読了:「ブランド評価手法 マーケティング視点によるアプローチ」

仕事の都合で通読した。マーケティング視点からのブランド評価(財務的なのれん評価の視点ではなくて) の、分析手法とモデルに焦点をあてた解説書、とのこと。2014年刊行。
 最近はなにを読んでも端から忘れちゃうので、メモを残しておこう…

1. ブランド評価に関する基本的理解 (守口剛)
総説と各章紹介。いくつかメモ:

  • ブランド評価のアプローチを大きく3つにわけることができる。(A)マーケティング視点で、源泉となるブランド知識に焦点を当てる。(B)マーケティング視点で、市場における成果を基にする。(C)財務視点。
    • Arker(1991「ブランド・エクイティ戦略」)の分類: (1)価格プレミアム, (2)選好プレミアム, (3)再調達原価, (4)株価を基礎にしたブランド価値, (5)将来利益の割引現在価値。順にB, B, C, C, C. [なるほど、Aは入ってないわけね]
    • Kellar & Lehman (2006 MktgSci)の分類: (1)顧客レベル, (2)製品市場レベル, (3)財務レベル。順にA, B, C.
    • Keller(2007「戦略的ブランドマネジメント」)の分類, (1)間接的アプローチ, (2)直接的アプローチ。順にA, B&C.
  • この分類とは別に、付加価値としてのブランドか、総体としてのブランドか、というちがいもある。ブランド・エクイティとはふつう前者を指す。Aは前者, Bは両方ある(価格プレミアムや選好プレミアムは付加価値を、売上などは総体をみている), Cは両方を含んでいて分けられない。

2. 購買データを利用したブランド評価 (佐藤栄作)
個別ブランドの評価(集計レベル, 非集計レベル), 競争構造の把握 (集計レベル, 非集計レベル)の順に紹介。面白そうな先行研究をメモしておくと:

  • Ailawadi et al.(2003 J.Mktg.): ベンチマーク・ブランドと比べたときの「収益プレミアム」を提案。集計レベルデータで推定する。[なんだか仮定が強すぎてすぐには使えそうにないけれど、今度読んでみよう]
  • Sriram et al.(2007 J.Mktg.): SCAN*PROみたいな、売上を目的変数、マーケティング変数を共変量にするモデルなんだけど、シェアを目的変数にしたmixed-effectモデルである由。[論文のタイトルにstore-levelと書いてあるから、ブランドをクラスタとみた階層モデルなのかな? これもいずれ読んでみるか]
  • Swait & Andrews(2003 MktgSci): 購買データと調査データを組み合わせた分析。[タイトルからみるに購買データとコンジョイントらしい]

3. 調査データを利用したブランド評価 (佐藤栄作)
主に次の3つの論文の紹介。

  • Srinivasan(1979 MktgSci): ブランド力評価 [要するに、ブランド選好が目的変数、製品属性ベース選好が共変量なんだけど、ロジットモデルではなくていきなり最適化問題として解く]
  • Srinivasan, Park, & Chan (2005 MktgSci): ブランド・エクイティの源泉評価 [ちゃんと読んでないんだけど、なんだか面白そうな話が出てくるので(認知率はマーケティング活動で引き上げられている部分があるので認知者の何割かを仮想的な非認知者として扱う、とか)、今度読んでみよう]
  • Blucklin & Srinivasan (1991 JMR) 競争状況の評価.

4. WTPを用いたブランド価値評価 (守口剛)
 ブランドは製品属性の評価をあげるのか、属性評価は変わらないんだけど価値にプレミアムをつけるのか? 切り分けてみましょう、という分析例の紹介。
 パソコンのスペック法(ブランド名つき)をみせて、性能評価とWTPを訊く[WTPは直接金額で訊いている]。で、性能評価←ブランド+スペック, WTP←性能評価+ブランド+スペック+関与, というパスモデルを推定する。両方の効果があったんだけど、価値のプレミアムのほうが大きかったそうだ。
 [前に自分で清涼飲料のデータでやった分析と似ていて(学会発表までやった。物好きにもほどがある)、問題意識としては悪くなかったんだなあとうれしいけれど、この結果って結局はカテゴリによるんでしょうね]

5. コンジョイント分析を利用したブランド評価 (鶴見裕之)
 前半は多属性態度モデルとコンジョイント分析の説明。後半は、コンジョイント分析でブランド名の価格プレミアムを測定するという分析例。

6. パネル・データを利用したブランド力の評価 (里村卓也)
 あるカテゴリについて、ブランドの売上数量 = カテゴリ購入者数xブランド浸透率x購入者購入頻度 という分解を考えたとき、浸透率と購入者購入頻度のどっちがブランド力に効くか。両側対数をとって、各項の分散と左辺の分散との比をとって調べることができる。
 さて、浸透率が高いと購入者購入頻度も高いという現象が広く知られている(double jeopardy)。Ehrenberg et al.(1990)は次の3つの説明を行っている:

  • 購買確率が高いブランドは浸透率も購入者購入頻度も高くなるから。たとえばブランドA,Bの購買確率が0.7, 0.3で、購買回数が2回だとして、平均購買頻度は1.4, 0.6、浸透率(1回以上購入率)は 1-(1-0.7)^2 = 0.91, 1-(1-0.3)^2 = 0.51, 購入者購入頻度は1.4/0.91 = 1.54, 0.6/0.51 = 1.18になるでしょ、という説明。
  • 購入頻度x(1-浸透率)が定数だから。次の仮定からそうなると示せるそうだ。(1)どのブランドの購入者もカテゴリ購入個数は一定, (2)1来店時の購入数はたかだか1個, (3)浸透率はブランド間で独立, (4)購入頻度はブランド間で独立。もっとも仮定(1)は怪しい。
  • カテゴリ購入頻度について負の2項分布, ブランド別購入頻度について多項ディリクレ分布を仮定すると(ディリクレモデル)、やっぱりそうなる。

 Kahn et al.(1998)は2つめのモデルに沿って、ブランドの定数を推定している。定数が高いということは購買頻度と浸透率が両方高い、つまりロイヤルティが高いってことだ、という理屈。
 ここからは著者のご研究。3つめの路線である。
 あるカテゴリに\(m\)個のブランドがある。ある個人について、カテゴリ総購入数\(S\)が平均\(\xi\)のポワソン分布に従うとする。$$ Pr(S=s) = \frac{\exp(-\xi) \xi^2}{s!} $$ ブランド\(i\)の購買回数\(X_i\)は確率\(\pi_i\)のベルヌーイ分布に従うとする。組み合わせを\(C(n, k)\)と書くとして$$ Pr(X_i = x_i | S) = C(n, k) \pi_i^{x_i}(1-\pi_i)^{S-x_i} $$ 条件づけしない購買回数は $$ Pr(X_i = x_i) = \frac{ (\pi_i \xi)^{x_i} \exp(-\pi_i \xi)}{x_i !} $$ となり、平均\(\pi_i \xi\)のポアソン分布になる。なので、以下\(\lambda_i = \pi_i \xi\)と書く。その\(m\)個を通じた合計を\(\lambda.\)とする。
 さて、もし\(\lambda_i\)が互いに独立で、\(\lambda.\)と\(\pi = (\pi_1, \ldots, \pi_m)\)が独立であれば、\(\lambda = (\lambda_1, \ldots, \lambda_m)\)の確率分布は $$ g(\lambda) = \prod_i \frac{ \exp(-\lambda_i / \beta) \lambda_i^{\alpha_i -1}}{\Gamma(\alpha_i)\beta-\alpha_i} $$ と書けるのだそうだ。ここから $$ Pr(X_i) = \frac{\Gamma(x_i + \alpha_i)}{x_i! \Gamma(\alpha_i)} \left( \frac{1}{\beta+1} \right)^\alpha_i \left( \frac{\beta}{\beta+1} \right)^x_i $$と負の二項分布になり、\(X = (X_1, \ldots, X_m) \)の確率密度\(Pr(X=x)\)は単純に\(Pr(X_i = x_i)\)の総乗になる。これを負の多項分布モデル(NMDモデル)という。[なーんにも考えずに写経しちゃったけど、要するに期間あたり購入回数はNBDに従うという話かしらん。購入回数のNBDモデルってポアソン分布のガンマ混合のことだったと思うんだけど、ここでは\(\pi_i \xi\)がガンマ分布に従うと天下りに仮定する必要はなくて、なんらかリーズナブルな仮定から導出できるんですっていうことだろうか。いやもう、学力不足でなんにもわかんないわ…]
 ここでカテゴリ総購入数の実現値\(s\)が与えられたときの\(X_i\)の分布について考えると…\(S > 0\)と条件づけたときの\(X_i\)の分布は… [メモ省略]
 いよいよ本題。浸透率を\(b_i = 1 – Pr(X_i | S > 0)\), 購入者購入頻度を\(w_i\)として、パラメータ( \(\alpha_i\)は消えて\(\beta\)だけ残るのだそうだ)を変えて両者の関係をみると、なるほど浸透率が高いと購入者購入頻度も高い。しかし浸透率がすごく高い場合を別にすると、その関係は強くない。
 今度は、ロイヤルティの指標として、購入者中シェア\(SCR_i\)、単一ブランド購入者率\(SB_i\)を考えると、どちらも浸透率が高いときに高くなる。
 ここまでで規範的関係が分かったので、実データにあてはめて、\(b_i, w_i, SCR_i, SB_i\)の散布図を描く。\(SCR_i, SB_i\)の理論値と実現値の乖離を目的変数にして回帰分析すると、値引きが負の効果を持つ由。値引きはロイヤルティ向上に寄与しないようだ。云々。
 [自分の仕事と直接に関係する話でもあって、とても面白かったんだけど、式の展開が速すぎてついていけなかった… 里村(2007, 紀要)というのを読むといいらしい。ええと、SCIやQPRみたいなホームスキャンパネルから、主要ブランドの浸透率(1回以上購入者率)と、単一ブランド購入者率みたいなロイヤルティ指標を出しておいて、購入回数をNBDと捉えるモデルに基づきロイヤルティ指標の理論値を出して、実現値との乖離を調べると、あらこのブランドのロイヤルティは不当に低いわねなぜかしら、というような分析ができるってことね。うーん、でも裏に消費者異質性があったときのバイアスがどうなるのか、見当がつかなくて怖い…]

7. 潜在クラス・モデルを利用したブランド・ロイヤルティの評価 (守口剛)
 あるカテゴリの世帯購買履歴データを選択モデルにあてはめるんだけど、共変量として価格や特別陳列を入れ、さらにブランドロイヤルティとか特売への反応の強さとかを表す潜在クラスを入れるという話。係数は時変させてない。実データの分析例を示している。

8. ベイジアン・モデリングによる動的ブランド診断 (佐藤忠彦・樋口知之)
 前半はベイジアン・アプローチの紹介。後半はPOSデータのモデリング。複数製品の期間あたり売上個数を目的変数、価格とかを共変量にとった自己回帰モデルで、係数を時変させまくる。状態空間表現に書き換えてカルマンフィルタで推定。実データの分析例を示している。

9. 購買データを用いたブランド間の競争市場構造分析の事例 (佐藤栄作)
主に次の2つの研究紹介。どちらも実データへの適用例を示している。

  • Grover & Srinivasan (1987 JMR): スイッチング行列の分析。モデルに潜在クラスをいれる。
  • 片平(1991)のLOGMAP-J. 非集計データから、製品マップと各セグメントの理想ベクトルを同時推定する。