読了: Laskey, Day, & Crask (1989) 広告メッセージ戦略の分類

Laskey, H. A., Day, E., & Crask, M. R. (1989). Typology of Main Message Strategies for Television Commercials. Journal of Advertising, 18(1), 36–41.

いわゆる広告クリエイティブ戦略のうちメッセージ戦略(what to say)について分類を提案する論文。仕事の都合でざーっと読んだ。

面白かった点:

  • 先行する分類としてFrazer(1983)ってのがあって、クリエイティブ戦略を generic/preemptive/USP/brand image/positioning/resonance/affectiveに分けているんだけど、著者いわく、これで実際にクリエイティブを分類しようとするとコーダーさんが超困惑するとのこと。ははは。
  • というわけで著者らの提案は、まずinformationalとtransformationalにわけ、前者をcomparative/USP/preemptive/hyperbole/generic, 後者をuser image/brand image/use occasion/genericにわける、というもの。確かにね、これなら分けやすいように思う。先にざっくりcoolかhotかでわけるというのがミソなんでしょうね。
  • 891本のTV CMを7人のコーダーでコーディングしたらたいてい一致した由。たぶん9個の変数について二値判断したんじゃなくて9カテゴリに排他的に分けたんだと思う。そらあたいしたもんだ。
  • コトラーのマーケティング・マネジメントの16版には、クリエイティブ戦略について情報型と変容型にわけて説明していて、たしかこの論文がreferされていた。なので、informational/transformationalという区別はこの論文が元ネタかと思っていたが、この区別はWells(1980)が元であるとのこと。これ、どうやら論文ではなくて、Needam Harper Worldwideという代理店(現DDB Worldwide)のwhitepaperのようなものらしい。

感想:

  • たとえば、ここではwhat to sayの戦略のひとつとして比較広告というのがはいっている。でも比較広告をhow to sayというか、広告のエグゼキューションの方略として捉えている論文もある(たとえばDall’Olio & Vakratsas(2023 JMR)がそうだ)。what to sayとhow to sayの区別というのは案外あいまいなものなんじゃないかと思う。
  • 戦略カテゴリのひとつにpreemptiveというのがある(これはFrazerの分類にもあった)。この論文の説明によれば、このカテゴリは「主張している属性ないしベネフィットの性質を客観的に示しうるという点ではUSPと同じである。こうした広告の意図は競合にme-too広告を強いる点にある。その一次的な特徴は、それらが事実に基づき客観的に検証可能であるという点である。しかし、それら[このカテゴリの広告]はユニークさも競合ブランドへの言及も含まない。この点がUSPや比較メッセージとの違いである」。うん、それはわかる。non-unique selling proposition w/o comparisonってことだよね。さらに、このカテゴリの広告は競合より先にやらないとme-tooになってしまう、つまり先制すべき戦略だということもわかる(実際、仁科・田中・丸岡「広告心理」はpreemptive strategyを「先取り戦略」と訳している)。しかしだ。この分類は広告のメッセージ戦略の分類ですよね? 企業の戦略空間をMECEに分けようとしてんだよね? 戦略空間の中には、良し悪しは別にして、non-unique selling propositionを競合より遅れて主張しちゃうという戦略も含まれるよね? それはこのカテゴリに入るよね? だったらそれにpreemptiveって名前をつけるのは、話の先取りになっていない? マーケティング戦略の話って、時々こういう風に記述と規範がごっちゃになっていることがあって、すごく気持ち悪いなあと思うのである。すいません、きっと私はなにかを理解してないんだと思います…