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読了:「久津見房子、声だけを残し」

ここんところ読んだ本のなかで、もっとも心に残った本。
 女性の社会運動家、久津見房子(くつみふさこ) の伝記。治安維持法による初の女性検挙者であり、また宮城与徳の情報提供者としてゾルゲ事件に連座し服役した社会主義者である。この人については森まゆみ「暗い時代の人々」で、確信を持った社会主義者であるにもかかわらず、右派に転向した夫・三田村四郎をなぜか支え続けた人であると知り、印象に残っていた。
 久津見は信念の人であったが、表に出ない人でもあった。目立った活動も著作も残さず、むしろ人々を支えて生きた。晩年の夫は反共を唱え、三池争議では第二組合に関与し、さらには他の女性との間に子まであるのだが、それでも久津見は家業の印刷所を支える。確かに経済的な事情によるよんどころない選択だったかもしれないが、それほど単純なものではなかったのかもしれない。
 夫の死後、昭和41年に開かれた喜寿の祝いには、服役中から親交のあった作家・山代巴や、労働運動で知られる丹野セツ、ゾルゲ事件に関わった医師の安田徳太郎とその妻、社会党の高津正道といった人々だけでなく、民社党のブレーン・鍋山貞親の妻・歌子や、鍋山と同じく共産党からの転向組であるヤクルト会長・南喜一も参加したそうだ。いまの視線からするとおよそ思想の異なる人たちで驚くが、同じ時代を生きた人々だけが語り合えることもあっただろう。
 近藤真柄(社会主義者・堺利彦の娘で、この人も社会運動家であった) の回想によれば、ある会合で同席した際、「久津見さんと私は、全く私たちは下手な生き方をしてきたものねと小声でささやきあったのであった」。著者はいう。「『へたに生きた』ということの中には、ゾルゲ事件のことがあっていったと思う。だが、もともと房子は「へたに生きる」べくして生きたのではないか」。徳富蘆花がある社会主義者に寄せた文章を引いて、著者はこう述べる。「房子もまた愚かに生きたのである。『へたな生き方をしてきました』とは、『自流自儘の路を歩かずに居られぬ』ことであった」

読了:「天幕のジャードゥーガル」「本気のしるし」「いたいお姉さんは好きですか?」「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」「アンダーニンジャ」

モンゴル帝国の支配下で復讐を胸に生き延びようとするイラン人女性を主人公にした歴史ドラマ。まだ一巻だけど、これは面白い…
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読了:「将棋の渡辺くん」「ヘルドッグス」「東京サラダボウル」「5080」「恋じゃねえから」

電子書籍で読んだコミックスも記録しておこう。

深町秋生の小説のコミカライズ。web連載を追いかけて読んでいた(連載終了)。
 原作のストーリーを忠実に追いながら、演出は原作の描写に縛られず、コミックの特性を生かした工夫を凝らしている。一例を挙げると、小説でもっとも印象的な格闘シーンがあるのだが、コミック版ではその直後に、主人公はひとり地下道を歩き、静かにくずおれ、見開きで雨の夜の新宿駅の遠景が映し出される。感情的クライマックスの設計が異なる。なるほどー。
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読了:「華厳経入法界品」「空海 三業指帰」

善財童子の遍歴譚とはいえ、近代的な読み物ではなくお経であるからして、無限に続くかとも思われる過剰な形容語と果てのない反復に圧倒されるのだが、ページをめくっているとかすかなトランス状態に入っていくような感覚がありますね。
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読了:「農婦譚」「厳寒の街」「羊の国の『イリヤ』」「ベルリンに落ちる闇」「喪失の冬を刻む」

農婦譚
 住井すゑの短編集(底本は1940年刊)。土浦市の出版社・筑波書林の1983年刊のハードカバーで、当然ながらISBNはついていない。本屋さんの自由価格本コーナーで見つけた。
 意外にも、ちょっぴりピランデッロを連想させる硬質な農民小説であった。著者は「橋のない川」で知られる作家だが、戦争協力の逸話が記憶にあり、予断があったかもしれない。
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読了:「戦時下のキリスト教」「戦時下の経済学者 経済学と総力戦」「『よむ』ことの近代 和歌・短歌の政治学」「ぼくたちの野田争議 忘れられた労働運動家 松岡駒吉と野田労働争議」

キリスト教史学会というところが2014年に開いたシンポジウムの書籍化。日中戦争・第二次大戦期のキリスト教についての検証をテーマに、日本基督教団、カトリック教団、正教会、聖公会、ホーリネス教団からそれぞれ講演者が出ている。
 いくつかとても興味深い記述があった。戦時下の日本と日本支配下の地域では、すべての教会で、礼拝に先立ち宮城礼拝があった。ところが当時の人々に訊いてもそのことをあまり覚えていない。例外は台湾・韓国の人々で、日本敗戦直後の8月19日、宮城礼拝なしに礼拝する喜びを強く記憶にとどめているという。日本の信仰者にとっても宮城礼拝は強制されたものではなかったのか? ここが難しいところで、国内の多くの教会ではなんと45年秋から翌春ごろまで、宮城礼拝が惰性のように続けられていたらしい、とのこと。
 戦時中に厳しく弾圧された教派の一つであるホーリネス教団の人はこう述べている。

いろいろな場面でホーリネス弾圧について話す機会があります。そうしたときに、ひたすら同情して下さる方がいます。哀れな弾圧被害者に同情したいのか、同情できる自分に酔いたいのか、とさえ思うことがあります。意地悪な言い方に聞こえるかもしれませんが、[…] 物分かりが良すぎて、問題の本質まで考えようとしないことが起きるからです。
 諸教派・諸団体から、いわゆる戦争責任告白が出され、いろいろな取り組みがなされていながら、物分かりの良すぎる自己批判と隣人愛が目を曇らせるのです。弾圧、沖縄、アジア、ハンセン病、政治、憲法、教育などなど、課題は多いのですが、同情するだけでも、義憤にかられ正義を主張するだけでも意味がありません。[…]
 いまや私たちは、社会情勢について、教会の体質について、いくらでも分析し批判することができます。それでいて、自分自身に気づかないということが起きるのです。[…]私たちは、歴史を学びながら、感性を磨いていかなければなりません。そうしたことが必要な時代に踏み込みつつあるように感じるのです。

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読了:「知能低下の人類史」「『トランプ信者』潜入一年」「ルポ プーチンの戦争」「私たちが描いたアニメーション『平家物語』」「朝日新聞政治部」

ついうっかり買っちゃったから目を通したけど、次第に目が点に…。これってどうなの…? 真剣に読むに値する本なの? 知能研究の専門家の方、教えて下さらないでしょうか。
 → いま検索したら、著者のひとりについての最近のNYTの記事をみつけた。ああ、やはりなあ…
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読了:「全体主義の誘惑 オーウェル評論選」「物語 ウクライナの歴史」「ホモ・エコノミクス」「団地と移民」

オーウェルの評論集は岩波、光文社、平凡社など数社から出ていて、収録内容に重なりがあるような気がする。メモしておくと、本著に収録されているのは、「聖職者特権 サルバートル・ダリについての覚書」「ナショナリズムについての覚書」「文学を阻むもの」「政治と英語」「なぜ書くか」「作家とリヴァイアサン」「ガンジーについて思うこと」、ヒトラー「我が闘争」書評、サルトル「反ユダヤ主義者の肖像」書評。
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読了:「ヴァンデ戦争」「謎の独立国会ソマリランド」「タリバン台頭」「大俳優 丹波哲郎」「フェルメール デルフトの眺望」

フランス革命政府に抗してフランス西部で生じた民衆蜂起とその弾圧について述べた本。まさに大量虐殺である。こんなことがあったのね…
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読了:「香港秘密行動 『勇武派』10人の証言」「『オピニオン』の政治思想史」「ルネサンス 情報革命の時代」「サカナとヤクザ」「決戦!株主総会」

香港の民主化運動で、街頭での暴力を辞さない「勇武派」と呼ばれた青年たちへの生々しいインタビュー集。
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読了:「戦争はいかに終結したか」「物語 バルト三国の歴史」「家計簿からみる中国 今ほんとうの姿」「アガンペン読解」「カタコトのうわごと」

4月から8月にかけて読んだ本、ノンフィクション部門。

イタリアの哲学者アガンペンについての入門書なのだけれど、難しい… 法外に難しいよ…
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読了:「ROCA 吉川ロカストーリーライブ」「インド夫婦茶碗」「入江喜和画業30周年記念 キワ本」「ブランチライン」「深夜食堂」

ROCA 吉川ロカストーリーライブ
 ギャグマンガの巨匠いしいひさいちさんの自主出版本。通販で入手。
 10年ほど前だろうか、朝日新聞朝刊の連載「ののちゃん」に、ファド歌手を目指す女子高生ロカとその相棒を描いたエピソードが時々掲載されていたことがあった。本書はその部分を取り出してストーリー4コマとして完成させたものである。
 頭でわかってはいたのだが、著者の絵の上手さといったらもう…。終盤は鳥肌が立つようであった。コマとコマのあいだに感情が溢れ出る傑作。
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読了:「セシルの女王」「女の子がいる場所は」「タコピーの原罪」「チ。」「ワカコ酒」

のちにエリザベス一世の重臣となるウィリアム・セシルの少年期に視点を置いて、ヘンリー八世の宮廷と社会を描く歴史物語。面白い。
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読了:「あかり」「オール・ザ・マーブルズ!」「またのお越しを」「ダンジョン飯」「生き残った6人によると」

「傘寿まりこ」の連載を終えた著者の新連載は、着物が題材のようだ。類似作が多い分野だが、本作は現代の着物ビジネスの暗部も描く模様。
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読了:「緑の歌」「台湾の少年」「ひらやすみ」「BLUE GIANT EXPLORER」「戦争は女の顔をしていない」

台湾のマンガ家・イラストレーターが描く内気な少女の青春。正直いって好みのマンガではないのだけれど(きみの悩みはどうでもいいよ、と思ってしまう)、一頁一頁がとても美しい。
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読了:「タイムスリップ・オタガール」「おかあさんの扉」「吼えろペンRRR」「ツイステッド・シスターズ」「聖☆おにいさん」

4月頃から8月にかけて読んだ本。まずはコミックスから。

陰気でコミュ障なアラサー女が中学生にタイムスリップし、暗かった青春をやり直そうとするコメディ、最終巻。なかなか面白かった。
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読了:「自転車泥棒」「同志少女よ敵を撃て」「龍膽寺雄 焼夷弾を浴びたシャボテン」

台湾の人気作家による長編小説。「歩道橋の魔術師」がなかなか面白かったのでなんとなく手に取ってみたら、都会に生きる青年のノスタルジックなストーリーが、時間と空間が入り乱れる壮大な物語へと広がり、引きずり込まれるようにして読み終えた。ここのところ読んだ本のベストワン。 続きを読む