読了: Agarwal & Rao(1996) ブランドエクイティを測る調査項目ってどれがいいのか実験してみました

Agarwal, M.K., Rao, V.R. (1996) An empirical comparison of consumer based measures of brand equity. Marketing Letters, 7(3), 237-247.

 消費者ベースのブランド・エクイティ指標の妥当性を調べましたという論文。
 ずっと前に「必ず読むこと」とタグをつけ(たしかケラーの分厚い本で引用されていたのだと思う)、入手を試みたのだが成功しなかった。ところが、このたび調べものをしていてこの論文がreferされているのをみかけ、試しに検索してみたらPDFが一発で見つかった。仕方がないのでざっと目を通すことに。

 いわく。
 ブランド・エクイティ(BE)がいろんな消費者反応変数と結びついているというのは広く主張されている。

  • アーカー先生曰く、BEの消費者における基盤は4つある: ロイヤルティ、ブランド名認知、知覚品質、他のブランドとの関係。
  • ケラー先生曰く、BEをつくるための知識ベース基盤にはブランド認知とブランドイメージの2軸がある。

 アーカー先生もケラー先生もBE推定の間接的指標(ブランドによって付加された価値の測定じゃなくて、BEの源泉を測る奴)をいろいろ提案しておられる。調査会社もいろいろ指標を提案している。Winters(1991 Mktg.Res.)によれば次の6つのアプローチがある。

  • share of mind and esteemの測定。例) Landor Associates. [ブランディングの有名なコンサルっすね]
  • 知覚品質の測定。例) Total Research Corporation. [2001年にHarrisに買われた模様]
  • 購入継続意向の測定。例) Markets Facts. [おお懐かしい名前が。のちのSynovate、現Ipsos]
  • コミットメントレベルの測定。例) Yankelovich Clancy Shulman [よく知らないし調べるのもめんどくさいが、現存しないはず。Clancyというのは後にCopernics Marktingを作ったKevin Clancyではなかろうか。CopernicusもAegisに買われて現存しないと思うけど]
  • 潜在的利益の測定。例) Longman-Moran Analytics [現存しない模様]
  • 認知、好意、知覚品質をすべて測定。例) DDB Needham Worldwide [現在DDB, Omnicom傘下]

 この研究では、効果階層モデルに沿って次の11の指標を選びました。

  • 認知(awareness)。次の2つで測る。M1:非助成想起(2値)。M2: familiarity(6件法)。
  • 知覚と態度。M3:10項目の回答を重要性で加重合計。M4:価値を金額評価(6件法)。M5:品質評価(7件法)。
  • 選好。M6:総合評価(6件法)。M7:ペアワイズ選好データの集計。M8:ブランドペアを提示して、価格をどっちにいくら乗せたら選好が逆転するかを調べる(価格差をブランドのダミー変数に回帰して係数を推定する。個人レベルでも集計レベルでもやる)。
  • 選択意向。M9:買う見込みを100点尺度で。M10:選択モデルで推定[めんどくさいのでちゃんと読んでないが、コンジョイント分析でブランドの効用を推定するんだと思う]。
  • 実際の選択。M11:直近購買。これのほかに実験室で購買を測る。

 というわけで、リサーチ・クエスチョンは次の通り。(1)顧客ベースのBE指標の互いの関係は? (2)実験室での選択を個人レベルで予測できる指標は? (3)市場シェアを集計レベルで予測できる指標は?

 実験やりまーす。
 被験者は学部生114人。カテゴリはキャンディバー。ブランドはMars, Harshey, Nestleの計13個。
 予備調査とかやって13属性を選んだ(全体的おいしさ、チョコレートのおいしさ、ピーナツのおいしさ、とかなんとか)。
 まず調査票に回答。で、テーブルにブランドを並べて選ばせる。[実験室実験っていうから、どんな架空棚を作ったのかと思っただが、意外にしょぼくて笑っちゃった]

 結果を報告するぞ。
 まずは集計レベル。M1(非助成想起率)を除く10指標は互いの相関が高い。実験で得た市場シェアとの相関は、M7(ペアワイズ選好), M8(価格プレミアム), M10(コンジョイント)と正の相関。[M&Mは品質評価は高いのに市場シェアは低かったそうな。へー、アメリカだとそういうブランドなのか]
 個人レベル(M7はなし)。やはりM1を除き互いの相関が高い。実験での選択の予測能は、M8, M10が高い。多項ロジット回帰すると、M5(品質評価), M8, M9(買う見込み), M10あたりが高い。

 考察。非助成想起を別にすればどれもBEを測っている。市場シェアを予測したい実務家のみなさんには、M5, M7, M8, M9, M10あたりがよろしいが、ひとつでは足りないと思いなさい。簡単さも考慮しておすすめすると、M5, M8, M9あたりがよいのではないでしょうか。
 今後の課題: ほかのカテゴリでもやりたいでーす。企業レベル指標との関係も調べてみたいでーす。

 … なんというかその… 学部生相手に実験を一発やりましたという、心なごむ内容であった。世の中の学術研究がみんなこんな感じだったらいいのに。(暑くて頭が煮えてます、いま)