Gardner, B. & Lally, P. (2018) Modelling Habit Formation and Its Determinants. Verplanken, B. (ed.) “The Psychology of Habit”, Chapter 12.
仕事の都合で読んだやつ。習慣化研究のハンドブックの1章である。まじで心理学だ。なにやってんの俺。
1. (イントロダクション)
習慣とは、ある手がかりが与えられると、学習を通じてその手がかりに対する反応となっているある行動を実行するという衝動が生じるプロセスである。習慣が形成されると、行動的制御は意識的・熟慮的な情報処理システムから衝動的・連合駆動的なシステムに移る。意識的な動機づけがなくても行動が生じるようになる。
習慣形成というのは、行動をある一貫した文脈で繰り返し、文脈-行動の連合を形成することである。概念的には単純だけど実現は往々にして難しい。
2. 習慣形成のモデル化
動物の研究は多いけど、人間の習慣形成を個人内で追いかけた定量研究というと、次の2つしか思いつかない。
- Lally, et al. (2010 Euro.J.Soc.Psych.): 自分で選んだ身体活動や摂食行動を12週間追跡し、モデルにあてはめた。典型的な習慣成長曲線がわかったけど個人差がすごく大きかった。
- Fournier, et al. (2017 HealthPsych.): ストレッチの習慣形成。毎朝やる群と毎晩やる群を比較。
質的研究ならLally, et al.(2011 Psychology,Health&Medicine)というのもある。
集団レベルで追いかけた定量研究はたくさんある。
- Kaushal & Rhodes (2015 J.Behav.Medicine): 習慣化したかどうかを生存分析で調べている[←ああ、なるほど]。週に4回を6週間反復することが必要である由。
- Fournier, et al.(2017 HealthPsych.): 習慣化スコアを線形モデルで説明する研究(反復と習慣化の関係はどうみても線形じゃないんだけど)。練習セッションの前のSMSリマインダの効果を調べている。
- Judah, Gardner, & Nunger(2013 Brit.J.HealthPsych.): これも線形モデル。デンタルフロスを使う習慣は、歯磨きの前よりあとのほうが習慣化しやすい。
習慣化の尺度としては、SRHI (Verplanken & Orbell, 2003 J.App.Soc.Psych.), SRBAI (Gardner, et al., 2012 Int.J.Behav.Nutrition&PhysicalActivity)がある。
3. 習慣形成とその決定要因を理解するための枠組み
Lally & Gerdner(2013 2013 HealthPsych.Rev.) の枠組みをみてくれ。こいつをどう思う? (すごく… シンプルです…)
- Stage 1: 行為の決定。意図が形成される。
- Stage 2: 自己制御。意図を行為に翻訳するのに必要な資源が動員される。計画のような自己制御方略が用いられる。で、行為が生じる。
- Stage 3a: 行動の反復。それには動機づけと自己制御が必要になる。
- Stage 3b: 習慣的連合の発達につながるようなやり方で行為が反復される。手がかりへの接触と行為のリンクが形成され、その後の自動的反応生成のポテンシャルが獲得される。
3aと3bは同時に生じるけれど、反復そのものと、手がかり-反応連合の強化はわけて考えたほうが良い。3a, 3bのエンドポイントは習慣形成、もっとリアルにいえば習慣強度ピークである。習慣というのはあるかないかではなくて、習慣強度という連続体だし、習慣強度には適切なレベルというのがあるかもしれないから。
Stage 1-3aは一般的な行動変容をとらえているわけで、この枠組みの新しさは3bにある。
4. 習慣連合の発達の決定要因
- 手がかりに関連した要因:
- 計画。計画があると行為の尤度は上がる。計画は行為の想起を助けるし(Stage 2)、手がかり-行動連合の発達にもつながる(Stage 3b)。世にいう実行意図というのも計画の一種である。
- 手がかりの顕著性と安定性。たとえば、文章を読んでいて”「she”が出てきたらアンダーラインを引く」ほうが「ほ乳類ないし可動物が出てきたらアンダーラインを引く」より習慣化しやすい。同様に、「10時にやる」習慣より「朝ごはんの後にやる」ほうが習慣化しやすい(先行する行為が手がかりになるから)。というわけで、新しい行動を習慣化するには既存のルーティンのどこに埋め込むかが大事で、そのためには行為の心的表象についての理解が必要になる。行為がどうチャンク化されているかが分かったとして、ではどこに埋め込めばよいか。議論がいろいろある。高次な行為の切れ目に埋めるのがよいとか(シャワーと歯磨きの間にフロス)。いや大きな境界のあとだと先行する行為との知覚的リンクをつくりにくいから中間に埋めたほうがいいとか(歯ブラシの直後にフロス)。もっと研究が必要。おそらく、行為の系列の中間に埋めるほうが手がかり顕著性が低くなって大変なんだけど、そこで十分な注意資源を動員できれば習慣化は早くて強くなるのだろう。
- 行動に関連した要因:
- 一貫性。反復が頻繁でなくても一貫していれば習慣化は生じる。週末のサイクリングとかね。ある手掛かりに対して行動が複数種類ある場合は習慣化しにくい。とはいえ、どの程度の一貫性があればいいのかはわかっていないけれど。
- 複雑性。単純な行為のほうが習慣化は早い。これに関係しているのが、習慣的に引き起こされている(instigated)行動と習慣的に実行されている(excecuted)行動の違いである。後者は習慣が行為の系列を通じてその進行を促進している場合である(ジム用の靴に履き替えたらドアに向かう)。前者抜きの後者というのもあるし(毎回熟慮的にジムに行っているけど、行くとなったら自動的に行為する)、その逆もある。前者のほうが行動の頻度を制御している。行為の複雑性は後者のみと関係しているわけで、つまり、習慣形成を行為の維持のメカニズムとしてみたときには、行為の複雑性はあんまり関係ないのかも。[なるほどね]
- 報酬の価値。1,3a,3bに効くはず。報酬は外的報酬と内的報酬に分けられる。外的報酬の場合、手がかりは報酬の心的表象を喚起するだけで、目標独立な自動性にはつながらないはずである。つまり、報酬がなくなれば行為も続かなくなる。いっぽう内的報酬は行為が引き起こす感情と強くかかわっており、習慣形成に寄与するものと思われる。実務的には、ある行動に内的な報酬を与えるのは難しい。そもそも報酬が習慣形成に必要かどうかもよくわかっていない。もっと研究が必要である。とりあえず、実務家は行動の内的報酬に気を配るのがよいだろう。
- 個人に関連した要因。
- 動機づけのタイプ。内発的動機づけは1,2,3a,3bのいずれでも効くだろう。実証研究もたくさんある。
- ストレスとコルチゾール。ストレスは3bの学習を促進するだろう。Schwabe & Wolf (2009 J.NeuroSci.) では、まず行為とチョコレートミルクとの連合を学習させたのち、学習フェイズの前に手を氷水につけさせてストレスを生じさせると、統制群と比べて行為の習慣が長持ちした。[??? 実験手続きがよくわからんのだが、面白いっすね] コルチゾールは単純な刺激-反応学習を促進すると考えられている。
- 自己コントロール。自己コントロールが強い人は良い習慣を形成しやすい。これは2, 3aでの効果であって3bではないだろう。[中略]
5. 習慣の代替
典型的には、目指す習慣形成は悪い習慣を良い習慣に代替することである。1,2,3aでは望まない行為を抑制しかつ望む行為を促進することが求められる。代替とそうでない場合とで大差ないけど、代替の場合は望まない行動の監視と、その手がかりの監視も促進要因となる。
計画と実行意図には効果があるはずだが実験結果は混在している。Tam, Bagozzi, & Spanjol(2010 HealthPsych.)いわく。実行意図と制御スタイルの一致が必要である。つまり、健康的な摂食のベネフィットを得ることに焦点を当てている人には健康なスナックを促進する実行意図が、不健康な摂食の害を避けることに焦点を当てている人には不健康なスナックを避ける実行意図が効く。おそらく、行動と手がかりの監視のような方略が代替成功の鍵なのであろう。
6. 結論: 今後の習慣形成研究の方向
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方法論としては、まずスマホなどを使ったecological momentary assessment methodが有望[経験サンプリングみたいな話かな?]。N-of-1デザインとかマルチレベルモデリングとかも有望。
これからは習慣形成の軌跡への影響も研究すべき。Stage 1,2,3aについてはわりかしよくわかっているが、3bの実証研究が少ない。
コラム: 習慣研究の現場
[Lally, et al. (2010)の紹介。元論文を読むつもりなのでスキップ]
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勉強になりましたですー。
最初に図を見たときは、3aと3bを分ける理由がよくわかんなかったんだけど、本文を読んで理解した。たしかに要因がちがいますね。