読了: Hill & Sharma (2020) 消費者行動論からみた消費者脆弱性

Hill, R.P. & Sharma, E. (2020) Consumer Vulnerability. Journal of Consumer Psychology, 30(3), 551-570.

 先日、仕事の都合でメモを取りながら読んだ奴。
 消費者行動論研究の文脈での消費者脆弱性についてのレビュー。「消費者脆弱性」で検索すると消費者保護の法整備の話ばかりヒットするので、こういうレビューは助かる。

1. イントロダクション
 本論文では、消費者脆弱性についての研究をレビューし、概念枠組みを提供し、今後の研究への指針を示す。

2. 消費者脆弱性の概念的基盤

2.1 この構成概念についての先行する分節化
 ふたつの流れがある。(1)下位集団の相対的なdisadvantageに注目する(収入が低いとか)。(2)マーケターの操作に注目する。どちらも理論構築が乏しい。
 関連する研究に希少性と意思決定の関係の研究がある。しかし希少性の実験研究で検討している要因は脆弱性研究で注目される制約とちがうし、希少性に直面しているからと言って害を被るとは限らない。

2.2 先行研究におけるギャップ

  1. 消費者脆弱性ということばの用法がインフォーマルで、厳密でない。
  2. 脆弱性は誰によってどのように決定されるか。Baker et al.(2005)いわくそれは自己知覚の問題である。じゃあ既存の研究との整合性はどうなるのよ。たいてい観察者が誰が脆弱かを決めているでしょ?
  3. 消費者脆弱性を決める閾値は? Martin & Hill (2012)はconsumption adequacyに必要な資源レベルというのがあると論じている。じゃあそれを下回っていたら脆弱じゃないのか。

3. フレームワークの提案
3.1 用語の定義
 消費者脆弱性とは、消費者の資源へのアクセスとコントロールが制限されていて、市場で機能するための能力が著しく制限されているせいで、外にされされている状態のことである。
 4つの特徴がある。(a)個人、(b)ターゲット、(c)害、(d)文脈。
 特定の具体的な表現、たとえば子供とか老人とか低所得者とかを、脆弱な消費者という意味で使うのは良くない。

3.2 同定の方法: 経験と観察
 消費者脆弱性を同定する方法は二つある。本人がそう同定する場合と観察者がそう同定する場合である。いずれにせよ、脆弱性とは連続的なものである。

3.3 消費者脆弱性の先行要因
 先行要因は資源の限界とコントロールの制約に分けられる。また、いずれも個人、対人、構造に分けられる。
 これらは組み合わさって作用する。たとえば、貧しいインドの女性が貧困とジェンダーと識字率の低さのせいで資源を村の商人に独占されてしまいアクセスできないという場合、個人レベル資源限界、対人レベル資源限界、対人レベルコントロール制約が脆弱性の要因になっている。

3.4 消費者脆弱性の帰結
 勝者の対処方略は非防衛的なものと防衛的なものに分けられる。
 非防衛的対処メカニズムは2つある。(1)諦め。(2)屈服。先行要因をlegitimizeする。たとえば、読み書き能力が低い人が読み書きできると偽る場合。
 防衛的対処メカニズムは3つある。(1)超越。獄中で労働を拒否し売店の買い物を最小限にする。(2)反逆。未成年の若者が薬を売って得た金をはたいて高級車を買ってすぐに廃車にしてしまう、本人としては豊かな消費者への仕返しである、というような場合、(3)新しい構造の創造。刑務所における地下チャネルとか。

3.5 状況的脆弱性 vs. 大域的脆弱性
 消費者がある状況で脆弱であることに注目するのではなく、もっと全体的に捉えたほうが良い。医師が患者のそのときのある症状を評価するのではなく、患者をよりホーリスティックに評価するように、

4. 関連するステークホルダーへの含意
4.1 研究の統合と概念的発展
 提案フレームワークの貢献: (1)先行要因の集合を提示した。(2)資源と制御を区別した。(3)脆弱性を捉える際に注目すべき点を示した。

[この辺から飽きてきたので流し読み]

4.2 straitforward research consideration

  • 複数の要因の組み合わさり方とその効果。
  • 資源と制御の双方向的な関係。
  • 対処方略の選択。マインドセットとか。
  • どの資源がよりmalleableか(従って防衛的対処メカニズムになりやすいか)。たとえば、個人的資源は構造的・対人的要因に比べて相対的にmalleableと思われる [なんとかなりそうに思える、というような意味合いかな?]
  • 消費者脆弱性の同定における経験と観察の比較。どっちが正しいかではなく、どう組み合わせていくべきか。

4.3 more nuanced research consideration

  • 脆弱性のティッピング・ポイント。
  • 一断面のスライスではなく全体像をみること [とかなんとかそういう話]
  • 個人の動的な変化。脆弱性に対するプログラムは繰り返し再評価しなければならない。たとえば、個人の富を改善する取り組みは問題を一層悪くしたりすることがある。
  • 消費者のstrategy pivotingを明らかにすること[??? よくわからん]
  • 脆弱性が持続可能性についての概念化をどう変えるか。
  • 効果的介入。

5. 結論
[これから頑張りましょう的な話。パス]
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 先行研究レビューというよりは概念枠組み提出という感じの内容であった。過去の実証研究がいろんな状況に対して疎に広がっているので、細かいところを検討してもしょうがないということかもしれない。
 脆弱性の要因を3×2に分類するところが勉強になった。いっぽう、なんというか、「消費者脆弱性の研究」というのが内在的にみてどのくらい有益なカテゴリなのかよくわかんないな、という感想である。認知資源の不足が意志決定に与える影響についての実験研究も、社会的排除の下での人々の対処方略についてのエスノグラフィも包括するような広ーいカテゴリなんだろうけれど、広いカテゴリをつくれば勝手に統合が起きるわけでもないだろう。いや、これは社会からの要請にこたえる外在的カテゴリなんですというのなら、そりゃしょうがないなと思いますけど。