のなかに生きたひとりの女性の精神の記録として読み解く本。「お筆先」には前からちょっと関心を惹かれていて、こういう本を探していたのである。現存する宗教団体の教祖様の話でもあるので、クールな議論を探すのはなかなか難しい。
 無闇に面白くて、他の本を全部放り出して一気に読み終えた。途中でエリクソンのアイデンティティ論がちょっと都合良く持ち出されるところがあって、なにかこなれない感じがするのだけれど、そのあたりは、この本が書かれた時代を考慮すべきなのかもしれない(原著は1977年刊)。

 「お筆先」が提示する終末思想は、世界の根源的な「立て替え」のあとの理想世界をたとえば次のように語る。「今度天地の岩戸が開けたら、草木も人民も山も海も光り輝いて誠にそこら中がキラキラ致して、楽もしい世の穏やかな世になるぞよ」「月も日もモツト光が強くなりて、水晶のやうに物が透き通りて見え出すから、悪の身魂の潜れる場所が無きようになるぞよ」

こうしたイメージャリィは、思想史的には、日本の民衆が歴史のなかで育ててきた理想世界像のもっともあざやかな結晶化だといってよい。民衆は、ごく一般的には、自分の願望や夢を言葉にならないうちに抑圧して、支配階級からあたえられる世界像をあいまいに受容して生きるのだが、困苦の生活と変革的状況がふかまるとき、民衆の自意識は支配的思想からみずからを剥離し、独自の理想世界についてのイメージャリィを育てるものである。日本の民衆意識の伝統において、こうしたイメージャリィは、基本的には、家族を単位とした勤勉で篤実な労働(とりわけ農耕)とその成果のゆたかな享受ということであり、天地自然はそした民衆の努力と享受を保証している本源的な神性だということであったと思われる。[...]こうした世界像は、おそらく小生産者大衆の千年王国的ユートピアと呼びうるものである。[...] もちろん、こうしたユートピアは、封建制から資本制へと展開していく歴史の大法則の大きなうねりのなかに生まれた、中小の渦としての幻想であり夢であって、民衆は [...] 歴史の大法則のなかに巻き込まれ、その内在的論理にしたがって生きるように強制される。しかし、それにもかかわらず、こうしたユートピアの成立は、日本の民衆が、幕藩制国家とも天皇制国家とも異なった、より根源的な解放をめざして自らの諸価値・諸理念を自立化させてきたことをものがたるものにほかならないといえよう。
くりかえしのべたように、[出口]なおのような生の様式は、もしそれをとりかこむ条件がある程度まで順調ならば、そうした生の様式を営む人々にささやかに安定した「家」を作らせて既成の社会体制を下から支えるような役割をあたえ、その人間の内面性を既成の体制と価値のなかへ統合するはずのものであった。だが、こうした統合が失敗に終わったとき、なおがひたむきにつらぬいてきた生の様式には、なにか根本的な意味転換とあたらしい輝きが生まれ、そこに拠点を据えてすえて、近代化していく日本社会の全体性が「ざまいて」[=だまして] 開いた偽りの体系として糾弾されることになったのだった。[...] なおの告発は、激越な宗教的終末観の形態をとらざるをえなかったから、手段的な領域では非合理的であいまいだったといえる。しかし、こうした終末観的形態は、なおが既成的な文明のかたちから自らを分離し、その分離を根源的で徹底したものにするためには不可欠なものであり、なおの思想の透徹性の証左となるものであろう。
生活事実としての苦難が存在することと、そこから個性的な意味をくみあげることとは、まったくべつのことがらである。後者の道には、苦難を生きぬきそれを逆手にとる、強靱にきたえぬかれた自己がなければならない。なおは [...] みずからのはげしい苦難からかぎりないほどゆたかな意味をくみとり、私たちの世界のもっとも根源的な不正と残虐性とにたちむかったのであった。こうしてなおは、みずからの生の貧しさを、かえって、根源的なゆたかさに作り替えたのである。
 その意味で、なおは、もっともよく戦った人生の戦士だった。

日本近現代史 - 読了:「出口なお 女性教祖と救済思想」

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