読了:野々田・分寺・岡田 (2021) 一対比較で2因子を測定するときの推定方法

野々田聖一, 分寺杏介, 岡田謙介 (2021) 2因子を測定する一対比較型質問紙における推定法. 行動計量学, 48(2), 53-68.

 仕事の都合で延々と一対比較について考えているんだけど(官能評価みたいな古典的場面じゃなくて、むしろ効用の個人差を知りたいような場合の話)、もともとそんなに詳しいわけでも、すごく関心があるわけでもない話題で、正直、ちょっと疲れてきました。
 もっと心安らぐ話はないものだろうか… Web3.0とかさ… 知らんけど…

 たまたま関連する新しい日本語論文をみつけたので読んでみた。日本語論文のメモはブログに載せないことが多いのですが(もし著者の方々に見つかっちゃったら恥ずかしいから)、なにぶんにも初学者のことでございますので、どうかお目こぼし頂きたく。

 ここでは一対比較で提示される各項目の潜在効用のことを因子といってるんじゃなくて、こないだ読んだBurkner et al.(2019)みたく、さらにその裏にあるもっと少数の因子のことを指している。心理学の研究では、ビッグファイブのうち2つを測るとか、正の情動と負の情動を測るというような、2因子の測定の際にも一対比較を使うことがあるのだそうで、そういうときのThurstonian IRTモデルの識別についての論文である。

1. 問題と目的
 Thurstonian IRTモデルの識別性条件は、因子数3以上の場合についてはMaydeu-Orivares & Bockenholt (2005) をみるといいけど、因子数2のときにはうまくいかない (Brown & Maydeu-Olivares, 2011 Edu.Psych.Measurement をみよ)。いや、一対比較で2因子を測定したいってこともあるんです。
 [えええ? まじっすか。心理学の論文がいくつかreferされている… Burknerさんらは5因子でも少なすぎるって云うてはったのに…]
 本研究は2因子の一対比較で、各項目を複数回訊ねることで識別するという方法を提案する。

2. モデル
 すべての項目ペアで、項目1が因子1を測定し項目2が因子2を測定しているとする。回答者\(i\)の項目\(j\)に対する効用を$$ t_{ij} = \mu_j + \lambda_j \theta_{i1} + \epsilon_{ij} $$ $$ \epsilon \sim N(0, \psi^2) $$ とする。
 ペア\(l\)に対する選択を二値変数\(y_{il}\)で表し、効用差\( y^*_{il} = t_{ij} – t_{ik}\)が0より大のときそのときに限り\(y_{il} = 1\)とする。項目反応関数は、回答者の特性を\( \mathbf{\theta}_i = (\theta_{i1} \ \theta_{i2})^\top \)、\(\gamma_t = \mu_j – \mu_k\) [集団レベル効用の差というより、項目固有切片の差ね], 標準正規累積関数を\( \Phi(\cdot) \)として $$ P(y_{il} = 1 | \mathbf{\theta}_i) = \Phi \left( \frac{\gamma_t + \lambda_j \theta_{i1} – \lambda_k \theta_{i2}}{\sqrt{\psi^2_j + \psi^2_k}} \right) $$ である。推定したいのは\( \mathbf{\theta}_i \)である。
 さて、効用差は$$ y^*_{il} = \gamma_l + (\lambda_j \ \lambda_k) \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array} \right) \left(\begin{array}{c} \theta_{i1} \\ \theta_{i2} \end{array} \right) + (\epsilon_{ij} – \epsilon_{ik}) $$ と書ける。この\((\lambda_j \ \lambda_k)\)を全ペアについて縦に積んだのが因子負荷行列\(\Lambda\)である。[ああ、なるほど… 一対比較をCFAとしてみるときの因子負荷行列とは一対比較の計画行列のことだけど、ここでいっているのはそうじゃなくて、その先に仮定される、項目の識別性みたいなやつのことなのか]

 識別のためには\(\mu\)と\(\lambda\)と\(\psi^2\)に制約が要る。因子数2の場合、すべてのペアが両方の因子に負荷を持っている、つまり2因子EFAみたいになっちゃってる。回転の不定性があるわけだ。さあどうするか。
 ご提案です。各項目を2回使いましょう。もちろん相手は変える。相手が変わっても負荷は同じだと仮定する。すると\(\Lambda\)に項目個数の等値制約が置かれることになり、回転の不定性は解決できる。

 [シミュレーションが2つ。対抗馬は最初のペアの因子負荷を真値に固定する方法である。メモは省略するが、因子負荷がすべて正だとどっちみちうまく推定できないんだそうな。そりゃそうだろうな…]

 [実データ解析。すいません、読まずにとばしました]

6. 総合考察
 シミュレーションによれば、因子負荷に正負が混在していれば真値固定法と同程度に推定できる模様。
 提案手法だとペア数が二倍になっちゃうんだけど、リッカート評定だって一対比較の二倍なんだから、別にいいんじゃないでしょうか。[いやー、認知負荷からいうと、同じ設問数なら一対比較のほうが大変じゃないかと思いますけど… まあそれはそれという話であろう]

 今後の問題:

  • ペアの相手が変わっても負荷は同じといえるか。
  • 推定の精度は低いし逆転項目がないとうまくいかない。反応時間とかと組み合わせて精度改善できるかも。
  • 全部2回使うんじゃなくて、全部3回とか、一部のみ複数回とかはどうか。

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 勉強になりましたです… こういう論文が日本語で読めるというのは本当にありがたいことだ。