読了: Gengler, et al. (2021) 調査というものに対する態度と調査参加との関係 (カタールで調べました)

Gengler, J.J., Tessler, M., Lucas, R., Forney, J. (2021) ‘Why do you ask?’ The nature and impacts of attitudes towards public opinion surveys in the Arab world. British Journal of Political Science, 51, 115-136.

 調べ物の途中でみつけてなんとなくPDFを保存し、今回フォルダを整理していてなんとなく読み終えてしまった論文。現実逃避だ…
 調査参加者の調査に対する一般的態度と、調査参加行動との関係を調べた論文。そういう研究はほかにもあるが、中東のカタールでやったというのが売りである。

(イントロダクション)
 アラブ中東・北アフリカ(MENA)では世論調査があまり行われてなくて、行われても結果をあまり信頼できないと思われてしまうことが多い。政治環境が調査参加に与える影響もよくわかってない。調査参加行動の理論によれば[Hox, de Leeuw, & Vorst(1995 Bulletin of Sociol.Method.), Loosveltd & Storms (2008 Int.J.PublicOpinionRes.) というのが挙げられている]、中東の政治的条件のせいで調査という営みにネガティブな知覚が生じ、そのせいで参加と回答にバイアスがかかるかもしれない。
 本研究は、調査への態度の性質と効果についてアラブ世界において調べる。本研究は、調査への態度をアラブ諸国で調べた初の研究である(そもそも非西洋諸国での研究が少ない)。

文脈と文献レビュー
アラブ世界のトレンドと困難
 2000年代まで、アラブ世界で個人の態度・価値・行動を調べるのは難しかった。しかし最近では研究機関も増えてきたし、アラブ世界の世論についての国際的関心も高まっている。20年前とは状況が違う。とはいえ、世界中どこでもそうだけど、手抜きや不透明性も問題になっている。

調査への態度との調査参加環境
[ここに関心があるので、ちょっと細かくメモする]
 普通の人々が調査をどうみているか、それが調査行動とデータの信頼性にどう影響するかという問題は、調査環境survey climateの問題と呼ばれ、欧米ではよく知られている。Sjoberg(1955)の「調査票についての調査票」というのがはじまりで、以来多くの研究により、効率的な実査のためにはポジティブなclimateが必要だということがわかっている。この合意のルーツは調査参加の行動理論にある。すなわち、参加者の協調に一般的規範・態度が及ぼす影響についての理論とか, 認知制約が及ぼす影響についての理論とかである。
[前者としてAjzen & Fishbein(1980), Stocke & Langfeldt (2004 Bull.Sociol.Method.), 後者としてKrosnick (1991 App.Cog.Psych.; 1999 Ann.Rev.Psych.)が挙げられている。Krosnick先生のレビューは読んどかなあかんな…]

 西洋では実証研究も多い。

  • 調査への態度が無回答・回答拒否と関連する: Hox, de Leeuw, & Vorst (1995 上述), Groves & Couper (1998 書籍), Groves, Singer, & Corning (2000 POQ), Groves et al.(2001 書籍”Survey Nonresponse”), Groves, Presser, & Dipko (2004 POQ), Stocke(2006 Qual.&Quant.), Weisberg(2005 書籍”The Total Survey Error Approach”) [← Weisbergの本は買っといたほうがいいかもしれない…]
  • パネル摩耗、調査教示の遵守、反応のタイミング、調査参加意図と関連する: Rogelberg et al.(2001), Stocke & Langfeldt (2004 上述), Stoop (2005 書籍), Loosveltdl & Stroms (2008 上述)
  • しかし、調査態度研究もセレクションバイアスのせいで歪んでいるかも: Vannieuwenhuyze et al.(2012 Int.Stat.Rev.)

 しかしMENAにあてはめようとすると次の2点の限界がある。

  • 調査への態度の測り方に合意がない。[メモは省略するけど、研究者によって因子数が違うという話である。そらまあそうでしょうね。査読論文としては Loosveltd & Storms (2008 上述)が新しい模様]
  • 西洋の調査態度研究の基盤には、世論調査と政治参加(特に選挙)との概念的つながりがある。政治制度が違う地域に適用できるかどうかわからない。さらに、西洋の研究者は調査態度を民主主義のレンズを通してみるものだから、非西洋・非民主主義の世界での文脈を見落としがちである。たとえば、(政治参加ではなくて)政治的監視や操作のための調査利用がありうる点とか、調査というもの自体と西洋世界とのあいだに政治的なつながりがあるという点である。[あああ、なるほどね。ぼんやり読んでいたが、これは中国での調査にも通じる話かもしれない]

MENAにおける調査環境・政治環境
 アラブの人々の調査に対する態度はネガティブかもしれない。大衆は意思決定からほぼ除外されているし、科学的調査の能力が低いし、公的な制約もあるし、社会科学研究に対する監視のせいでプライバシー上の心配もあるし、調査と西洋とのあいだには認識論的つながりがあるし(個人レベルでの分散の測定と説明)、政治的つながりもあるし(西洋の帝国主義的利益への貢献)、歴史的つながりもあるから。
 […後略…]

データとケース選択
 というわけで、2017年にカタールで調査をやりました。カタール市民751人、非市民934人。[なぜカタールが調査場所に適しているのかというdefendが1ページ近く続く。パス]
 世帯の比例層別抽出。回答率(RR3)は35%。

方法
結果: 調査態度の測定と予測
結果: 調査態度の行動への影響
 [原文では上記の3セクションにを分けているんだけど、メモをとりにくいのでコミにする]

 調査に対する態度15項目(7件法ないし4件法)を聴取。調査の楽しさ、調査の価値、調査の信頼性、調査のコスト、調査のプライバシー、調査の意図(「調査は人々を操作したりミスリードしたりするのによく使われる」とか)の6因子を抽出。[おいおい、強気だなあ]
 Loosveldt & Storms (2008)のベルギーでの研究と近い因子だが、調査の意図というのが付け加わっている。[などなど、各因子について考察している。メモ省略]
 6個の因子得点を目的変数とし、対象者のカテゴリ(カタール市民以外のアラブ人、カタール市民、西洋、南アジア、東南アジア)を説明変数にして回帰すると… [読まずに飛ばしたけど、末尾のまとめによれば、カタール以外アラブはポジティブ、東南アジアがネガティブ、だったそうな。あっれー、事前の予想とちがいません?]

 行動的指標を得るために実験を2つ埋め込みました。
 実験1。仮説的な調査について記述し、自分の参加見込みを評定させるコンジョイント実験。ひとりにつき3プロファイル。属性は:

  • 調査のスポンサー: {カタール政府、カタールの大学、カタールの民間企業、国際エージェンシー}
  • 調査のトピック: {文化、経済、政治}
  • 調査モード: {対面, 電話}
  • 調査の長さ: 電話では{10分, 20分}, 対面では{30分, 60分}

 対象者カテゴリごと(カタール以外アラブ人、カタール市民、非アラブ人)に条件付き交互作用効果の平均(ACIE)を報告する。Hainmueller, Hopkins, & Yamamoto (2014 Polit.Anal.), Hainmueller & Hopkins (2015 Am.J.Polit.Sci.)をみよ。 
 結果。まず属性のみいれたモデルでは、短い調査、(アラブ人とカタール市民で)電話調査の選好が高い。政治調査の選好は低いが、カタール市民ではそうでもない(意外ですね)。
 [などなど… いろいろ検討しているけど、めんどくさくなってきたのでパス。ともあれ、方法が面白いっすね]

 実験2。調査態度が実際の参加者行動に与える影響を調べる。対象者に「調査が長いもので、最後のセクションは誕生日が過去6か月以内だった人だけお答えいただきます」と教示。回答を続行した人の割合を調べる。[嘘ついてなかったら続行率は50%くらいになるはずだよねという理屈である。はっはっは]
 結果。続行率は39%。非アラブ人、アラブ人、カタール市民の順に高い。調査態度の6因子との関係を調べると、カタール市民では調査の信頼性、アラブ人では調査の信頼性と調査意図、非アラブ人では調査コストとの関係が高かった。[… 後略…]

結論
 予想に反し、カタール市民とアラブ人は、他の地域から来た人よりも調査にたいしてポジティブな態度を示した。
 アラブにおけるデータ品質の保証のためには以下の点が大事である。

  • アラブ人・カタール市民の調査参加者は、調査参加の楽しさとか負荷とかではなく、むしろ信頼性とか調査意図に敏感である。
  • アラブ人(カタール市民以外)は調査トピックとか調査スポンサーに敏感である。細かく言うと、トピック・スポンサー自体ではなく、操作されたり邪悪な目的のために使われたりすることを恐れている。[なるほどね。本文をちゃんと読んでないけど、トピック・スポンサーと調査意図の交互作用があるってことね]
  • 調査の目的についての知覚を測り、それが態度に与える影響を理解することが重要。

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 なかなか面白かった。
 正直、アラブ世界に固有な問題についてはあんまし関心がないんだけど、身近な問題に引き付けるとちょっと怖くなりますね。日本での調査だって、調査結果は対象者の調査に対する一般的態度の影響を受けているだろう。そのバイアスは意外に深刻なんじゃないかしらん。調査という営みに対する一般の人々の不信感は、調査に従事する人々の想像を超えるところがあるように思う。