読了: 沖本(2014) マルコフ・スイッチング・モデルとはなんぞや

沖本竜義(2014) マルコフスイッチングモデルのマクロ経済・ファイナンスへの応用. 日本統計学会誌, 44(1), 137-157.

 仕事の都合で読んだ。マルコフスイッチングモデルについての啓蒙論文。
 著者はあの「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」を書いた先生。難しい話を丁寧に説明することにかけて、私のなかで絶対的な信頼を誇る先生である。こういう素晴らしい研究者の方が、貧困をなくす研究とか戦争を止める研究とかではなく、ファイナンスなどという金持ちの手先のようなご研究をなさっているのは、人類にとっていかがなものなのか。(すいません冗談です)

 まずマルコフスイッチングモデルについて簡単な紹介。次にマルコフ連鎖についての紹介。かんたんな2状態マルコフスイッチングモデルを例に、パラメータ推定値の解釈を紹介。
 マルコフスイッチングモデルをどうやって推定すんのかという話(初期値を所与にした最尤法を使うことが多い。EMアルゴリズムを使うこともある。ベイズ推定もある)。パラメータ推定値を用いて状態の平滑化確率を求めることもできる[平滑化確率というのは\(t(=1,\ldots, T)\)時点の情報集合を\(\Omega_t\)として\(P(s_t = i|\Omega_T)\)のこと。平滑化とかってきっとカルマンフィルタから来ている言葉なんだろうな…]。状態数をどう決めるか[それ専用の情報量規準が提案されているのだそうだ。へえええ]。ベイズ推定するとき、Gibbsサンプラーのアルゴリズムをどうするかという話[ここは難しくて読み飛ばした]。
 最後にマクロ経済学での応用の紹介[いっぱいあって面白い]、ファイナンスでの応用の紹介[まっったく関心が持てないので読み飛ばした]。

 論文全体のメモではないけれど、いくつか「へぇぇぇ」と思ったところをメモ。

  • \(M\)状態マルコフ連鎖について考える。推移確率行列を\(P\)とする。推移確率行列っていうのは、\((j,i)\)成分が状態\(i\)から\(j\)への推移確率\(p_{ij}\)になっている行列のことね。時点\(t\)における確率分布の縦ベクトルを\(\pi_t\)として、$$ \pi_{t+1} = P \pi_t$$となる。
     時点\(t\)における状態\(s_t\)を表す縦ベクトルを\(\xi_t\)とする(\(s_t=i\)なら\(i\)個目の要素が\(1\))。こう書ける: $$ E(\xi_t | s_t = i) = P\xi_t$$ ここでの\(s_t=i\)という条件づけは、\(\xi_t\)を所与としますといっていることになるし、マルコフ連鎖というのは前期にしか依存しないんだから、こう書き直せる。 $$ E(\xi_{t+1}|\xi_t, \xi_{t-1}, \ldots) = P \xi_t$$ ってことはですね。状態ベクトルは $$ \xi_{t+1} = P \xi_t + \mathbf{v}_{t+1} $$ $$ \mathbf{v}_{t+1} \equiv \xi_{t+1} – E(\xi_{t+1} | \xi_t, \xi_{t-1}, \ldots)$$ というVAR(1)モデルに従っているわけだ。\(\mathbf{v}_t\)の期待値はゼロで、過去の状態からは予測不能。\(P \xi_t\)は\(\xi_t\)の下でMSE最小な来期予測である。[へえええー。そんな風に考えたことなかった…]
  • USでは80年代半ばから、経済成長とかインフレとか多くのマクロ経済時系列データの標準偏差が小さくなっていることが指摘されている。これをGreat Moderationという。これをボラタリティが構造変化するマルコフ・スイッチングモデルで検証した研究がある。[へええ! 経済の話ってからっきしなので、そもそもGreat Moderationというのをはじめて聞いたよ…]
  • 財政政策レジームをマルコフスイッチングモデルで分析した研究によれば、USの財政政策は持続可能なレジームとそうでないレジームが混在しているのに対して、日本の財政政策は持続可能でないレジームしかなさそう、なんだってさ。[うううう… 日本が破綻するのが私が死んでからでありますように…]
  • 統計的推測についての今後の課題のひとつに、1状態モデルを2状態モデルに対して検定する方法がある。提案はあるけど実用的なものは少ない。[へー]