読了: Evangelidis (2024) ステルス値上げは不公正だと感じられる、なぜなら欺瞞的だから

Evangelidis, I. (2024) Shrinkflation Aversion: When and Why Product Size Decreases are Seen as More Unfair Than Equivalent Price Increases. Marketing Science, 43(2), 280-288.

 昨年のMarketing Scienceに載った論文。面白そうだし、ちょっと都合もあったので読んでみた次第。PDFが手に入らず、仕方なく著者が公開しているdraftで読んだ。

1. イントロダクション
 消費者は物価高に苦しんでいる。企業はコスト増に苦しんでいるが値上げで消費者を怒らせたくない。そこで生じるのがshrinkflation。気づかれないようにそーっと製品サイズを小さくするわけだ。消費者需要というものは、価格の変化と比べてサイズの変化には鈍感なものだからね(Cakir & Balagtas 2014 J.Retailing; Kim 2023 J.Econ.Mgmt.Strategy; Yao, Oppewal & Wang 2020 J.Acad.Mktg.Sci.。反論にImai & Watanabe 2014 AsianEcon.Poli.Rev.がある)。消費者もこの現象についてはわかっている。
 本論文では消費者が持っている公正性についての信念を調べる。製品1単位当たりの価格増大が同じであるとき、価格増大と製品サイズ縮小が同程度に公正であるとみなされるのはどの範囲か。かつてKahneman et al.(1986 Am.Econ.Rev.)らは、生産コストが上がったりして企業の利益が脅かされているならば消費者は値上げを公正だとみなすことを示した。消費者は製品サイズ縮小も公正だとみなすだろうか。
 本研究の貢献:

  • 製品サイズの変化と価格の変化に関する消費者の公正性判断の非対称性を明らかにする。
  • 先行研究は消費者需要に対する製品サイズの効果を調べていた。でもそれは消費者の選好の問題かもしれないし検出・反応能力の問題かもしれない。本研究は公正性知覚への効果を調べる。
  • 製品サイズが縮小した時の消費者認知過程を調べる。

2. 製品サイズ宿所についての消費者の信念
 ある行為の公正性はどのように評価されるか。Kahnemanらいわく、そこで中心になるのはreference transactionである。それは公正性判断の参照点で、消費者購買でいえば、参照価格と企業の参照利益で決まる。ということは、製品サイズについても参照点を考えることができるだろう。
 さてKahnemanらが示したところによれば、企業の参照利益が脅かされているときに値上げすることを消費者は公正と判断する。ということは製品サイズを縮小しても公正と判断するはずだが、Kahnemanらは調べていない。Friedman & Toubia (2022 J.Assoc.Cons.Res.)は価格維持のための品質低下は不公正とみなされると指摘している。サイズ縮小もそうかもしれない。
 仮にサイズ縮小が不公正だとみなされるならそれはなぜか。本研究では、サイズ縮小がより欺瞞的な印象を与えるからだ、と提案する。

3. 実証研究の概観
 研究は5つ。すべてプレレジ実験です。すべてCPGを使ったシナリオ実験。

4. 研究1. 製品サイズ縮小は価格増大と同程度に公正か?
 シナリオ: ある{チョコレート, オレンジジュース}メーカーは、生産コスト増大に直面し、{価格を上げよう, 製品サイズを小さくしよう}としています。acceptableですかunfairですか? なお単位当たり価格増はそろえてある。
 被験者はProlificで集めた501人。ひとり2問。[チョコとオレンジを通じて価格群とサイズ群に割り付けるのか、チョコとオレンジそれぞれについて割付るのか、わからなかった]。
 結果。acceptableは、チョコでは値上げ69%, サイズ縮小56%、オレンジでは値上げ73%, サイズ54%。shirinkflation嫌悪がみられた。なお、値上げとサイズ縮小を被験者内で操作した実験でも再現できた。

5. 研究2-3. プロセスについての証拠
 研究2。
 シナリオ: あるポテトチップスメーカーは、生産コスト増大に直面し{価格を上げよう, 製品サイズを小さくしよう}としています。fairですかunfairですか? 被験者はProlificの301人、被験者間操作。fair率は、値上げ59%, サイズ縮小40%。
 さてこの実験で、unfairと答えた人にその理由を自由記述させた。コーダーが以下を判定: unfairである理由として(1)deceptive,devious,dishonest,misleading,sneakyを挙げているか (2)前と同じ量を得るのにもっと買わないといけないからだと述べているか。さらに別の理由があったら教えてねと教示。
 コーダーさんいわく、はい、別の理由もありました。(3)変化が大きすぎる。(4)「shrinkflationじゃん」。
 分類結果。(1)は値上げでは3%, サイズ縮小では28%。(2)は0%, 6%。(3)は68%, 19%。

 研究3。もっと検証的にやります。
 シナリオ: あるティッシュペーパーメーカーは、生産コスト増大に直面し{価格を上げよう, 製品サイズを小さくしよう}としています。fairですかunfairですか? 被験者はProlificの1000人、被験者間操作。fair率は、値上げ50%, サイズ縮小35%。
 さて回答後に以下3問を示して7件法で評定させた。(1)消費者が気づかないので欺瞞的だ。(2)必要な量を手に入れるのによりたくさん買わないといけなくなる。(3)変化が大きすぎる。
 で、実験条件→(1)(2)(3)→公正性知覚というモデルを組む。間接効果は(1)が正の有意。[はっはっは。大変素朴な分析だが、面白いねえ]

 なお、別の説明として、値上げはコスト増大と整合している(どっちも「増える」)、だから公正にみえる、という説明がありうる。そこで「供給元から納品される原材料が減った」というシナリオでも実験した。やっぱり値上げのほうが公正だと判断された。

6. 研究4. シュリンクフレーション嫌悪の調整因子: 変化の透明性
 シナリオ: ある洗剤メーカーが、生産コスト増大に直面して{価格を上げました, 製品サイズを減らしました}。{(なし), メーカーはそのことをパッケージに明記しました}。fairですか、unfairですか?
 被験者はProlificの4010人、2×2=4セルに割付。
 fair率は、値上げ47%, サイズ減少31%, 値上げ+明記65%、サイズ減少+明記63%。透明にすれば効果は消えるわけだ。

7. 研究5. シュリンクフレーション嫌悪の調整因子: 価格変化
 今度は生産コストが上がってない場合、つまり、企業が単に利益を追求している場合はどうなるか。
 シナリオ: あるポテトチップメーカーは生産コスト増に{直面している、いない}。で、{値上げした, サイズを縮小した}。fairかunfairか?
 fair率は、生産コスト増なら63%, 37%。そうでないなら21%, 14%。コスト増がないときにも差は残るけど小さくなっている(交互作用が有意)。

8. 一般的考察
 公正性の理論への貢献: (1)reference transactionからの逸脱において、価格増大とサイズ減少は非対称であることを示した。(2)Kahnemanらによれば公正性判断は企業の価格構造と受容シフトの関数であって変化の理由は問われない。しかし本研究では企業の透明性の役割を示した。
 企業への示唆: コスト増のもとでは価格を上げるほうがよい。サイズを小さくする場合はその旨明示するほうが良い。
 政策立案者への示唆: 消費者保護のために、価格だけじゃなくて製品サイズも監視せよ。
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 あまりに面白くて、ついつい最後まで読んでしまった。
 研究5まであるけれど、個々の実験はきわめて素朴。学部生の卒論だといわれてもおかしくない。でも、問題設定とストーリーが明確。考察の風呂敷も広すぎず狭すぎない。実験研究はこうじゃなくっちゃ。さすがは一流誌だ。いやー、面白かった!
 
 この論文の勝因は目的変数を公正性判断に絞ったところだと思うけれど、気になるのはやはり実購買との関係ですね。その製品リニューアルは公正だとは思うけれど、ちょっと買う気が失せたなあ、ということだってありうるだろう。