読了: Aravindakshan & Naik (2011) ブランド広告出稿をやめても消費者は広告を記憶しているから売上はすぐには下がらない、という広告-売上モデルをつくったよ

Aravindakshan, A., Naik, P.A. (2011) How does awareness evolve when advertising stops? The role of memory. Marketing Letters, 22, 315-326.
 先日仕事の都合で読んだ奴。内容をかなり忘れちゃったんだけど、整理の都合上メモを記録しておく。

 いわく、
 広告出稿をやめたら売上は落ちるはずなのだが、経験的には必ずしもすぐには落ちない。これを説明するモデルをつくろう。

 広告によるブランド認知の形成のもっともポピュラーなモデルはNerlove-Arrowモデルだ。時点\(t\)における認知\(A(t)\)の変化 \(\dot{A} = \frac{dA}{dt}\)について$$ \dot{A} = \beta u(t) – \delta A(t)$$ とする。\(\beta\)が広告効率、\(\delta\)が忘却率ね。
 広告出稿をやめてから認知が90%に減衰するまでの時間を\(D_0\)とする。つまり\(A(t+D_0) = 0.1A(t)\)ね。$$D_0 = \log(10)/\delta $$となる。

 さて、この標準的モデルでは、消費者の忘却は即時的にはじまる。これを拡張し、消費者が広告を期間\(\tau\)だけ覚えていると考えて $$ \dot{A} = \beta u(t) – \delta A(t-\tau)$$ としよう。詳細はAppendixをみてほしいが[みてません]、\(D_0\)のかわりに$$D_\tau = – \tau \log(10) / \omega_0(-\delta \tau)$$となる。分母にあるのはオメガ関数という、指数関数みたいな感じの関数で…[メモ省略]。

 ついでにもっと拡張しよう。
 消費者\(i\)が広告を期間\(s_i\)だけ覚えていて、その分布が\(\phi(s_i)\)だとする。平均を\(\bar{\tau} = \int s_i \phi(s_i) d s_i\)とする。このときは$$ D_\tau = -\bar{\tau} \log(10) / \omega_0(-\delta \bar{t}) $$ となる。
 消費者が広告を覚えている期間が接触によっても異なるとしよう。このときは、まあAppendixをみてほしいんだけど[みませんよ、まったくもう]、 $$ D_\tau = -\tau \log(10) / 2 \omega_0 (-\sqrt{\delta \tau^2}/2) $$ となる。

 [話を元にもどして…ということだと思う]
 記憶ありモデル \(\dot{A} = -\delta A(t-\tau)\)の\(t\)を離散化して遷移方程式にすると$$ A_t = A_{t-1} – \delta A_{t-\tau} + v_t, \ \ v_t \sim N(0, \Sigma_v)$$ これだとマルコフ過程になっていなくて困るので、左辺をベクトル\(\alpha_t = (A_t, A_{t-1}, \ldots, A_{t-\tau+1})^\top \)としたモデルに書き換える[詳細略]。すると\(\alpha_t\)は\(\alpha_{t-1}\)にのみ依存するのでマルコフ過程になる。で、観察された認知率を$$ Y_t = (1, 0, \ldots, 0) \alpha_t + \epsilon_t, \ \ \epsilon_t \sim N(0, \sigma^2_\epsilon)$$ とする。[なるほどね、状態変数が\(\tau\)個ある状態空間表現にむりやり書き換えるわけね]
 すると尤度関数は[…中略…]。で、\(AIC_C(\tau)\)が最小となる\(\tau\)を選べばよい。
 モンテカルロ・シミュレーションすると、真値がうまく再現できました。

 分析例。
 プジョー・シトロエンはプジョー206の広告認知率を監視している。ところがあるとき広告出稿をやめたことがあった[理由は説明されてない。なぜだったんだろうか]。広告出稿をやめてから32週間のデータを分析しよう。なお、認知率は期間中の平均で0.6%。あんまり落ちてない。
 提案モデルをあてはめると、\(\tau = 3\)となった。このデータについては記憶ありのモデルのほうがよいわけだ。なお、標準的モデルを当てはめると忘却率が過大評価されてしまう。

 今後の課題。(1)広告出稿しているときに記憶を推定する。(2)広告の記憶における競争の役割。(3)今回は忘却開始時点を等質とみたけれど、ここにも個人差をいれる。(4)記憶を状態依存にする、つまり\(\tau = f(y_{t-1})\)というふうにする。[うわあ、めんどくせえ]
 云々。