Thaler, R.H. (1999) Mental Accounting Matters. Journal of Behavioral Decision Making. 12, 183-206.
セイラー先生、心的会計について語り倒すの巻。google様によれば引用文献4208件というお化け論文である。
仕事の都合で目を通した。正直なところ、こういうのいまさらあんまり読みたくないんだけど… 人生はアイロニーに満ちている。
読み物としては面白いんだけど、事例が豊富すぎて疲れてしまい、途中からメモがいい加減になっている。
イントロダクション
心的会計 mental accounting の操作はいかにして行われるか。ここでは次の3要素に注目する。
- アウトカムがいかに知覚・経験されるか、決定はいかになされ、いかに評価されるか。
- 活動の口座への割り当て。
- 口座がどのような頻度で評価されるか。
これらの決定は選択の魅力の知覚に影響する。
利得と損失のフレーミング
意思決定の結果の知覚はプロスペクト理論の価値関数によってなされると仮定する。重要な特徴が3つ挙げられる:
- 価値関数はなんらかの参照点と比べた利得と損失として定義される。
- 利得関数も損失関数も敏感性の消失を示す。つまり利得はconcaveで損失関数はconvex。
- 損失回避。
Tversky&Kahneman(1981 Sci.)はpsychological account(のちにmental accountに改称)を非常に狭く定義している。いわく「以下を特徴付ける結果のフレーム。(i)同時に評価される一次的結果の集合と、それらが結合される様式。(ii)中立ないし通常とみなされる参照点的な結果。」この定義だとmental accountはただの評価フレームである。私のいう心的会計は出来事の符号化・カテゴリ化・評価を含むので、以下では評価フレームは「エントリ」と呼ぶことにする。
K&T(1984 Am.Psy.)は、結果がフレーミングされる方式として次の3つを挙げている:
- minimal account. 選択肢を比較する際、選択肢の差だけを検討する。
- topical account. ありうる選択肢の結果を参照水準と関連づける。参照水準は決定の文脈によって決まる。実世界の多くの決定がこれ。
- comprehensive account. 他のすべての要因を統合する。通常の経済理論が仮定するところの決定。
複数の結果はどのように統合されるか。
プロスペクト理論の価値関数からいえば、効用は以下によって最大化される(hedonic framing)。(1)利得は分離する。(2)損失は統合する。(3)小さな損失は大きな利得と統合する。(4)小さな利得は大きな損失から分離する。[セイラー先生はこのような、問題の外的な捉え方のことをフレーミングと呼んでいて、以下で扱われる内的なeditingと区別している。なおほんとはeditingよりparsingと読んだ方がよいだろうとのこと]
では、同じ原則が心的会計にもあてはまるだろうか。つまり、人は複数の結果を統合する際に、効用を最大化するように編集する(hedonic editing)のだろうか。Fishburn & Luce (1995 Math.Soc.Sci.)などはそう考えたわけだが、実際にはそうでもない。Thaler & Johnson (1990 Manage.Sci)をみよ。[…事例。中略…] 損失回避はプロスペクト理論の価値関数から予想されるよりももっと強い。心的会計には損失の経験を回避するための固有の裁量があるようだ。
心的会計の意思決定
購買においては、製品獲得を利得、支払を損失と符号化しているわけではない。購買には二種類の効用がある。
- 獲得効用。価格と比べた財の価値。経済学でいう消費者余剰みたいなもの。
- 取引効用。実際の支払金額と参照価格の差。
心的会計システムが持っている裁量のひとつは、口座をいつ閉じるかの決定である。[… 事例。面白いんだけど中略…]
[サンクコストと支払償却の話が2p。支払decouplingの話が1p。面倒くさいのでメモ省略。セイラー先生って話が面白すぎて、かえって本筋が頭に入りにくいよ…]
バジェッティング
心的会計のもうひとつの要素としてカテゴリ化がある。
カネはふつう3つの水準で分類される: (1)支出が予算に分類される, (2)財産が口座に分類される、(3)所得がカテゴリに分類される。
支出のカテゴリ化について。
支出を予算カテゴリに分類する目的は2つある。(1)合理的トレードオフを促進するために。(2)自己制御装置として。
分類は、支出のbooking(注意と記憶に依存)とposting(類似性判断に依存)の2段階からなる。
予算は代替可能ではない。[…実験の紹介。中略…]
[自己制御のためにふだんの予算が抑えられていることがギフト購買にどう影響するかというような話。中略]
財産のカテゴリ化について。Shefrin & Thaler (1988)はbehavioral life-cycle modelというのを考えていて… [メモ省略]
所得の分類について。[…中略。面白事例にいささか疲れてきた…]
Choice Bracketing と動的心的会計
先行する結果がリスク下選択に影響する例。「あなたは30ドル勝ちました。次はどっちをえらびますか? (1)50%の確率で9ドル儲かり50%の確率で9ドル損をする」型の問題で、先行する利得がリスク志向性を高める。[…中略…] 連続する試行が自然なbracketになっている。
[損失回避のせいで、単一だったら乗らないような賭けでも、複数の賭けが結合されると乗ってしまう、というような話。近視眼的損失回避という。これはKahneman & Lovallo (1993)いうところのnarrow framingの例である。云々]
[Read & Lowenstein (1995) のdiversification biasの話]
考察
[心的会計は規範的にみてどうなのか、個人の意思決定の改善のために使えるか、的な話題。略]
… やれやれ、疲れた…
結局のところ心的会計とはなんなのか、この論文では厳密な定義を与えていないけど、他のを読めば書いてあるだろうか。心的会計の3つの側面として、結果の符号化、支出・財産・所得の分類、決定評価に際してのbracketing、が挙げられているけど、この3つに尽きるのかという点を知りたい。