読了: Schwarzkopf (2016) 市場調査の歴史:1890-1960

Schwarzkopf, S. (2016). In Search of the Consumer: The History of Market Research from 1890 to 1960. In B. Jones, & M. Tadajewski (Eds.), “The Routledge Companion to Marketing History“.

 仕事の都合で読んだ奴。
 市場調査の歴史についての解説。入手方法を模索していたのだが、google booksでたまたま全部読めることに気が付いた。
 いま調べていることと関係があるのでありがたいし、それを離れても面白いっちゃ面白い。しかし、途中で(俺はいったいなにを読んでいるんだ…)という気もしてきた。気持ちが萎えそうになったので、メモが少々細かめになっています。
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覚え書き: Pearl先生、「強い無視可能性」概念を全力でディスるの巻

 いま流行りの因果推論の分野における一方の巨匠Pearl先生は、同時にかなり攻撃的な物言いでも知られている方である。もしかすると同業の先生方は困っちゃっているのかもしれないし、パレスチナ問題に関するツィートは私もちょっと引いちゃいましたが(私はもうXにアクセスしてないので最近の動向はわからない)、専門家がご専門の話題について旗幟を鮮明にし論点を明示してくださるのは、初学者としては助かる面もありますね。それに、ほら、人の悪口ってちょっと楽しかったりしませんか。しますよね。

 Pearl先生の主著”Causality”は第1版が邦訳されているが、難解さで知られており、私は何度もトライしては挫折している。いっぽう、第2版(2009)には第1版から追加された章があり、その一部はwebで公開されており、それらはなかなか楽しい内容が多い。11.5.3節の架空対話は以前ほとんど全訳してしまった。
 このたび調べ物をしていて、因果推論の重要概念として人口に膾炙している「強い無視可能性」概念を批判しその提唱者らをディスっている文章を見つけてしまい、お茶を啜りつつフガフガと楽しく読んだ(すいません)。勢いあまってメモを取ったので載せておく。
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読了: Muthen & Asparouhov (2020) ランダム切片つきの潜在遷移分析

Muthen, B., Asparouhov, T. (2020) Latent Transition Analysis with Random Intercepts (RI-LTA). Psychological Methods, 27(1), 1-16.

 仕事の都合で手に取った。Mplusの開発元であるMuthenチームが提案しているランダム切片潜在遷移分析(RI-LTA)の論文。
 説明が丁寧でとても読みやすいし、内容も面白いのだが、ちょっといま時間がないもので、おおまかな主旨がわかったところで中断した。記録の都合で読了にしておくけれど、いつか必要になったら読み直そう、ということで…
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覚え書き: 咲き誇れ、乱れ飛べ、動的SEMのよくわからないモデルたちよ

 これは完全に、私による私のための覚書です。いや、全部そうなんですけどね。

 仕事の都合もあって、性懲りもなく時系列のマルコフ・スイッチング・モデルについて調べているのだけれど、いろいろと困惑している。手元の具体的問題というのは常になにかしら特殊性を帯びているもので、教科書的な事例がそのまま適応できることはめったにない。
 このたびは、ものすごおおおくたくさんの時系列がある、カレンダー時間は共通、レジームも共通、でもスイッチングのタイミングは時系列ごとに推定したい、という問題を抱えている。こういうのってなんていえばいいんですかね? そんなに変わった問題ではないと思うんだけど、計量経済学の先生は頼りにならなさそうだ。

 この手の話について検索すると途端に上位に出現するのが、かのMplusの開発元、Muthen一家による動的SEM(DSEM)の論文である。パネルの縦断測定をSEMの枠組みで分析しちゃおう、計量経済学者たちよ、おまえらがやってんのは所詮は我々の分析の特殊ケース(N=1のケース)に過ぎない、そこにひざまずいて心理学者に謝れ、とおっしゃる危ない奴らである(いってません)。
 正直、勘弁してほしい。いや、Muthen先生たちに罪はないのよ。彼らの論文はわかりやすいことが多いし、Mplusは我々いたいけなユーザを泥沼に沈めるいっぽうでとんでもない問題を一発で解決してくれることもある。でも… あの先生たちの論文って往々にして、聞きなれないモデル名称が頻出するじゃないですか。さらにいえば、そもそも論文など読みたかないじゃないですか。疲れているんです、生きているだけで。

 というわけで、以下からメモ。

Asparouhov, T., Muthen, B., Hamaker, E. (2016) Latent class analysis for intensive longitudinal data, Hidden Markov processses, Regime Switching models and Dynamic Structural Equations in Mplus.
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読了: Kuschning & Vashold (2021) BVARパッケージで君も楽しくVARモデルを経験ベイズ推定しようぜ

Kuschning, N., Vashold, L. (2021) BVAR: Bayesian Vector Autoregressions with Hierarchical Prior Selection in R. Journal of Statistical Software, 100(14).

 RパッケージBVARの解説。これ、いまやりたいこととはちょっと違うんだろうなとうすうす感じてはいたのだが、どんな話か気になって。
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読了: Osmundsen, Kleppe, Ogland (2019) マルコフ・スイッチングVARモデルをStanやJagsや自力で実装する方法

Osmundsen, K.K., Kleppe, T.S., Ogland A. (2019) MCMC for Markov-switching models—Gibbs sampling vs. marginalized likelihood. Communications in Statistics – Simulation and Computation.

 仕事の都合で、マルコフ・スイッチングVARモデルについてあれこれ考えているのだけれど、組みたいモデルを推定できるソフトがなかなか見当たらない。RではかつてMSBVARというパッケージがあったのだけれど、開発が止まったようで、CRANからもremoveされている。
 これは自力で書けっていうこと? 到底そんな学力はない。Stanでどうにかする? でも離散潜在変数ってめっちゃ難しいんじゃなかったっけ… と思い悩みながらwebの海をさまよっていたら、Stanでの実装を示している人がいた。いわく、詳細はこの論文を読め。はい、読みます。
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読了: Bucci, Palomba, Rossi (2022) ベクトルロジスティック平滑遷移自己回帰モデル(VLSTAR)への招待

Bucci, A., Palomba, G., Rossi, E. (2022) starvars: An R Package for Analysing Nonlinearities in Multivariate Time Series. R Journal, 14, 208-226.

仕事の都合でマルコフ・スイッチング・モデルについて調べていて、試しに読んでみたやつ。Rのstarvarsパッケージのvignetteにあたるもので、R Journalの記事である。
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読了: King, Mgyen, Ionides (2016) 部分観察マルコフ過程のRパッケージpomp

King, A.A., Ngyen, D., Ionides, E.L. (2016) Statistical Inference for Partially Observed Markov Processes via the R Package pomp. Journal of Statistical Software, 69(12), 1–43.

仕事の都合でマルコフ・スイッチング・モデルについて調べているんだけど、CRAN Task ViewsのTime Seriesで挙げられているマルコフ・スイッチング・モデルに関係しそうな雰囲気のパッケージとしてNTS, MSwM, depmixS4, pompがある。このうちpompってやつが一体なにやってんのか全然わかんなかったので、試しにvignetteをめくってみた。おそらく同内容の論文がJ. Statistical Softwareに載っている(上記)。
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読了: 沖本(2014) マルコフ・スイッチング・モデルとはなんぞや

沖本竜義(2014) マルコフスイッチングモデルのマクロ経済・ファイナンスへの応用. 日本統計学会誌, 44(1), 137-157.

 仕事の都合で読んだ。マルコフスイッチングモデルについての啓蒙論文。
 著者はあの「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」を書いた先生。難しい話を丁寧に説明することにかけて、私のなかで絶対的な信頼を誇る先生である。こういう素晴らしい研究者の方が、貧困をなくす研究とか戦争を止める研究とかではなく、ファイナンスなどという金持ちの手先のようなご研究をなさっているのは、人類にとっていかがなものなのか。(すいません冗談です)
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読了: Evangelidis (2024) ステルス値上げは不公正だと感じられる、なぜなら欺瞞的だから

Evangelidis, I. (2024) Shrinkflation Aversion: When and Why Product Size Decreases are Seen as More Unfair Than Equivalent Price Increases. Marketing Science, 43(2), 280-288.

 昨年のMarketing Scienceに載った論文。面白そうだし、ちょっと都合もあったので読んでみた次第。PDFが手に入らず、仕方なく著者が公開しているdraftで読んだ。
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読了: Park, Gelman, & Gafumi (2004) Mr.Pによる選挙予測

Park, D., Gelman, A., Gafumi, J. (2004) Bayesian Multilevel Estimation with Poststrafication: State-Level Estimates from National Polls. Political Analysis, 12, 375-385.

 みんな大好きミスターPことMRP (マルチレベル回帰・層別)の初期論文。googles様的には被引用回数589件。なお、一般にMr.Pの提案論文と称されているGelman & Little (1997)は411件である。
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読了: Morris, Wheeler-Martin, Simpson, Mooney, Gelman, & DiMaggio (2019) 階層空間モデルのひとつBesag-York-MollieモデルをStanで推定する方法

Morris, M., Wheeler-Martin, K., Simpson, D., Mooney, S.J., Gelman, A., DiMaggil, C. (2019) Bayesian hierarchical spatial models: Implementing the Besag York Mollié model in stan. Spatial and Spati-temporal Epidemiology. 31.

最近の調査データ分析でよく使われるみんな大好きミスターPことMRPについて調べていると、空間構造を入れるという話があって、そりゃまああるだろうとは思うのだが、そこに出てくるBYM2モデルというのになじみがなくて面食らった。調べてみたら、Gelmanさんたちが「StanでBYM2モデルをどう書くか」というチュートリアル論文を出しておられたので、パラパラめくってみた。
 本題は3節のStanコードの紹介なのだが、単にBYM2モデルってどんなんなのかを知りたいだけないので、申し訳ないけど3節以降はパス。
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読了: Sutton, Almquest, & Wakefield (2025) COVIDワクチンの小地域接種率をMRPと空間MRPで推定してみたけどからっきしダメでした

Sutton, A., Almquist, Z., Wakefield, J. (2025) Evaluating Multilevel Regression and Poststratification with Spatial Priors with a Big Data Behavioural Survey. arXiv:2503.05915.

先月arXivにあがったプレプリント。普通のMRPと空間MRPを実データで比べるという、関心にジャストフィットな話だったので、試しに読んでみた。JRSS Series Aに投稿中だと書いてあるが、ほんとだろうか。単にlatexのテンプレートがそうなっているだけなのかも。
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読了: Gelman & Little (1997) 階層ロジスティック回帰を使った事後層別推定 (のちにいうMr.P)

Gelman, A., Little, T.C. (1997) Poststratification Into Many Categories Using Hierarchical Logistic Regression, Survey Methodology, 23(2), 127-135.

 00年代の選挙予測でブイブイいわせ、いまでは調査データ分析の標準的ツールにまで成り上がってしまった、ご存じミスターP(MRP, マルチレベル回帰・層化)の元論文としてよく引用されるもの。掲載誌はカナダ統計局の地味ーな雑誌である。
 MRPの解説はいまや巷に溢れているから、別にいまこれを読むことはないんだろうけど、調べ物のついでに読んだ次第である。温故知新!
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読了: Little (1993) 調査データ解析における事後層別について、予測モデリングの観点から解説しよう

Little, R.J.A. (1993) Post-Stratification: A Modeler’s Perspective. Journal of the American Statistical Association, 88(423), 1001-1012.

 統計学者Little先生による、調査における事後層別(post-stratification)についての解説。伝統的なデザイン・ベースの説明ではなく、モデル・ベースの観点から説明するというのがミソである。
 良く引用される論文で、前から気になっていたのだがずるずると後回しになっていた。このたびちょっと調べ物をしていて、その流れで思い出し、試しに読んでみた。別にいま読まなくてもいいっちゃいいんだけど、この一週間体調を崩して寝込んでいたので、そのリハビリを兼ねている。
 途中で気が付いたけど、これ、招待講演を元にした論文なんですね。講義を思わせるちょっとカジュアルな書きぶりである。
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読了:Gao et al.(2021) MRP(マルチレベル回帰・層化)に構造化事前分布をいれる

Gao, Y., Kennedy, L., Simpson, D., Gelman, A. (2021) Improving multilevel regression and poststratification with structured priors. Bayesian Analysis, 16(3), 719-744.

 2020年にプレプリントを読んでメモをとっていた奴。このたび事情により公刊版を読み直したので記録しておく。
 なお、ついでにメモも取りなおした。自分の古いブログ記事を修正するのって、なんだか妙なものだ。物好きにもほどがあるという気がする。

読了: Basu, Kumar, & Kumar (2023) 消費者脆弱性についての論文の定量分析

Basu, R., Kumar, A., Kumar, S. (2023) Twenty-five years of consumer vulnerability research: Critical insights and future direction. The Journal of Consumer Affairs. 57, 673-695.

 調べ物のついでにパラパラめくったやつ。消費者脆弱性の文献の定量分析である。
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読了: Hill & Sharma (2020) 消費者行動論からみた消費者脆弱性

Hill, R.P. & Sharma, E. (2020) Consumer Vulnerability. Journal of Consumer Psychology, 30(3), 551-570.

 先日、仕事の都合でメモを取りながら読んだ奴。
 消費者行動論研究の文脈での消費者脆弱性についてのレビュー。「消費者脆弱性」で検索すると消費者保護の法整備の話ばかりヒットするので、こういうレビューは助かる。
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読了: Broniecki, Leeman, & Wuest (2022) MrPで地域レベル変数が多すぎるとき、機械学習でいい感じにやる方法

Broniecki, P., Leemann, L., & Wuest, R. (2022) Improved Multilevel Regression with Post-Strati cation Through Machine Learning (autoMrP). The Journal of Politics, 84(1), 597–601.

 先日仕事の都合で読んだ奴。みんな大好きMr.Pことマルチレベル回帰・事後層別を機械学習で改善しますという話。RパッケージautoMrPの元論文である。
 これ、以前から読もうと思っていたのだけど、勤務先の同僚が読んでくれていたので放置していたのである。トシを取ると多様な言い訳を思いつくようになることがわかる。
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