読了: Jiang, Adaval, Steinhart, & Wyer (2014) 製品やサービスについて広告なり説明なりを示すとき、消費者が消費経験をなんのために想像するかによって心的処理が変わるし、広告・説明の良し悪しも変わる

Jiang, Y., Adaval, R., Steinhart, Y., Wyer, R.S. (2014) Imagining yourself in the scene: The interactive effects of goal-driven self-imagery and visual perspectives on consumer behavior. Journal of Consumer Research, 41, 418-435.

これも仕事の都合で読んだやつ。消費者行動の文脈でのメンタル・シミュレーションの実験研究である。ひとくちに自己関連的メンタル・シミュレーションといっても、それには目標ってものがあるでしょう? という面白い切り口。

(イントロダクション)
 「想像する」という言葉には、架空の状況について考慮するという意味も、心的イメージをつくるという意味もある。Moulton & Kosslyn (2009, Philosophical Transactions)いわく、それももっともなことで、架空の状況について考えて問題を解決したり、物語ったり、予測したり、過去を再構成したりするためには心像(imagery)が機能的な役割を果たす。そもそも心像が実在するのかというのは長く論争の種だったが[Pylyshynらが挙げられている]、最近の認知神経科学の研究に基づけば心像の実在性は確かであり、議論の焦点は心像の機能に移っている。

 本研究は、自己心像(ある場面における自分を想像すること)に焦点を当てる。
 消費者研究では、消費者に経験を想像させるという研究がなされている。そこには、製品との想像上の相互作用が説得の戦略となるという暗黙の想定がある。調整変数としては、心像が基づく情報のタイプとか、イメージの生成しやすさとか、自己の関与とかが指摘されている。しかし自己心像に関わるときの消費者の目標については研究が少ない。

 消費者が自己心像に関わるときの目標として次の2つがある。(1)消費経験の物語の構築。(2)その経験についての情報収集。
 (1)では複数のイメージのあいだでの関連付けが起きるが(2)では起きない。対象者に複数の写真を見せたとき、その写真の視点が多様だと、(1)は困難になるが(2)はならないだろう。

心像: 機能的にみると
 [2ページ以上にわたって縷々書いているけれど、上記の要約に尽きる]

実験1. 目標駆動的心像と視点
 刺激: リゾートホテルの外景写真8枚、内景写真4枚を4枚づつ組み合わせて広告をつくる。非類似広告2枚(ある広告内の写真はすべて外景ないしすべて内景)、類似広告2枚(4枚中2枚が外景)。非類似広告2枚を見た人と類似広告2枚を見た人では結局同一の8枚の写真をみていることになる。
 対象者: MTurkの808人。
 手続き: 教示。課題を教示して広告2枚を提示。ホテルを評価(2項目、9件法)。メンタルイメージを形成した程度を評価(9件法)、自己関連イメージを生成した程度を評価(9件法)。
 目的変数: ホテルの評価。
 要因: 3つ。(1)教示(被験者間3水準): {自己心像生成, 一般的心像生成、なし} (2)広告(被験者間2水準):{類似, 非類似} (3)課題(被験者間2水準): {物語構築, 情報獲得, 目標なし(単に広告をみる)}。
 結果: ホテルの評価は、自己心像生成>一般的心像生成>なし。自己心像生成+物語構築のとき類似>非類似、自己心像生成+情報獲得のとき非類似>類似。ほかの条件では差がない。
 考察: 目標が物語構築だと異なる視点で評価が下がり、目標が情報獲得だと異なる視点で評価が上がる。[処理が困難だから評価が下がったのだという理屈であろう]

実験2. 媒介変数としての想像の困難さ
 目的: (1)物語構築時に複数視点の広告は処理が難しいから評価が下がったのだ、という説明の証拠を示す。(2)目標が単なる評価であるときについて検討(物語構築と同様に、複数視点広告で評価が下がるだろう)。
 対象者: MTurkの331人。
 手続き: 課題を教示して広告1枚を提示。ホテルを評価。広告の情報性、想像の困難さを評価(それぞれ9件法)。
 目的変数: ホテルの評価。
 要因: 2つ。(1)広告(被験者間2水準): {類似, 非類似}。水準内でも広告は2種類あるんだけど、潰して分析する。(2)課題(被験者間3水準): 自己心像をつくって{物語構築、情報獲得、ホテル評価}。
 結果: ホテルの評価は、物語構築ないしホテル評価のとき類似>非類似、情報獲得のとき非類似>類似。媒介分析では、広告→ホテル評価のパスについて、物語構築ないしホテル評価では困難さが媒介変数、情報獲得では情報性が媒介変数であった。
 考察: 想像の困難さを目的変数にすると、広告の主効果はあったけど広告x課題の交互作用はなかった。これは想像の困難さが回顧的指標だからではないか。[理屈から言えば、物語構築ないしホテル評価で非類似広告だと情報統合が必要なぶんだけ想像困難になるはずだ、ということね]

実験3. 統合の難しさについてのアイ・トラッキングによる証拠
 [面白そうな話ではあるけれど、どんな話になるのか筋が読める気がするし、いま時間がないのでパス]

実験4. 基盤となる表象形式についての証拠
 目的: 目標によって作られる表象がちがうのだ、という直接的証拠を示す。物語構築の場合は単一の系列的表象がつくられるが、情報獲得の場合はそうでない。
 刺激: リゾートホテルの内景写真12枚、外景写真12枚の計24枚を並べて、TV CF風のスライドショーをつくる。内景と外景ががんがん切り替わる奴(高頻度シフト)と、あまり切り替わらない奴(低頻度シフト)を用意。
 対象者: 学生146人。
 手続き: 課題を教示してスライドショーを提示。40枚の写真を示して再認判断(うち24枚が目標刺激)。
 目的変数: 目標刺激の再認。
 要因: 3つ。(1)広告(被験者間2水準): {高頻度シフト, 低頻度シフト}。(2)課題(被験者間2水準): {物語構築, 情報獲得}。(3)視点(被験者内2水準): {学習時にその写真の前で視点切り替えがあった, なかった}。
 結果: 物語構築では視点切り替えがあった刺激で再認が低いが、情報獲得では差なし。

一般的考察
 […]
 本研究では刺激についての(説明文のない)写真の処理について調べたけれど、説明文の処理に対しても同じ示唆を持つだろう。その意味で本研究は物語的心像の認知心理学的研究のひとつである。本研究は、異なる視点からイベントモデルが構築される時、それらを結びつけるより大きなエピソードモデルを作ることが困難になるということを示唆している。
 本研究は場面再認の研究にも示唆を持つ。[….]
 
 実務的な示唆について。マーケターは複数視点からの製品写真がより豊かな情報を伝えると考えがちだが、そうではない。自己心像をつくらせたいのか、一般的心像を作らせたいのかを考えるべし。
 云々。
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 またもや、消費者行動論の皮をかぶったガチの心理実験で、俺なにやってんだ、この忙しいのに… と思いながら目を通した。
 この研究が示しているのは、考えようによってはわりかし当たり前の話だと思う。たとえば食べログの飲食店の写真ページで、料理と内装と外観がランダムに混在した形で提示されていたら、それはちょっとわかりにくいし、飲食店の利用意向も下がるだろう。しかし「なんでもいいからこの飲食店についての情報を少しでも獲得するぞ」といういささか特殊な目標の下では、写真が混在してても気にならないでしょうね。こういう「いわれてみりゃそうだね」ということをきちんと示すというのは、実証研究のひとつの徳というものであろう。
 テクニカルには実験4が面白かった。再認課題をやるとは思わなかったな。

 自分の関心にひきつけていうと、製品・サービス評価における(リサーチの文脈での)メンタル・シミュレーションは、実購買時に生じるであろうメンタル・シミュレーションと似た目標を持たないといけない、ということになるな。ってことは、実購買時の想像がどのくらい自己関連的なのか、そしてメンタル・シミュレーションが生じるとしたらそれはなんのためなのかについての理解が必要になるわけだ。うーむ。いうのは簡単だけどさ。