読了: An & Ayala (1996) 環境評価法における支払意思額の混合分布モデル

An, Y., Ayala, R.A. (1996) A mixture model of willingness to pay distributions. SSRN.

 ちょっと訳あってパラパラめくった奴。記録のために読了としておくが、真面目に読んだわけではない。

 いわく、
 公共財の価値を仮想評価法(CV)で測るとき、WTPの分布は二峰になることが多い[なるほど、そらそうだろうね]。そこで、WTPがゼロになる可能性を組み込んだ混合モデルを組む。なお、ゼロっていうのは測定のトランケーションでもいいし、ほんとに関心がないという反応であってもいい。

 CVではDBDC(double bounded dichotomous choice)という方法が良く用いられている。まずある金額を見せてyes/noを訊き、noだったらもうちょい低い金額、yesだったらもうちょい高い金額を見せてyes/noを訊く。[へー]
 対象者を\(i\)、最初の提示金額を\(B_i\)、2個目の提示金額を\(B^H_i, B^L_i\)とする[原文では\(H, L\)は下添字だが書き直した]。回答がno-noなら\(WTP_i \lt B^L_i\)、no-yesなら\(B^L_i \leq WTP_i \lt B_i\)、yes-noなら\(B_i \leq WTP_i \lt B^H_i\)、yes-yesなら\(B^H_i \leq WTP_i\)である。順にダミー変数\(D^1_i, D^2_i, D^3_i, D^4_i\)で表す。その確率を\(P^1_i, P^2_i, P^3_i, P^4_i\)とする。
 WTPの累積分布関数を\(F(x; \theta)\)と書く。たとえば\(P^1_i = F(B^L_i; \theta)\)である[おっと、パラメータは共通なのね]。標本対数尤度は$$ l(\theta) = \sum_i^N \sum_j^4 D^j_i \log P^j_i $$ となる。
 WTPの分布が決まれば、平均とか分位点とかを最尤推定できる。

 真のWTPの累積分布関数を下式のように仮定する。$$ G(x; \rho, \theta) = \begin{cases} 0 & \mathrm{if} \ x \lt 0 \\ \rho & \mathrm{if} \ x = 0 \\ \rho + (1-\rho) F(x; \theta) & \mathrm{if} \ x \gt 0 \end{cases} $$ すると標本対数尤度は$$ l_1(\rho, \theta) = \sum_i^N \sum_j^4 D^j_i \log(\rho+(1-\rho)P^j_i) $$ となる。これをPIC(partial information case)と呼ぼう。最尤推定量を\(\hat{\rho}_1, \hat{\theta}_1\)とする。その漸近分散共分散行列を\(V_1\)とする。
 ところで、no-noの対象者に「そもそもあなた払う気ある?」と追加で訊ねる場合もある。no-no-noを表すダミー変数を\(D^0_i\)として、標本対数尤度は$$ l_2(\rho, \theta) = \sum_i^n D^0_i \log \rho + (D^1_i – D^0_i) \log ( (1-\rho)P^1_i) + \sum_{j=2}^4 D^j_i \log((1-\rho) P^j_i) $$ となる。これをFIC(full information case)と呼ぼう。最尤推定量を\(\hat{\rho}_2, \hat{\theta}_2\)とする。その漸近分散共分散行列を\(V_2\)とする。

 理論的に、以下を証明できる。[証明が書いてあるけど、もちろん読んでない]

  • PICの場合、\(\rho\)を識別し一致推定できる。
  • FICの場合、\(\hat{\rho}_2\)はno-no-no対象者の割合となり\(\hat{\theta}_2\)とは無相関になる。\(N\hat{\rho}_2\)はパラメータ\((N, \rho)\)の二項分布に従い、\(E(\hat{\rho}_2) = \rho, Var(\hat{\rho}_2) = \frac{1}{N} \rho(1-\rho)\)となる。
  • \(V_1 – V_2\)は半正定値行列にある。

 推定について。WTPの平均の最尤推定量を\(\hat{\mu}_1\)、中央値の最尤推定量を\(\hat{m}_1\)という風に書く。添え字は、0が伝統的なモデル(つまり混合モデルではない)、1がPICの混合モデル, 2がFICの混合モデルとする。
 以下を証明できる。

  • \(\rho \neq 0\)のとき、(1)\(\hat{\mu}_0, \hat{m}_0\)は一致推定量でない。[そりゃそうだろうな] (2)\(\hat{\mu}_1, \hat{m}_1\) は一致推定量。(3)\(\hat{\mu}_2, \hat{m}_2\)も一致推定量で、\(\hat{\mu}_1, \hat{m}_1\)より漸近的に有効。

 \(H_0: \rho = 0\)について片側t検定で検定することもできる。
 共変量があったら… [パス]
 たとえばWTPがワイブル分布に従うと仮定したときはどうなるかというと…[パス]

 データ例。オーストラリアのKakadu国立公園にある保存ゾーンにおける採掘の環境的ダメージを防止することへのWTP, カルフォルニアのSan Joaquinバレーの野生生物を守ることへのWTP。[パス]
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 実はこの論文の内容には何の関心もなくて(ごめんなさい)、CVMの分野ではWTPについてどんな分布を仮定するんだろうか、という興味からパラパラめくってみた次第である。データ例ではワイブル分布を仮定しているようだが、なぜそうなのかは書いてない模様。一般的にそうするもんなのか、たまたまそうしただけなのかもよくわからない。
 モデル自体はただの混合分布で、別に面白くもなんともないんだけど、CVMって全然知らないので勉強になった。