Freimer, M., Horsky, D. (2012) Periodic Advertising Pulsing in a Competitive Market. Marketing Science. 31(4), 637-648.
仕事の都合でめくった。えーと、ナショナル・ブランドは広告出稿の際に、ある月にどさっと出稿してしばらく減らす、というサイクルを繰り返すことがあるけれど、それがゲーム理論の観点から見て合理的だということを示します、という論文であった。
いわく。
一般消費財の広告は、平坦に出稿するのではなく、特定の期間にまとめて出稿し、その期間外はあまり出稿しない、というやりかたをとることが多い(pulsing)。
pulsingの意義についての研究はたくさんある。大きくわけて、独占的な状況を扱うのと競合のいる状況を扱うのがある。前者は広告反応関数としてS字型関数を考え、後者はさらにそれを下回ると広告効果がなくなる閾値を想定することが多い。
たしかにそう仮定するとpulsingは正当化されるのだが、しかしHanssens-Parsons-Schultz(1990)いわく、広告反応についての実証研究では、関数は上に凸であり閾値はないという指摘が多いそうですよ???
企業の売上を\(S\)、市場ポテンシャルを\(M\)、広告支出を\(A(t)\)、広告の効果を\(r\)、売上減衰を表す定数を\(\lambda\)とする。Vidale & Wolfe(1957)はこう考えた: $$ \dot{S} = rA(t) \frac{M-S}{M} – \lambda S$$ シェアを\(x\)、広告支出\(A(t)\)に対応する広告効率を\(v(t)\)とすれば $$ \dot{x} = v(t)(1-x) – \lambda x$$ 離散時間で考えると、\(\delta = 1 – \lambda \)として $$ x_t = \delta x_{t-1} + v_t (1-x_{t-1}) $$ これは2状態( 購入\(x_t\)と非購入\(1-x_t\) )の一次マルコフ過程になってます。遷移行列は $$ \left[ \begin{array}{cc} \delta & 1-\delta \\ v_t & 1-v_t \\ \end{array} \right]$$と書ける。
前期購買者\(x_{t-1}\)のうち\(\delta\)が今期も購買する。広告は前期非購買者\(1-x_{t-1}\)に効く。なお、前期非購買者には他ブランド購買者とカテゴリ非購買者が含まれる。
2社による独占に拡張しよう。3状態( ブランド1購入\(x_{1t}\), ブランド2購入\(x_{2t}\), 非購入\(1-x_{1t}-x_{2t}\) )の一次マルコフ過程になる。遷移行列は$$ \left[ \begin{array}{ccc} \delta-v_2 & v_2 & 1-\delta \\ v_1 & \delta-v_1 & 1-\delta \\ v_1 & v_2 & 1-v_1-v_2\\ \end{array}\right] $$となる。
以下では \(v(A) = \frac{A}{A+1} \)と仮定する。広告出稿のリターンは逓減する、つまり限界費用は逓増するわけだ。
さて、広告戦略について考えましょう。
確立されたナショナルブランドについて考える。次の3つの戦略がありうるとしよう。
- A. どちらのブランドも平坦に出稿する。
- B. In-Phase pulsing。どちらのブランドも同タイミング・同サイクルでpulsingする(たとえば、3期に1期だけ出稿する)。
- C. Out-Phase pulsing。どちらのブランドも違うタイミング・同サイクルでpulsingする。
さらに、あるブランドが出稿する期の出稿レベルは期を通じて同じだとする。
この繰り返しゲームを通じて、各戦略における最適な広告レベルが決まると考える。どの戦略の利益が高くなるか。
Aについて。この場合、さきほどの3状態一次マルコフ過程になる。安定状態において$$ x_{11} = v_1 / (v_1+v_2-\delta+1)$$ $$ x_{21} = v_2 / (v_1+v_2-\delta+1)$$ となる。これは潜在消費者あたりの平均収益とみることもできる。
Bについて。
2期に1期というサイクルで出稿する場合… [中略。安定状態における潜在消費者あたり平均収益を求める]
3期に1期というサイクルで出稿する場合… [中略。さきほどと同様に、安定状態における潜在消費者あたり平均収益を求める]
n期に1期というサイクルで出稿する場合… [中略。さきほどと同様]
今度は反応関数\(v_1(v_2), v_2(v_1)\)について考える。\(\delta = 0.3\)のとき[…中略…] \(n=1\)なら\(v \approx 0.05\) が競争均衡となる。\(n=2\)なら[…中略…] というわけで、\(n=1,2,3\)の競争均衡のなかでは、2の場合に利益が最大化される。
では一般的な\(\delta\)について解くと [… 関心がなくなってきたのでスキップ…] というわけで、最適な期あたり広告支出を\(n, \delta\)の関数と捉えると… [チャートが描いてありました]。
Cについて。[まるごとスキップ]
というわけで、\(\delta\)が通常の範囲にあれば、A,B,CのなかではBが最適である。Bのなかでは\(n=2\)が最適な場合と\(3\)が最適な場合がある。
この最適戦略はナッシュ均衡になっているか? 詳細は付録にまわすけど、大筋においてナッシュ均衡でした。
本研究の貢献…[略]
今後の課題…[略]
結論。シェアの維持率(消費者の状態依存性)がある限り、ブランドは広告をpulsingすることになりまーす。
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著者の先生方には悪いけど、中身が思ってたのとちがうということに途中で気づき、流し読みとなった。
ま、この世界にはこんな問題設定があるのね、という意味で勉強になりましたですー。