読了: Mazar & Wood (2018) 習慣の心理学的定義

Mazar, A., Wood, W. (2018) Defining Habit in Psychology. Verplanken, B. (ed.) The Psychology of Habit, Chapter 2. Springer.

 仕事の都合で目を通したやつ。習慣についての論文集の第2章 (第1章, 第12章)。

 いわく:
 最初に現代の研究における習慣の概念的定義を紹介しておくと、「記憶における手がかり-反応連合で、ある安定した環境におけるある行為の反復を通じてゆっくり獲得されるもの」である。

1. 習慣の歴史的定義
 [W.James, 行動主義、トールマン、情報処理モデル、Fishbein&Ajzen, Triandis, 自動性、認知神経科学, システム1/2, 経験サンプリング研究の紹介。メモ省略]

2. 現代の定義
 習慣記憶の手がかり-反応連合は道具的学習の一部を形成する。まず意図に基づいた行為があり、その繰り返しを通じて、文脈における安定的要素が行動と連合し、それらの要素の知覚が(意識的な目標表象抜きで)行動を直接引き起こすようになる。習慣形成とは行動的制御が目標依存から文脈依存に移行するプロセスである[なるほど]。
 目標が習慣パフォーマンスと3つの点で関連する。(1)目標はある文脈での行為の反復を引き起こす。(2)目標は習慣的行動の表現に影響する(望ましくない習慣を抑制したいときとか)。(3)人は習慣的行動から目標を推論する。

2.1 習慣の自動性の諸特徴
 習慣についての近年の説明では自動性が定義的特徴になっているんだけど、では自動性とはなんなのかというとこれがはっきりしない。それは目標独立性、無意識性、効率性、高速性、といったいくつかの特徴を含む多次元的構成概念である。個々の研究における定義はそこでの関心や測定に依存している。古典的な定義は、自動性は単一ステップの記憶検索を含むというもの。
 習慣じゃない自動性もいっぱいある。概念プライミングとか、自動的目標追求とか。自動的目標追求というのは階層的情報構造を仮定していて、目標の活性化が拡散して目標関連行動も活性化すると考える。いっぽう習慣は手がかり-反応の直接的連合からなる。

  • 文脈依存性。繰り返される文脈特徴はなんであれ習慣の手がかりになれる。「仕事しているとき」のような抽象的表象でもよい。
     習慣形成には文脈の安定性が重要である。文脈の安定性は過去の頻度と意図から行動への影響のモデレータになっている。
     W. Jamesもいっているけど、ある行為について考えることとその行為を行うことは完全には区別できない(ideomotor actionの原理)。習慣の直接cuingもこの原理による。[…]
     ある行為がある文脈で報酬を与えられると人が学習するとき、その文脈はその反応を活性化する能力を得る。この連合は視覚的注意さえ駆動する。[…]
     文脈の変化は習慣的反応を緩和する(習慣非連続性)。転勤とか。[…]
     [だんだん飽きてきた。こういう心理学的知見の概説的説明ってそりゃそうだよなという話ばかりで飽きるのである。もっと実証研究の話をくれよお… 細かくて面白い話をよお…]
  • 目標独立性。強い習慣はアウトカムを操作しても持続する。たとえばソフトドリンク飲用習慣が強い人は説得で選好を変えても選択が変わらない(Itzchakof, et al. 2018 JESP)。[…]
  • 自動性のそのほかの特徴: 習慣は意識的内省ではアクセスできない。よって習慣によって活性化された心的内容が目標とか選好に誤帰属されることがある。[…]

3. 習慣の測定
 習慣の操作的定義はいろいろある。測定もいろいろあり、時には行動の予測力が異なることもある。

3.1 自己報告指標
 [いやあ、ほんとに飽きてきたので、ここからは眠気覚ましのために細かくメモするぞ]
 社会心理学において習慣強度の指標として最もよく使われているのは、行動の頻度・経験についての回顧的な自己報告である。行動頻度・文脈安定性指標は、行動頻度の指標と文脈安定性の指標を結合したもので、安定的文脈におけいて頻繁に繰り返される行動は基本的学習メカニズムを通じて習慣になったのだろうという仮定に基づく。習慣強度は頻度と文脈安定性の積として求められる。つまり頻度が高く文脈が安定的な行動が習慣的だとみなされる。
 行動頻度・文脈安定性指標の利点として真っ先に挙げられるのは実質的な予測力である。それを引き起こす要因のひとつは過去の行動と未来の行動の連合の強さである。Verplanken & Ortbell (2003)は、いくつかの研究を通じて、ある習慣指標(SRHI)から行動頻度の項目を抜くと予測的妥当性がわずかに下がることを示した。さらに、行動頻度・文脈安定性指標は文脈敏感であり、習慣の手がかり依存的性質を活用している。しかし、行動頻度・文脈安定性指標にはh事犯もある。それは過去の行動頻度に依存しおり、行動に影響する習慣以外の要因をもとらえている可能性がある。さらに、手がかり-反応連合それ自体の強度ではなく、習慣形成を引き起こすであろう条件を評価している。

 [眠気は覚めたがさらに飽きてきた。もとのペースに戻そう]
 SRHI(Self Report Habit Index)は反復・自動性・行為についてのself-identificationの知覚を直接に評価する指標である。自動性の項目だけを取り出したSefl Report Behaviral Automaticity Indexというのもあうr。信頼性も予測的妥当性も高い。いっぽう意識的内省に頼っており、流暢性感覚のような他の自動的プロセスの効果も反映している可能性がある。
 習慣的行動の毎日のトリガーを自己報告させるという方法もある。もっとも手がかりを意識できないことも多いし、素朴理論を反映してしまう。

3.2 行動的・潜在的・環境的評価方法
 目標や文脈の変化に対する行動の敏感性を測るとか、生態学的に妥当な環境における暗黙的な認知的連合を測るという手もある。

  • Reward devaluationパラダイム。まずアウトカムを得るための行動を学習し、次にアウトカムの価値を下げる。このパラダイムは行動は習慣的か目標志向のどっちかだという仮定に依存している。しかし目標独立だからといって文脈依存的とは限らない。アウトカムに敏感でないのは、目標志向的制御の欠陥のせいかもしれない[ああそうか、なるほどねえ]。このパラダイムを文脈変化と結びつけ、習慣的文脈ではアウトカムdevaluationへの敏感性がないが新しい文脈では敏感であるときに習慣だとみなすというのがよいだろう。Neil et al.(2022 PSPB)は、映画館ないし会議室で映画を観るときのポップコーンを操作する実験をやっている。習慣化している人は映画館ではポップコーンが湿っていても食うが会議室では食べない。
  • 習慣強度の潜在指標。Neil et al.(2012 JESP)は語彙判断のプライミング実験をやている。ランニングの習慣がある人はランニング関連用語の認知が早く、ランニング目標語を活性化してもしなくも変わらない。
     習慣強度の指標として反応時間を使っている研究がふたつある(Danner et al., 2008 Brit.J.Soc.Psych.; Labrecque et al., 準備中)。後者はコンピュータ上でスシを握る課題。[説明が書いてあるけどわけわかんなかった。ははは]
  • ecological momentary assessment. 最近出てきた手法。携帯デバイスで一日に何回も簡単な指標をとる。潜在指標が使えるかどうかは意見がわかれている。[もうちょっと具体的に教えてくれないとこまるな… Stone, Shiffman, DeVries (1999 Chap.), Wood et al.(2002 JPSP), Marhe, et al.(2013 J.Consulting&Clin.Psych.), Sabin, et al.(2012 PLoS One)というのが挙げられている]

4. 結論
 習慣についての素朴知覚は科学的理解と近い。しかし人々は習慣的行動と目標志向行動を区別していない。
 研究において注目すべきは習慣の理論的定義と操作的定義のずれである。[…]
 今後の研究では潜在指標とecological momentary asssessmentが有望。
 云々。
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 本題ではないので上のメモでは省略したが、冒頭で紹介されているGershman, et al.(2016 PLoS One)というのがちょっと面白かった。被験者に次の物語を読ませる: オフィスのドアノブが壊れていてうっかりある方向に回すとロックされてしまうということを新入社員に教えたがその日のうちにたちまちロックしてしまった。さて、彼を責めますか?という課題。新入社員が「まわしちゃいけない方向が自宅のドアノブと同じ方向だったんです」と言い訳すると許されるとのこと。人々が「習慣は意図を伴わない」と認識しているということの証拠となっている。「うん知ってた」という話だけど、証拠の作り方として面白いっすね。

 それにしても、なんか飽きてきちゃったな、この論文集… どうしよう…