川田耕 (2008) 憤怒・和解・自由 -許鞍華の映画について- (上), 京都学園大学経済学部論集, 17(2), 47-60.
川田耕 (2008) 憤怒・和解・自由 -許鞍華の映画について- (下), 京都学園大学経済学部論集, 18(1), 53-67.
香港の映画監督アン・ホイの作品についての評論。作品でいうと、デビュー前のTVシリーズから「おばさんのポストモダン生活」あたりまでをカバーしている。未見の作品のあらすじを知りたくて手に取った。
「男人四十」というマイナー作品に対する評価が非常に高くてちょっとびっくりした。あれ、ジャッキー・チュンがカリーナ・ラムと寝ちゃうのってどうなの? 悩んでおいて結局寝るの? って思うんですけどね。もっとも、私がモテるおっさんに冷たすぎるというだけで、物語としてはあれでいいのかもしれない。
著者によれば、「男人四十」を含め、アン・ホイ監督作品には繰り返し「望まれなかった妊娠・出生」というモチーフが登場する、とのこと。そうなんですか? 残念ながら未見の作品も多いのでわからないんだけど、でもそういわれてみれば、最近の「黄金時代」にもそういうエピソードがあったなあ、などと思い出したりして…
許鞍華にとっての積年のテーマである「望まれない妊娠」とは、男の無責任な身勝手さからだけ生じるのではなく、むしろ、理不尽なこの世界全体のなかでもがき苦しむ男と女の正の営みの、ひとつの結果として生じる悲劇なのである。だから、望まれない妊娠をし望まれずに生を終えていく生命があったとしても、もはや誰を責めることもできない。残された者にできることは、この理不尽な世界のなかで傷つき死んでいった者に同情し弔う、ということしかない。そして実際、映画[「千言萬語」のこと]のラストシーンは死者を弔う儀式である。多くの人々がロウソクを灯して天安門事件で倒れた人々を追悼する行事が映し出されるのであるが、映画の文脈としては、それぞれの思いで運動に身を投じながら挫折していった、[…] 男たちの人生を弔う儀式であり、さらにいえば、[…ヒロインの]痛恨の人生への追悼のようにもみえる。