読了:Borkovsky, Goldfarb, Haviv, Moorthly (2017) 実証IOアプローチでブランド価値を測る

Borkovsky, R.N., Goldfarb, A., Haviv, A.M., Moorthy, S. (2017) Measuring and Understanding Brand Value in a Dynamic Model of Brand Management. Marketing Science. 36(4), 471-499.

 仕事の都合で目を通す羽目になったんだけど、同僚にお願いして読んでもらった論文。タイトルと誌名からなんだか面倒くさそうな匂いがしたのである。お願いしたあとになってキーワードに”empirical IO methods”と書いてあるのに気づき、自らの厄介ごと回避力と酷薄さに気づいたのであった… ごめんなさい、ちょっとこれ読んどいて頂戴だなんて、パワハラと云われても仕方ないよね…
 結局、同僚たちとの間では「これ難しくてわかんないですね…」「うんそうだね…」「どうしましょうか…」「いい天気だね…」ということになったわけだが、非道な振る舞いを反省いたしまして、休日に自分でもめくってみることにした次第。なあに、たったの30pで人は死なないさ。さあ深呼吸!でもすぐに逃げ出す気満々!

1. イントロダクション
 ブランドマネジメントの構造モデルを提案します。価格・広告・売上のデータからブランド価値を推定します。ブランドエクイティ(消費者からみた超過効用)じゃなくて、ブランド価値(キャッシュフローからみた正味現在価値)ね。
 先行研究と違うのは動的モデルだという点です。

2. ブランド価値測定の諸問題
 我々の目標は、あるブランドが親企業に対して持つ財務的な価値の測定である。だから、ブランドそれ自体の貢献と、市場における製品・ブランドの実際の達成とは区別しないといけない。
 こう定義します。ブランド価値とは、事実的なシナリオにおけるキャッシュフローの現在正味価値の期待値と、製品からブランド・エクイティを剥ぎ取った反事実的なシナリオにおけるそれとの差である。事実的シナリオでは企業はブランド・エクイティを維持したり高めたりしようとしたりするし、反事実的シナリオでは企業はブランド・エクイティを構築しようとしたりする。どちらの場合でも価格と広告支出は均衡で決まる。

 理想的なブランド価値指標に求められる特徴は6個ある。順に考えると、

  • 完全性。価格プレミアムも数量プレミアムも説明できるか。はい、できます。さらにいうと、我々の手法はブランド構築の意思決定におけるブランドの効果も説明できる。
  • 比較可能性。はい、産業間でも通時的にも比較可能です。
  • 客観性。はい。
  • 未来志向性。はい。[←forward lookingなエージェントをモデル化しているからという意味かな]
  • コスト効率性。それを評価するのは現時点では難しい。
  • 単純性。さすがにこれはノー。

 我々の手法は巷のブランドコンサルの手法よりここが優れている。

  • オープンだ。[脚注で社名を挙げて説明している。いわく、Interbrand, Millward Brown, Prophetはブランドに帰属できる利益に基づき割引キャッシュフロー法を使っている。Brand Financeはroyaltyに基づく割引キャッシュフロー法なのでもう少し透明性が高い。BAV, CoreBrandはサーヴェイベース]
  • コンサルの手法は、意思決定への(反実仮想的な意味での)影響を、消費者と企業の両方についてフォーマルに捉えているわけではない。
  • コンサルの手法はデータが不透明なぶんだけ客観性にも欠ける。[サーヴェイは不透明なんだそうだ… しくしく、不当にディスられている… コンサルが個票を公開すればいいだけじんね…]

 我々の手法の美点をもう一つだけ。我々はブランド資産を、正味現在価値アプローチじゃなくてリアルオプションアプローチで評価している。つまり、投資意思決定の非可逆性と経済環境の不確実性を説明している。現代のファイナンスでは資産をリアルオプションアプローチで評価しますよね。我々の手法は現代のファイナンスとも整合的なのです。
 [なにいってんだかさっぱりわからんのでググってみたところ、どうやらこういう話らしい。正味現在価値アプローチというのは、将来の各期のキャッシュフローを予測して、それを時間割引して足し上げて評価するやりかた。しかし未来のキャッシュフローなんてわからんので、割引率にリスクプレミアムを上乗せしたりする。さてこの考え方は、たとえば明日旅行するとして、もし当日渋滞だったら到着が遅くなっちゃうね、という考え方だ。でも、もし当日渋滞でもそれに気づいて別の道で行けば遅くならないかも、という考え方もある。そういう選択権(リアル・オプション)がある場合は、その分資産価値を上積みする、という考え方があって、これをリアル・オプション・アプローチというんだそうな。へー。なんだかしらんがすごそうですね]

3. カテゴリとデータ
 本研究で使うデータについて説明します。

 stacked potate chipsカテゴリは1960年代末、P&Gのプリングルスから始まった[あれですよね、袋のポテチじゃなくてナビスコのチップスターみたいなやつですよね。もう20年くらい食べてないなあ]。P&Gの従来の販路は保存が利く商品に最適化されていたので筒型の気密パックにした[へえー、こりゃ豆知識だね]。90年代中盤、プリングルスの売上は年10億ドル。なおずっと後の話だけど(2012年)、P&Gはプリングルスをケロッグに27億円で売ることになる。
 さて、ペプシコ傘下のフリトレーが2003年にLay’s STAXというよく似た商品を上市した[見たことないけど現存する模様]。マーケティングの支援もがんばったし広告費もかけた。おかげで最初の四半期でいきなりシェアを20%とった。一社独占から二社寡占になったわけだ。

 この頃のstacked chipsのIRIデータを分析する。週次、製品レベル、2644店舗、2001-2006年。売上数量、平均購買価格がついている。ブランドの半期広告支出もついている(TNSのメディアオーディットによる推定)。
 四半期データを眺めると、シェアはわずかだが変動している。価格は2ブランドとも低下の一途だったが、2ブランドの価格差は徐々に開いた[もちろんSTAXのほうが安い]。広告費の変動は大きかった[おお、まじですごくブレている… これってパルシング戦略だろうか…]。

 [本題に入るのが怖さにずるずるとメモしてしまった。いよいよ覚悟を決めよう]

4. The static period game
[ああ、難しそうで蕁麻疹がでそう… staticって同時手番って意味で合ってます?]

 次のように考える。企業は次の2種類の決定を行う:

  • 短期的な決定。店舗別、週次の価格決定のこと。以下、週を\(t\)とする。以下では価格の企業間競争を”static period game”と呼ぶ。
  • 長期的な決定。国レベル、四半期の広告決定のこと。以下、四半期を\(q\)とする。広告の企業間競争を”dynamic game”と呼ぶ。

 ”static”と”dynamic”と呼ぶのは、ブランド・エクイティは短期的には固定だが長期的には変化すると企業が考えていると我々が仮定しているからである。だから、投資は四半期、収穫は週次ということになる。
 [この仮定が合理的であるというdefendに1段落割かれている。メモ省略。まあそうなんでしょうけど… えーっと、この論文における企業には「値下げ販促はエクイティを毀損するからやめようぜ」という発想はない、ってことでいいんでしょうか]

 モデル。
 企業を\(n (=\{1,2\})\)とする。消費者\(i\)は各週にたかだか1個買うとする。外部選択肢\(0\)というのを考える。
 \(i\)が店舗\(j\)で\(n\)を買う効用、ならびに買わない効用を次式とする。$$ u_{ijn}(\omega_n) = B(\omega_n) – \kappa p_{jn} + \zeta_{jn} + \xi_{ij} + (1+\sigma) \epsilon_{ijn}$$ $$ u_{ij0} = \xi’_{ij} + (1-\sigma) \epsilon_{ij0} $$
 ただし、

  • \(\omega_n \in \{0,1,\ldots,M\}\)は当該の四半期における企業のブランド・エクイティの状態で、状態\(0\)は非上市を表す。\(\omega = (\omega_1, \omega_2)\)と書く。
  • \(B\)はブランド・エクイティ状態をブランド・エクイティ(実数値)にマップする関数。とりあえずは\(B(0)=-\infty\)とし、残りはあとで考えることにします。以下では簡略のため、\(\omega_n\)のことを「ブランド・エクイティ」と呼んじゃうことがあるのでよろしく。
  • \(p_{jn}\)は価格[あとで出てくるけど、価格は完全に合理的に決まる]。\(p_j = (p_{j1}, p_{j2})\)と書く。
  • \(\zeta_{jn}\)は企業・店舗ショックで、\(N(0, \sigma_{\zeta}^2)\)にIIDに従うとする。\(\zeta_j = (\zeta_{j1}, \zeta_{j2})\)と書く。その確率分布を\(f_\zeta(\zeta_j)\)と書く。
  • \(\xi_{ij}, \xi’_{ij}\)は個人レベルの店舗購入見込み[\(\xi’_{ij}\)のプライムは転置じゃなくて、\(\xi_{ij}\)とは別の記号という意味らしい]。\(\xi_{ij} + (1-\sigma) \epsilon_{ijn}\)と\(\xi’_{ij} + (1-\sigma) \epsilon_{ij0}\)がそれぞれ極値分布になるとする。
  • \(\sigma \in [0,1)\)はthe extent to which consumers’ preferences for the firms’ products are correlatedを表す[←ここが理解できていなかったことにあとで気がついて悶絶したのであった。\(\sigma\)は個人x店舗レベルの誤差と個人x店舗x企業レベルの誤差の相対的サイズを表すスケールパラメータで、これが小さいときほど、個人x店舗x企業の選好が企業間で相関する、ということだと思う]。
  • \( \epsilon_{ij0}, \epsilon_{ij1}, \epsilon_{ij2}\)はtype1極値分布にIIDに従うとする[ロジットモデルを組む気か…]。

 すると需要はこうなる。$$ D_{jn} (p_j; \omega, m_j, \zeta_j) = m_j \frac{ \exp \left( \frac{B(\omega_n) – \kappa p_{jn} + \zeta_{jn}}{ 1 – \sigma } \right) }{ C_j + C^\sigma_j } $$ $$ D_{j0} (p_j; \omega, m_j, \zeta_j) = m_j \frac{ C^\sigma_j }{ C_j + C^\sigma_j } $$ ただし、

  • \(m_j\)は店舗の市場規模で、\(N(\mu_m, \sigma_m^2)\)にIIDに従うとする。確率分布を\(f_m(m_j)\)と書く。
  • \(C_j\)は第1式の分数部分の分母を2企業ぶん足した奴(ほんとは価格やら状態やショックやらに依存するが略記する)。

 [さあ困った。需要の第1式はなんなの? これは要するに、店舗\(j\)における企業\(i\)のシェアが\(\exp \left( \frac{B(\omega_n) – \kappa p_{jn} + \zeta_{jn}}{ 1 – \sigma } \right)\)に比例するよ、ってことだよね? なぜ?
 これブランド選択の多項ロジットモデルですよね。\(B(\omega_n) – \kappa p_{jn} + \zeta_{jn}\)はブランドに固有な効用で、\(\xi_{ij} + (1+\sigma) \epsilon_{ijn}\)が誤差で、それがちゃんと極値分布に従ってんですよね。じゃあブランド選択確率は\( \exp (B(\omega_n) – \kappa p_{jn} + \zeta_{jn}) \)でいいじゃん? なぜ\(1-\sigma\)で割るんだろう?
 しばらくディスプレイを眺めて突然気がついた。誤差がIIDじゃないわ。\(\xi_{ij}\)が効いているではないか。これ、ポテチ買いますか、買うとしたらどっちのブランドを買いますか、という2段のネステッド・ロジットモデルなんだけど、わざわざネストの効用の式を書かずに、しれっと\(D_{jn}\)と\(D_{j0}\)の2本の式で書き下ろしているのだ。いやああああ(ホラー映画級の悲鳴)
 というわけで、学力不足につき、ブランドの選択確率を求めるときに効用を\( 1-\sigma \)で割る理由は理解できてないんだけど(というかさ、みんなこういうのどこで習うの? 虎の穴とかあるの?)、とにかくネステット・ロジット・モデルなんだろうな、ブランドの効用はこうなるんだろうな、ということで、先に進もう…]

 価格は週次の利益を最大化する価格となるとする。週次の利益は$$ \pi_{jn}(\omega, c_{jn}, m_j, \zeta_{j}) = \max_{p_{jn}} D_{jn}((p_{jn}, p_{j,-n}); \omega, m_j, \zeta_j)(p_{jn} – c_{jn}) $$ ただし

  • \(p_{j,-n}\)は競合の価格。[面倒くさいので上の式では省略したけど、自社の価格も競合の価格も0以上]
  • \(c_{jn}\)は限界費用で、平均\(\mu_c\), SD\(\sigma_c\)の対数正規分布にIIDに従うとする。確率分布を\(f_c(c_j)\)と書く。

 [ここもしばし固まってしまった。なんで店舗x週xブランド別の利益の最大化という観点から価格が決まるんだろう。値付けは店舗が決めているわけで、店舗は週のカテゴリ売上(利益)を最大化するように2ブランドの価格を決めるんじゃない? たしかに価格の係数\(\kappa\)はブランド間で共通だけど、それでも式の中に\(\exp\)が入っているから、それぞれのブランドの売上を最大化する価格ベクトルと、カテゴリの売上を最大化する価格ベクトルは、必ずしも同じじゃないんじゃないかな。私の勘違いか、そんなことはたいした問題じゃないのかのどっちかだろうけど…]

 ここから、状態\(\omega\)の下での唯一のナッシュ均衡解が得られます。四半期利益は $$ \pi^*_n(\omega) = 2664 \times 13 \times \int_{c_j, m_j, \zeta_j} \pi^*_{jn}(\omega, c_j, m_j, \zeta_j) \times f_c(c_j) f_m(m_j) f_c(\zeta_j) dc_j dm_j d\zeta_j$$ [えええ? 週次利益の期待値に店舗数と期数を掛けただけじゃん? 2人のプレイヤーが利益を最大化すべく価格設定すればそれがナッシュ均衡解になるの? それって自明なの?]

 推定。
 店舗の市場規模の平均\(\mu_m\)は別のデータですっごく苦労して推定して… [略]
 こうやって式を変形するとデータから需要を推定できるんです…[略]
 価格に内生性があるので(企業は\(\zeta_{inj}\)を予測して値付けするかもしれない)、OLS推定ではバイアスがかかるかもしれない。そこで道具変数として、(1)他の街のブランド価格、(2)同じチェーンの他の店舗でのブランド価格、(3)同じチェーンの同じ街の他の店舗でのブランド価格、を用意した。(1)(2)はコストショックを共有しているが需要ショックは共有していないと仮定する。
 結果。\(\kappa, \sigma, \sigma_\zeta\), 各期の\(B(\omega_n)\)はこう推定されました。[略]
 限界費用も期待利益も推定されました。[略。\(\omega_1, \omega_2\)を動かしたときの、プリングルスの価格、期待需要、期待シェア、期待利益の曲面がカラーで掲載されている。いずれも\(\omega_1\)とともに高くなり、\(\omega_2\)とともにわずかに低くなる。
 あれれ? チャートの軸は離散的な\(\omega_1, \omega_2\)じゃなくて連続的な\(B(\omega_1), B(\omega_2)\)じゃないの? だって関数\(B\)はまだ決めてないんだから。単に表記を簡略しただけかしらん…]

5. ブランド管理の動的モデル

 さて、ブランド・エクイティについて品質ラダーというフレームワークを使う。これはもともとはR&D投資の研究で、R&Dによる品質の変化をハシゴの上り下りのように捉えたものだ。本研究では広告によるエクイティの変化をハシゴの上り下りのように捉える。[入出力関係が階段状の関数になるということだろうか?]

 前の節ではブランドエクイティを連続的に推定した。ここでは、ブランドエクイティを以下のように離散化する: \(\omega_n > 0\)のときに\(B(\omega_n) = w(\omega_n – 1) + l\)。\(w > 0\)は離散化したときの間隔の幅、\(l\)は離散的ブランドエクイティ状態の最小値。この式は、それぞれの推定されたブランドエクイティを、それにいちばん近い離散的なブランドエクイティへと離散化することを意味している。
 [つまり、さっき推定したのはやっぱし\(B(\omega_n)\)で、その裏に離散的な順序変数\(\omega_n\)があると考えるってことね。いやしかし… ちょっとこの式はひどくない? これだとただの線形変換じゃないですか。さっき推定したのは\(B(\omega_n)\)の連続的推定値\(\hat{B}(\omega_n)\)でした、ってんならわかるけど… 突然厳密さをかなぐり捨ててる感じがして途方に暮れる]
 \(w\)と\(l\)を決めたい。\(w\)はできるだけ小さくしたいけど、このあとのモデルの定式化の都合で、\(\omega_n\)の期の間の変動はたかだか2単位までにしたい。というわけで、\(w = 0.087, l=-0.319\)ってことにします。[…ここで、両端の扱いをどうするかという細かい話。メモ省略…] というわけで、\(\omega_n\)は35段階の変数とします。
 [疑問: ブランドエクイティ状態を離散的に捉えるというのが、先行研究からみて無理じゃないというはわかったけど、わざわざ離散的にするほんとの理由はなんだろう? ぶっちゃけていうと識別のための工夫なのかなあ?]

 このモデルでは、ブランド・エクイティは3つの力によって変動する。

  • 企業の広告投資。
  • 個体特有的な減価。
  • 外部財の品質による変化。これは両方の企業に効く。[そうそう!このメモをとりながら、最近筒型のポテチってあんまり見かけないなあと思ってたんだけど、袋ポテチが昔より美味しくなってたり、競合カテゴリが増えてたりしてるからじゃないかしらん。私カルディのタコチップをよく買ってるけど、ああいうの昔はなかったですよね]

 各四半期を前半と後半にわける。企業は前半では\(\omega\)と広告効果(後述)を観察し、広告支出を決める。企業ショックとカテゴリショックが決まりアウトカムが決まる。新しい状態\(\omega’\)が決まる。後半では、上市してない企業が上市するかどうか決める。新しい状態\(\omega”\)が決まる。
 
 \(n\)が上市済の企業であるとき、$$\omega’_n = \omega_n + \tau_n + \iota_n + \eta$$が与えられる。ただし、

  • \(\tau_n \in \{0, 1\}\)はどうやって決めるかというと…
    • 広告が成功し\(\tau_n = 1\)となる確率は、広告支出を\(x_n\)として、\(\frac{\alpha_n x_n}{1+\alpha_n x_n}, \ \alpha_n = \exp(\gamma_n – k)\)とする。つまり\(\gamma_n\)が広告効果です。
    • 広告効果 \(\gamma_n\)は、ガンマ分布\(\Gamma(h, \theta(\omega_n))\)からドローする。広告効果をパラメータじゃなくて確率変数にした理由は: (1)広告意思決定というものは確率的に決まってる面があるから。(2)広告支出の解を閉形式で書けるようになり助かるから。(3)パラメータ\(k\)で、どこまで小さな\(\alpha_n\)を認めるかを決められるから。(4)これから示すようにガンマ分布パラメータを\(\omega_n\)で決めるので、内生性が生まれるから。[広告効果は現実のデータ生成プロセスのパラメータじゃん! データから推定せずにドローしちゃっていいの? と戸惑ったが、この論文はデータから広告効果の係数を推定するという話ではないし、今やってんのは「企業が期ごとに感じるブランドエクイティ状態の変化と広告支出との関係」の定義だから、これでいいんだろうな]
    • ガンマ分布の分散は\(\theta(\omega_n) = \exp(a \omega^3_n + b \omega^2_n + c \omega_n + d) + 0.01, \ c < b^2/(3a), \ a < 0\)とする。単調減衰関数となる。なぜこういう式にしたかというと…[略]
  • \(\iota_n \in \{0, 1\}\)は企業別の減価ショック。1になる確率は \(\delta_f(\omega_n) = \min(z(w_n-1), 1)\)とする。
  • \(\eta \in \{-1, 0, 1\}\)は産業ショック。その確率は…[すこぶる面倒くさいので略]

 \(n\)が未上市の企業であるとき、上市の決定は…[面倒くさいので読まずにとばした]

 さて、上市済企業からみた正味現在価値の期待値\(V_n(\omega, \gamma_n)\)は…[読まずにとばした。だんだん関心が無くなってきた…]
 ベルマン方程式と最適性条件は… 純戦略におけるマルコフ完全均衡に注目すると… [ああ、いよいよ彼岸に行ってしまった。まあとにかく、均衡が求まるんだそうな。詳しくはAppendixを読めとのこと。読まない。絶対読まない]

 というわけで、パラメータを最尤法で求めました。データから求めようのないパラメータ(上市コストとか)はこんな風に決めました[略。他にもいろいろ書いてあるみたいだけど読まずにとばした]

6. ブランド価値の推定

 状態\(\omega = (\omega_n, \omega_{-n})\)の下での、企業\(n\)の正味現在価値の期待値を\(V_n(\omega)\)としよう。ブランド価値とは$$ v_n(\omega) \equiv V_n(\omega) – V_n(1, \omega_{-n})$$ である。
 推定してみると、プリングルスの2006年のブランド価値は16億ドルでした。これはUSでの話。いっぽう2012年、グローバルでの売却価格(工場を含む)は27億ドル。そこそこもっともらしい推定ではないでしょうか。
 ブランドエクイティの時系列とブランド価値の時系列を比べると…[略]

7. ブランド価値の推定値について理解する

 ブランド価値は次の2つの部分に分けられる。(1)現実のフロー利益と反事実的フロー利益の差(利益プレミアム)。(2)現実の広告支出と反事実的広告支出の差。つまりですね、我々のモデルでのブランド価値は、ただの利益プレミアムじゃなくて、広告支出の違いまで含んでるわけです。
 均衡における広告支出をみると、\(\omega_n\)が30くらいまでなら\(\omega_n\)とともに徐々に増えるんだけど、その先で急に低くなる。[コカ・コーラは広告を打たないはずってことにならない? うむむむ]
 時間と共にエクイティがどう変わるか、事実シナリオと反事実シナリオを比べると…[パス]
 ブランド価値を動的に捉えたことでどういう御利益があるかというと…[読まずにとばしたけど、結論の章から察するに、静的な指標は広告支出の違いを考えてないぶんブランド価値を過大評価しているし、時間的な変動が大きい、という話だと思う]

8. ブランドエクイティの減価と広告の効果はブランド価値にどう影響するか

 もしブランドエクイティ減衰率が変わったら… [パス]

 もし広告の効率性 (\(\gamma_n\)の平均である\(h\theta(\omega_n)\))を変えたらどうなるか。[…中略…] ブランドエクイティ構築が容易になるほど、企業は長期的にブランドエクイティを構築するので、事実シナリオと反事実シナリオの間のフロー利益の際が大きくなる。

 両方同時に変えたらどうなるか。[…パス。サマリーだけメモしておく…] この分析から次の4点が示唆される。

  • ブランド構築能力はブランド価値よりも企業価値に強く影響する。ブランド構築能力の変化は、事実シナリオと反事実シナリオの両方で企業価値に同じように効く。ブランド価値とはシナリオ間の企業価値の差だから、結局あまり効かない。[なるほど]
  • ブランド価値が最大化されるのは、(i)企業がブランドエクイティを高く維持し高い利益を得ており、(ii)仮にブランドエクイティが失われたらブランド再構築に時間がかかり利益性が低くなるとき。[ふむふむ]
  • 産業の変化はブランド価値を単調に変動させる。ブランド価値が最大化されるのは、産業レベルの減価率がすごく低いか、広告効果の平均がすごく高いとき。[??? よくわからん]
  • 産業レベルの減価率とブランド価値の関係は、推定されたパラメータ化においては単調に減少するが、他のパラメータ化ではそうならない。[ここもなんだかよくわかんないけど、ちゃんと読んでないからだろう。後略]

9. 結論
 我々のフレームワークはブランド管理に新しい地平を開く。拡張すれば、地理的な違いも捉えられるだろうし、広告以外の手段でブランドエクイティを高められる場合も扱えるだろうし、企業が複数のブランドを持つ場合も扱えるだろう。
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 理解できない箇所がいくつもあって(メモを読み返すとセキララすぎて恥ずかしい)、大変消耗したけれど、それでも書き方としてクリアな論文ではあったと思う。少なくとも、どこが理解できないかは明確であったし、専門的ジャーゴンで誤魔化されたようなストレスはなかった。褒めて遣わすぞ。[大きな態度] 
 
 この論文の事例をおおざっぱに捉えると、2ブランドしかなくてどちらも配荷率100%であるようなカテゴリがあり、取扱店舗xブランド別に売上と価格の週次時系列、ブランド別に広告投下量の時系列があったとして、(広告効果ではなくて) ブランド価値をどう推定する? という話だと思う。
 著者らのモデルでは、広告や価格の繰越効果とか、ランダムショックの繰越効果(未知要因による売上の自己相関)とかを一切考えていないようだけど、それはまあ本質的な話ではないのだろう。

 これが自分の仕事だったらどうするかなあ?
 もちろんそのときになってみないとわからないけど、たぶん、まずはブランド価値じゃなくてブランドエクイティを推測させて下さいとお願いする。で、クライアントのブランドの店舗別売上かシェアを目的変数とし、自社・競合の価格を説明変数、店舗をクラスタにした階層時系列回帰モデルを組むと思う。で、betweenレベルで、自社の店舗別切片の平均、価格弾力性の平均、交差弾力性の平均の3つの時系列背後に状態変数時系列を仮定し(エクイティ)、これを目的変数、自社の広告投下量を説明変数にした時系列モデルを組む。データがリッチで時間があったら、広告・価格の繰越効果の指定に凝りまくる。競合の売上やエクイティはたぶん無視する(パラメータ数が増えるわりに示唆が乏しいから)。この論文の例みたいに途中で大型の新ブランドが参入してきたら、参入前と後でモデルを分けるかレジームを変化させる。だって市場が独占から競争に変わったんだから。広告反応関数も価格反応関数もなにもかも変わっちゃったはずだから。係数も変えずに一本のモデルでやろうなんてありえない。
 いっぽう、おまえは人をバカにしとんのか、価格も広告も売上を予測して最適化している内生変数だ… というご批判があったらぐうの音も出ない。その場合はきっと自社・競合をこみにしたVARモデルを組む。だって観察時系列は2ブランドx(売上, 価格, 広告)で6本しかないじゃん、いけるいける、なんとかなるさ。そこに売上レベルと価格弾力性に効く状態変数を追加し、これをエクイティと名付ける。あ、店舗パネルデータだってことを忘れていた… VARモデルを階層化しないといけないってこと? だんだん憂鬱になってくるけど、まあとにかく、どうにかしちゃうと思う。この場合も、もちろん、STAXの参入前後でモデルを分ける。

 いっぽう著者の先生方は、価格は売上を最大化する値になってるはずだよね、広告はブランド・エクイティを高めるためのもののはずだよね、ブランドエクイティは四半期の中ではきっと変わらないよね… などなどという実質的な仮定を山ほどおいて、やおら(1)四半期ごとのブランドエクイティを推定し(それは要するに売上-価格モデルの切片項だ)、(2)ブランドエクイティの減衰率\(z\)とか広告効果の分布パラメータ\(h, \theta(\omega_n)\)とかを推定するわけだ。いずれの仮定も消費者選択と企業競争の理論に基づいております、独占か競争かなんて関係ないんだから大丈夫ですと言い張り、新ブランド参入前と後でモデルを分けない。強気。超強気。
 で、著者らの先生方のモデルを信じるならば、ブランドエクイティ・ブランド価値の構築についていろんな教訓が得られるわけだ。広告効果がもっと高かったらどうなっていたか、とか。

 どっちが格好いいかと云えば、断然著者の先生方のアプローチが格好いい。痺れる。憧れる。
 でも、仮に私が天才的な能力の持ち主で、どちらのアプローチも鼻歌交じりでこなせてしまい、どちらのアプローチにも憧れていないし飽きてもいないとして、どっちをとるだろうか…?
 私の無理解ゆえかもしれないが、やっぱり、時系列回帰モデルかVARモデルを組むと思う。教訓のことはあとで考える。
 それは先生方のアプローチがあまりに複雑だからとか、まずは過去起きたことの理解を求められているのであって教訓はその次だからとか、財務指標の話は後回しにしたいからとか、研究と実務は違うからとか、そういうくだらない理由からではない。理由はただひとつ、途中で組み込んだ実質的な仮定群の妥当性が気になるからだ。確かに、ひとつひとつの仮定はなんだか正しそうだ(「エクイティは四半期の中では変わらない」まあそうかもね、「価格は均衡で決まる」うんそうかもね、「広告支出も均衡で決まる」うーんまあそうかなあ、…)。でも仮定の数が多い分、それらすべてが同時に正しい見込みは下がる。仮に仮定群からの逸脱に対する頑健性を評価できるのならばまだ心が安らぐが、それって難しいですよね、きっと。
 もちろん、データドリブンなアプローチにも、データの性質についてアドホックな仮定が忍び込んでいるわけで(「今回はARIMA(1,1,1)を仮定しました」的な奴)、仮定の妥当性について実質理論的な観点から検討できるほうがましじゃんか? という言い分もあるだろうと思う。うーん、それはそれで反論しにくい。

 突き詰めて云うと、当該現象についての実質理論的な仮定を積み上げるのと、データの性質についての仮定を適宜召喚するのと、ステークホルダー(研究者共同体なりクライアントのマーケターなり)からみてどっちが納得感があるか? ってことに尽きちゃうのかなあ。ううむ。なんだかシニカルな結論すぎてモヤモヤする。