Breugelmans, E., et al. (2015) Advancing research on loyalty programs: A future research agenda. Marketing Letters, 26, 127-139.
少し前に仕事の都合で読んだ奴。ロイヤリティ・プログラムについての概観論文。9人の連名で、ワークショップのまとめなのだそうで、そういうのは総花的でつまんないことが多いんだけど、まあ短いからいいかと思って。
1. イントロダクション
ロイヤリティ・プログラム(LP)についてのレビューとして、Bijmolt et al(2011 Foundations & Trends in Mktg.), Liu & Yang (2009 J.Mktg.), McCall & Voorhees(2010 Cornell Hospitality Q.)を参照せよ。
本論文ではLP研究の今後の課題に焦点を当てる。
2. LPデザイン
2.1 一般的なLPデザインの要素
LPのデザインには5つの要素がある。
- メンバーシップの条件。サイズと利益性のトレードオフがある。今後の研究課題:
- 参加は任意型がよいか(獲得したメンバーの価値が高い)、自動型がよいか(認知を上げられる)
- 有料がよいか無料がよいか
- 誰でも参加可能にするのがよいか、限定するのがよいか(ヘビー購買者は限定を好むが、利益増には天井がある)。
- プログラムの構造。主にfrequency reward型(FRP)とcustomer tier型(CTP)がある。スーパーのようにトランザクションに焦点を当てる分野ではFRPが、航空のように関係性に焦点を当てる分野ではCTPがよく用いられている。今後の研究課題:
- どういうときにどっちがよいかという実証研究は少ない
- CTPには未知の側面が多い。いつupgrade/downgradeすべきか; downgradeの悪影響をどう緩和するか; どうやって上のランクに行きたいと思わせるか。
- ポイントの構造。先行研究はFRPに偏っている。今後の研究課題:
- ティアはいくつあるのがよいか。多いとupgradeへのやる気が出やすいだろうがdowngradeも生じやすくなる。最適数を決める分析枠組みがほしい。
- ポイント付与率の決め方。Bagchi & Li(2011)いわく、消費者は閾値と付与率を参照しており、どっちを重視するかは付与率の曖昧さに依存する。どういう要因が心的会計に使われているかという研究が必要[←なるほど、ここ面白い]。
- time horizonの決め方。ポイント消失期間とか消失の実装の仕方が及ぼす効果についての研究が必要。
- ポイントは店舗での支払全体に基づいて与えるべきか、それとも特定のカテゴリとかアイテムとかに基づいて与えるべき真。後者は比較的に新しい構造で、販促とかとのシナジーがあるかもしれないし、小売-メーカーの協同につながるかも。
- 報酬の構造。これは研究が多い。主に、(1)金銭か非金銭か, (2)贅沢的価値か必需的価値か, (3)ブランドと報酬を関連させるかしないか, (4)即時か遅延か、が研究されてきた。
- プログラムのコミュニケーション。今後の研究課題:
- 貯まっているポイントとかティアとかについて自動的に知らせるか、メンバーが自分で調べるのを待つか。
- コミュニケーションのフレームによって消費者行動とLPのパフォーマンスはどう変わるか。
- どういう媒体の組み合わせが最適か、マルチチャネル戦略を採用することの効果はどうか。
2.2 パートナーシップLP. そのデザインに独特な難題
あるLPプログラムに複数の企業が参加し、メンバーがそれらの企業から報酬をもらったり交換したりするのをパートナーシップLPと呼ぶ。研究課題:
- ある支配的企業のLPに補完的なパートナーが加わる場合(航空とか)と、企業は対等に加わりLP管理会社が運営する場合とのちがい。パフォーマンスとか、メンバーの購買行動の影響とか、パートナーからみた利点と限界とか。
- パートナーシップのポートフォリオ(LPにおけるパートナーの構成)がたくさんの企業を含む場合について。先行研究によれば、パートナーが多いとLPの魅力と満足は高まる。しかし、あるパートナーに対してネガティブな経験をしたメンバーはその否定的評価を他のパートナーに転移させるかもしれない。最適なポートフォリオ管理についてはまだよくわかっていない。特に、
- 個々のパートナーのブランド価値をどう測るか。
- どんなタイプのパートナーがポートフォリオに適合するか、その媒介要因はなにか。
- パートナーの参入・退出はLPや既存パートナーの魅力・パフォーマンスにどう影響するか。
- 最適なポートフォリオサイズはどうやって決まるか。
- プログラムデザインはパートナーを通じて整合的であるべきか。たとえば、一部のパートナーだけが報酬とかステータスとかを無料で開放しちゃったらどうなるか。
- コストと報酬の構造。ある顧客がいろんな企業からポイントをもらったとき、クロスオーバー効果が起きるかどうかははっきりしていない。さらに、顧客は企業Aからポイントをもらい続けBで使い続けるかもしれない。というわけで、
- コストを被りやすいパートナーの特性
- 消費者の購入=ポイント獲得意思決定とポイント引き替え意思決定との関連性
- ポイント引き替えがLPとパートナーに与える影響
- あるパートナーのマーケティング・アクションのクロスオーバー効果
- 利益より損失が大きいパートナーにどうやって補償するか。
2.3 LPデザインの変化
先行研究はたいてい、企業がLPをいちからつくると仮定している。企業がすでにやってたLPを変更する場合については研究が少ない。[いくつか研究が紹介されている。メモ省略。しっかしこういうのってみんな一事例研究なんじゃないの?]
3. LPパフォーマンスの評価
3.1 いろいろなLPパフォーマンス指標
LPパフォーマンスの指標はすでにいろいろある。LP enrollment, リテンション、購買行動, 報酬の引き替え、customer traffic, 顧客支出, 態度など。行動的ロイヤリティは短期的購買パターンと、態度的ロイヤリティはコミントメント・肯定的態度・長期的情動と関連するといわれている。いっぽうLPの長期的な効果については研究が少ない。実務的にはLP参加率が低いというのは企業のパフォーマンスを削るといわれており、参加率についての研究も求められている。
というわけで、今後の研究課題として以下が挙げられる。 [←こうしてみると、結局まだなんにもわかってないわけ?と思っちゃうんですけど…]
- LPのパフォーマンスの評価に適切なKPIはなにか。
- 縦断データに基づくLPの長期的効果の検討。
- 短期パフォーマンスと長期パフォーマンスの関連。
- パフォーマンスとLPの構造(FRP vs CTP)。
- LP参加率の指標と、パフォーマンスとの関連。
3.2 戦略的行動の効果
企業は戦略的にふるまう。航空会社がFFPでハブ空港への競合参入を阻止するとか。LPデザインの選択において競合とのあいだに囚人のジレンマ的状況が起きることもある。今後の研究課題:
- LPを通じてエージェンシー問題(モラルハザード)が起きるのはどんなときか。
- LPデザインと利益性についての決定における競合の圧力の影響。
- LPによって競合との暗黙の共謀が起きることはあるか[←なるほど…面白い問いだなあ]。
消費者も戦略的にふるまう。研究は少ないけど。今後の課題:
- 消費者がforward lookingなときにも、LPは(態度的ロイヤリティのような)非行動的指標を拡大するか[←ひらたくいうと、どいつもこいつもポイント・ゲッターだったとしてもなおポイント還元はロイヤリティを高めるか、ってことですかね。それは知りたいなあ]。
- パートナーシップLPにおける消費者の戦略的行動についての明示的な説明[← いやー、これはほんとに実務的ニーズがあると思います]。
3.3 方法論的なチャレンジ
- 実験じゃなくて現実世界のLPのデータを使って、LPデザインの諸要素の相互作用を検討すること[←ええええー。てっきり全部観察研究なのかと思ってたよ]。
- 現実のLPデザインなり顧客なりには内生性があるわけで、その検討。
- パートナーシップLPにおけるクロスオーバー効果。
4. 新しいトレンド、新技術のインパクト
- パートナーシップLPの普及とメガ同盟の形成。研究課題:
- 自社LPではなくてパートナーシップLPに参加した方がよい場合とは?
- このトレンドは世界のLP市場の競争にどう影響するか?
- 自社LPはパートナーシップLPにどう反応すべきか?
- IT, モバイル, ソーシャルメディアの影響。
- 強力な仲介業者の登場。LPのプロモーションをモバイル経由で直接届けるいっぽう、LP間の比較も容易になっている。どのように活用できるか。
5. 結論
[メモ省略]
…論文にケチをつけるわけではなくて、単なる感想に過ぎないが、あまりに消費資本主義的というかなんというか、メモを読み返しているだけでサツバツとした気分になってしまった。寝よう…