読了: Huang, Leng, Liang (2012) 動的広告モデル・レビュー

Huang, J., Leng, M., Liang, L. (2012) Recent Developments in Dynamic Advertising Research. European Journal of Operational Research. 220, 591-609.

 先日、仕事の都合で読んだ奴。読んだというよりめくったという表現が近いな。「1995年以降の動的広告モデル」というテーマの長大なレビューである。著者は中国と香港の大学の先生。
 引用文献は134本、さらに膨大なappendixがついている。ひええええ。

 原則として文献名は省略し、要旨のみメモする。

1. イントロダクション
 広告の動的モデルは60年代初頭にブームになり、以後たくさんのモデルが生み出されてきた。その多くは連続時間モデルであった。1995年までのレビューとしてErickson(1995 Euro.J.OR), Feichtinger, Hartl, & Sethi (1994 MgmtSci), Sethi(1977 SIAM Review)がある。
 本論文は1995年以降の連続時間モデルについてレビューする。次の6群にわける。(1)Nerlove-Arrowモデル, (2)Vidale-Wolfeモデル, (3)Lanchasterモデル, (4)拡散モデル, (5)それ以外の動的広告モデル、(6)動的広告問題の実証研究。

2. Nerlove-Arrowモデルとその拡張
 Nerlove & Arrow (1962) に始まるモデル。時点\(t\)におけるある企業の製品への需要を\(S(t)\), goodwill stockを\(A(t)\), 価格を\(p(t)\), その他の制御できない変数を\(Z(t)\)として、$$ S(t) = f(A(t), p(t), Z(t)) $$ 広告出費を\(u(t)\)として $$ \dot{A}(t) \equiv \frac{dA(t)}{dt} = u(t) – \delta A(t), \ \ A(0) = A_0$$ とする。
 N-Aモデルは拡張が山のようにある。以下では1995年以降の拡張を紹介しよう。

2.1 独占状態での動的広告問題への拡張

  • 2.1.1 新製品導入モデル。
    • $$ \dot{A}(t) = f(u(t)) – \delta A(t)$$と拡張する(\(f\)は狭義単調増大でconcave)。従来の\(f(u(t)) = (u(t))^\alpha\)というのも含まれる。で、企業の将来利益を最大化する最適解を求める。
    • セグメントの属性を\(a\)として、$$ \dot{A}(t, a) \equiv \frac{\partial A(t,a)}{\partial t} = u(t, a) – \delta(a)A(t,a)$$ と拡張する。
    • さらにチャネルも導入して…[面倒くさいので略]
    • 偏微分方程式を導入して $$ \partial A(t, \hat{a}) = -\delta A(t, \hat{a}) + \Delta_{\hat{a}} A(t, \hat{a}) + b(\hat{a}) u(t, \hat{a})$$ という提案もある。\(\hat{a}\)は空間座標。第2項はgoodwillの空間的拡散を表す。
  • 2.1.2 広告-価格モデル。goodwillに価格をいれる。
    1. 品質シグナリングモデル。販売者の評判が品質-価格比に依存すると考えるモデルは前からあった。最近ではむしろ$$\dot{A}(t) = k p(t) + \rho u(t) – \delta A(t)$$ だという拡張がある(\(k\)は価格がgoodwillに与える効果)。[←へええ、面白いなあ。むしろ高価なほうがgoodwillが上がるという発想ね。Fruchter(2009 J. Optimization Theory & Application)だそうだ]
    2. marketing and operations interface モデル。マーケティングとオペレーションというのはもともと異なる目的を目指しているのだと考える(前者は需要拡大、後者はコスト最小化)。$$ S(t) = \alpha – \beta p(t) + \gamma A(t)$$ としておいて、手持ち注文を\(\hat{B}(t)\), 動的生産率を\(\kappa(t)\)として$$ \hat{B}(t) = S(t) -\kappa(t)$$ とし、マーケティング部門が\(p(t), u(t)\)を決めオペレーション部門が\(\kappa(t)\)を決めるとき、フィードバックナッシュ均衡がどうなるかを導出する。[さっぱりわからないが、社内の意思決定をゲームと捉えるという話だろう。変なことを考えるなあ]
  • 2.1.3 確率的広告モデル。標準ブラウン運動過程を\(\omega(t)\)として$$ dA(t) = [\beta u(t) – \delta A(t)]dt + \sigma d \omega(t)$$ と拡張する。で…[以下、読んでも理解できそうにないので中略する。自分の学力不足が哀しい。なんだかわからんけど、goodwillを確率過程とみるってことなんですかね]
  • 2.1.4 その他の属性についての拡張。
    1. 空間的独占下での広告投資。[略]
    2. ファッション・ライセンシング契約における広告協調。[略]
    3. ブランドgoodwillに対する敵対的な外生的効果を考慮した最適広告。$$ \hat{A}(t) = \gamma_1 u(t) – \gamma_2 -\delta A(t)$$ とする。\(\gamma_2\)が外生的な干渉(定数)。[Grosett & Viscolani(2009 Automatica)。定数だというので驚いたんだけど、競争のモデル化は2.2で扱うということだろう]
    4. 多様な広告テーマのwearout効果。テーマを\(i\)として$$ \dot{A} = \sum_i \psi_i(t) \left[ g_i(u_i(t)) + \lambda_i \sum_{j \neq i} h(u_i(t), u_j(t)) \right] – \delta A(t)$$ $$ \dot{\psi}_i(t) = -a (u_i(t)) \psi_i(t) + \delta(1-I(u_i(t)))(1-\psi_i(t))$$ ただし\(I(u_i(t))\)は支出の有無を表す。[Bass, et al.(2007 MktgSci), Naik, Mantrala, Sawyer(1998 MktgSci)]
    5. 耐久財の無限時間での最適広告。[略]

2.2 水平競争状態での動的広告問題への拡張

  • 2.2.1 広告-品質モデル。複占下で、goodwillが広告と品質に依存すると考える。企業は価格、広告出稿、品質投資を決められる。[…略…]
  • 2.2.2 広告-価格モデル。
    • 水平差別化した複占市場における微分ゲーム。\(M(t)\)人の消費者が\([0, 1]\)区間に一様分布しているとする。企業\(i (=1,2)\)は自分の位置\(y_i(t)\)を決める。位置\(l\)の消費者が\(i\)の製品を買ったときの余剰を\(U = s – p_i(t) – k (y_i(t) – l)\)とする。いま、広告支出\(u_1(t), u_2(t)\)で\(M(t)\)を増やすことができて、\(\dot{M}(t) = \alpha(u_1(t) + u_2(t)) – \delta M(t)\)だとしよう。各企業はどうすべきか。[なるほど… ブランド広告ではなくてカテゴリ広告の均衡をみつけるという話だろう]
    • 等質な製品のクールノー競争を考えて…[略]
  • 2.2.3 競合の負の干渉を伴う広告戦略モデル。[略]

2.3 サプライ・チェーン分析における動的広告問題への拡張
[メーカーと小売がそれぞれ決定するモデル。あまり関心はないので丸ごと省略するけど、こういう研究している人って多いんでしょうね…]

  • 2.3.1 動的広告決定のみを含むサプライチェーン分析
  • 2.3.2 動的広告決定と動的価格決定を含むサプライチェーン分析
  • 2.3.3 ナショナルブランドとストアブランドの競争に関する動的広告モデルによるサプライチェーン分析
  • 2.3.4 広告とその他の属性を含む動的モデルによるサプライチェーン分析
    1. 広告と品質改善を含む分析
    2. 伝統的フランチャイズ・システムにおける戦略的相互作用を含む分析
    3. 動的広告と棚スペース配分を含む分析

2.4 一般的考察
 要するに、1995年意向のN-Aモデルは独占・複占・寡占のモデルと、サプライチェーンにおけるモデルに大別できる。

3. Vidale-Wolfeモデルとその拡張
 Vidale & Wolfe (1957) に始まるモデル。\(S(t)\)が売上、\(u(t)\)が広告支出というのはさっきとおなじとして、$$ \dot{S} = r u(t)\frac{M-S(t)}{M}-\lambda S(t) $$ と考える。\(M\)は飽和レベルで、\(\frac{M-S(t)}{M}\)は潜在顧客の割合。
 [いま全然関心無いので丸ごとパス。見出しのみメモする]

3.1 独占状態での動的広告問題への拡張

  • 3.1.1. S字型/concave反応関数による広告パルシングモデル
  • 3.1.2. 不確実性の下での統合マーケティング・コミュニケーション
  • 3.1.3. 新製品受容における最適広告・価格決定

3.2 水平競争状態での動的広告問題への拡張

  • 3.2.1. 不確実性の下での広告競争
  • 3.2.2. 動的寡占の下での広告競争
  • 3.2.3. 広告・価格の同時決定を伴う動的広告モデル

3.3 サプライ・チェーン分析における動的広告問題への拡張

3.4 一般的考察
 1995年以降、V-Wアプローチはまず売上-広告のモデルに用いられた。価格や品質を組み込んだ研究は少ない。

4. Lanchesterモデルとその拡張
 企業\(i (=1,2)\)のシェアを\(x_i(t)\)として、$$ \dot{x}(t) = \beta_i u_i(t) x_j(t) – \beta_j u_j(t) x_i(t)$$ というモデル。V-Wモデルと比べると、V-Wモデルでは\(\beta_j u_j(t)\)が定数になって添字が消える。いいかえると、Lanchesterモデルというのは複占市場へのV-Wモデルの拡張である。
 [丸ごとパス。見出しのみメモする]

4.1 複占状態での動的広告問題への拡張

  • 4.1.1. 固定的・動的サイズを持つ市場における広告競争
  • 4.1.2. パルシング政策を伴う広告競争
  • 4.1.3. ブランド戦略・ジェネリック戦略を伴う広告競争
  • 4.1.4. 品質向上とgoodwill蓄積を伴う広告ブランド競争

4.2 寡占状態での動的広告問題への拡張
4.3 サプライ・チェーン分析における拡張
4.4 一般的考察

5. 拡散モデル
 実世界では、耐久財の受容はその製品の累積売上に依存することが多い(クチコミなどの影響があるとかで)。
 まずはBassモデルについて。[…面倒くさいので丸ごと省略]

5.1 拡張Bassモデル
5.2 広告・価格決定を伴う拡散モデル
5.3 クチコミ効果を伴う拡散モデル
5.4 一般的考察

6. その他の属性を伴う動的広告競争モデル
 [丸ごと省略]

6.1 粘着的価格を伴う動的広告競争モデル
6.2 スピルオーバーを伴う動的広告競争モデル
6.3 露出順序効果を伴う動的広告競争モデル
6.4 dominant/fringe企業を伴う動的広告競争モデル
6.5 一般的考察

7. 動的広告問題の実証研究
[この章に限り、文献名をメモしておこう]

7.1 N-Aモデルの実証研究

  • Rao(1986 MktgSci): 時間累積の効果について検討。
  • Chintagunta(1993 MgmtSci): 複占市場、持ち越し効果ありのとき、最適広告レベルの変化が企業の利益に影響を与えるかどうかを調べた。
  • Naik et al.(1998 MktgSci): 広告品質を時変させるモデルを適用。
  • Bass et al.(2007 MktgSci): 異なる広告テーマの交互作用。
  • Rutz & Bucklin (2011 JMR): ジェネリックなキーワード検索のペイド検索へのスピルオーバー。[←これはおもしろそう]

7.2 V-Wモデルの実証研究

  • Erickson(1995 JMR): 寡占市場での競争に離散V-Wモデルをあてはめる。
  • Naik et al.(2008 MgmtSci)
  • Mesak & Ellis(2009 EuroJ.OR): パルシング政策
  • Erickson(2009 OR): 複数企業の複数ブランドに適用。企業の広告のナッシュ均衡解を求めた
  • Erickson(2009 J.OR): フィードバッグナッシュ均衡を求めた

7.3 Lanchesterモデルの実証研究

  • Erickson(1992 MgmtSci)
  • Chintagunta & Vilcassim (1992 MgmtSci)
  • Fruchter & Kalish (1997 MgmtSci)
  • Naik et al.(2005 MktgSci): 異なるブランドの相互作用
  • Nguyen & Shi (2006 MgmtSci)
  • Bretion et al.(2006 MgmtSci)

7.4 一般的考察
 1995年以降のほとんどの実証研究は分析的結果と実証的結果を比べてモデルの妥当性を示している。拡散モデルの実証研究が見当たらないところが注目される。

8. 要約と結論
 1995年以降の動的広告モデルが仮定しているシステム構造は、大きく分けて、{独占、複占、寡占、サプライチェーンシステム}である。主な決定変数は、広告、価格、品質、プロモーションである。
 […いろいろまとめがあるけど中略…]

 こうしてみると、累積レベルの研究ばかりで、効用ベースの消費者行動モデルによるアプローチが見当たらない。この方向の研究に際しては以下が手がかりになるだろう。

  • Lambertini (2005 EuroJ.OR): 2.1.4.で紹介した。需要を効用ベースで導出し、空間的独占下での広告投資のN-Aダイナミクスをモデル化している。
  • Bertuzzi & Lambertini (2010 RegionalSci.&UrbanEcon.): 2.2で紹介した。2企業のN-A形式の微分ゲームなんだけど、消費者効用を輸送費と価格で決めている。
  • Lambertini & Palestini(2009 OptimalControlApp.&Methods): 6.で紹介した。寡占下での広告競争ゲームだが、効用関数を使っている。

 さらに、静的な広告モデルでは消費者効用関数を組み込んでいる研究が多い[…紹介…]。動的モデルへの拡張が有望である。
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 正直、途中で疲れて流し読みになった。いっぱいあるのね… 特に、ORの分野で膨大な研究がなされているのね…

 感想: 私の視野が狭いのかもしれないけれど、企業の広告実務との関連性を考えたとき、複占・寡占下の広告競争モデルは、市場をあまりに抽象化しすぎていて、ちょっとついて行けないように思う。むしろ、独占市場のモデルのほうが実務的示唆が多いのではないだろうか(競合との相互作用を無視することになるけれど)。そんなことないですかね?