吉田寿夫・村井潤一郎(2021) 心理学研究における重回帰分析の適用に関わる諸問題. 心理学研究.
心理学分野の観察研究における重回帰分析についてのユーザ向け啓蒙論文… なんだけど、2017-2019年の「心理学研究」誌に載った論文を集め、実名を挙げて斬りまくる。ひいいい。こういうの、英語の論文では珍しくないけど、日本語ではかなりレアですよね。
著者らが列挙している、重回帰ユーザたちが犯した過ちについてメモしておく。さあ歯を食いしばれ!
- 変数間の因果関係に関する事前の議論が欠けておる。交絡変数はできるだけ入れとかなきゃいけないのに、こんな交絡変数があるのかもとアドホックに考察しているだけだったり。想定しているのと逆の因果があってはならないんだけど、きちんと考えてなかったり。媒介変数は入れちゃいけないんだけど、入れちゃってたり。
- 因果解釈が安易で一面的である。回答スタイルのような系統誤差のせいで擬似相関(擬似無相関)が起きてそうなのにそのことを考慮してなかったり。質問紙尺度では内省が一般的常識に沿うように歪められている可能性があるのに、考慮されてなかったり。[←吉田「本当に…統計的研究方法の本III」が挙げられている]
- ちょっと話が違うので詳しく述べないが、「ほんとは個人内変動を調べなきゃいけないのに実際には個人間変動を調べてる」問題もある。[←ああ… これはまじで耳が痛いっす]
- 偏回帰係数の数理的な意味についての思慮が欠けておる。偏回帰係数は「当該の独立変数の値が他の独立変数の値のわりにどの程度大きいか」と従属変数との関係を示しているのに、当該の独立変数そのものと従属変数との関係を示すものとして解釈していたり。特にやばいのは、斜交解の因子分析で下位尺度をつくっておいてそれらの得点を重回帰に放り込んでいるケース。それらは共通の成分を持っているわけで、その共通の成分を除いた部分は内容的妥当性に欠けるおそれがある(領域代表性がないから)。
- 説明と予測を混同している。「XはYを予測していた。つまりXはYを促進することが示された」的な記載とか[←あああ…聞こえない聞こえない…]。説明が目的なのにステップワイズ法とかで変数選択してたり。
- 特に意味もなく階層的重回帰をやっておる[←階層回帰のことじゃなくて、変数の順次投入のこと。へええ? 知識不足でちょっとピンとこないんだけど、最近はそういうのが多いんでしょうか。社会学系の論文とかで、投入する共変量が少ないモデルと入れまくったモデルを両方推定して、ある係数がどっちでも有意でした、というようなことをやってるのは時々みかけるけど、これってそういう話かなあ?]
- あいかわらず検定に依存しておる。[ひぃー]
- 同じモデルを群別に推定したとき、片っぽで有意で片っぽで有意でないからと言って群間に差があるとは言えないのに言っちゃっておる。
- 交互作用がありそうなのに考慮しとらん。
- 独立変数の信頼性は一定でないと困るのに(相関が希薄化するから)、そのことを考慮しとらん。
- 「測定値の単位(”1″という差の値)の意味が定かではない多くの心理学的研究においては,通常,標準化されていない(偏)回帰係数に基づく解釈は有用ではなく,この値の記述は不要であるが,この値しか記していない論文[…]や,標準偏回帰係数と併記している論文が散見される」。[←えええ? 併記するのもだめなんすか?]
- 標準偏回帰係数を表す記号が論文間で統一されておらん。
… というわけで、興味深く読了。勉強になりましたですー。