読了:Jindal & Aribarg (2021) 消費者の価格探索についての研究において、消費者が真の価格分布を知っているとか信念をベイズ更新しているといった仮定はどのくらいクリティカルか

Jindal, P., Aribarg, A. (2021) The Importance of Price Beliefs in Consumer Search. Journal of Marketing Research, 58(2), 321-342.

 しばらく前に途中まで読んで放棄していたやつ。えーと、仕事の都合で価格知覚の実証研究を調べていて、その流れで読んだ奴だと思う。整理がつかないので最後までむりやりめくった。
 消費者の価格知覚についての実験研究とかだろうとと思ったら、そうではなくて、価格探索についての規範的モデルと探索行動に基づき探索コストを逆算するという研究であった。こういう分野があるんですね。はじめて聞くような話ばかりで、かなり戸惑った。

1. (イントロダクション)
 消費者は価格探索のコストと価格探索の期待ベネフィットとのトレードオフに直面する。後者は期待価格についての先行信念、その確実性、そして探索された価格に照らした信念更新の方法によって決まる[信念更新の弾力性が低いと探索のベネフィットは落ちる、ってことかな?]。
 研究者は消費者の価格信念を観察できないので、消費者の合理的期待とベイズ更新を仮定し、観察された探索行動から探索コストを推論するしかない。ところがこの仮定が正しいのかどうかがわかんない。本研究では価格信念の分布をうまいこと引き出す方法を用いて、合理的期待とベイズ更新という仮定が正しいかどうかを検討します。
 もし合理的期待という仮定が正しかったら、消費者の信念は等質なんだから、信念異質性に基づく価格差別化は無理だってことになりますよね。だから本研究は小売にとっても役立つはずです。
 [そうそう、このイントロが面白かったから「あとで読む」フォルダに放り込んでしまったのであった… きっとこの立場からみれば、そのへんのマーケティング・リサーチなんてくっだらないでしょうね。あいつらアンケートやって「いくらまでなら買いますか」なんて訊いてんだよ? 馬鹿だからさあ! ってな感じ]

 価格信念は消費者探索の研究だけでなくいろんな分野で重要である[ここで以下をreferしている: Erdem & Keane(1996 MktgSci), Khaneman & Tversky(1979 Econometrica), Rust(1987 Econometrica), Shin, Misra & Horsky (2012 MktgSci)]。系列的探索フレームワークを使えば異質性のある信念を明示的に引き出すことができるし、合理的期待とベイズ更新という仮定もあまり必要でなくなる。この研究の目的は、合理的期待とベイズ更新という仮定を批判することではなくて(信念情報がない場面では必要な仮定だ)、これらの仮定をどうやって緩和するかという点にある。

 […この論文のあらすじ紹介。パス]

 本研究の貢献:

  1. 合理的期待とベイズ更新という仮定が探索コスト推定に与える影響を定量化する。結論から言うとベイズ更新のほうが安全な仮定である。
  2. 探索コストの推定において期待価格と価格の不確実性のどっちがどのくらい重要かがわかる。結論から言うと、期待価格がわかれれば大丈夫。
  3. 小売が価格信念と観察された消費者特性に基づいて第三次価格差別化を行ったときの利益の増大を定量化する。

2. 関連文献
 ふつう探索は同時探索と系列探索に分類される。等質的な財では、同時探索とは消費者が実際の探索の前に探索回数を選び、もっとも効用の高い選択肢を選ぶことを指す。いっぽう最後に探索した価格に基づいて探索を続けるかどうかを決めるのを系列探索という。等質的な財で市場における価格分布が既知の場合、ランダム探索をして価格が留保価格を下回ったら探索を停止する、というのが最適である。異質性のある財の場合は、留保効用に基づいて商品を並べて、留保効用が最高である製品から探索を始めるのが最適である[←んんん? ここよくわからない]。
 合理的期待を仮定すると(ないし、消費者が真の価格分布を知っていると仮定すると)、消費者がすでに探索した選択肢を一切再生しないというような探索パラダイムが生じる[真の価格分布を知っているならば、いろんな価格のカードが伏せて並べられているとして、めくったカードが留保価格を下回るまでカードをめくり続けるだけでいい、という話かな?]。消費者が検索結果に基づいて信念を更新していくというセッティングでの研究では、事前分布がディリクレ分布なら、効用分布が未知な系列探索でも、最適探索ルールは留保効用に基づく探索だということが示されている。また、信念の分布がある仮定をみたす場合、ないし信念がある規則に従う場合、最適停止ルールは近視眼的になることが示されている(つまり、現在の信念のもとで探索を停止するのが最適なときは、たとえもっと探索を続けて真の価格分布をこれから学習するとしてもそれは最適でない)。

 さて、研究者はふつう価格信念を観察できない。先行研究は、消費者は合理的期待を持ち価格分布を学習しないと仮定するか、なんらか信念を更新すると仮定するかのいずれかであった。後者の場合、実証懸鼓湯ではベイズ更新が仮定された。事前分布としては正規分布、ディリクレ分布、ディリクレ過程が仮定された。
 以前の研究では、事前分布を生成する過程から得られる実現値の期待値は価格の真の分布と対応していると仮定されていたけれど、最近では観察データから事前信念を推定している。

  • Hu, Dang, & Chintagunta (2019 MktgSci.): クリックと購入における相対的な分散を使って、消費者間で等質なディリクレ事前信念を推定。
  • Ursu, Wang, & Chitagunta (2020 MkrgSci.): 異質性のある事前の不確実性を潜在セグメントとして推定。
  • Zhang, Ursu, & Erdem (2020 WorkingPaper): 異質性のある事前の不確実性を、先行する消費者経験(アイトラッキングデータ)の関数として推定。[たぶんこれだと思う。面白そうだなあ]

上の2件の研究では、消費者がmatch valueを探索するセッティングに注目しておりベイズ更新を仮定している。いっぽう我々の研究では、消費者が最低価格を探すというセッティングでの信念の役割に注目する。

 Ching, Hossein, Tehrani, & Zhao (2020, WorkingPaper)という研究があって、二値化スコアリング・ルール(Hossein & Okui, 2013 Rev.Econ.Stud.)を用いて信念を引き出している。本研究と似ているんだけど、違いは、Chingらは信念更新に焦点を当て探索判断を引き出してはいないのに対して、我々は合理的期待とベイズ更新という仮定が探索コスト推定に及ぼす含意について理解しようとしている点である。

3. 信念に異質性がある系列探索
 消費者\(i\)が、ある等質な財の最低価格をいろんな小売りを通じて探索している。一回の探索のコストを\(c_i\)とする。\(k\)回目の探索のあとで持つ信念分布を\(F_{ik}(p)\)とする。合理的期待の場合は\(F(p)\)となる。

 それまでにみつけた最低価格を\(\bar{p}_{ik}\)としますね。もう一回探索することの期待利得(コスト抜き)は$$ \Gamma^{seq}_{i,k+1} = \int_0^{\bar{p}_{ik}} (\bar{p}_{ik} – p) d F_{ik} $$である[はいはい。新たに見つかった最低価格が\(p\)なら利得は\(\bar{p}_{ik} – p\)だから、それを\(F_{ik}(p)\)を通じて積分しているわけだ]。いま、消費者が\(k\)回探索したとしよう。それが最適ならば、探索コストの上下界は \(c_i \in [ \Gamma^{seq}_{i,k+1}, \Gamma^{seq}_{i,k} ] \) である。もし信念分布\(F_{ik}, F_{i,k+1}\)がわかればそこから\(c_i\)もわかるわけだ。というわけで、等質な財の価格探索という単純なセッティングでは、(1)探索回数、(2)抽出された最低価格の分布、(3)事前信念と事後信念、ないし事前信念と更新プロセスがわかれば、探索コストの上下界がわかる。

 合理的期待を仮定すると、$$ \Gamma^{RE}_{i,k+1} = \int_0^{\bar{p}_ik} (\bar{p}_{ik} – p) d F_0$$ となる。
 合理的期待を仮定せず、かわりにベイズ更新を仮定してみよう。事前信念\(D\)がベース分布\(F_{i,0}\)を持つディリクレ過程に従うとし、\(D \sim DP(W, F_{i0})\)とする。ディリクレ過程というのはディリクレ分布の一般化で、(多項分布じゃなくて)無限ノンパラ離散分布の共役分布である。ベース分布というのがその期待値である。ベース分布は連続的だけど\(D\)の実現値は離散であることに注意。\(W\)はどのくらい離散的かを表すパラメータで、無限大にすると連続的になる。[うーん、難しいなあ… よくわからんけど、離散分布を生成する確率過程なのだろう]
 \(k+1\)回目の探索のあとの事後分布は、観察された価格の経験分布を\(\hat{F}_{i0}\)として$$ D \sim DP \left( W+k+1, \frac{W}{W+k+1} F_{i0} + \frac{k+1}{W+k+1} \hat{F}_{i0} \right) $$ となる。期待利得は$$ \Gamma^{BU}_{i,k+1} = \frac{W}{W+k+1} \int_0^{\bar{p}_{ik}} (\bar{p}_{ik} – p) d F_{i0} $$ となる。

 先行研究は信念分布として正規分布を仮定することが多いんだけど、本研究ではディリクレ過程を考える。理由は…[略]

3.1 ベイズ更新と先行信念の相対的重要性
 モンテカルロ・シミュレーションをしてみましょう。
 合理的期待からの逸脱は、真の価格分布と\(F_{i0}\)のずれとして測れる。事後分布を$$ D \sim DP \left(W + \theta(k+1), \frac{W}{W+\theta(k+1)}F_{i0} + \frac{\theta(k+1)}{W+\theta(k+1)} \hat{F}_{i0} \right) $$ とする。\(\theta = 0\)なら学習なし、\(\theta = 1\)ならベイズ更新である。期待利得は $$ \Gamma^G_{i,k+1} = \frac{W}{W+\theta(k+1)} \int_0^{\bar{p}_{ik}} (\bar{p}_{ik} – p) d F_{i0} $$ で、ここから\(k\)回探索した消費者の\(c_i\)の上下界がわかるわけだ。

 ある代表的な消費者を考えて、事前の期待価格、事前の不確実性、ベイズ更新からの逸脱の程度を動かし、探索させて、\(\theta=0\)ないし\(1\)と仮定して探索コストを推定し、真の探索コストとの差をみる。[話の主旨がだんだんわかってきた。もしかして、これかなりマニアックな話なんじゃない?]

  • 事前の期待価格が真の平均価格より低い(高い)とき、合理的期待を仮定してもベイズ更新を仮定しても、探索コスト推定は過小(過大)になる。[実は消費者の期待価格が安かったせいで頑張って探していたにも関わらず、消費者がこんだけ探索したってことは探索コストは安いのねとリサーチャーが勘違いしちゃうわけね]
  • 事前の不確実性が真の価格分布のSDよりも低い(高い)とき、探索コスト推定は過大(過小)になる。でもその効果はそれほど大きくない。
  • 真の\(\theta\)が1でないのにベイズ更新を仮定すると探索コスト推定もずれるんだけど、ごくわずか。

3.2 事前信念の異質性
事前信念に異質性がある場合についてシミュレーションすると… [めんどくさいのでパス]

4. 実験デザイン
 実験やります。 
 対象者はLightspped Researchのオンラインパネルで、USの人口の代表標本になっている。 
 練習課題のあとで以下の課題がはじまる。
 [ここからややこしいので細かくメモする]

4.1 信念誘発課題と探索課題
 被験者に次のように想像させる。KitchenAid mixerを売っている小売店が100件あって価格が違う。
 市場における最低価格\(p_L\)と最高価格\(p_H\)を推測させる。次に、その範囲を5等分する4つの価格\(p^*_d; d \in [1,4]\)を提示し、それ以下で売っているお店の件数を推測させる。
 次に、それぞれの被験者に小売シナリオを提示する[よくわからんがたぶんある店の価格を提示するだと思う]。そのシナリオのなかで、被験者はミキサーを買うことができる。で、価格の中央値について推測させる。それぞれのシナリオのために価格が20ブロック用意されていて、そのなかから一つがランダムに提示される。答えてくれた中央値に基づき、中央値-1.5x(範囲)/4, 中央値-0.5x(範囲)/4, 中央値+0.5x(範囲)/4, 中央値+1.5x(範囲)/4という\(p^*_d\)を提示し、それ以下で売っているお店の件数を推測させる。で、それまでの小売店で買うかどうかを決めさせる。
 2個めのシナリオを提示し同じ課題をする。ただし、いったん「買う」を選んだ人は、その後の小売店では買えない。これを第4のシナリオまで繰り返す。

4.2 2部構成の誘因整合デザイン
 信念誘発課題の報酬。我々[著者の先生たちね]は実市場を調べ、KitchenAid mixerの価格が平均325ドル、SD37ドルの正規分布に従っていることを突き止めている。ここから\(q_{true}(p^*_d)\)を求めることができる。自己報告とのずれを\(loss = \sqrt{ |q_{self}(p^*) – q_{true}(p^*)|} \)とする。\(Uniform(0,1)\)から\(r\)をドローし、\(loss \lt r\)だったら被験者に0.25ドル渡す。価格の点は4つあるので最大で1ドルもらえることになる。これはHossain & Okui (2013)の二値化スコアリング・ルールに従っている。
 探索課題の報酬。課題開始時点で3ドル渡す。第2シナリオ以降を続ける場合には1回につき1ドル払ってもらう[ある小売店で買わないと宣言した場合には1ドル払わせるということかな]。そのかわり、第2シナリオ以降では、買いますと宣言した時、より安い値段で買えたことに対する報酬がある。50ドル安く買えたら1ドルもらえる[何と比べて安く買えたらなのかがよくわからなかった。前のシナリオまでにみつけた最低価格よりも50ドル安く買えたらってこと? 図には報酬額は\((p_1 – p_L)/50\)と書いてあるんだけど…]

5. データ
 281人について分析する。[被験者が示した探索行動と回答についての記述。省略]

5.1 信念の推定
 被験者ごとに信念の分布を推定する。以下、添え字\(i\)は省略する。\(\mathcal{F}_d = Pr(p \leq p^*_d)\)と表記する。正規分布を仮定して(歪みのある正規分布を仮定しても歪みが小さかったから)、そのパラメータを次の式で推定しました: $$ (\hat{\mu}, \hat{\sigma}) = arg min_{\mu, \sigma} \sum_d [p^*_d – \Phi^{-1}(\mathcal{F}_d; \mu, \sigma)]^2$$ [そんなに難しい話ではないね。要は回答とのずれが最も小さくなるような正規分布を求めたわけだ]

5.2 信念の異質性と更新
 […] 信念には大きな異質性があった。最初は市場価格を過小評価するが最初の小売シナリオ提示ですぐに更新され、真の分布にぐっと近づいた。

6. 探索コスト推定
 探索コストの上下界を推定する(第1シナリオで買った人は下界、最後まで買わなかった人は上界しかわからないけど)。で、上下界それぞれのCDFを描いたり、中央値とSDを求めたりして、合理的期待やベイズ更新を仮定した場合の推定値のCDFと比較する。中央値は合理的期待やベイズ更新に比べて低く… [面白い話ではあるけれど、あまりにマニアックだなあと気持ちが萎えてきて、1パラグラフスキップ]
 結果をまとめます。合理的期待やベイズ更新を仮定すると、探索コストを過大に推定することになる。

 先行研究では、探索コストの高さについていろいろな説明がなされてきた。限界リターンによる説明とか、探索履歴を全部観察していないせいだとか、そういう探索手法なんだとか、ヒューリスティックスだとかなんとか。どれも本研究の結果を説明できない。本研究では、事前信念の異質性のせいで探索コストの過大推定が起きることが示された。
 本実験では、探索を続けて50ドル以上の価格低下が起きるならば探索を続けたほうが儲かるのだから、探索コストは50ドルのはずである。しかし推定値の中央値は7ドルくらい。これはセイラーいうところのハウス・マネー効果で、最初に渡した3ドルがハウス・マネーになっているのだろう[不労所得だから気前よく使うということね]。

7. ベイズ更新と先行信念
[なんだか関心が薄れてきたんだけど、テクニカルに面白いのでメモを続ける]

7.1 ベイズ更新を仮定することの含意
 被験者はベイズ更新しているのだろうか? Epstein(2006 Rev.Econ.Stud.), Epstein, Noor, Sandroni(2010 BE J.TheoreticalEcon.)に従って検証する[なんにでも先行研究があるものね…]。
 [以下、原文には被験者\(i\)の添え字がついているけれど、面倒なので省略する]
 被験者が事前(\(k\)回目の探索の後)に持っていた期待価格を\(\mu_k\)とする。ディリクレ過程事前分布とベイズ更新を仮定したときの事後期待価格を\(BU(\mu_k; p_{k+1})\)とする。以下の回帰を行った[ははあ。自己回帰モデルだね]:$$ \mu_{k+1} = \kappa BU(\mu_k; p_{k+1}) + (1-\kappa) \mu_k + \epsilon_k$$ \(\kappa\)の推定値は0.686。
 つまり、被験者は探索した価格に対してunderreactしているわけだ。

 では、被験者がベイズ更新していると仮定するとなにが起きるのか。
 この実験では、ベイズ更新(ディリクレ過程事前分布)を仮定した際の探索コストの推定値は中央値6.28ドルだった。これは誘発した価格信念を使った推定値とそんなに変わらない。つまり、事前信念の異質性を仮定することがとても大事なんだけど、ベイズ更新という仮定はそんなに悪さをしない。

7.2 事前不確実性の相対的重要性
[事前信念の異質性が探索コスト推定に与える効果についてさらに調べている。パス]

8. 信念の異質性と価格差別化
 価格差別化の研究では、異なる消費者に異なる価格を提示するために、消費者のWTPの差異を活用するとか、選択の時間的な忍耐の差異を活用するといった点が強調されてきた。価格探索という文脈では、探索コストの異質性に依存した価格差別化というのが考えられるけれど、探索コスト推定にあたっては価格の事前信念がみな同じという仮定が置かれることが多かった。我々は、WTPとは独立な、事前信念に基づく価格差別化によって小売が得ることができるベネフィットを定量化した。[…]
 本分析では、それぞれの被験者が十分に高いWTPを持っていると仮定し、WTPの影響を分離した。WTPにも個人差がある場合、小売はWTPに基づく価格差別化によってもベネフィットを得られる。
 [… 事前信念の異質性をセグメントで表現すると利益が上がるというデモンストレーション。パス]

9. 考察と結論
 本研究の限界: (1)探索をやめて買うのもやめるというのを考えていない。(2)等質な財について考えている。(3)系列探索のことだけ考えている。(4)今回はハウス・マネー効果らしきものが生じたが、最初に渡した金についての説明を変えれば変わってくるかも。(5)信念の異質性に注目し、WTPの異質性に基づく価格差別化については考えなかった。(6)ベース分布として正規分布を仮定した。
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 えーと… 消費者の価格探索行動から探索コストを推定するという研究群があって、その分野では、価格知識を直接に観察できないので、合理的期待orベイズ更新という仮定に依存して研究している。でもその仮定が怪しいせいでバイアスがあるかもしれない。そこで、価格知識を直接に推定できるような超・人工的な課題を使って、仮定に依存した場合と依存しなかった場合のずれをしらべました。という話だと思う。あってますでしょうか。
 
 まったくの門外漢によるナイーブな感想なんだけど… 消費者が市場の価格分布を知っている(合理的期待)というのはいかにも経済学の先生が考えそうなフィクションで、それが現実と乖離しているのは当然に思われる。むしろベイズ更新という仮定のほうが、一見もっともらしいんだけどよく考えてみると納得がいかず、もやもやしながら読んでいた。消費者が市場の価格をみて価格についての信念を更新するといっても、その学習係数というかカルマン・ゲインって実際にはかなり低いんじゃないの? だって私、近所のスーパーに行くたびに毎回新鮮な気持ちで「うわあ物価高だなあ」と思いますよ? 7章冒頭でそこんところを定量化しているのが面白かった。
 いや、研究者の先生方からみれば、仮定が現実とずれていること自体はまあ仕方がなくて、そのずれが本筋の研究(ここでは探索コスト推定)にどの程度のバイアスをもたらすかに関心があるんでしょうけど。すいません、そこにはあんまし関心持てないんです。

 マーケティング・リサーチの分野で生計を立てている愚かな身の上としましてはですね、探索コスト推定とかより、個々の消費者の価格知識をどうやって推定するかという話のほうに関心がある。その点でこの研究の誘因整合的手続きは面白かった。なにか仕事に生かせるといいんだけど。