Ulu, C., Honhon, D., Alptekinoglu, A. (2012) Learning consumer tastes through dynamic assortments. Operations Research, 60(4), 833-849.
研究会でお世話になっている経済学の先生が面白がっておられたので、ダメモトで読んでみた論文。
自分が決めた品揃えの下での売上を観察することを通じて消費者の選好を推測し、長期的な利益を最大化しようとするメーカーだか小売だかの最適品揃えモデルを提案している研究。数値例は出すけど、実証研究ではない。
google様いわく、被引用件数82。どうなんだろう、掲載誌に照らせば、それほど多くも少なくもないって感じかな。
1. イントロダクション
本論文では、小売がいろんな品揃えを試して売上を観察しそれを通じて消費者の選好を学ぶときの、品揃え計画の決定について研究する。
製品がある属性だけに関して水平的に差別化されている製品カテゴリを考える。ホテリング風の位置選択モデルを用い、消費者の好みを位置として表現し、小売の情報収集と信念更新をベイジアンの枠組みでモデル化する。
この問題は探索と活用の古典的トレードオフを表している。品揃えを豊富にすれば消費者の好みについての情報が豊かになるけど短期的な利益は下がる。
本モデルでは、製品ポジショニングと消費者の代替行動との関係を明示的に分析できる。[… というようなセールストークが続くが、いまんとこ何言ってんだかわかんないのでメモ省略]
本論文では、まず学習が起きない一期の問題について検討する。消費者の好みの分布が既知の時の最適品揃え決定という問題である。次に、消費者の好みについての情報が品揃え計画に影響する有限期の問題について検討する。次の2つのシナリオを考える。
- 打ち切りなし情報の場合。つまり、企業が個々の消費者がもっとも好む製品を知ることができる場合。
- 打ち切りあり情報の場合。つまり、企業が個々の製品の売上だけを観察できる場合。[ああそうか、censoredと言っている意味がわかってきた。消費者は理想製品でないものも代替的に買うので、所与の品揃えの下での選択行動だけでは消費者の選好がわかんない、ということを指しているのね。生存データ分析でいうところのcensoringとは意味合いが違いそうだ。打ち切りと訳すのはあまりよくないかも]
企業は市場サイズについても知ることができない。まずは各期の最後に市場サイズを観察できるというモデルを考え、観察できないモデルへと拡張する。
打ち切りなしの場合、最適品揃えは直近の利益を最大化する近視眼的な品揃えだが、打ち切りありの場合は利益と消費者選好の情報の両方を追うことになる。
本研究の主要な結果:打ち切りありの場合の最適品揃えは、打ち切りなしの場合よりも情報性が低くはならない。
[…中略…]
[ここからいきなり先行研究概観がはじまる。章立てしてほしいなあ]
静的品揃え計画についてはKok et al.(2009 Chap.)のレビューを参照のこと。ここでは動的計画について概観する。
- Caldentey & Caro (2010 Working Paper): 消費者選好の変化を確率過程としてモデル化。品揃えをリスキーな商品とリスクフリーな商品の組み合わせとして表現。メニュー表示の長期的価値を最大化させる。
- Caro & Martinez-de-Albeniz (2012 Mgmt.Sci.): 複数の競合する小売でバラエティ・シーキングする消費者のモデル。品揃えを速く変更する小売に予算シェアを多く割く。
- Bernstein et al.(2001 Working Paper): 買い置きに依存した品揃えのカスタマイズ。
- Caro & Gallien (2007 Mgmt.Sci.): 企業が消費者選好を学習するモデル。探索-活用トレードオフ下での動的インデクス政策を閉形式で得ている。ベイジアン学習アプローチ。
- Saure & Zeevi (2011 Working Paper): 企業が消費者選好を学習するモデル。消費者の選択を一般的ランダム効用モデルで表現し、探索-活用トレードオフ下での動的政策を得ている。適応学習アプローチ。
- Rusmevichientong et al. (2010 OR): 多項ロジット選択の下での動的品揃え最適化アルゴリズムで需要学習。適応学習アプローチ。
というわけで、企業の消費者選好の学習を扱う動的品揃え研究はこれまでもあったんだけど、消費者選択を累積レベルで捉えていたり、属性空間を明示的にモデル化してなかったりであった。
品揃え計画研究に対する本研究の貢献は以下の3点。
- 売上を通じて企業が得られる消費者の好みの情報は代替行動によって打ち切りを受けているということ、企業は得られる情報の質を動的品揃えでコントロールできるということを示す。
- 最適品揃えの構造と、探索-活用トレードオフの性質についての洞察。先行研究は良い政策を示したが、本研究では最適政策を示しているという点が特徴。[…本論を読む前にメモしていても全然面白くないのでばっさり中略…]
- ニュースベンダー問題のベイジアン学習モデルと品揃え問題のモデルとの類似性を示す。[…中略…]
[論文の構成。メモ省略]
[途中でわけがわからなくなったので、これから出てくる記号のリストをつくった。
消費者の位置\(y_j\), 消費者の確率分布\(\theta_j\)(未知の時は\(\tilde{\theta}_j\), その事前分布\(\pi(\theta)\))。
単位期間来店者数\(\tilde{m}\),その期待値\(\mu\)。
製品の位置\(x_i\), 製品の価格\(p_i\), 製品の効用\(U(y_j, x_i, p_i)\), その製品を買う人の範囲(市場セグメント) \(a_i\), 製品の売上\(\tilde{D}_i(a_i(\mathbf{x}, \mathbf{p}))\)。
来店客の位置がわかる場合(打ち切りがない場合)、位置\(j\)の消費者の来店客数\(T_j\), \(\theta, m\)の尤度関数\(L^u(\mathbf{T}|\theta, m)\), \(\theta\)の事後分布\(\Pi^u(\theta; \pi, \mathbf{T}, m)\)。わからない場合(打ち切りがある場合)、\(\theta, m\)の尤度関数\(L^c(\mathbf{T}|\theta, m, \mathbf{a})\), \(\theta\)の事後分布\(\Pi^c(\theta; \pi, \mathbf{T}, m, \mathbf{a})\)。
企業の期待利益\(r(\mathbf{x}, \mathbf{p}, \theta)\)。残り\(t\)期の時点での価値関数は、打ち切りなしなら\(v^u_t(\pi)\), 打ち切りありなら\(v^c_t(\pi)\)。]
2. 消費者選択モデル
属性空間を実数の凸集合 \(\Omega\)とする。この製品はある単一の好み属性で表現され、\(\Omega\)の一要素となる。これを製品の位置と呼ぶ。この属性は基数尺度で測定できるものとする。
[さあ深呼吸。日頃考えたこともないような設定だ。製品の属性は一つしかなくて、それは値段じゃないけど量的なわけよ。脂肪分とかそういうの。で、ある製品の水準のことを位置と呼んでいるわけだ。うん、一次元の製品空間を考えればいいのね、わかったよ]
消費者は位置\(x_i \in \Omega\), 価格\(p_i\)を持つ\(n\)個の製品から選択する。消費者が\(N (\lt \infty)\)タイプいて、個々のタイプは(価格を別にしたときの)理想製品\(y_j \in \Omega\)を持っている。これを消費者の位置とか好みと呼ぶ。あらかじめ\(y_1 \lt y_2 \lt \cdots \lt y_N\)と並べておく。
Lancasterモデルや後続するモデルとは異なり、このモデルでは \(Y = (y_1, \cdots, y_N)\)は有限可算集合であって、一様分布だという仮定はない。
[ひいい。理想点型PREFMAPの一次元版を考えろってことか。じゃあ理想点からの距離と効用の関係はどう定義するの?と思ったが、それについてこれから説明がある]
\(y_j\)に位置する消費者は、位置\(x_i\), 価格\(p_i\)の製品から効用\(U(y_j, x_i, p_i) = \bar{p} – p_i – d|y_j – x_i|\)を受け取る。\(\bar{p}\)はその消費者の理想製品に対するWTPで、以下では留保価格と呼ぶ。\(d\)は距離一単位当たりのdisutilityで、以下では移動コストという。留保価格と移動コストは全消費者で共通とする。
[ひいいいい。理想製品WTPからの価格差から、製品空間上の理想点と実製品との距離(に係数をかけたやつ)を引いたのが効用。ここまではよくわかるんだけど、移動コストというホテリング・モデルみたいな謎のアナロジーがはいってきて、頭がクラクラする。この係数ってつまり、製品空間上の理想点からの距離を金額に換算するレートだよね?]
消費者は外的選択肢をひとつ持っている。その効用はゼロとする。[選択モデルでいうところの「どれも買わない」選択肢のことね]
個々の消費者は効用最大の製品を買うが、どれも負だったらどれも買わない。つまり、消費者\(y_j\)は以下を満たす製品\(i\)を買う。$$ i = argmax_{k \in \{1,2,\ldots, n\}} \{\bar{p} – p_k – d|y_j – x_k| \} $$ $$ \bar{p} \geq p_i + d|y_j – x_i|$$ [はいはい、ここはわかりやすいね。細かい疑問だけど、もし効用ゼロの製品があったら買うの買わないの? 買うんでしょうね。もし効用が同じ製品がふたつあったらどうすんだろ。まあ連続的な空間だからぴったり一致したりはせんのだろうけど]
3. 単一期問題
企業が提供する製品を\(\mathbf{x} \equiv (x_1, \ldots, x_n), \mathbf{p} \equiv (p_1, \ldots, p_n)\)とする。あらかじめ\(x_1 \lt x_2 \lt \cdots \lt x_n\)と並べておく。
その範囲に位置する人はみんな製品\(i\)を買う、という範囲のことを\(a_i \subseteq \Omega\)とし、これを市場セグメントという。
[またわけのわからんアナロジーを… この定義だと、市場セグメントは品揃え次第で変わることになりますね。それから\(a_1, \ldots, a_n\)を全部合わせても\(\Omega\)をカバーできないことになる(どれも買わない人たちの区間があるから)。それに、いまは\(\bar{p}\)も\(d\)も全員同じだからいいけど、もしそうでなかったらセグメントを空間上で定義できなくなりますね。セグメントという用語がエキゾチックな使われ方をしていて戸惑うなあ]
ランダムに選んだ消費者が\(y_j\)に位置する確率を\(\theta_j\)とする。企業は\(\theta \equiv (\theta_1, \ldots, \theta_N)\)を知っているとする。
[えっ、待って、ひょっとして企業は消費者の選好の分布を知ってるの?! \(Y\)も\(\theta\)も知っているの?! うそ、なんで?! どういう設定なのこれ??? とパニックになったが、この節の最後まで読み終えてようやく気が付いた。そうなんです、この節では消費者選好は既知なんです]
\(\tilde{m}\)人の消費者が単位期間に来店する。この人数のことを市場サイズという。これは消費者の位置とは独立な離散確率変数で、企業は\(\mu \equiv E[\tilde{m}]\)を知っているとする。
まず、企業は\(\mu\)と\(\theta\)に基づき\(\mathbf{x}, \mathbf{p}\)を決める。この時点では消費者の好みに基づく価格差別化はできない。次に、\(\tilde{m}\)人の客がやってきて買い物をする。
製品\(i\)の需要(=売上)\(\tilde{D}_i\)は確率変数であり、期待値は$$ E_\theta[\tilde{D}_i(a_i(\mathbf{x}, \mathbf{p}))] = \mu \sum_{j: y_j \in a_i} \theta_j $$ となる。期待値が\(\theta\)に依存している点に注意。
個々の製品の提供コストを\(f \gt 0\)、ユニット生産コストを\(c \gt 0\)とする。\(c \leq \bar{p}\)だしそうでなかったら企業は製品を提供しないと仮定する。企業の期待利益はこうなる。$$ r(\mathbf{x}, \mathbf{p}, \theta) = – fn + \sum_i^n (p_i – c) E_\theta [\tilde{D}_i (a_i(\mathbf{x}, \mathbf{p}))] $$
補題1. 最適な製品位置・価格\(\mathbf{x}, \mathbf{p}\)は以下の特徴を持つ。
(a) そこから帰結する市場セグメントは互いに交わらない閉区間となり、その境界は消費者の位置の集合に属する。すなわち、\(a_i = [\underline{x}_i, \overline{x}_i] \subseteq \Omega\)として、\(\underline{x}_i \in Y, \overline{x}_i \in Y\)であり、すべての\(i\)について\(\underline{x}_i \leq \overline{x}_i\)であり、\(i = 1, \ldots, n-1\)について\(\overline{x}_i \lt \underline{x}_{i+1}\)。
(b) 製品の位置と値付けは、市場セグメントの境界点にいる消費者にとっての効用がゼロになるように決まる。すなわち、\(x_i = (\underline{x}_i + \overline{x}_i)/2, p_i = \bar{p} – d(\overline{x}_i – \underline{x}_i) / 2 \)。
[証明は補足資料のほうに載っている]
この補題が示しているのは、\(\mathbf{x}, \mathbf{p}\)の最適化問題が、\(\mathbf{a} \equiv (a_1, \ldots, a_n)\)の最適化問題と等価だということである。\(\mathbf{a}\)を品揃えという。
企業の最適化問題は以下のように書き換えられる。補題1の特性を持つ品揃えの集合を\(\mathcal{A}\)として、$$\max_{ \mathbf{a} \in \mathcal{A}} r(\mathbf{a}, \theta) = -fn + \sum_i^n (p_i(a_i) – c) E_\theta [\tilde{D}_i(a_i)]$$ $$ p_i(a_i) = \bar{p} – d((\overline{x}_i – \underline{x}_i)/2) $$ $$ E_\theta[\tilde{D}_i(a_i)] = \mu \sum_{j:y_j \in a_i} \theta_j$$ なお、可能な品揃えの数は急速に増える。たとえば\(N=3\)のとき、\(n=0\)にする、\(y_1\)においてそこだけ取れるような価格にする、\(y_1\)と\(y_2\)の間において両方を取れるような価格にする, … , \(y_1, y_2, y_3\)においてそれぞれをとれる価格にする、というふうに数えていくと、実に13通りもあるのだ。
4. 学習を伴う多期モデル
今度は、企業が消費者の選好を知らず、各期ごとに製品の位置と価格を決めて、有限の計画対象期間を通じた割引期待利益の総額の最大化を目指すという場面について考える。
各期の初頭で企業は\(\mathbf{x}, \mathbf{p}\)を決める。で、顧客がやってきて買い物したりしなかったりする。本節では、企業は\(\tilde{m}\)を知らないが\(P(\tilde{m} = m)\)は知っているとする。また\(Y\)は知っているけど\(\theta\)は知らないものとし、確率変数\(\tilde{\theta} \equiv (\tilde{\theta}_1, \ldots, \tilde{\theta}_N)\)を考える。で、企業は来店客数と製品の売上をみて信念を更新する。なお、市場サイズと品揃えは独立と仮定する。
4.1 顧客の好みについての信念の更新
企業は\(\tilde{\theta}\)の事前分布\(\pi(\theta)\)を持っているとしよう。
まずは打ち切りのない場合について考える。つまり、来た客の位置は買い物抜きでまるわかり、という場合である。位置\(j\)の来店客数を\(T_j\)とし、顧客の好みベクトルを\(\mathbf{T} = (T_1, \ldots, T_N)\)とする。\(\theta, m\)の尤度関数は $$ L^u (\mathbf{T} | \theta, m) = \frac{m!}{T_1! T_2! \cdots T_N!} \theta^{T_1}_1 \cdots \theta^{T_N}_N$$ \(\theta\)の事後分布は、ベイズ更新演算子を\(\Pi^u\)と書いて$$ \Pi^u (\theta; \pi, \mathbf{T}, m) = \frac{L^u (\mathbf{T} | \theta, m) \pi(\theta)}{f^u (\mathbf{T}; \pi, m)}$$ $$ f^u (\mathbf{T}; \pi, m) = \int_\theta L^u (\mathbf{T} | \theta, m) \pi(\theta) d\theta$$ と書ける。
では、打ち切りがある場合はどうか。企業は売上\(\mathbf{D} = (D_1, \ldots, D_n)\)しか観察できないとしよう。尤度関数は、\(D_0 = \sum_i^n D_i\)として$$ L^c (\mathbf{D} ; \theta, m, \mathbf{a}) = \frac{m!}{D_1! \cdots D_n!(m-D_0)!} \prod_i^n \left( \sum_{j: y_j \in a_i} \theta_j \right)^{D_i} \left( \sum_{j: y_j \notin \cup_i^n a_i} \theta_j \right)^{m-D_0} $$ [なんでこうなるの? と10秒ほど考えたがめんどくさくなって放り出した。でも真剣に考えれば納得できるような予感があるので、ここは著者を信じて先に進もう]
\(\theta\)の事後分布は、$$ \Pi^c(\theta; \pi, \mathbf{D}, m, \mathbf{a}) = \frac{L^c (\mathbf{D} | \theta, m, \mathbf{a}) \pi(\theta) }{f^c(\mathbf{D}; \pi, m, \mathbf{a})} $$ $$ f^c(\mathbf{D}; \pi, m, \mathbf{a}) = \int_\theta L^c (\mathbf{D} | \theta, m, \mathbf{a}) \pi(\theta) d \theta $$ と書ける。
4.2 動的計画の形成
まずは打ち切りがない場合について。残り\(t\)期の時点での最適値関数を\(v^u_t(\pi)\)とする。\(v^u_0(\pi) = 0\)である。そうでなければ、時間割引を\(\delta\)として$$ v^u_t(\pi) = \max_{a \in \mathcal{A}} r(\mathbf{a}, \pi) + \delta E_\pi[v^u_{t-1}(\Pi^u(\pi, \tilde{\mathbf{T}}, \tilde{m})]$$ $$ r(\mathbf{a}, \pi) = -fn + \sum_i^n(p_i(a_i) – c) E_\pi[\tilde{D}_i(a_i)] $$ $$ E_\pi[\tilde{D}_i(a_i)] = \mu \sum_{j:y_j \in a_i} E_\pi [\tilde{\theta}_j]$$ $$ E_\pi[\tilde{\theta}_j] = \int \theta_j \pi(\theta) d \theta$$ $$ E_\pi[v^u_{t-1}(\Pi^u(\pi, \tilde{\mathbf{T}}, \tilde{m}))] = \sum_m \sum_\mathbf{T} v^u_{t-1} (\Pi^u(\pi, \mathbf{T}, m)) f^u(\mathbf{T}; \pi, m)P(\tilde{m} = m)$$ と書ける。[うーん。もう疲れちゃったので心を無にして写経したけれど、なんの話をしているのかということはなんとなくわかるのでよしとしよう。要するに、再帰的な最適化問題として定式化できて、頭のいい奴に任せれば解いてくれるということね]
で、打ち切りがある場合だとどうなるかというと、\(v^c_0(\pi) = 0\)で、$$ v^c_t(\pi) = \max_{a \in \mathcal{A}} \{ r(\mathbf{a}, \pi) + \delta E_\pi[v^c_{t-1}(\Pi^c(\pi, \tilde{\mathbf{T}}, \tilde{m}), \mathbf{a}] \}$$ $$E_\pi[v^c_{t-1}(\Pi^c(\pi, \tilde{\mathbf{T}}, \tilde{m}, \mathbf{a}))] = \sum_m \sum_\mathbf{D} v^c_{t-1} (\Pi^c(\pi, \mathbf{T}, m, \mathbf{a})) f^c(\mathbf{T}; \pi, m, \mathbf{a})P(\tilde{m} = m)$$ ってなるわけ。[ああそうか、なるほどね。将来の利益の期待値のほうにも\(\mathbf{a}\)がはいってくるわけか]
このように、打ち切りがない場合、品揃え\(\mathbf{a}\)は今期の利益にしか効かないから、最適品揃えは近視眼的に解ける。ところが打ち切りがある場合、今期の利益と情報的な利得のトレードオフが生じる。
4.3 打ち切りの有無の間での最適品揃えの比較
まず上のふたつの価値関数が\(\pi\)上で凸であることを示す。そうでないと比較しにくいからね。
命題1 任意の\(\pi_1, \pi_2\)について、なんらかの\(\alpha \in [0,1]\)に関して$$ \pi_\alpha(\theta) = \alpha \pi_1(\theta) + (1-\alpha) \pi_2(\theta)$$ とする。このとき以下が成り立つ。$$ v^c_t(\pi_\alpha) \leq \alpha v^c_t(\pi_1) + (1-\alpha) v^c(\pi_2)$$ $$ v^u_t(\pi_\alpha) \leq \alpha v^u_t(\pi_1) + (1-\alpha) v^u(\pi_2)$$
[証明は補足資料のほうに載っている]
[ここから難しいぞ。さあ深呼吸]
たとえば、顧客の位置が6個あり、品揃えが\(\mathbf{a} = ([y_1, y_3], [y_5, y_5])\)だとしよう。このとき顧客は、\(\{y_1, y_2, y_3\}, \{y_5\}, \{y_4, y_6\}\)の3つに分割される[製品は2個あるけど、どれも買わない人がいるから3つなわけね]。これをパーティション\(P(\mathbf{a})\)と呼ぶことにする。すべての実現可能なパーティションの集合を\(\mathcal{P}\)とする。
パーティション\(P=\{S_1, \ldots, S_k\}\)と\(P’=\{S’_1, \ldots, S’_{k’}\}\)があって\(\cup_i^k S_i = \cup_i^{k’} S’_i\)だとする。それぞれの\(S_i\)について\(S_i \subseteq S’_{i’}\)になるような\(S’_{i’}\)があったら、\(P\)のほうが「細かい」ということにする。
\(P(\mathbf{a})\)のほうが\(P(\mathbf{a}’)\)より細かいとき、\(\mathbf{a}\)のほうが「情報的」ということにし、\(\mathbf{a} \succeq_I \mathbf{a}’\)と書く。また\(P(\mathbf{a})=P(\mathbf{a}’)\)なら \(\mathbf{a} \approx_I \mathbf{a}’\)と書く。
補題2. 品揃え\(\mathbf{a}\)の製品数を\(n\), \(\mathbf{a}’\)の製品数を\(n’\), として、\(\mathbf{a} \succeq_I \mathbf{a}’\)ならば \(n \geq n’\)である。
[証明は補足資料のほうに載っている]
逆に、製品数が多いほうが情報的だとはいえない点に注意。たとえば、品揃え\([y_1, y_1], [y_2, y_3]\)は\([y_1, y_1]\)より製品は多いけど情報としては同じである。もっとも、ここでは\(\tilde{m}\)が観察可能だとしているからそうなのであって、観察不能なら前者のほうが情報的だけど。
[…中略…]
定理1 すべての\(t\)について\(v^u_t(\pi) \geq v^c_t(\pi)\)である。さらに、打ち切りなしのときに残り\(t\)期の時点での最適品揃えが\(\mathbf{a}^*\)ならば、\(\mathbf{a}^* \succeq_I \mathbf{a}\)を満たす任意の品揃え\(\mathbf{a}\)について、$$ v^c_t(\pi; \mathbf{a}) = r(\mathbf{a}, \pi) + \delta E_\pi[v^c_{t-1} (\Pi-c(\pi, \tilde{D}, \tilde{m}, \mathbf{a}))] $$ として $$ v^c_t(\pi; \mathbf{a}^*) \geq v^c_t(\pi; \mathbf{a})$$ が成り立つ。従って、打ち切りなしの場合の価値関数のほうが常に高く、打ち切りありのときの最適品揃えは打ち切りなしの時の最適品揃えよりも非情報的ではありえない。
[証明が載っている。パス]
[ニュースベンダー問題という研究領域との比較。パス]
補題4. \(\mathbf{a}, \mathbf{a}’ \in \mathcal{A}\)かつ\(\mathbf{a} \approx_I \mathbf{a}’\)ならば、$$ E_\pi[v^c_{t-1}(\pi^c(\pi, \tilde{D}, \tilde{m}, \mathbf{a}))] = E_\pi[v^c_{t-1}(\pi^c(\pi, \tilde{D}, \tilde{m}, \mathbf{a}’))]$$
つまり、情報内容が同じなら、profit-to-go[なんて訳せばいいんだろうか]も同じである。ということは、分割が同じ品揃えのなかで即時利益がもっとも高い品揃えだけを考えればよい。
[… しばし中略。よくわかんないけど、たぶん定理1と補題4のせいで、最適解を探すのがぐっと楽になるということではないかと思う]
4.4 共役モデル
ここからは、事後分布が事前分布と同じ分布族になるような学習モデルについて考えよう。
[要は\(\pi\)の共役事前分布を決めで事後分布を導出するのだと思う。力尽きたのでパス]
5. 数値的研究
本節では、いろいろな多期間シナリオの下での最適品揃えを比較し、探索-活用トレードオフに関して動的品揃えが持つ興味深い諸側面をあきらかにする。かつ、学習の価値についても調べる。
[すいません、力尽きました。まるごとパス]
6. 拡張
本節では以下の3つの拡張について議論する。(1)消費者の位置が未知の場合。(2)保留価格に異質性がある場合。(3)市場サイズが観察できない場合。
[もちろんパスするけど、ようやく現実味のある話になってきたなあという印象である]
7. 結論
[…この論文の要旨。メモ省略…]
本論文のモデルにより以下が示された:企業が打ち切り情報下での最適品揃えよりも情報性が低い品ぞろえを選ぶのは、最適ではありえない。
我々はまた、ディリクレ分布・拡張ディリクレ分布を用いた共役学習モデルを構築し、数値例を示した。その結果わかった興味深い点として、最適品揃えが初期の時期では企業に損失をもたらすことがあるという点がある。消費者の好みを学習しようとしたせいでそうなるのである。
我々は、動的品揃えという概念が研究者に豊かな分析的・実証的課題を与えてくれると確信している。
今後の課題:
- 異なる消費者選択モデル(選好ランキング・モデルとか)による需要学習という問題や、複数属性を持つ製品のついての需要学習という問題について検討することで、これまでに得られた洞察の応用可能性が広がるかもしれない。
- 動的品揃えを通じて学習する複数企業の競争。[あっ、それは面白そう! 特にデパートコスメとかだと、メーカーはシンジケート・データで競合の売上がわかったりするしね。自社では品揃えで冒険せずに競合の売上を観察するという戦略が最適だったりしてね]
- 移動コスト[理想点から製品までの距離による効用の割引率のことね]に異質性を入れる
- 選好を非定常的にする[うわー、難しくなりそう]
- 消費者の好みと市場サイズを同時に学習する[それはなんだか、研究のための研究って感じかな]
- 企業が製品の在庫を持っていて、売上損失を観察できない場合。消費者の品揃えベースの代替購買による打ち切りと、欠品による売上の打ち切りが生じる。[ううう。だんだん実際の仕事に近づいてきて辛くなってきた]
云々。
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正直、私の能力を超える論文であった。お世話になっている経済学者の先生がどこに面白みを感じたのかも残念ながらよく理解できなかった。想像していた内容と違いすぎて、そもそも当該の先生が面白がっていたのがこの論文だったのどうかさえ、だんだん確信が持てなくなってきた。
まあでも、こういう研究があるんだ… へえ… という驚きがあったので、良しとしよう。負け惜しみみたいになるけど、すっごく難しいように見えて、なにかレジュメを切るとか仕事で使うといった切実さの下で超真剣に読んだら、もしかするとそこそこ理解できる内容なんじゃないか、という気もする。道具立て自体は難しくないんじゃないかしらん、と。ゲーム理論とかではなくて、あくまでベイジアン学習モデルだしさ。均衡とか出てこないしさ。(とこのように自分に言い聞かせ、なんとか自己効力感を維持しようとしているのである)
読んでて辛かったのは、(私から見て)抽象化の度合いが高く、現実場面との接点がなかなかみえなかった点である。そのせいで、製品売上だけで消費者の選好の分布を推定するというそもそもの問題設定がいまいちピンとこなかったんですよね。四の五のいわずに消費者調査やれば? って思ってしまう。これはまあ、私の想像力の問題であろう。