Dall’Olio, F., & Vakratsas, D. (2023). The Impact of Advertising Creative Strategy on Advertising Elasticity. Journal of Marketing, 87(1), 26–44.
仕事の都合で目を通した。広告クリエイティブが広告の効果にもたらす影響についての観察研究。
こういうのって、巨大なコードブックを使って各クリエイティブを山のような変数についてコーディングし、モデルに全部ぶちこむんだろうと思っていたのだが(そういう研究ありますよね? あんまし読む気にならないけれど)、この研究は「まず広告クリエイティブ戦略のフレームワークを作りました」という話で、変数もメッセージ面が3個、形式面が9個しかない。そこのところに関心を惹かれた。
1. (イントロダクション)
本研究では、広告クリエイティブ戦略(ACS)の広告の弾力性への影響を評価する。
本研究の独自性は、ACSをfunction(what to say)とform(how to say)にわけて評価するという点。かつて伝説的広告マンDavid Oglivyはwhat to sayのほうが大事だといい、William Bernbachはhow to sayのほうが大事だといった[へえー。WPP社長Oglivyは1911-1999。William Bernbachはという人は1911-1982, DDBの社長だったらしい。このくだり、Stanton & Burke (1998 JAR)というのがreferされている]。
本研究の貢献: (1)ACSのフレームワークを提供。(2)広告の弾力性へのACSの影響についての洞察を提供。
2. クリエイティブ要素と広告効果
[先行研究が表になっている]
- Chandy et al.(2001 JMR): 新市場には合理的訴求、成熟市場には感情的訴求が効く。
- MacInnis, Rao, & Weiss (2002 JMR): 感情的手掛かりが効果的。
- Bass et al.(2007 Mktg.Sci.): 感情的テーマは摩耗しにくい。
- Bruce(2008 Mktg.Sci.): 異なるテーマをプールすることでシナジーを作れる。
- Liaukonyte, Teixeira, & Wilbur (2015 Mktg.Sci.): 情報的であっても感情的であってもアクションに焦点を当てることが購入を促進する。
- Anderson et al.(2016 RAND J.Econ.): 比較広告は自社を促進するというより他社を阻害する。
- Hartnett et al.(2016 J.Adv.): 広告効果は単一のexecutional要素では説明できない。[これ、たぶん広告をすごくでかいコードブックでコーディングする研究だと思う]
- Becker, Wiegrand, & Reinartz (2019 J.Mktg.): ブランドのエッセンスと一致する広告がよい。
- Bruce, Becker, & Reinartz (2020 JMR): ブランド顕著性とブランド連想手がかりが効く。
こうしてみると、function/formの区別と交互作用についての研究はない。クリエイティブ・テンプレート[あれ? ここで初出?]とかACSの全体論的側面の研究がない。
3. ACSの統合的フレームワーク
[ここが面白いので、細かめにメモするぞ]
3.1 Function
広告内容は情報と感情の2軸で評価されることが多い(軸の呼び方はいろいろだけど)。どっちかに絞ったほうが効果的だといわれている。
情報的内容はさらに属性についての記述と属性がパフォーマンスに用いられるやり方(手続き)にわけられる。前者は分析的処理、後者は全体的(holistic)処理を促進する。
[ここの理屈がいまいちわからんので、そのくだりを逐語訳すると…
多くの場合、顧客のニーズと欲求はholisticである。つまり、さまざまな属性の(おそらくは複雑な)組み合わせである。ペーパータオルの吸水性はholisticな顧客ニーズで、紙の品質とそのデザイン(たとえばスポンジ状の泡)の組み合わせに依存する。手続き的情報は、さまざまな製品属性が結合してパフォーマンスを実現することを伝え、それによって全体的処理を促進する。ペーパータオルの泡が液体を吸収し、硬い表面をきれいにするのに役立つことを示し、最後にペーパータオルを絞ることでそれを強調する広告は、ペーパータオルの品質(耐久性)とデザイン(泡)が組み合わさってholisticな顧客ニーズ(吸水性)を満たしているということを示す。また、[この広告は]製品がどのように(どのように)使用されるべきかも示している。手続き的情報は事例学習というアイデアと整合する。それは関連性、処理能力、理解を高めるはずである。
つまり、ここでいっている手続き的情報というのは、製品属性が製品性能を実現するという手続きについての情報と、ユーザが製品を使う手続きについての情報の両方を指しているわけだ。ここでは、分析的/全体的処理という二分法と、宣言的/手続き的情報という二分法が対応付けられているけれど、この対応は自明なのだろうか。たとえば顔認知は手続き的記憶に基づくとは言いにくいけど全体的処理ではありますよね。スポーツ選手は手続きの構造を分析的に学んでいたりする。ユーザの製品使用手続きの情報の処理は全体的処理かもしれないけれど、製品属性が製品性能を実現する手続きの情報の処理が全体的だという主張はどうもよくわからん。まあ、これは本筋に関わらないから、どうでもいいっちゃいいんだけどさ]
というわけで、広告内容の軸として、cognitive, experiential (手続き情報のこと), affective の3軸を考えます。
3.2 Form
executionalな要素についての先行研究を調べ、それらを次の5つのカテゴリに分類した。comparative, endorsement, entertainment, imagery/visual, mnemonic deviceである[これも表になっている]。最初の2つはinformationally based, 次の2つはaffectively based、最後のはどちらともいえない。
さらに、executionには一般的なパターンがある。Goldenberg, Mazursky, & Solomon (1999 Mktg.Sci.)はこれをテンプレートと呼び、次の6個を挙げている。
- アナロジー。スナック菓子のフレーバーをいろいろまぜると美味しいよというCMで、フレーバーがお互いをひきつけあう様子を表現するのに磁石を使う、とか。
- 極端な状況。炭酸飲料のCMで、木のオレンジが缶の形状についていろいろ言う。
- 帰結。シリアルのCMで、男が競合ブランドを選んで不健康になっていくんだけど、自社ブランドを選んだら健康になる。
- 次元変容。デオドラントのCMで、デオドラントが盾に代わって雨から人を守る。
- 競争。本研究ではデータベースに入ってないので使わない。
- 相互作用経験。TVじゃ無理なので使わない。[これって店頭プロモーションのことなのかな? 元論文を読まないとわからんな]
3.3 functionとformの相互作用
研究は少ないんだけど、functionとformは一致してると処理が楽で、不一致だと注意を惹くだろう。[…]
3.4 合成ACSメトリクス
3つの指標をつくる。(1)内容が3軸のどこかにフォーカスしているか。(2)内容が時間とともに3軸の空間上を動くか。(3)excecutional要素が時間とともに変わるか。
4. 実証研究
[やれやれ、疲れた… ここからは適当にメモする]
4.1 データ
4年間、CPGの16カテゴリに注目。ナショナルブランドのみ、途中で出てきたり消えたりしたのは除く。91ブランド。
週次の売上数量とマーケティングミクス活動を、IRI Marketing Data Setから得た。売上の単位はIRIのVEQユニットという奴[よくわからんがSKUをうまいこと重みづけた指標らしい]。配荷と製品ライン長をうまいこと調整した[めんどくさいのでパス]。
広告支出とTV広告クリエイティブを、Kantarのメディア”Stradegy”データベースというのから得た。広告支出はなんかうまいこと処理した[めんどくさいのでパス]。ブランドx週別に、クラッターの程度、累積広告支出、前の広告投下からの間隔を求めておく。
さて、クリエイティブ2251件について、以下の項目をコーディングした。(1)Cognition: Product, Price, Place, Promotion。(2)Experience: Usage, Usage novelty, Behavioral reinforcement, performance demonstration. (3)Affect: feeling generation, emotional benfits. (4)executional elements: comparative, endorsement, entertainmment, imagery/visual, mnemonic device. (5)creative template: analogy, extremes, consequences, dimensionality alteration. 要するに、functionが4+4+2項目, formが5+4項目。すべて二値変数である。各変数について採点基準をつくる。たとえば、そのCMに新製品が出てきたり、客観的特徴における新しさが出てきたり、客観的特徴を強調していたり、認証とか研究結果について触れていたら、cognition – Product の項目が1になる。
コーダーは二人。各CMを二度以上みてコーディングした。[うっわー… 地獄だね…]
functionの3次元については平均する。出稿スケジュールはわかっているので、ブランドx週次で、その週に出稿してたクリエイティブの得点を支出金額で重みづけ平均する。で、以下の指標をつくる。
- focus. functionの3次元(C,E,A)のうち、たとえばEが最大だったら、E-AとE-Cを足して2で割る。
- content variation. C,E,Aの3次元空間上での、前週からのユークリッド距離。
- exectuional variation. 5変数について、前週からの差の絶対値の和を5で割る。
4.2 方法論
動的回帰モデルを組む。目的変数はブランド \(i\) x 週\(t\)の売上の対数。
[以下、めんどくさいので本文をロクに読まず、式だけ眺めてメモしている]
- 売上の式は別に動的じゃなくて、ラグ変数とか動的攪乱項とかは入ってない。説明変数は、goodwill (adstockのことだろう)、季節性、マーケティング・ミクスの諸変数、そしてコピュラの項というのである。コピュラの項というのは、えーと、適切な道具変数がないのでパラメータを一致推定するためにガウシアン・コピュラ法を使った、のだそうだ。マーケティング・ミクスには当然ながら内生性があるわけで、それをどうにかする方法なんだろうけど… 前に道具変数フリーな方法として名前を見かけたことはあったんだけど… ううう、知識不足で全然わからん。Park & Gupta(2012 Mktg.SCi.), Datta, Ailawadi, & Van Heerde(2017 J.Mktg), Rossi (2014 Mktg.Sci.), Wedel & Kannan (2016 J.Mktg.)というのが挙げられている。
- で、ブランドx週のgoodwillの式を立てる。この式は動的で、右辺は、ブランド別定数項、goodwillのラグ1の項(係数は製品カテゴリ別)、(ブランドx週別の広告支出+1)の対数に時変係数\(\gamma_{it}\)をつけた項、攪乱項(ホワイトノイズ)。この\(\gamma_{it}\)ってのが広告弾力性である。
- ここから\(\gamma_{it}\)の分解がはじまる。なお、以下には攪乱項は出てこないし、使う変数は特記ない限りブランドx週別である。パラメータはすべてブランド別。
- まず\(\gamma_{it}\)を\(\beta_{it}\), ブランドx週別の「干渉」、ブランドx週別の「ダイナミクス」、の積とする。この\(\beta_{it}\)が広告弾力性のうちクリエイティブで決まる部分なわけだ。
- ブランドx週別の「干渉」は「クラッターの程度」の関数とする(パラメータがはいる)。
- ブランドx週別の「ダイナミクス」は(1-摩耗)x(1-復活)とする。「摩耗」は前週の「累積広告量」の関数とする(パラメータがはいる)。復活は「前の広告投下からの間隔」の関数とする(パラメータがはいる)。
- いよいよ本命の\(\beta_{it}\)の分解である。これは、定数項、cognition項, …, comparative項, …, analogy項, … focus項, …、交互作用項の和である。交互作用項はfunction 3変数とform 5変数とすべての組み合わせ、計15個。つまり、定数項1、主効果項3+5+4+3=15, 交互作用項15で、計31個の係数があるわけだ。すべてブランド別係数である。狂気の沙汰だね…
当然ながら、カテゴリ-ブランドの階層を使ってHB推定する。
4.3 結果
functionの3軸(cognition, experience, affect)の効果はすべて正。特にexperience, cognitionが効く。先行研究ではaffectが効くといわれていたが、おそらくfunctionとformをきちんと分けていなかったからだろう。
formの5要素では、endorsement, mnemonic devicesの効果が正。templateは、analogyが特に大きく、extremesも正。
交互作用は、cognitiveはcomparativeとendorsement、experienceはcomparativeとimagery、affectiveはentertainmentとimageryと、それぞれ正の交互作用を持った。ま、だいたい予想通りですね。
合成指標は全部効いた。つまり、functionは焦点が絞られていたほうがいいし、週ごとに変わったほうがいいし、formも週ごとに変わったほうが良い。
[広告を変えると弾力性の時間変動がどうなるかというシミュレーションを例示している。めんどくさいのでスキップ]
5. インプリケーション
投下する広告の内容はcognition, experience, affectのどれかに絞ったほうがよろしい。
[それぞれに絞ったときの、functionの3軸の最適点と、そこでformの5要素のどれかを使ったときの弾力性をシミュレーションしている。疲れたのでバス]
functionとformどっちが効くかと言えば、これはOglivyの勝ちで、functionのほうが効く。でも交互作用があるからformも大事。
6. 要約と限界
[要約らしき部分をスキップ]
限界: CPG, TVしか調べてない。内生性のコントロールには限界がある。実験とか事前実験とかが期待される。広告スケジュールを考慮してない。広告支出じゃなくてGRPとかを使うのもいいかも。
—————
3章のフレームワークに関心があったので、ここだけ真面目に読んだ。テンプレートっていう考え方が面白いなあと思った。
この枠組みでいうと、what to say というのは、4Pのどれに言及するか、製品使用場面を描くか、感情を描くか… といったあたりまでに限定され、専門家の推奨とか、競合と比較するかといった要素はhow to sayに分類されることになる。うん、そっちのほうが納得感があるなあ。広告クリエイティブ戦略の話を調べていると、たとえば比較広告かどうかというのがwhat to sayとして扱われていて (Laskey, Day, & Crask (1989)とか)、それは表現方法に過ぎないんじゃないの、と気になってしまう。
疑問: 規範的に言えば、まずプランニング段階で広告のfunctionが決まり、次にクリエイティブ段階でテンプレートが選択され、最後にformが決まるんですよね、きっと。これらを全部回帰モデルに投入しちゃうと、その係数の解釈は結構難しくならないかしらん? つまり、たとえばアナロジーの係数は、formがすべて同じで、アナロジーを使うか使わないかだけがちがう2つの広告のあいだで効果がどう異なるかを調べていることになりますよね。それって、「アナロジーを使うCMと使わないCMでは広告の効果がどう異なるか」という素朴な問いに対しては、ちょっとずれた答えを出していることにならないだろうか。うーん、どうなんだろ。