西本章宏, 勝又壮太郎(2018) コンジョイントデザインを用いた消費者のWillingness to Pay測定方法の比較. 流通研究, 21(3), 15-25.
仕事の都合で読んだ。WTP測定方法を比較する実験。日本でもこういうことをやっている方がおられるのね、ありがたいことであります。
いわく。
WTP測定では3つのバイアスが問題になる。
- 仮想バイアス。経済的コミットメントなしで測定していることによるバイアス。
- 測定バイアス。測定方法に固有なバイアス。
- 需要バイアス。需要が高いとWTPが高くなる。これはバイアスっていうより被験者間異質性。
WTP測定方式のレビュー。
- 自由回答方式。
- 仮想評価法。
- コンジョイント測定。評価型、選択型。
- オークション。封印入札型として、第一価格、Vickrey。公開入札型もあるけど、WTP測定には向かない。
- BDM。
測定方法を評価する観点。上記5方式の星取表が載っている。
- 現実の購買状況に対応しているか。
- 誘因両立性。
- 回答の認知負荷。
というわけで、本研究ではWTP測定方法を比較する。ただし、経済的コミットメントはなし。
対象者は週1以上コンビニ昼飯購入者。オークションとBDMについて例題に正解し、実査後1w以内にコンビニで昼飯を買ってレシートを出してくれた人、163名について分析。[書いてないけど、一般のweb調査パネルでリクルートしたんだろうか? だとしたら脱落率がすごいだろう。ひょっとするとレシート登録アプリのユーザとかかもしれない]
チェーン名(SEJ, FM, LAWSON), 来店手段(徒歩, 自転車ないし原付, 自動車), 来店所要時間(3分, 6分)の直交配置で9プロファイル用意する。
お待たせしました、選手入場です。各対象者に全部やってもらう。
- RBC(評価型コンジョイント)。先に「コンビニ昼飯でいくらまでなら払うか」を自由回答させ、それを上限にして、各プロファイルに対して「いくらまでなら払うか」を自由回答。[数値入力させたってことかなあ]
- FA(第一価格オークション): 複数入札者がいます、勝っても負けても入札金額で昼飯を買わないといけないが最高金額提示者には1000円あげます、と教示。
- VA: 複数入札者がいます、勝っても負けても入札金額で昼飯を買わないといけないが最高金額提示者には1000円あげて2番目の入札金額で買ってもらいますと教示。
[FAとVAについて、負けても「提示した入札金額」で買わないといけないって書いてあるんだけど、よく理解できない。自分が提示した入札金額で買えるんなら、安く入札すればするほど得になりますね。それとも誰もが第一入札金額(FA)ないし第二入札金額(VA)で買わないといけないってことだろうか。仮にそうだとして、それは誘因整合的なメカニズムなのだろうか] - BDM: 提示したWTPが、店員が無作為に提示する金額より上だったら自分の提示金額で購入しなければならない、下回っていたら買えない、と教示。
[あれれれれ? Wertenbrock & Skiera (2002, JMR)の手続きだと「まず提案価格sを出させ、次に買値pをくじ引きし、p≦sだったらpで強制購買、でなければ買えない」じゃなかったっけ? すると
(A)s<(真のWTP)だったら買うチャンスが失われ、しかし購入価格pは変わんない、
(B)(真のWTP)<sだったらp≦sのときに(真のWTP)-p (<0)だけ損失が生じる、
だから誘因整合ですよね。
いっぽうここでは「p≦sだったらsで強制購買、でなければ買えない」になっているようだ。すると
(A)s<(真のWTP)だったら買うチャンスが失われるが購入価格sもWTPより低い、
(B)(真のWTP)<sだったらp≦sのときに(真のWTP)-sだけ損失が生じる、
になりますよね。(B)は明確に損だが、(A)は損なのかどうかはっきりしない。このメカニズムって誘因整合になっているのだろうか? むしろWTPを過少に申告する誘因がありませんか。それとも私がなにか勘違いしているのだろうか]
分析。
消費者\(i\)がコンビニ昼食の予算を\(m_i\)持っていて、店舗\(g\)(プロファイル\(x_g\)で昼飯を価格\(p_g\)で買った。買う効用を\( U_i(x_g, m_i – p_g) \)、買わない効用を\(U_i(0, m_i)\)とすると、支払意思額上限は\(R_i(g)\)は$$ U_i(x_g, m_i – R_i(g)) – U_i(0, m_i) = 0$$ を満たす。
購入による効用を \(x^\top_g \beta_i\)、貯蓄の効用を\(\alpha_i(m_i – p_g)\)と仮定する。上の式から$$ R_i(g) = \frac{x^\top_g \beta_i}{\alpha_i} = x^\top_g b_i$$ となる。(\(\alpha\)と\(\beta\)を識別できないので\(b\)にまとめている)
測定モデル。店舗プロファイル\(g\), 測定方法\(s\), 回答者\(i\)の回答を$$ r_{sig} = x^\top_g b_{si} + \epsilon_{sig}, \ \ \epsilon_{sig} \sim N(0, \sigma^2_s) $$ $$ b_{si} = \Gamma_s w_i+ \xi_{si}, \ \ \xi_{si} \sim N(0, V)$$ ただし\(V\)は対角行列とする。[\(w_i\)ってのは、切片、性別ダミー、年齢対数、11時までダミー、13時以降ダミーらしい。ってことは、店舗訪問時間を想定させたってことですかね]
MCMCで推定する。
さて、その人の実査後のレシートと、モデルから推定される4つのWTP, \(b_{si}\)を\(s\)間で等価に制約したモデルから推定されるWTP、を比べよう。[てっきり\(\Gamma\)に関心があるのかと思って、真剣にメモしてしまった…]
どの方法もちょっと過大予測。モデルから予測されたRBCのWTP推定値がMSE最小だった。
今後の課題:
- 実際には、どんな分析対象だったらどんなWTP測定方法が良いか、というのが本質かもしれない。
- レシートを1枚だけしか分析しなかった。
- 先行研究に従い、観測値に対するWTP測定のずれを調べたけれども、観測値そのものがWTPってわけじゃない。観測値がなにを表しているのか再考が必要。
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実験手続きについてちょっと理解できないところがあったんだけど(たぶん私のせい)、勉強になりました。
素朴な疑問: 理屈からいえば、実購買金額は真のWTP以下のはずだから、WTP推定値が実購買金額に対して過大気味になるのは筋が通っている。レシート上の実購買金額とRBCのWTP推定値が近かったってのは、むしろRBCのWTP推定値が、真のWTPを少し過小評価しているということにならないだろうか? 私はこの論文を最初に拝読した際、むしろ「WTPの数値入力はやべえ… むしろ信用できねえ…」と思いました。今回よく読んだら、最後にそういう話が書いてあった。