読了: Kim, Park, & Kim (2013) ブランドと強いリレーションシップを持つ顧客はブランド拡張をどう評価するか

Kim, K., Park, J., Kim, J. (2013) Consumer-brand relationship quality: When and how it helps brand extensions. Journal of Business Research, 67(4), 591-597.

 仕事の都合でめくった奴。Google様いわく被引用回数93。

 いわく。
 ブランド・リレーションシップの研究はたいてい定性的だ[定量的な研究としてAggarwal(2004 JCR), Park& Kim(2001 ACR), Park, Kim, & Kim(2002 ACR)というのを挙げている]。
 この研究ではブランド・リレーションシップ品質(BRQ)がブランド拡張への消費者評価に与える効果について調べる。

 ブランド拡張に対する消費者の判断について。
 先行研究が焦点を当ててきたのは、ブランド拡張においては親ブランドのカテゴリと拡張先との類似性が大事だということだ。また、親ブランドの属性も大事だとか、どんな文脈要因が効くかとか、解釈レベルとの関係とかについても研究がある。
 本研究ではBRQがブランド拡張への判断に及ぼす効果を調べる。BRQとはなにか。最近のブランド研究ではブランド知覚だけじゃなくてブランドとの関係性に注目している。BRQとはブランド評価とか購入意向とかよりもっとリッチなもので、ブランドとの感情的・動機付け的な結びつきをあらわす。BRQは多面的な概念で、愛情・愛着や、行動的結びつきとか、それらを支える認知的信念とかを含む。
 ブランドとのリレーションシップがあるとブランド知覚にポジティブなバイアスがかかることが知られている。ブランド拡張に対しても好意的になるだろう。
 しかし、BRQの効果は親ブランドと拡張先との適合性が高いときには効かなくなるだろうし(拡張の質を調べる動機づけがないから)、すごく低いときにも効かなくなるだろう(親ブランドと無関係だと思うから)。つまり、適合性が適切なレベルで低いときしか聞かないだろう。他の文脈効果もこういう風にmoderateされることが示されている。

 媒介過程について。
 BRQが効く過程は2つあるだろう。

  • 「知覚された適合」過程。BRQのせいで、ブランド拡張と親ブランドとの全体的適合の知覚が増大し、ブランド拡張に対する判断が拡大する。
  • 「属性信念」過程。BRQのせいで、ブランド拡張における属性の主張についての主観的信念が増大し、ブランド拡張に対する判断が拡大する。

 [ここから全然納得できないのでほぼ逐語訳]

 「知覚された適合」過程と「属性信念」過程は、ブランド拡張への判断におけるBRQの効果に独立に寄与しうる。しかし、ブランド拡張のさまざまな条件に応じて、一方の仮定のほうが支配的になるかもしれない。
 第一に、「知覚された適合」過程は、ブランド拡張と親ブランドの間でカテゴリが非類似で属性が整合的な時に支配的になるだろう。親カテゴリと類似していないブランド拡張は危険であり、否定的な評価につながる。しかし、社会的関係についての研究によれば、人は自分と強い関係性を持つパートナーが行った非規範的な行為について知ったとき、関係性を維持できるようなかたちでその行為を理解できるように情報を探す傾向があり、実際に、その行為の非規範性を低く解釈することが多い。このように、強いBRQを持つ消費者は、弱いBRQを持つ消費者と比べて、カテゴリが非類似な時に、具体的な拡張の属性に注目しやすくなる。仮に彼らが、拡張の属性が親ブランドから連想される属性と整合的であると思うようになったら、彼らはその拡張を親ブランドとと関連付けやすくなり、全体的な拡張-親ブランド間適合度を高く知覚するようになる。その結果、消費者はその拡張を好意的に評価しやすくなる。BRQは、カテゴリは非類似だが属性は整合しているか言う超に関して、まず全体的な拡張-親ブランド間適合度の知覚を増大させることによって、ブランド拡張への判断を拡張するだろう。

[全然わかんない。「知覚された適合」過程は、親ブランドとのブランド・リレーションシップが強い→親ブランドと拡張ブランドが適合していると感じられるように情報を探す→拡張ブランドへの肯定的評価、というパスですよね? そこまではわかるんだけど、この効果がカテゴリ非類似-属性整合の時に強くなるはずだ、という理屈がわからない。要するにBRQが高いと全体的適合性が高くなる方向にバイアスがかかった情報探索が行われるってことでしょ? それはカテゴリ類似-属性不整合の時にだって起きそうなもんじゃないですか。 たとえば「マンナンライフのすっきりさわやかこんにゃく畑キャンディ」というブランド拡張があったとして(カテゴリ類似で属性不整合的なブランド拡張の例のつもり)、普通の人ならナニソレと思うけど、こんにゃく畑を強く愛しているユーザは、なるほどいわれてみればこんにゃく畑はすっきりさわやかかもしれないな… 冷蔵庫で冷やしたときなど特に…という風に、無理やり属性を整合させるかもしれないじゃないですか]

 第二に、「属性信念」過程は、BRQがまず主張された拡張属性についての消費者の信念を増大させ、それによって拡張への判断を拡大する、と示唆する。しかし、強いBRQがもつこの信念ベースの利点は、強いBRQによって含意された信念が、主張されて属性についての消費者の信念を増大させる役割を果たしうる余地があるときにだけ生じるだろう。こういうことが生じるのは、属性は不整合だがカテゴリは類似しているときであろう。ブランド拡張が主張している属性が親ブランドと整合しているときには、BRQの水準とは無関係に、消費者はその主張を信じるだろう。属性だけでなくカテゴリまで不整合であるときは、BRQが高い人でさえ、その主張を信じるのが難しくなるだろう。拡張の属性が不整合だがカテゴリが類似しているときは、BRQが強い消費者は弱い消費者に比べて、拡張が主張している属性についてより強い信念を持ち、拡張をより好意的に評価するだろう。

[これもよくわからない。親ブランドとのブランド・リレーションシップが強い→拡張ブランドが訴求している属性を信じやすくなる→拡張ブランドへの肯定的評価、というパスですよね。カテゴリ非類似で属性不整合のときはさすがに効かない。カテゴリ類似で属性整合のときは誰だって信じるから聞かない。カテゴリ類似で属性不整合のときには効く。ここまではわかるんだけど、カテゴリ非類似で属性整合のときに効かないと考える理由はなんだろうか? たとえば「マンナンライフ監修・お腹をきれいにするこんにゃく畑腹巻き」というブランド拡張があったとして(カテゴリ非類似で属性整合的なブランド拡張の例のつもり)、普通の人ならいやいや食品と衣料品じゃちがうだろうと思うけど、こんにゃく畑をこよなく愛しているユーザは、たしかに、こんにゃく成分はたとえ腹巻きに練りこまれていてもその謎のパワーによって腸をきれいにするかもしれない…と信じたりするかもしれないじゃないですか]

 というわけで仮説は次の通り。

  • H1: BRQが強い消費者は、適合度が適度に低いブランド拡張を、BRQが弱い消費者よりもポジティブに評価するだろう。しかしこの効果は、適合度がすごく高いときやすごく低いときには小さくなるだろう。
  • H2a: ブランド拡張が親ブランドの製品カテゴリと非類似で親の属性と整合しているときは、BRQによって拡張-親ブランド間の全体的な適合度の知覚が増大し、拡張ブランドの評価がポジティブになる。
  • H2b: ブランド拡張が親ブランドの製品カテゴリと類似していて親の属性と不整合であるときは、BRQによって主張されている属性についての信念が増大し、拡張ブランドの評価がポジティブになる。

 研究1。フィールド実験。
 被験者は韓国の既婚女性300人。カテゴリ{類似,非類似} x 属性{整合,不整合} = 4セルに割り付ける。さらにあるブランドへのBRQ{高,低}で分ける。2x2x2 の被験者間計画である。
 ブランドは食品会社Pulmuoune(プルムウォン)。拡張先カテゴリは{フランスパン(類似), コロン(非類似)}。拡張ブランドの属性は{添加物なしの自然原料(整合), リッチでエキゾチックなフレーバー(不整合)}。
 面接調査(カネあるなあ…)。拡張ブランドの紹介を読み、品質を評価(7件法, 2項目)。次のPulmouneに対するBRQ設問, 7件法24項目。項目はFletcher et al. (2000 PSPB), Fournier(1994 unpub; 1998 JCR), Park et al.(2002 ACR)に基づいて作った。[Fournierに準拠しているわけじゃないのか…]
 
 結果。
 BRQ項目は因子分析(直交解)で8因子を抽出。いずれの因子もブランド拡張評価との関連性が類似していたので[直交解8因子が拡張ブランドの品質評価といずれも同程度に相関してたってこと!? ほんとかよ]、8因子の得点を平均して高低で2群にわけた。
 品質評価を目的変数にした2x2x2のANOVAで、カテゴリ類似性の主効果、BRQの主効果、3次の交互作用が有意。BRQはカテゴリ非類似・属性整合、カテゴリ類似・属性非整合で効いたが他の2セルでは効かなかった。H1を支持。

 研究2. [めんどくさいのでスキップするが、よく似た実験をやっている。結果はH2a, H2bを支持した由]

 考察。
 理論的貢献としては、BRQのブランド拡張への判断への効果の2つの媒介プロセスが示唆された。

全般的にみて、ブランドと良く適合していないように思われるブランド拡張に出会ったとき、強いBRQを持つ消費者はブランド拡張の需要を正当化するような付加的情報を探してて処理するように動機づけられるものと思われる。この付加的努力が生じるのは、正当化が可能な時だけなのであろう。つまり、カテゴリは非類似だが整合的な属性に基づいて適合をみつけることができるとき、ないし、カテゴリが重複していているので不整合な属性についても信念を増大させることができるとき、である。後者の場合、BRQが強い人は、おそらく、ブランドが拡張製品に新属性をうまく統合するだけの能力を持っているとより強く信じることができるのだろう。

[まあそうかもしれないけど、事前に仮説形成できるほど強い理論的基盤があるようには思えないなあ…]
 マネジリアルな含意としては、消費者-ブランドリレーションシップが重要であることが示された。
 云々。

 … うーん。正直言って仮説形成のところが腑に落ちない… ブランド拡張に顧客-ブランド間のリレーションシップが効くのは親ブランド-拡張ブランド間の適合が適度に低いときだ、というのはわかる。その効果が生じるプロセスに「知覚された適合」ルートと「属性信念」ルートがありうるというのもわかる。でも「カテゴリ非類似で属性整合のときは「知覚された適合」ルート、カテゴリ類似で属性非整合のときは「属性信念」ルートだ」という仮説はよくわからない。この仮説が実験データと一致しているかどうかではなくて、事前にそういう仮説を立てるだけの理屈があるのかどうかがわからないのである。ひょっとして、カテゴリ類似性の知覚を高めることそのものを「知覚された適合」ルート、属性整合性の知覚を高めることそのものを「属性信念」ルートと呼んでいるのだろうか。その場合は仮説というよりただのトートロジーではありませんか… まあ、いいけどさ。

 正直なところブランド拡張はどうでもよくて、この論文はフォルニエのいうBRQを測定している研究であることに関心を持って読んだのだけど、意外にも、ブランド・リレーションシップが多面的概念であるというフォルニエの主張を取り入れているわけではなく、8因子を抽出しているけど結局は1次元的な尺度として使っているのであった。そんなら別にBRQっていわんでも、たとえばロイヤルティ指標ですっていってもいいような気がする。まあいいけどさ。
 BRQの尺度構成の正当化が結構いいかげんであるところも面白かった。どっかにAppendixがあるのかもしれないけど、項目選択については説明がないし、varimax回転で8因子抽出しましたといいつつ、論文に掲載されているのは各項目につきひとつの因子負荷なのである(本来は24×8の因子負荷行列になるはずだ)。心理学の論文だったらちょっと想像しにくいおおざっぱさである。せっかく24項目も使って定量的に測定しておきながら、結局High/LowにわけてANOVAしちゃう割り切り方も面白い。これ普通の人ならSEMやりたくなりませんかね。まあいいけどさ。

 まあいいけどさ、まあいいけどさ、と呟きながら読んだ論文であった。こういうこともあるよね!よし次だ!