Foxall, G.R., (1992) The Behavioral Perspective Model of Purchase and Consumption: From Consumer Theory to Marketing Practice. Journal of the Academy of Marketing Science, 20(2), 189-198.
仕事の都合で急いで読んだ奴。驚くなかれ、スキナー流のマーケティング理論の提案である。消費者行動論の教科書を読んでるとハルみたいなSOR図式が出てくることがあって、おおここにも心理学の歴史が… なんて思っちゃうのだが、この論文はまさかの行動分析路線。恥ずかしながら私、心理学を勉強してたことはあるものの、こっち方面については全く詳しくない。自分の院試の際とか(大昔だ)、講義の準備とかで仕方なく勉強したくらいで…
著者についてはよくわからないが、この論文で提示されるところのBPMについての著書がある。想像するに、スキナリアンがマーケティング研究に乗り込んできたというより、マーケティング研究者がスキナリアンに接近したという感じの人ではないかと思う。
イントロダクション
購買・消費の行動パースペクティブモデル(BPM)は、Skinnerの行動分析を消費者研究に適用したものだ。BPMは徹底的環境主義パースペクティブが選択について持つ含意を追求する。
マーケティング・サイエンスへのBPMの貢献はふたつ。(1)消費者行動への状況の影響を概念化する手段を与える。いっぽう認知的な決定モデルは消費者行動を脱文脈化するきらいがある。(2)BPMはマーケティング戦略についての新しい理解を提供する。
行動主義パースペクティブにおける消費者選択
要するに購買ってのは接近行動、非購入ってのは回避行動だ。[ここまで読んで、どういう筋書きなのかおよそ見当がつくような気がしてきた。やべえ、ほんとにスキナリアン様だ…苦手…]
購買の結果、強化や罰が生じ、行動の反復確率が高くなったり低くなったりする。つまり、弁別刺激\(S^D\) → 反応\(R\) → 強化刺激\(S^R\)ないし嫌悪刺激\(S^A\)、という図式である。
非購入でも同じく、弁別刺激\(S^D\) → 逃避反応\(R^E\) → 嫌悪刺激からの回避・逃避\(S^R\)ないし購入に随伴する強化子の喪失\(S^A\)、という図式が成り立つ。
\(R, R^E\)の確率は強化の履歴の関数である。あるブランドを購入する確率は、接近行動の強さを表す関数と逃避行動の強さを表す関数が交差する均衡点である。
さて、動物実験なら三項随伴性を容易に同定し、強化スケジュールの下での効果を客観的に観察できる[三項随伴性!! 文字通り数十年ぶりに目にしたタームだ。弁別刺激-オペラント行動-強化子ってやつね]。人間の社会的行動は状況が複雑すぎて三項随伴性を同定できないかもしれないけど、より単純な行動にみられる法則性を拡張して、行為を解釈することならできる。
BPMは伝統的な行動理論と違い、独立変数として次の2つを考える。(1)行動のセッティングが比較的にオープンかクローズドか。(2)ヘドニックな帰結をもたらす行動の強化か、道具的な帰結をもたらす行動の強化か。
BPMの導出
従属変数である、消費者行動の生起率について。
反応とは、環境においてその正規率を制御する随伴性に関連づけうる行動のことである。BPMは行動について概念化する際、購買前、購買時、購買後の活動からなる系列の全体をひとつの単位と捉え、ある小売場面における購買行動を他の場面に一般化したり、ある場面におけるあるアイテムの購買を多くのアイテムの購買へと拡張したりする。[ゆうとることが抽象的でわからんけど、\(R\)は広く捉えて、たとえば「つい買っちゃう」だけじゃなくて「値段をみないで買っちゃう」とか「買っちゃって腐らせる」などというのも反応とみなします、ということだろうか]
オペラントの原理に基づく消費者行動モデルは、反応が強くなったり消えたりすることを、強化ないし罰をもたらす環境的に帰結に整合的に関連づけることができるはずである。強化スケジュールは行動とその結果から分析者が推論する。
独立変数のひとつ、行動のセッティングについて。
消費者行動を形成・維持する随伴性を、マーケターなりリサーチャーなりがはっきり特定し制御できるようなセッティングのことをクローズドなセッティングと呼ぶ。たとえば郵便サービスは競合がいないのでクローズドである。
制御があまりなかったり、リサーチャーが随伴性を明確に特定できないようなセッティングをオープンなセッティングという。たとえばスーパーである消費者があるブランドを選んだとして、その理由をそれを行動的な基準だけで特徴付けるのは難しい。しかし行動的な用語で解釈することはできる。認知心理学者が行動を情報処理のアナロジーで捉えるのと同じである。[ず、ずいぶん雑な言い分だなあ…]
BPMが提供する消費者行動の解釈においては、ある行動的セッティングは、オープン-クローズドの連続線上のどこかに位置づけられる。その位置づけの基準は:
- 強化の利用可能性・接近可能性。すなわち
- 利用可能な強化子の数
- 強化子を得る手段の数
- 強化子が随伴するような具体的課題を遂行する必要性[???]
- 消費者の状況の外的制御。すなわち
- マーケターないし製品・サービス提供者が強化子へのアクセスを制御できるか
- 随伴性をもたらしているのはマーケター側か、別のエージェントか
- その状況のなかにアクセスが容易な代替物があるか
もうひとつの独立変数、快楽的/情報的強化について。
購買・消費行動を、ファンタジーとか間隔とか楽しみとかを生むことによって強化するのを快楽的強化という。強化子はポジティブ感情のような内的状態である。
人にその人のパフォーマンスの正確性を知らせることで強化するのを情報的強化という。人をポイントや金銭によって強化するのは、動物をえさで強化するのとは違う。それはパフォーマンスをより秩序だて、行動の変化をスケジュールに敏感なものにする。情報的強化は、遂行された消費者行動の正しさ・適切さについての正確なフィードバックを提供し、消費者が、自分の学習の履歴がもたらした随伴性のアミの目のなかで提示された問題を解くのを助ける。ここでいる正しさ・適切さとは、即時的な経済合理性からみた正しさ・適切さだけではなくて、地位とか威信とか社会的受容性というような社会経済的帰結からみた正しさ・適切さでもある。
[ああ、なるほど? 私はカルディでコーヒー豆を買う度にポイントカードにハンコを押してもらっていて、そのせいで私のカルディでのコーヒー豆購入頻度がちょっと上がっているんだろうけれど、ポイントという強化子は、私の混沌とした生活世界の中に、カルディに行ったら→コーヒーを買うと→ポイントもらえるという随伴性を作り出し、ポイントカードに貯まっていくハンコの数というかたちで私の行動についての情報を提示し、私がこれからもコーヒーを買いつづけることを多少なりとも正当化してくれているのだと。その正しさとは経済的合理性というよりももっと社会文化的なものなのだと。そういうことですかね? うーん、なんとなくわかるような気もするけど、経済的合理性じゃないのなら一体なんなのか、もうちょっと細かく説明してくれないと、なんとも言えんな]
BPMでは、個人の学習履歴から派生した変数を個人変数、購買前・購買・購買後行動が生じるセッティングにおける変数をextrapersonal変数と呼ぶ。マーケティング・ミクスは後者である。
セッティングと強化履歴が状況をつくる。というわけで、状況は次の3つの観点から定義される。(1)オープン-クローズド。(2)快楽的強化子と情報的強化子の相対的な重要性。(3)消費者の個人的な強化履歴。
消費者行動の状況分析
では、BPM随伴性行列をご紹介しましょう。行動の帰結を4つに分け、それぞれをさらに2つにわける。
- accomplishment. 社会的・経済的達成。それは獲得・誇示的消費を維持する。快楽的強化も情報的強化も高い。行動はVRスケジュールで維持される[懐かしい言い方だ… 強化子が得られる比率が時間変動するってことね]。
openなセッティングの場合は[1] Extended Consumer Bahavior, カジノみたいにclosedなセッティングの場合は[2]Excitement and Fulfilment という。 - pleasure. エンターティメントとか、痛み止めの服用とか。快楽的強化が高くて情報的強化は低い。VIスケジュールで維持される。
openな場合は[3]Popular entertainment, 機内食みたいにclosedな場合は[4]Inescapable Enternainmentという。 - accumulation. 収集とか節約とかクーポンをもらうといった行動によってもたらされる。快楽的強化が低くて情報的強化が低い。FRスケジュールで維持される。
openな場合を[5]Collecting, 飛行機のマイルを貯めて買い物するようなclosedな場合を[6]Token-based Buyingという。 - maintenance. 日常の食品購入とか納税とかによってもたらされる。快楽的強化も情報的強化も低い。FIスケジュールで維持される。
openなのを[7]Routine Purchasing of Necessities, 納税のようにclosedなのを[8]Mandatory Puruchase of Consumption という。
マーケティング戦略における消費者理論
マーケターができることは大きく分けて次のふたつである。
- 行動的セッティングを狭めること。マーチャンダイジングというのはこの方向である。
- 強化子を操作すること。具体的には、強化子の効率を高めるか、強化スケジュールを制御するか、強化の質と量を高めるか、である。
行動的セッティングを狭める例。
- [1] Extended Consumer Bhaviorでの例: デパートで、買い物客を最後は売り場じゃなくてコーナーの机に連れて行って手続きさせる。気持ちが変わらないようにセッティングを狭めているわけである。
- [2] Excitement and Fullfilmentでの例: カジノでは客がギャンブルを続けるように環境が精密に制御されている。
- [4] Inescapable Enternainmentでの例: 飛行機で映画を見せたり食事を出したり、忙しくさせる。
- […中略…]
強化子の効率性を高める例。
- 映画館で本編の前に延々と広告を流して強化を遅延させるとか…[中略]
- FSPとか…[中略]
- 生命保険にmortgageをつけるとか…[よく意味がわかんないんだけど、生命保険に入るとそれを担保にして金が借りられるということかしらん]
強化スケジュールを制御する例。[面倒くさくなってきたので省略]
強化子の質と量を高める例。
- 数ヶ月後の旅行を予約した客に旅行先についてのパンフレットを送るとか…
- 週刊誌をためると百科事典になる、欠けたバックナンバーを注文するのは高額、とか…
- […中略…]
結論
BPMは単に消費者選択をオペラントの用語で言い換えるものではない。よく知られている消費者行動のパターンを随伴性の分類に対応づけるものである。
別に他の枠組みを排除するつもりはない。強化を快楽的なのと情報的なのに分けたけど、これは情緒的・認知的な理論と関連している。
BPMによる解釈はマーケティング戦略の理解にも役に立つ。
今後は、随伴性についての消費者自身の認知的解釈もモデルに取り込んでいけるといいっすね。
云々。
…やれやれ。英文が読みにくくて辛かったぞ。
抽象的な枠組みの提示に留まるのかと思ったが、意外に面白かった。強化随伴性を2x2x2=8つに分類するというくだりが面白い。それぞれが強化スケジュールと対応しているけれど、これはなぜそうなるのかしらん。
いっぽう、マーケティングに対してどういう独自の示唆があるのかはよくわからなかった。後半の事例の提示のくだり、別にBPMがなくても、そのへんのマーケティングの本に書いてあるような話だという気がする。
それにしても、スキナリアンの先生方たるや「ポジティブ感情が強化子になる」などというたわけた説明は一切拒絶なさるのかと思ってました(強化子それは行動の頻度を変える刺激のこと、感情は刺激ではなくて反応だ、って仰るかと思っていた)。著者はスキナーとか行動分析といった用語を使ってはいるけれど、そんなにスキナリアンスキナリアンしたスキナリアンではないのかもしれない。(頭の悪そうな感想)