読了:Chessa & Murre (2007) ブランド認知と広告の動的関係を長期記憶の数理モデルで説明してご覧に入れよう

Chessa, A.G., Murre, J.M.J. (2007) A Neurocognitive Model of Advertisement Content and Brand Name Recall. Marketing Science, 26(1),130-141.

 仕事の都合で読んだ奴。 メモは別のところで取ったので省略。

 いや、これは面白かった。掲載誌はマーケティング分野だが、著者らはオランダの心理学者。第二著者が長期記憶の数理モデルを開発している。貯蔵が2つあって、記憶痕跡の強度がそれぞれ指数減衰するんだけど、2つめのほうが減衰率が小さく、ある確率でリハーサルが起きて貯蔵1の記憶が貯蔵2に移る、というの。ああ懐かしのアトキンソン-シフリン。二重貯蔵モデルってやつですね。ここでは短期記憶と長期記憶じゃなくて、両方長期記憶なんだけど。
 で、第二著者はこれをひっさげて、健忘とかレミニセンス・バンプとか(←自伝的記憶の有名な現象の名前。十数年ぶりに目にしたぜ)、なんかそういうのを説明して回っているらしい。知らんけど。有名な方なんですかね?そうでもないんですかね?
 で、このたびは広告の記憶についても説明して見せましょう、という論文である。

 こういうことをいうと失礼かもしれないけど、累積レベルの社会現象(ここでは広告出稿とブランド認知率の動的関係)を、個人レベルのモデル(長期記憶の数理モデル)でそのまま説明しちゃうというのは、かなり牧歌的というか、ナイーブなアプローチだと思う次第である。だって個人には異質性というものがあるでしょう。累積レベルの関数と個人レベルの関数は挙動がちがう。マーケティング分野では特にそうであろう。たまたま市場調査の会社にお世話になって数年後に気がついたんだけど、この分野の人はみんな消費者間異質性で飯を食っているようなものなのである。
 ところがその一方で、基礎分野の研究者がこういうナイーブなアプローチで突っ込んできて、異質性を無視したままで現象をなんだかいいかんじに説明しちゃって、こうしてトップジャーナルに載っちゃう、ということが、21世紀に起きるわけである。そういう余地がまだある、ということでもある。そこんところがすごく面白かった。