読了: Shaw, Wild, & Colquitt (2003) 組織における説明の効果のメタ分析

Shaw, J.C., Wild, E., & Colquitt, J.A. (2003) To justify or excuse? A meta-analytic review of the effects of explanations. Journal of Applied Psychology, 88(3), 444-458.

 ちょっと都合があって読んだ論文。説明の効果についてのメタ分析。タイトルからもっと認知心理学的な話を予想していたのだが、組織研究の文脈での話である。レイオフのニュースが流れて社内がざわついているときに経営陣がきちんと説明することの効果、みたいな話であろう。
 google様いわく、被引用件数636件。おおお、意外に多いな。

1. イントロダクション
 多くの組織が、説明が求められたときにその説明に失敗している。Folger & Skarilick(2001)いわく、悪いニュースが生じたとき、管理職は従業員から距離を置く傾向があり、そのせいで説明に失敗する。
 適切な説明が組織にもたらす効果についての研究は多い。しかし以下の3点が欠けている。

  • 説明の効果のサイズについての知見が一致していない。
  • 説明のタイプによる違いがあきらかでない。
  • 説明の効果を規定する要因についての研究が足りない。

本研究では説明についての研究のメタ分析的レビューを行う。

2. 説明研究の概観
 説明に学術的関心が向けられるようになったのは、Scott & Lyman(1968 Am.SociologicalRev.)による分類の役割が大きい。彼らによれば、説明は言い訳と正当化に分かれる。

  • 言い訳: 意思決定者が自分の行為が不適切ないし望ましくないものであったことをを認めつつ、なんらかの外的原因を引き合いに出して完全な責任を負うのを拒否しようとするタイプの説明。
  • 正当化: 意思決定者が完全な責任を認めつつ、なんらかの上位目標の実行を理由として、その行為が不適切であったことを拒否しようとするタイプの説明。

その後、この分類の精緻化の提案がなされた。

  • Schlenker(1980): 言い訳は予測できなかった結果や情状酌量すべき状況を指示する。正当化は高次目標や社会的比較を引き合いに出す。
  • Tedeschi & Reiss (1981): 言い訳は意図・計画・能力・意図性がなかったことを指示する。正当化はより高次な権威・イデオロギー・社会規範に訴える。
  • Bies(1987b)ほか: 言い訳を「因果的説明」、正当化を「イデオロギー的説明」と呼ぼう。

 いっぽうBies & Moag(1986)は、allocationの意思決定[資源配分ってこと?]を次の3つの出来事の系列として捉えた。(1)ある手続きに従うこと。(2)配分者と受け手の間の相互作用。(3)結果の配分。ここでは組織内正義における対人的コミュニケーション過程に注目することが提唱されている。で、彼らは相互作用の段階におけるfairnessを促進する原理を挙げているのだが、そのひとつが適切な説明の提供であった。この研究意向、説明の適切性だけではなくて説明の提供が注目されるようになった。
 説明は、決定の結果の知覚されたfairness(分配的正義)と、意思決定過程の知覚されたfairness(手続き的正義)の両方の予測子となる。

 説明の提供と、意思決定に対するより一般的な反応(協力性とか報復とか)との関係に注目する研究もある。たとえば…[面白いんだけど、いまあんまり関心ないのでメモ省略]
 説明と撤退反応(離職とか)との関係についての研究もあって… [メモ省略]

3. fairness理論の適用
 説明の効果についての理論やフレームワークとしては、帰属理論とか、結果と手続きの相互作用についての研究とか、相互作用的正義についての研究とかもあるけれど、ひとつの枠組みで全部を説明できるのはただ一つ、Floger & Cropanzano (1998)のfairness理論だけである。[以下、いちいち半角英字に切り替えるのが面倒なので「フェアネス理論」と訳すが、良い訳語なのかどうかわからない。心理学で公平理論といえばアダムスのequity theoryの定訳だと思うので、「公平」とは違う訳語が必要だと思うんですよね。これ、定訳はあるのだろうか? この理論自体はたぶん有名なやつだと思うのだが… どなたが「組織公正研究の第四の波」と呼んでいて、どの分野にもいろいろ波風があって大変だなあと思った覚えがある]
 フェアネス理論いわく、人は現実に起きたことと起こりえたこととを比べ、それを通じてblameをアサインする。つまり、反事実についてのメンタル・シミュレーションをやるわけだ。反事実には3種類ある。

  • could反事実。意思決定者がやったこととなにができたかとを比べ、もしもっと別のことができていたならばblameをアサインする。
  • should反事実。意思決定者がやったこととなにをすべきだったかを比べる。
  • would反事実。(意思決定者じゃなくて)自分のいまのwell-beingと、ありえた別の状態とを比べる。

 フェアネス理論は説明のベネフィットについてうまく記述できる。言い訳はcould反事実を、正当化はshould反事実を非活性化する。というわけで:

  • 仮説1. 説明の提供は、手続き的・分配的正義と協力・報復・撤退反応に対してよい影響を持つ。
  • 仮説2. 説明の適切性は、手続き的・分配的正義と協力・報復・撤退反応に対してよい影響を持つ。

4. 説明効果の調整変数
 調整変数を見つけるのは理論的にも実務的にも大事だ。[…中略…]
 というわけで、フェアネス理論に基づき3つの調整変数を挙げよう。

4.1 説明のタイプ
[…言い訳と正当化のちがい。何本かの研究をレビューしているんだけど、なんだかめんどくさくなってきちゃったので読まずに飛ばした…] というわけで、

  • 仮説3. 説明は、正当化の形式より言い訳の形式をとった時のほうが、より良い効果を持つ。

4.2 結果の望ましさ
[すいません、読まずに飛ばしました…] というわけで、

  • 仮説4. 説明は、結果の望ましさが変動しているときよりも、低いときのほうが、より良い効果を持つ。[メタ分析に際しての仮説なので、結果が一貫してネガティブであるような意思決定に注目した研究では説明の効果は低めに出るでしょう、という話ではないかと思う。知らんけど]

4.3 文脈
[読まずにスキップ…] というわけで、

  • 仮説4. 説明は、操作的・関係的・道徳的価値へのインパクトが低い文脈よりも高い文脈のほうがより良い効果を持つ。[どういう意味かわからんが、まあいいや]

5. 方法
[すいません、まるごとスキップ]

6. 結果
[スキップ。すごく短いけどな]

7. 考察
 メタ分析の結果はフェアネス理論による仮説を支持した。フェアネス理論は意思決定への反応についての統一的理論として有用であろう。

7.1 説明の全体的効果
 […中略…]
 メタ分析では、説明の提供よりも説明の適切性のほうが良い効果がある、という予想していなかった発見があった。不適切な説明は説明しないことよりもアンフェアだということになる。could反事実・should反事実に対するベネフィットの具現化がなされず、また説明の不適切さ自体が倫理的規準を犯すからであろう。

7.2 説明の効果の限界条件
 [めんどくさいのでスキップしたけど、今後の課題のところで、プロセスに注目するのならいっそプロトコル分析をやればいいんじゃないかというようなことが書いてあった。そうそう、俺もそう思った]

7.3 実務的インプリケーション
 組織は辛い状況下でこそそれに正面から向き合い説明すべきだ。云々。
——————
 先行研究概観とフェアネス理論の説明が終わった時点で関心をなくしてしまい、ぱらぱらめくるだけになってしまった。残念だけど、うん、まあ、しょうがないね。時間も体力もないし。
 意思決定の説明に関する言い訳と正当化というタイポロジーは、社会科学的には大事なのかもしれないけれど、いま自分が関心を持っている現象(購買意思決定)においては別にどうでもいいような気がしてきた。別の分類を考えたほうが良いような気がする。
 それはともかく、フェアネス理論って面白いっすね。人は反事実をメンタルシミュレーションする、反事実には3種類ある、というところで「おおおお」と思った。なにか気楽に読める解説はないかしらん。