読了: Drolet & Wood (2017) 消費者行動論における習慣研究

Drolet, A. & Wood, W. (2017) Introduction to Special Issue: The Habit-Driven Consumer. Journal of the Association for Consumer Research, 2(3), 275–278.

 仕事の都合でパラパラめくってたやつ。
 この雑誌のこの号は習慣研究の特集号で、これはそのイントロ。たった4ページだけど、なんだか論旨をよみとりにくかったのでメモをとった。まあ、すべての掲載論文を均等に引き合いに出すという大喜利みたいな文章なので、そんなに真剣に読んでも仕方ないんだけど。でも、こういう一歩引いた巨視的な概観というのは、初学者にとってはありがたいものである。

 いわく。
 消費者行動研究は関連分野(特に心理学・経済学)の発展を反映する。70-80sには態度と説得が流行った(社会心理学のせい)。特に多属性態度モデル、合理的行動の理論(のちの計画行動の理論)。80s初頭には精緻化見込みモデルとヒューリスティック・システマティックモデルで態度形成・態度変化を説明するのも流行った。
 意外なことに、消費者行動研究者は習慣にあまり関心を持っていなかった。心理学ではあんなにさかんなのに。なぜだろう?
 理由として以下が考えられる。

  • 心理学と違い、消費者行動研究においては習慣という概念があまり明確でない。実験心理学者にとっては、習慣とは報酬を得るための行為の反復を通じて構築される手続き記憶内の文脈-反応連合だ。いったん形成されたらもう意図は関与しない。それに対し消費者行動研究者にとっての習慣はもっと古典的で幅広い概念で、あるやり方で行動する傾向が定着していることを指す。
  • 消費者行動研究では習慣への関心が遅れ、選択行動を意識の観点から説明しようとする傾向がある。その理由はいくつかある。初期のサブリミナル広告研究がでたらめだったこと、実世界の消費行動に対する無意識的プライミングの効果が小さかったことなど。
  • 本特集のBest & Bapiers論文は習慣と状況づけられた行為の行動の変化への影響を示している。20世紀の習慣研究を支配してきたのは行動心理学者だった。消費者行動研究という分野が60-70sから始まっているわけで、かつての行動主義革命の影響を受けていない。90年代には消費者行動研究も社会的認知一辺倒ではなくなり行動決定理論(BDT)が出てきた。社会的認知研究は主に態度を従属変数とするのに対し、BDTは主に選択を従属変数とする。しかし消費者行動研究は、21世紀心理学の最先端の習慣研究、特に文脈手がかりが習慣のパフォーマンスを向上させるという研究(Wood & Runger, 2016 Ann.Rev.Psych.)へのキャッチアップが遅れた。本特集号のHerziger & Hoelzl論文をみよ。さらに、行動意図についての理解が不十分であった。Sheeran et al.論文をみよ。[この項、どうも話の流れを読み取りづらいが、ま、気にしない気にしない]
  • 経済学者による消費者研究は観察された選択に焦点を当て、心的過程については不可知論の立場を取りがちである(例外は神経経済学で、選択のモデルベース学習とモデルフリー学習を区別する)。いっぽうTverskyらが示したように選好というのは内的に不整合だし、経済学者の選好理論が仮定するほど意識的な情報処理の役割は大きくない。Carden et al.論文, Drolet et al.論文をみよ。
  • 習慣は実験室で研究しにくい。

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この特集号に掲載されている論文は以下の6本で、それぞれの論文にコメンタリーが数本づつついている。題名をメモするが、研究の文脈についての知識が乏しいせいか、題名だけでは内容を想像しにくい。仕方がないので要旨もざっと目を通した。

  • Carden, et al.: インセンティブがcontrolマインドセットを活性化する [インセンティブが習慣形成をむしろ阻害するという話らしい]
  • Drolett, et al.: 習慣と自由連想 [自由連想における個人差が習慣形成と関係しているという話]
  • Sheeran et al.: 過去の行動は意図-行動関係を強めることも弱めることもある [横軸に経験、縦軸に意図-行動の関係の強さをとると逆U字型の関数となる由。献血の縦断研究の模様]
  • Simonson, et al.: 選好構築習慣: 極端性回避の場合 [松竹梅の竹を選びがちというような選好は習慣と捉えることができるっていう話かな]
  • Best & Bapiers: 消費者の習慣を変化させるための状況づけられた介入 [23ページもある論文。situated cognitionの観点から習慣と習慣変化のための介入について論じる、とかなんとか… うわあめんどくさそう…]
  • Herziger & Hoelzl: 消費者研究における仮説的選択デザイン [仮説シナリオを使った消費者行動研究では習慣の効果が過小評価されるよという話。いかにもありそうだ…]