読了:朝岡(2021) 消費文化理論の射程と意義

朝岡孝平(2021) 消費文化理論(CCT)の射程と意義. JSMDレビュー, 5(1), 1-8.

 仕事の都合で調べ物していて読んだもの。
 掲載誌は日本商業学会の学術誌で、「流通研究」とはちがってレターみたいのが載るらしい。

 いくつかメモ:

  • 消費文化理論(CCT)は、それまで「相対主義的消費者行動研究」「解釈的…」「ポストモダン…」と呼ばれていた研究群の統一ブランド。命名者はArnould & Thompson (2005 JCR)。
  • 教科書としてArnould & Thompson (eds.)(2018)がある。日本のCBの本でCCTに言及しているのは小川(2009)「マーケティング入門」, 田中(2015)「消費者行動論」。
  • A&T(2005)いわく、CCTの主要な研究プログラムとして次の4つがある。
    1. consumer identity project. 初期研究としてBelk(1988 JCR)”Possessions and the extended self”とかがある。[消費者行動論の学術誌を見ていて、なんでこんなに自己の話が多いの? と不思議に思っていたんだけど、こういうトレンドがあったんですね]
    2. marketplace culture. ブランド・コミュニティとか。
    3. the sociohistoric pattering of consumption. 労働者階級の消費者選択を文化資本の観点から説明する、とか。
    4. mass-mediated marketplace ideologies and consumer’s interpretive strategies.反消費運動とナショナリズム、とか。
  • こういう研究には、当然ながら方法論の厳密性についての批判が向けられるわけだけど、反論としては(1)CCTってのは消費の文化的側面の理論であって方法論じゃない。定量的研究だってある。(2)定性的研究だって厳密だ。[うんうん。こういう分野の人は方法論的な理論武装がすごいから、うかつに悪くいうとたちまち射殺されるよね]
  • 最近のCCTの新しい研究群: (1)市場システムダイナミクス。(2)消費のポリティクス。(3)技術への注目。IoTで自己は拡張すんのか、とか。
  • CCTでいうところの消費の文脈というのは、意思決定の要因というより、消費者の特定の活動なり思考なりが生み出される源泉のようなもので、それがあるとないとでどうちがうか、的な問題設定自体ができないようなものである。「ブランドコミュニティ」とか「ファンダム」とか。[なるほど…]
  • CCTと心理学的アプローチの補完関係についてのモデルケースとしてHumphreys & LaTour(2013 JCR)がある。[←面白そう]
  • 実務との関連では、Cayla & Arnould(2013 J.Mktg)というのがあって、市場理解におけるエスノグラフィーの重要性について指摘している由。へー。

云々。勉強になりましたです。