読了:Luce & Tukey (1964) 同時コンジョイント測定

 コンジョイント分析について調べていて、そのご先祖として誰も彼もが頻繁に引用するLuce & Tukey (1964)による歴史的論文を、実は誰も読んでないんじゃないか、という疑念を持った。
 だってさ、どなたの紹介をよんでも、いまいち雲をつかむような感じで、その意義がいまいち腑に落ちないんだもん。だいたい、あの「コンジョイント測定」ってのは、60-70年代に存在した公理的測定理論という超難解な分野の概念であるはずだ。そんなのを理解できる人がそれほど多いとは思えない。そうですよね? そうだといってください。

Luce, R.D., Tukey, J.W. (1964) Simultaneous Conjoint Measurement: A New Type of Fundamental Measurement. Journal of Mathematical Psychology. 1, 1-27.

 びびっていても仕方がないので、原論文をダメモトでめくってみた。もしも読み終えることができたなら、私は日本でも有数の「Luce & Tukeyを読んだ人」になれるのではないかと… 少なくとも私の住んでいる町内では私が第一人者ということになるのではないかと… そう思ったのである。

イントロダクション

 かつてCampbellは加法的測定のある特定の形式について、科学におけるその概念的重要性を強調した。それは以後40年にわたり強い影響力を持った。それは多くの面では健全なことだったが、ある面では過度に制約的だった。この制約を、以下のようないくつかの点で減少させることが重要であろう。

  • 実験誤差をもっと合理的に扱えるようにすること
  • 慣習的に望ましいとされている特性を近似的にしか持たないような測定・尺度をカバーすること
  • 測りたいものの無制約でside-by-sideな組み合わせ以外の操作に基づく、ある種の基本的測定を扱えるようにすること

本論文は3番目の課題に貢献する。

 モノのペアの順序がモノの効果や被験者のモノに対する反応を表している場合について考える。古典的理論とちがい、モノを元素として扱うのではなく、モノは要素の順序付きペアによって適切に記述されるのだと仮定する。たとえば、モノは物理的な物体で、質量と重力ポテンシャルという要素を持っているのかもしれない。モノは単なる音で、エネルギーと周波数という要素を持っているのかもしれない。モノそれ自体やその要素を自然な形で結合できるとは仮定しない。その代わりに、モノは順序付きのペアになっていると仮定する。
 我々が与える公理から、それぞれの種類の量についての、またその同時的な効果についての、間隔尺度上の同時測定が与えられる。多くの状況では、情報か仮定を追加することで、間隔尺度を比率尺度に変換することができる。たとえば、指数変換を用いて加法的表現を乗法的表現へと変換できる。

I. 表現定理
[どうも話の流れが理解できていなくて、適当に端折ることができないので、この節は忠実に逐語訳する]

 仮に \( \circ \)が結合という操作を表しているならば、よく知られているように、Campbellのいう基本量測定[foundamental extensive measurement]は、なんらかの量を「測定」しており、その結合が\( X(A \circ B) = X(A) + X(B) \) でありかつ \(X(A) \leq X(B)\)が\(A \leq B\)と等価であるような、実数関数\( \chi \)が存在する、ということに対応する(ただしその観点から公理化[axiomatize]されているわけではない)。この公理は、たとえばHolder(1901), Suppes(1951)が述べているように、\(A, B, A \circ B\)の「効果」、ないしそれらへの「反応」についての数値的表現が、\(A \circ B\)の効果が\(A\)の効果と\(B\)の効果の合計になり、\(A\)の効果が\(B\)の効果以下であるときそのときに限り\(A\)の数値的な測定が\(B\)のそれ以下である、という性質を持つ状況について記述している。
 コンジョイント測定は、2つのクラスの変数を「測定」しており、\( (A, P) \)の全体的な効果が\( \phi \)によって測定された\(A\)の「効果」と\( \psi \)によって測定された\(B\)の「効果」との和であるような、2つの実数関数 \( \phi, \psi \) が存在する、ということ対応する(ただしその観点から公理化されているわけではない)。従って数値的命題\( \phi(A) + \psi(P) \leq \phi(B) + \psi(Q) \)は言明「(A,P)の効果は(B,Q)の効果以下である」と等価である。結合による測定との並行関係は明確である。

 2つの因子の同時的効果を示す単純な図示法は二元表を使うことである。行は一方の因子の値に対応し、列はもう一方の因子の値に対応し、エントリはそれらが同時に存在することの効果ないしそれへの反応に対応する。コンジョイント測定公理から得られる結論は、我々が効果ないし反応を次のような形で「測定」できるということである。すなわち、

  • (a) セルの観察された順序は、付与された数の自然な順序を保存している。
  • (b)任意のセルの測定は、その行要素の関数とその列要素の関数の和である。
  • (c)それぞれの関数は、間隔測定の正の線形変換を除き一意に決まる。

従って、我々は因子と反応の両方を一挙に測定できる。
 これらの観点から、公理を以下のようにおおまかに記述できるだろう。

  • 第一の公理は、セルの所与の順序は、弱い整合性条件(遷移性を含む)を満たす、ということを述べる。
  • 第二の公理は、2つの因子のそれぞれが十分にextensiveかつfinely gradedであり、その結果所与のセル・行・列について、それと同じ効果を持つ(ないし同じ反応を生む)ような新しいセルを別の行(列)において定義できる、ということを要請する。
  • 第三の公理については後述する。
  • 第四の公理はArchimedian条件である。非ゼロの変化を他の変化とくらべたとき、それが「無限に小さい」ということはない。

第三の公理は以下のように図示できる。行をA, F, B, 列をP, X, Qとする。[ここに図がはいる] 言葉で書くと以下の通りである。AからFへの変化がXからQへの変化より重く、FからBへの変化がPからXへの変化より重いとき、A-F-Bというすべてを結合した変化は、P-X-Qという変化よりも重い。

[うーん、逐語訳してみたけれど、やっぱり話の流れがつかめない… まだコンジョイント測定の公理のあらましを紹介しただけだよね? きちんと記述してさえいないよね?]

II. 加法性への新しい見方
 列の効果と行の効果が加法的であるような反応指標を探すことには実務的利点があるが、そういう歪曲は非倫理的だとか、実証的結果だけではなく根本的な結果[?]に関心を持つべきだといった批判もある。
 結合という観点から公理化された測定の根本的な特徴を受け入れる人にとって、本論文の測定理論はどちらの批判も克服している。なぜなら因子のペアを通じた量的加法性は結合と同じように公理化されているからだ。実際、加法性は尺度を間隔尺度・比尺度へとみちびく公理の観点から公理化可能である。さらに、コンジョイント測定の公理は古典的物理学の諸問題に自然に適用できるし、比尺度の物理量の測定を可能にする。
 行動科学・生物化学など、順序付け可能な効果を生む因子がより有用でより根本的な測定に値する多くの分野において、教訓は明白である。自然な結合操作がないときは、異なる因子の「効果」が加法的になるような形で因子と反応を測定する方法を見つけようとしなければならない。

III. 物理的な例
[略]

IV. 行動的・経済的な例
 物理量と違って行動科学・生物化学において測定したい量は、たいてい自然な結合操作をつくれないので、古典的な公理化のスコープの外にある。しかし、尺度化したい刺激は通常少なくとも二つの区別できる側面を持っている。たとえば、被験者は音をその大きさで順序付けることができるし、音は強度と周波数の両方に依存する。強度と周波数の結合をどう定義したらよいのかわからないが、もし音の大きさの順序付けが我々の公理を満たすなら、音の大きさが強度と周波数で決定されるような形で、強度と周波数と音を測定できる。指数を取って、音の大きさは強度と周波数の積として見ることもできる。被験者による順序付けが我々の公理系を満たすかどうかは実証的な問題である。

 より一般的にいえば、社会科学・行動科学で定義される問題のひとつは、ふたつの独立変数が全体の効果に独立に貢献しているかどうか、である。通常のアプローチでは、変数の値のペアに、効果の順序が保持されるように数値的指標をつけて、加法的な統計的モデルを使って独立性を検定する。もし交互作用がみつかったら、依存性があるのかもしれない、ないし、他の指標なら違う結果になるのかもしれない、ということになる。後者の危険を減らそうとしてよく用いられる変換もあるが、単調変換の無限のファミリーを調べつくすことはできないわけで、明らかに交互作用があるのだと言い切ることもできない。
 我々の結果が示しているのは、我々の公理が満たされる限りは加法的な独立性が存在するのだということである。特に重要な公理はcancellation公理である。cancellation公理は加法的な表現が存在することの必要条件でもあるので、十分な量の順序データが直接に手にはいればそれが成り立つかどうかを調べることができる(その際、数値的な指標は要らない)。

 経済学では、財の組み合わせを通じた効用の「序数的」(間隔的ないし比率的)指標を構築するという古典的な問題がある。組み合わせが2要素のみからなる場合、順序関係と無差別関係はお馴染みの無差別曲線で図示できる。cancellation公理は次のように表現できる。もし二本の無差別曲線を固定したら、二本の無差別曲線に内接する階段上の線を形成できる。この階段線はたくさん作れるが、二つ作ればそれは縦線と横線、横線と縦線の間で交差する。cancellation公理が述べているのは、その交点をひとつおきにつないでいくとはある無差別曲線上に乗っている、ということである。[ひいいい。図で書けばそうなっているのはわかるけど、なぜそれがcancellation公理と呼ばれるのかがわからないいいいい]

V. 有限公理: ordering, solution, cancellation
 まずは3つの公理を構築する。第4の公理(Archimedian公理)はあとで考える。

 \( \mathscr{A} \)を典型的要素\(A, B, C, \ldots, F, G, H, \ldots\)の集合とし、\( \mathscr{P} \)を典型的要素\(P, Q, R, \ldots, X, Y, Z, \ldots\)の集合とする。集合\( \mathscr{A} \times \mathscr{P} \) はペア\( (A, P), (A, Q)\)などの集合である。\( \geq \) をペア間の二値関係とする。

公理1. ordering定理
\( \geq \) は弱順序である。すなわち、

  • 再帰性。全ての\(A, P\)について \( (A,P) \geq (A,P) \)
  • 遷移性。\( (A,P) \geq (B, Q)\)かつ\( (B,Q) \geq (C, R)\)ならば\( (A,P) \geq (C, R)\)
  • 結合性。\( (A,P) \geq (B, Q)\)と\( (B,Q) \geq (A, P)\)のいずれかないし両方が成り立つ。

定義。

  • \((A,P) \geq (B,Q)\)かつ\((B,Q) \geq (A,P)\)のとき、そのときに限り\( (A,P) = (B,Q) \)
  • \((B,Q) \geq (A,P)\)でないとき、そのときに限り\( (A,P) > (B,Q) \)

公理2. solution公理
それぞれの\(A,P,Q\)について、\( (F,P) = (A,Q) \)となる解\(F\)が \( \mathscr{A} \)に存在する。それぞれの\(A,B,P\)について、\( (A,X) = (B,P) \)となる解 \(X\)が\( \mathscr{P} \)に存在する。

公理3. cancellation公理
\( (A,X) \geq (F,Q) \) かつ \( (F,P) \geq (B,X) \)ならば \( (A,P) \geq (B,Q) \)
[待って待って… 反則だけど実例でいこう。A,F,Bを表側とし(キリン、サッポロ、アサヒとしよう)、P,X,Qを表頭とする。「セル(2,3)サッポロ350缶よりセル(1,2)キリン500缶が欲しい」かつ「セル(3,2)アサヒ500缶よりセル(2,1)サッポロ中瓶が欲しい」ならば「セル(3,3)アサヒ350缶よりセル(1,1)キリン中瓶が欲しい」が成り立つ、ということね…。この公理が成り立つということがどのくらい厳しいことなのかがまだピンとこないなあ]

ここから定理です。
定理 [VH]
公理1-3が成り立つならば、任意の\( P \)について\( (A,P) \geq (B,P) \)であるとき、すべての\(X\)について \( (A,X) \geq (B,X) \)である。また、任意の\(A\)について \((A,P) \geq (A,Q)\)であるとき、すべての\(F\)について\( (F,P) \geq (F,Q) \)である。
証明: [略]

定義 [VJ]。公理1-3が成り立つとする。なんらかの\(P\)について (ということはすべての\(P\)について) \((A,P) \geq (B,P) \)であることを \(A \geq B\)とする。\(A \geq B\)かつ\(B \geq A\)のときそのときに限り\(A = B\)とする。\(A > B\)についても同様。\(P \geq Q, P=Q, P > Q\)についても同様。

定理 [VK]
公理1-3が成り立つならば、\( \mathscr{A} \) を通じた \( \geq \), \( \mathscr{P} \)を通じた \( \geq \)はともに弱順序である。

定理 [VL]
公理1-3が成り立つならば、\(A \geq B\)かつ\(P \geq Q\)ならば\( (A,P) \geq (B,Q) \)である。
証明: [略]

VI. DSSとArchimedean公理: 結論
 結合に基づく古典的測定の中心となるのは、算術的なprogressionに対応する強度の標準系列(SS)という概念である。
 ペアの二重無限系列\( \{A_i, P_i\}, i=0, \pm 1, \pm 2, \ldots \)は、整数\(m,n,p,q\)について\(m+n = p+q\)ならば常に\( (A_m, P_m) = (A_p, P_q) \)という関係が成り立つとき、二重標準系列(DSS)であるという。
 もしすべての\(i\)について\(A_i = A_0\)ないし\(P_i = P_0\)ならばDSSはtrivialである。
 公理1-3の元でDSSはfreely constructableである。
 [このくだり、なにかを準備しているんだろうけど、さっぱりわからない…]

 さて、Archimedean公理を導入しよう。
公理4. Archimedean公理
\( \{A_i, P_i\} \)がtrivialでないDSSならば、以下を満たす非ゼロの整数\(n, m\)が存在する。
$$ (A_n, P_n) \geq (B, Q) \geq (A_m, P_m) $$

定理: Archimedean存在定理 
公理1-4のもとで、以下を満たす実数関数\( \phi, \psi \)が存在する。
\( (F,X) \geq (G,Y) \)のときそのときのみ \( \phi(F) + \psi(X) \geq \phi(G) + \psi(Y) \)。
\( F \geq G \)のときそのときのみ \( \phi(F) \geq \phi(G) \)。
\( X \geq Y\) のときそのときのみ\( \psi(X) \geq \psi(Y) \)。
[これでこの節の半分くらいなんだけど、正直いって、延々と自明な話を続けているようにしかみえない…。吉野(1989)によれば、理論構築の上ではこのアルキメデス公理が強力な役割を果たすとのことなのだが…]

[どうやら完全に私の手の届かない話になってしまったので、このへんでストップ。以下、節題名のみメモする]

VII. 結合による測定との関係

VIII. 行動科学公理系との関係 [Debreuの序数効用理論(っていうんでしょうか)との関係、などなど。DebreuってArrow-Debreu証券のドブリューだよね。経済学だ… 怖い…怖いよう…]

IX. 二重標準系列

X. DSSについてのlemma

XI. 実数関数の存在

XII. Archimedean公理とその帰結
—–

 … というわけで、全27ページのうち10ページ目で涙を呑んで断念。町内の第一人者になることにさえ失敗した。
 これはあれだ。こいつを理解するには準備が必要だ。それもかなり抜本的な準備が。たとえば死んで生まれ変わるとか。