国里愛彦(2018) 臨床心理学と認知モデリング. 心理学評論, 61(1), 55-66.
仕事の都合で読んだ奴。右は認知モデリングから左は経済学史まで、自分の仕事がいったいなんなのか、だんだんわかんなくなってきた…
いわく、
認知モデリング、つまり認知モデルを使ったモデリングは、認知科学ではあたりまえになっている。マーの3水準でいうと2層目の表現・アルゴリズムの水準に相当する。Weisberによれば科学におけるモデルというのは具象モデル、数理モデル、数値計算モデルに分かれるが、認知モデルってのは刺激から行動までの内的過程の数理モデル。
認知モデリングの利点: (1)数理モデルなので研究者間の解釈のずれが小さい (2)正確な量的予測が可能 (3)行動データそのものよりパラメータを調べたほうが群間差や関連を検討できるかもしれない。たとえば反応時間を比較するよりRatcliffのDrift-Diffusion Modelでのパラメータの推定値を比べたほうが健常者と患者の違いがはっきりするとか、そういうの。
認知モデリングの手順について、Busemeyer & Deiderich (2010 書籍), Heathcore et al.(2014 Chap.), Palminteri et al.(2017 Trends.CS)をみよ。総合すると、
- 認知課題と認知モデルを準備する。例として、確率的逆転学習課題とQ-learningモデルをとりあげよう。[おおざっぱにいうと、えーと、選択課題を繰り返しそのたびに確率的報酬を返すんだけど途中で報酬が逆転するという課題を、選択肢の効用が報酬をイノベーションにして自己回帰するような選択モデルで説明する、という感じ]
- 人工データを生成してパラメータ復元を試す。[そうか、実験の前にこれやっとけってことね… 正論だ… ]
- データ収集。
- パラメータ推定。
- モデル比較。対数尤度とか情報量規準とかベイズ・ファクターとか… ただし、モデルの適合はモデルの適切さに関して十分条件を満たすだけだし、モデル比較では予測パフォーマンスは明らかになるが生成パフォーマンス(関心のある効果を持つデータを再現できること)はあきらかにならない。
- そこでモデル・シミュレーションだ。そして認知モデルの妥当性を検討するため、パラメータに影響すると想定される実験的操作を行い、パラメータ推定値が変わることを確かめるのだ(選択的影響テストという)。[←ここは勉強になった… でもプロの研究者でもなかなかそこまではやってないんじゃないですかね?]
臨床心理学における認知モデリングの例としてKunisato et al.(2012 J.Behav.Therapy&Exp.Psychiatry)をみよ。これは強化学習における抑うつ群のパフォーマンスの認知モデリング。レビュー論文にRobinson & Chase (2017 Com.Psychiatry)がある。
認知モデリングでベイズ統計を使うメリット:
- 推定方法としてのメリット。Ahn et al.(2011 J.Neurosci.Psycho.Eco.) は最尤法よか階層ベイズのほうがうまくいく例を示している。最近はhBayesDMっていうRパッケージもある[←へー]。
- 認知モデルそのものを洗練化できる。階層ベイズ推論モデルとか。Friston(2005 Phil.Trans.RSL)の「プレディクティブ・コーディング」とかMathys et al.(2014 Front.HumanNeurosci.)の「階層ガウシアンフィルター」とかを勉強なさい。[うわーん。全然知らないよおおお]
云々。