読了: Spears, N. (2006) 購買後後悔の最小化における計画購買 vs. ぶらぶらファクター

Spears, N. (2006) Just Moseying Around and Happening Upon It versus a Master Plan: Minimizing Regret in Impulse versus Planned Sales Promotion Purchases. Psychology & Marketing, 23(1), 57-73.

 仕事の都合で読んだやつ。計画購買vs. 衝動購買、販促、後悔最小化、そしてぶらぶらファクター(なにそれ)と、なかなかキーワードが多くて一言で説明しにくい論文である。
 google様いわく被引用件数64。掲載誌はメジャーとはいいにくいと思うが、そのわりにはちょっと多めかな。
 いやー、それにしても、超わかりにくい論文であった…

1. イントロダクション
 人は後悔回避的であり、後悔を最小化するという動機を持つ[ここで以下をreferしている: Hetts et al.(2000 Psych.&Mktg.), Zeelenberg & Beattie(1997 OBHDP), Zeelenberg et al.(1996 OBHDP)。後悔最小化の話は院生の頃にちょっと論文を集めたことがあるんだけど、どれも知らないなあ… なんて思っちゃったけど、そりゃそうだ、あれは1995年ごろの話である]
 消費者意思決定の文脈でいうと、消費者は購買前後に後悔最小化を図るわけ[Cooke, et al.(2001 JCR), Rook(1987 JCR), Thompson et al.(1990 JCR), Tsiros & Mittal (2000 JCR)]。ここでの後悔とは、販促の期限が終わってから気づいて後悔するとか、衝動買いしちゃってから後悔するとか、そういうのですね。
 後悔最小化のせいでリスク志向的になることもあればリスク回避的になることもある。計画購買の場合、購買前に予期される購買後後悔を最小化するには、購買をきちんと計画しようということになる。いっぽう衝動購買の場合、購買前の後悔最小化はもっと複雑で、先行する「予期された快楽的経験」に起因する[なにが? 後悔が、それとも後悔最小化が? おそらく後者であろう]。最小化すべき後悔とは、即時的満足を通じて楽しく暮らす[live large]機会を失うことである。衝動購買の取引とは定義上事前の意図がない取引だが、ある種の衝動購買では、消費者を衝動買いという危険にさらすに至る連続的な段階のなかに意図と故意の気配があるかもしれない。このような衝動購買に直面しうるような故意の場所は、回答者から得られた記述によれば「ただぶらぶらしていたらたまたま見つけた」、略してぶらぶらファクター[moseying around factor]である。こうした衝動購買のあとで、消費者は後悔を経験することがある。

 本研究の目標は3つある。

  • リスク志向とリスク回避による後悔最小化について研究する。
  • 衝動購買におけるぶらぶらファクターの存在について評価する。
  • 販促とぶらぶら歩きの文脈における後悔最小化について研究する。

2. 後悔最小化のフレームワーク
 後悔理論によれば、人は実際の結果と、もし別の選択肢を選んでいたらどうなっていたかという結果とを比較し、後者のほうが良いときに後悔し、悪いときに喜ぶ。後悔が勝者に影響を与えるタイミングはふたつある。第一に、決定のあと。まずい選択をしたことの効果を和らげようとしたり巻き戻そうとしたり、はたまた良い結果になったことを喜んだりしますよね。第二に、決定の前。決定後に感じるかもしれない後悔を最小化すべく、リスク回避的になったりリスク志向的になったりする。
 リスク回避的な後悔最小化としては購買計画の立案がある。情報を集めて不確実性を減らし、時間をかけて選択肢について検討するわけだ。もちろん、購買後にはやっぱり後悔するかもしれないけれど、ここでの話のポイントは、購買前に予期される購買後後悔を購買前に最小化する、ということである。
 では、リスク志向的な後悔最小化とは何か。衝動購買の場合、即時的な喜びに完全に身をゆだねることが後悔の最小化となる。その戦略はふたつある。

  • 一本槍戦略[one-pronged strategy]。潜在的な衝動購買場面にたまたま身を置いているときの衝動購買。レジ前の行列に並んでいるときにキャンディーを買っちゃうとか。先行する意図がないという点で衝動的である。
  • 二本槍戦略[two-pronged strategy]。まず、お店をぶらぶら歩いたり、新聞を眺めたりして、潜在的な衝動購買に身を晒す。そうすることで、即時的快楽経験を通じて楽しく暮らす機会を失うことの後悔を最小化できる。ここには意図の要素がある。次に、なにか見つけたら衝動的に買っちゃう。

3. 研究1
 販促のもとでの衝動購買・計画購買の前の後悔最小化と、購買後の後悔について検討する。販促として遅延支払(DP)オファーを取り上げる。
 消費者が自らを販促への接触を通じて衝動購買の危険にさらしている文脈では、後悔を最小化する決定は(DPオファーを利用して)買うことである(リスク志向的)。計画購買の文脈では、後悔を最小化する決定は計画通りに買うことである(リスク回避的)。
 リスク志向によって後悔を最小化する衝動購買シナリオのほうが、消費者はぶらぶら歩きを通じて購買という危険に身を晒しているので、より大きな後悔を感じるだろう。逆に、リスク回避によって後悔を最小化する計画購買シナリオのほうが、購買後の喜びは大きいだろう。[うーん、そう考えるに至るロジックがわからない… 前者は、買ったあとの後悔が大きいということ? 買わなかったあとの後悔が大きいということ? こみにしてみたとき後悔が大きいということ?]
 というわけで、

  • H1. 計画購買シナリオでは、消費者は事前に計画していた販促製品を買うことで後悔を最小化する。
  • H2. 衝動購買シナリオでは、消費者は買う衝動を感じた販促製品を買うことで後悔を最小化する。
  • H3. 衝動購買シナリオより計画購買シナリオのほうが、購買後の喜びが大きい。
  • H4. 計画購買シナリオより衝動購買シナリオのほうが、経験される後悔が大きい。

 方法。
 学生にDPオファーの下で買いたい製品を挙げさせたら自動車が多かったので、自動車でやります。
 次のシナリオを用意する。あなたは地元紙で、地元ディーラーがAMC Motorsの938Z [なにそれ? 実在するの?]を期間限定特売していることに気が付いた[新聞を眺めていて気が付いたんだからぶらぶら歩きしていることになるよねという理屈である。オファーの詳細について説明しているけど省略]。

  • 衝動購買DPシナリオ。車を買う予定はなかったんだけどぜひ買いたい車である。
  • 計画購買DPシナリオ。車を買うつもりで探していた。

 被験者は学生44人。2群にランダムに割り当てる。買うか買わないか、自分の選択の強さ(7件法)を回答させ、選択についての感想を自由記述。

 結果。
 44人を2群x2選択肢(リスキー、安全)のクロス表にわけると、カイ二乗検定で有意。衝動購買シナリオでリスキーが5割強、計画購買条件では安全が8割。さらに、目的変数をリスキー決定なら1, 安全決定なら-1とし、シナリオを独立変数にしたANOVAをやったら、衝動購買シナリオの平均は0.95と正、計画購買シナリオの平均は-3.79と負であり、有意差あり。よってH1, H2を支持。
 [いやいやいやいや! そりゃないよ! 衝動購買では買うのがリスキー選択肢、計画購買では買うのが安全選択肢なんでしょ? つまり、衝動購買シナリオでは5割強が、計画購買シナリオのほうが8割強が買うを選んだってことでしょ? 両方とも購買率が0.5より高いから仮説が支持されたっていうこと? そんならシナリオのなかのオファーを魅力的にしておけば仮説が支持されることになるよね? なんなのこの茶番劇、ちょっとあんまりじゃない?]
 自由記述をコーディングして後悔と喜びのどっちかに分けた。衝動購買では後悔が5割強、計画購買では喜びが8割。ゆえにH3, H4を支持。
 [えええええ? これもすごく変じゃない? 買った人と買ってない人をコミにして集計していいの? H3は買った喜びの話だから、(シナリオ実験とはいえ)買った人について分析しないといかんはずで、これではH3の検証になってないじゃないですか。それに、決定を無視して検証できるようなH4にどういう意味があるの? 衝動購買のほうが不確実性が高いので後悔しそうだといういうのは当たり前じゃんか]

4. 研究2
 こんどはDPじゃなくてadvancing receipt(AR)による販促に注目する[よくわからん…]。仮説は研究1と同じ。

  • H5. 計画購買シナリオでは、消費者は事前に計画していた販促製品を買うことで後悔を最小化する。
  • H6. 衝動購買シナリオでは、消費者は買う衝動を感じた販促製品を買うことで後悔を最小化する。
  • H7. 衝動購買シナリオより計画購買シナリオのほうが、購買後の喜びが大きい。
  • H8. 計画購買シナリオより衝動購買シナリオのほうが、経験される後悔が大きい。

 方法。衣類でやります。あなたは地元紙で、地元の店舗があなたの好きな衣類の商品を3日間期間限定で50%引きしていることに気が付いた。衝動購買ARシナリオと計画購買ARシナリオを用意。被験者は学生49人。
 結果。こんども全仮説が支持された。

5. 研究3
 こんどはぶらぶらファクターに直接注目します。
 衝動購買においてリスク志向によって後悔が最小化された場合[買った場合ということね]、計画がなかったということへの自己批判が生じるだろう。しかし、ぶらぶら歩きによって衝動購買の前に自らを熟慮的にさらしていたことを認め、事後的に計画を模倣することで、消費者は後悔を最小化するのかもしれない。
 この議論は、後悔の経験が自己イメージへの恐怖であり、後悔を最小化することで自己イメージを防衛できるという考え方と整合している。自己イメージを守る方法のひとつは、衝動購買に直面するという結果をもたらしたマスター・プランがあったのだということを認めることである。逆に、ぶらぶら歩きしたにも関わらず衝動購買に至らなかった場合には、衝動購買に直面するというマスタープランの存在を認める必要は低くなる。
 上記の議論に基けば、ぶらぶら歩きが衝動購買に至った場合には、そうでない場合に比べて、消費者はより大きな後悔を示すはずである。というわけで、

  • H9. 衝動購買した消費者は、ぶらぶら歩きが衝動購買に至らなかったときにくらべ、ぶらぶら歩きによって自らを購買という危険にさらしていたのだと認めやすい。
  • H10. 衝動購買した消費者は、しなかった消費者に比べて、決定直後に後悔しやすい。[???? なんなのこの仮説? そりゃそうだろうとは思うけど、いったいどこから湧いてきたの? ]

 方法。
 被験者は学生36人。特別な販促があることに気が付いてなにかを危うく衝動的に買っちゃいそうになったけれど結局買わなかったという直近の経験と、同様の状況で結局買っちゃったという直近の経験を、それぞれ書き出させた。各経験について、「それは衝動的で非計画的にみえるかもしれないけれど、実は私はこの衝動購買の可能性に直面するような状況に自ら身を置いていた」に対して同意度を7件法評定[直接的すぎて笑っちゃった]。後悔の強さを7件法評定。

 結果。買っちゃったほうで、ぶらぶら歩きを認める率が高かった。H9を支持。また、買っちゃったほうで後悔が強かった。H10を支持。

6. 結論
 [全然納得いかない論文だったので細かくメモする]
 本論文は、消費者意思決定における後悔最小化モデルを提案し検証した。マーケティング理論に対する本研究の貢献は以下の通り。

  • 販促の枠組みにおける計画購買・非計画購買において後悔最小化がどのように働くかを検討し、後悔最小化のやりかたがいろいろあることを示した。計画購買の文脈では、プロモーション下での情報収集、計画、リスク回避的選択によってリスクが回避され、それによって後悔が最小化され、その後、喜びが経験される。衝動購買の文脈では、リスク志向的選択と、自由、興奮、退屈からの脱出、即時的満足の喜びを経験するという機会を失うことに関する後悔を避けることによって後悔が最小化され、その後、選択の正当化によって後悔が最小化される。
  • 衝動購買の複雑な性質について研究するため、ぶらぶらファクターを提案した。結果は衝動的販促の文脈におけるぶらぶらファクターの存在を示した[言い過ぎだよ…]。
  • 特別な販促のせいで衝動購買したことについてのぶらぶら歩きを認めることによる、後悔と後悔最小化について検討した。実際に衝動購買につながった場面について、消費者はより大きな後悔を感じ、ぶらぶら歩きによって自分を危険にさらしたということを認めることで後悔を最小化しやすくなる。

 経営的には、販促にぶらぶらファクターを導入することにメリットがある。日常の一コマとかユーモアの訴求が有効だろう。[…]
 本研究の限界: DPとAR以外の販促。想起課題を使ったことによるバイアス。
 今後の課題: 衝動購買における葛藤の感覚を乗り越えるためのマーケティング変数と個人差の相互作用。後悔最小化選択と自尊心維持についての理解。ぶらぶら歩きの性質。
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 実はこの論文、読もうと試みた方から「よくわからない…」というコメントを聞いていたんだけど、嘘ではなかった。これはわかりにくいわ。わかりにくい論文コンテストがあったら推薦したいくらいだ。

 いろいろ不思議な論文である。だいたいさ、この研究における販促の役割ってなんなの? なくてもよくない?

 この論文のポイントは、衝動購買のなかには、ピュアに偶発的な衝動購買と、なかば意図的な「ぶらぶらファクター」を伴う衝動購買というのもあるんだ、という主張であろう。うん、わかります。
 前者を後悔最小化という枠組みで捉えることができる。それもわかる。私たちは意思決定のあとで、選んだ選択肢の結果と選ばなかった選択肢の潜在的結果とを比べ、後者のほうが良かった時に後悔する。後悔最小化とは、決定前に決定後の後悔を予期しそれを最小化することだ。レジ前の行列で突如目の前にチョコキャンディーが現れたとき、それをカゴにいれるという選択肢といれないという選択肢があるんだけど、(a)もしカゴに入れていたら、あとで目の前のチョコキャンディーと「もしカゴに入れなかったら」とを比べることになり、(b)もしカゴに入れなかったら、あとで目の前の空白と「もしカゴに入れていたら」とを比べることになる。どちらの場合にも後悔は生じうるが、衝動購買場面の消費者は(a)のケースにおいて生じうる後悔を予期するほど熟慮的ではないから、予期される後悔を最小化するのは(b)を選ぶことだ、ということであろう。
 では「ぶらぶらファクター」つきの衝動購買はどうだろうか。著者のいうぶらぶら歩きが一種の意図的戦略なのだということはわかる。「買っちゃったぁ」という即時的快楽経験を得るためには衝動買いの危険に身を晒す必要があるもんね。でも、それが「即時的快楽経験の機会を失うことの後悔を最小化する」ための戦略なのだといわれると、頭がクエスチョンマークでいっぱいになる。ぶらぶら歩きによって最小化される後悔ってなに? それは、ぶらぶら歩きし、その結果みつけた魅力的な商品について買おうかどうかを検討し、結局買わなかった場合の事後の後悔のこと? それを予期して最小化するなら、ぶらぶら歩きしなきゃいいじゃないですか、そしたら購買意思決定は生じないし、購買意思決定についての後悔も生じないわけだから。それとも、ぶらぶら歩きするかどうかという決定についての事後の後悔のこと? つまり、今夜ベッドに入ってから「ああ最近購買に伴う即時的歓びを味わっていないなあ…今日スーパーに行ったとき、ついでにぶらぶら歩きすればよかった」と後悔するかもしれないから、それを避けるためにぶらぶら歩きする、ということ? うーん、ぶらぶら歩きするかどうかを決める決定は衝動的かどうかわからないし、そもそも購買意思決定の話ではなくなっているよね。

 ここからは勝手な解釈になるけど、この論文の書き方がわかりにくいんだと思う。購買意思決定を後悔最小化の枠組みで捉えるよ、計画購買と衝動購買では後悔最小化方略がちがうよ、衝動購買にはさらにぶらぶら歩きしない方略とする方略があるよ、という話の流れになっているから、ぶらぶら歩きによって最小化される後悔ってなに?と混乱するのである。そうではなくて、購買にはいろんな場面があって、計画購買もあれば、やや意図的なぶらぶら歩き状況下での衝動購買もあれば、ピュアな衝動購買もある、それらの場面選択は後悔最小化の原理で捉えられるし、どんな場面であれ、消費者の購買決定そのものも後悔最小化の枠組みで捉えられるよ、という話なんじゃないかしらん? つまり、事前に購買を計画するとかぶらぶら歩きするといったことと、購買時にどっちの選択肢を選ぶかということをひっくるめて後悔最小化と呼んでいるから、話がややこしくなってんじゃない?

 実証研究に関していうと、研究1-2はあんまりだと思う。研究3もしょぼすぎて笑っちゃったが (単に学生に直近の経験を想起させただけである。実験といわない理由がわかった)、H9は面白いと思った。著者の意図とは違うかもしれないけれど、非計画的な購買状況を想起した時、結局買っちゃった場合のほうが、その状況に至ったことにおける自分の意図性を高く見積もる、ということであろう。でもそれって、その状況が意図的なぶらぶら歩きだったから(ぶらぶらファクターの存在の証拠)だと解釈できるかもしれないけれど、想起できる衝動購買は成功と評価されていることが多く、かつ成功の原因については自分に帰属させやすい、という原因帰属によってもかんたんに説明できそうだ。