読了: Willemsen & Johnson (2010) 意思決定における情報獲得過程の追跡

Willemsen, M.C., Johnson, E.J. (2010) Visitin the Decision Factory: Observing Cognition with MouselabWEB and other information acquisition methods. In Schulte-Mecklenbeck, M., Kuhberger, A. & Ranyard, R. (Eds.) “Handbook of Process Tracing Methods for Decision Making“.

意思決定の心的過程を追跡する方法のひとつ、情報ボード法についての解説。draftで読んじゃったけど、失敗したなあ。本を買えばよかった。第二版が出ているようだし。

1. イントロダクション
 認知モデルの仕事は、結果を予測し、かつ認知構造についての我々の知識に整合するような表象・過程を開発することである。あるアウトプットが表象・過程の異なる組み合わせの結果でありうるということも全然珍しくない。イメージ論争とかね。そういう場面での進歩というのは、新しい制約を導入することによってもたらされることが多い。制約は処理なり表象なりについての新しいデータとしてやってくる。本章では、情報獲得の監視手法によってそういう新データが得られることを示す。

1.1 意思決定のas-ifモデル
 これまでの意思決定研究の進歩は、観察された選択について説明してくれるモデルの使用を通じてなされてきた。つまり、認知構造と過程についてはあまり考えていないようなモデルである。それでも、賢い実験デザインのおかげで、記述モデルの発展において偉大な進歩があった。
 しかーし。同じ結果データを全然ちがう処理で説明できちゃうという事例もある。そのひとつがギャンブルの選択である。プロスペクト理論のように期待効用理論に確率を統合するというタイプのモデルもあれば、優先性ヒューリスティクスのようなヒューリスティック・モデルもある(レビューはPayne, Bettman, & Johnson, 1993 書籍をみよ)。
 本章ではこう論じる。意思決定研究は、as-ifモデルないしparamorphicモデルを、過程・表象をもっと豊かに記述するアプローチでによって補完することによって進歩するであろう。経済学をみなさい。Rubinstein(2003 Int.Econ.Rev.)もいっているぞ。経済学と心理学の結合のためには、関数形を修正するだけじゃだめだ、意思決定者というブラックボックスを開けなければ、と。
 本章では過程追跡データについて述べるわけだけど、それには大きくいって2つの利点がある。(1)複数の理論を処理のレベルで比較評価できる。(2)個人の異質性の理解につながる。
 以下では過程追跡法について概観し、ゲームとギャンブルへの適用例を示す。典型例としてMouslabWebを用いるけれど、似たような手法は他にもある[論文ではJasper & Shapiro (2002 Behav.Res.Methods), Reisen, Hoffrage, & Mast (2008 Judgement&DecisionMaking)というのがreferされている。Flashlight, Web Mouselabというのもある模様]。

2. 決定工場の見学
 認知の基盤にある心的過程を研究する方法はたくさんある。そのなかで、情報獲得を観察する方法に焦点を当てよう。Johnson et al.(2002 J.Econ.Theory)は「決定工場」というアナロジーを使っている。工場への入力フローとか処理時間とかアウトプットから工場の生産過程を推測する場面をイメージしてほしい。Camerer & Johnson(2004 in “The Psychology of Economic Decisions”)も似たようなことをいっている。選択課題で顕示選好を調べて思考パターンの手がかりとするのだ。
 過程追跡法にはいろいろある。発話思考法とか、情報ボードから問題解決のための情報を物理的にとってくる様子を観察するとか[以下をreferしている: Payne(1976 OBHP), Jacoby et al.(1985 書籍)]、直接訊くとか、眼球運動追跡とか。[OBHPというのはOBHDPの継続前誌]
 眼球運動の類比物としてマウスによる情報獲得があり、広く用いられている。Payne & Braunstein (1978 Mem&Cog), Johnson & Schkade (1989 MgmtSci), Payne et al.(1993 前掲)、Rieskamp & Hoffrage(2000 書籍), Schkade & Johnson (1989 OBHDP)をみよ。
 情報獲得データの解釈は次の2つの検証可能な仮定に基づく。(1)Occurenece. 用いられた情報は箱を開けるという行動で観察される。(2)Adjacency. 情報獲得は情報しようと時間的に近接している。Costa-Gomes et al.(2001 Econometrica)をみよ。

3. 研究例: バーゲニング・ゲームと優先性ヒューリスティクス
 Johnson et al.(2002 前掲)は系列的バーゲニング・ゲームの基盤にある仮定をMouseLabで調べている。二人のプレイヤーがあるパイについて3ラウンドで交渉するんだけどパイは徐々に小さくなる。プレイヤーが純粋に利己的なら、ゲーム理論的均衡は…[メモ省略]。しかし実際のオファーは均衡解より高いのがふつうである。
 Camerer & & Johnson (2004 前掲)いわく、これを説明する理論が大きく2種類ある。限定的認知、つまり、プレイヤーはゲーム理論的な思考ができてないという説明と、均衡的社会選好、つまり、ゲーム理論的な思考はできるんだけどそこに公正性についての考慮がはいっているという説明である。これはオファーの観察だけでは決着がつかない。
 そこで過程追跡である。被験者はより初期のラウンドに強い注意を向けた。これは限定的認知を支持している。

 Johnson, et al. (2008 Psy.Rev.)は優先性ヒューリスティクスによる予測を検証している。[いまちょっと時間がないので飛ばしたけど、Brandstatter, Gigerenzer, Hertwig(2006)がギャンブルの選択課題で優先性ヒューリスティクスと整合する反応時間データを出してきたのに対して、情報ボード法でもっと詳しく調べたという話らしい]

4. 過程研究のデザイン
4.1 過程の指標と過程追跡研究のデザイン
重要な指標として次の3つがある。獲得時間、それぞれの箱を開ける頻度、箱の間の遷移。

4.2 ディスプレイのデザイン
 読み順の効果は強いから(西洋の被験者は左上から読み始める)、属性の位置はカウンターバランスすること。とはいえ、シャッフルすると不自然になることもある(たとえば確率と結果が混ざるのはおかしい)。
 ディスプレイの向き(属性を行側にするか列側にするか)も大事。これもカウンターバランスをとったほうがよい。
 属性のラベルは簡潔に。被験者が情報を探しているのではなく、必要な情報をみているようにしないと、結果を解釈にしにくくなる。
 セルの情報はある程度複雑なほうが、記憶されずにすむのでよい。

4.3 実験の実行
 ふつうは被験者内デザインになる。以下の手続きがお勧め。(1)インターフェイスの紹介。(2)具体的なディスプレイの紹介。(3)課題の紹介。それぞれで簡単なクイズをやるとよい。
 試行数が多いと疲れたり飽きたりする。試行順序はランダマイズしておいてあとで検討できるようにすること。

4.4 過程データの管理
データが複雑で大変だから覚悟するように。

4.5 データのクリーニング
 まず課題に関与してない被験者を外そう。試行当たり時間、箱当たり時間の平均、獲得数、獲得間の時間間隔をみるとよい。特に獲得間の時間間隔で中断がわかる。オンラインの場合は5~10%くらいは削る覚悟がいる。
 箱をうっかり開いちゃったのも除外すること。200ms以下のを外すとよいだろう。

4.6 過程指標の抽出
 箱の開けるのと閉じるのをひとつのイベントにまとめ、あまりに短いイベントは削り、同じセルの開け閉めが続いているのを併合する。で、箱ごとの開いた頻度と時間を集計する。箱の間の遷移を集計するのもよい。
前半と後半で分けるのもよい。

4.7 過程データの表現
 初期の研究では、獲得と遷移を累計することで大域的指標をつくった。PayneらのPATTERNとか。レビューとしてFord et al.(1989 OBHDB)をみよ。以下では我々の研究で使った例を紹介しよう。

4.8 より精緻な予測
 Icon Graphというのを考えた。個々の箱を箱型のアイコンであらわす。箱の高さは獲得数、幅はみている時間に比例させる。つまり箱の大きさが注意の指標になるわけだ。[…ギャンブルの研究での例を示している…]

4.9 時間ダイナミクスや決定フェイズを調べる
 ダイナミクスをみるのに一番簡単なのは、前半と後半とか、3つとか4つとかにわけることだ。すべての結果が一度は調べられるまでを読みフェイズ、そのあとを選択フェイズとする方法もある。[…図示の例…]

4.10 マルチレベルモデルによる過程データのモデリング
 マルチレベルモデルを組むという手もある。[かなり長い紹介がある。メモは省略するけど、各箱を開いた頻度なり時間なりを従属変数にして、個人別のランダム切片をいれるという話]

 最後に、選択結果の予測について、Johnson et al.(2008 前掲)は多項ロジット選択モデルの説明変数として結果-確率間の遷移をいれている。

5. 過程追跡ツールとしてのMouseLabWEBの評価
 共感的な読者の方であっても、過程追跡データにはなにか問題があるのではとお疑いであろう。2点について論じたい。

  • 過程追跡手続きが仮定を変えてしまうのではないか。→ 手続きなしの場合と比較した研究がたくさんある。視線追跡と比べた研究もある。たしかに違いがある。でも多くの場合、欠点を利点が上回る。
  • 過程追跡データはほんとうに決定過程について語っているのか? →我々の研究だと、ゲーム理論的原則に従うように訓練した被験者では過程データもそうなった。

6. 今後の方向
 Decision Field Theoryのような系列サンプリングモデルを別にすれば、多くの認知モデルは過程についての明示的な予測をしていない。でも選択だけじゃなくて過程について明示的に予測することによって研究が進むのよ。
 今後の研究の方向として、EEG, fMRI, PETと過程追跡の統合がある。また、情報獲得と認知をつなくより厳密なモデルの構築がある。
 云々。
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うーん、やはり情報探索プロセスの時間的ダイナミクスについては、直接にモデル化するというより、単に前半/後半とかに区切って記述するという感じなのか。ま、それならそれで納得ではあるのだが。