First Feature Film Initiative (首部劇情電影計劃) によって制作された香港映画

 昨年末に「淪落の人」という映画を観た際、びっくりしてとったメモがあったので、整形して載せておく。

 いまやほとんど崩壊してしまったはずの香港映画産業が、なぜ「淪落の人」のような秀作を生みだしちゃったのか? そしてなぜに主演がアンソニー・ウォンなのか、この人は民主派支持を鮮明にし映画界から事実上追放されてしまっているはずで、この映画も本土では上映が難しいだろうに… と不思議に思ったのだが、実は香港では2013年から首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative, FFFI)というプログラムがはじまっており、コンペを勝ち抜いた企画に対して公的資金による支援があるのだそうだ。「淪落の人」はこの資金で制作されたとのこと。香港政府が商業映画に補助金を出すなんて… 時代が変わったということなのだろう。

 「淪落の人」のような秀作を見逃すわけにはいかん!というわけで、FFFIで選定された企画のリストをつくってみた。
 えーと、コンペはProfessional Group (PG)とHigher Education Institutions Group (HEIG)とに分かれており、前者では1本、後者では1~2本が選出されるらしい。選出作にはベテラン映画人がプロデューサーとして付く由。
 以下、WikipediaとFFFIのWebサイト (旧版, 新版)を参考にした。

第1回(2013)

PG: 「藍天白雲Somewhere Beyond the Mist (監督: 張経緯 Cheung King-wai)
プロデューサーはイー・トンシン監督(「忘れえぬ想い」)。大阪アジアン映画祭2018で「どこか霧の向こう」として上映。主演は鄧麗欣Stephy Tangという歌手らしい。

HEIG: 「一念無明Mad World (黄進 Wong Chun)
プロデューサーはDerek Chiuという映画監督とHeiward Mak(「恋の紫煙」の脚本を担当した人)。大阪アジアン映画祭2017で「一念無明」として上映されグランプリを獲得。2019年「誰がための日々」として劇場公開。ショーン・ユー、エリック・ツァンらスターが出演している。DVD, 配信あり(Netflix, amazonで確認)。
→ 2021/08/14: Netflixでの配信は終了したが、amazonで配信中。

HEIG: 「點五步Weeds on Fire (陳志發 Steve Chan Chi-fat)
プロデューサーはChan Hing-kai(「男たちの挽歌」脚本)、O Sing-pui(「イップマン 序章」撮影)。野球についての映画らしい。ベテラン・バイプレーヤーのリウ・カイチーが出ている(これは観なければ…)。国内公開は見当たらなかったが、「あと半歩」としてNetflixで配信されているのを発見。
→ 2021/12/01追記: とても良い作品であった。残念ながらNetflixでの配信が終了し、現在日本で観るのは難しいと思うが、2021年末に全国5都市で開かれる「香港映画祭」で「最初の半歩」として上映されます。なお、銭俊華「香港と日本 記憶・表象・アイデンティティ」にかなり詳しい紹介がある。

第2回(2016)

PG: 「散後Apart(陳哲民 Chan Chit-man)
プロデューサーはハーマン・ヤウ監督(「八仙飯店之人肉饅頭」の…って、他の作品名を書いた方がいいかな?)。大阪アジアン映画祭2020で「散った後」として上映。2019年のデモを真っ正面から描く作品となったらしい。政府のカネでもこういうのアリなんだ…

HEIG: 「以青春的名義In Your Dreams (譚惠貞 Tam Wai Ching)
プロデューサーは女優のカリーナ・ラウ、大阪アジアン映画祭2018で「青春の名のもとに」として上映。監督は実は「レクイエム 最後の銃弾」の脚本家で、カリーナ・ラウがプロデューサーと主演を買って出たそうだ。観たいよう(泣)

第3回(2017)

PG: 「G殺G Affairs (李卓斌 Lee Cheuk Pan)
プロデューサーはTitus Ho(「變臉」のプロデューサー)とFlora Gohという人。大阪アジアン映画祭2019で「G殺」として上映。チャップマン・トーが出ているらしい。これもすごく面白そうだ。劇場公開してくれないかなあ…

HEIG: 「淪落人Still Human (陳小娟 Oliver Siu-kuen Chan)
プロデューサーのChan Kuoって、これフルーツ・チャン監督のことですよね。大阪アジアン映画祭2019で「みじめな人」として公開後、2020年2月に「淪落の人」として劇場公開。私は2019年末の先行上映で観たんだけど、チケットを取るのが大変だった(数十秒で売り切れてましたね)。香港を代表する大スターのひとり、アンソニー・ウォンがノーギャラで主演。いやこれは本当に素晴らしい映画でした。香港映画には新しい明日があるなとさえ思った。

第4回(2018)

PG: 「遺愛Elisa’s Day (馮智恒 Alan Fung)
プロデューサーはWong Yat-pingという人。大阪アジアン映画祭2021で「エリサの日」として世界初上映。

HEIG: 「手捲煙Hand-rolled Cigarette (陳健朗 Kelvin Chan Kin-long)
プロデューサーはLawrence Ah Mon (aka. Lawrence Lau, 俳優・監督)。FFFIのページでは他にCherrie Lauという名前が挙がっているが、IMDb上にはない。ラム・カートンがノーギャラで出演するという記事があった。
→ 2021/02/09追記: 大阪アジアン映画祭2021で「手巻き煙草」として上映。ところで話はちがいますが、左記リンク先でこの映画の紹介文を書いておられるソフィ・ウエカワさんとは、ひょっとしてジョン・ウー「マンハント」で派手に射殺される家政婦さんではなかろうか…
→ 2022/02/11追記: Netflixで配信が始まりました。残念ながら日本語字幕なし。

HEIG: 「金都My Prince Edward (黃綺琳 Norris Wong)
プロデューサーは「點五步」と同じくChan Hing-kaiとO Sing-pui。大阪アジアン映画祭2020で「私のプリンス・エドワード」として公開。おっと、これも鄧麗欣Stephy Tangの主演なのね。
→ 2021/08/14追記: 動画配信サービスJAIHOで配信されているのを発見(2021/07/25から約1か月間)。これはとても面白い映画であった。一言でいえば「彼からの求婚を機に人生を見つめ直す女性の話」だが、背後には生命力あふれる本土の中国人と変化に立ちすくむ香港人との対比があって、一筋縄ではいかない。感想としましては、彼氏さんはどうにも情けない男ではあるけれど(朱栢康Pak Hon Chuという人が好演)、彼もまた彼なりの挫折と、終わらない日常への絶望を抱えている… というところに胸を衝かれる思いであった。
→ 2022/09/21追記: JAIHOで再配信中(2022/8/20/から10/18)。

第5回(2019)

PG: 「燈火闌珊」A Light Never Goes Out (曾憲寧 Anastasia Tsang Hin-Ling)
プロデューサーはSaville Chan(おそらく「狂舞派」の脚本家)。おそらく製作中だが、この記事の写真をみると、えっ、サイモン・ヤムが出ている… セシリア・チョイが出ている… そしてなにより仰天したのは、映画監督にして大女優のシルヴィア・チャンが出ている… なにこれ…!!!
→ 2022/09/18追記: 完成しているらしいが、未公開の模様。
→ 2022/09/21追記: 東京国際映画祭2022で「消えゆく燈火」として上映される。良かった良かった。

HEIG: 「過時・過節」Hong Kong Family (曾慶宏 Eric Tsang Hing-weng)
当初題名は「陽」The Dinner。プロデューサーはCHENG Lai Chun, Patriciaとある(シルヴィア・チャン監督「あなたを、想う」のプロデューサーとしてクレジットされているのを発見)。製作中とのこと。いや、Eric Tsang Hing-wengって、若手の映画作家としてすでに有名な人じゃないかしらん…
→ 2022/09/18追記:「過時・過節」に改題され、釜山国際映画祭2022で上映される模様

HEIG: 「年少日記」Time Still Turns the Pages (卓亦謙 Nick Cheuk Yik-him)
当初題名は「遺書」。プロデューサーはイー・トンシン監督。製作中らしい。卓亦謙は「SPL 狼たちの処刑台」などの編集を担当した人。
→ 2022/09/18追記: 「年少日記」に改題されたらしい。未公開の模様。製作会社がプロモーション・リールを公開していたので貼っておきます(1:15ごろから)。

第6回(2020)

PG: 「我談的那場戀愛」Love Lies (何妙祺 Ho Miu-kei)
プロデューサーはChan Hing-kai とChun Siu-chun という人。なお2021年の台湾映画で「我沒有談的那場戀愛」I Missed You というのがあるが、無関係だろう。

PG: 「流水落花」Foster Love (賈勝楓 Ka Sing-fung)
プロデューサーはKatherine Leeという人。

HEIG: 「風景線」The Wonder (葉鈺瀛 Yip Yuk-ying)
プロデューサーはフルーツ・チャン監督。

HEIG: 「但願人長久」Fly Me to the Moon (祝紫嫣 Sasha Chuk)
プロデューサーはスタンリー・クワン監督。

HEIG: 「電競女孩聯盟」Gamer Girls (白瑋琪 Veronica Bassetto, 楊帆 Sophie Yang)
プロデューサーはJacqueline Liu(「狂舞派」プロデューサー)。お、すでにFacebookのページができている。

第7回
…はどうなったんだろう? FFFIのwebページには、申請を締め切った旨の記載があるのみ(2022/09/18時点)。

リストをつくってあらためて感じたのだが、大阪アジアン映画祭の目利きっぷりはすばらしい。山形国際ドキュメンタリー映画祭みたいに、一部を東京でも上映してもらえないものだろうか。ないし、いっそ最初から東京で開催するのはどうだろうか (…?)

更新履歴

  • 2021/02/09: 大阪アジアン映画祭2021のプログラムが公開されたのを機に更新。「手巻き煙草」観たいなあ…
  • 2021/08/14: 最近はじまった動画配信サービスJAIHOで、「私のプリンス・エドワード」が配信されていることを発見。08/23まで。えええええ。早くそれを教えてよ… そのほか、数か所追記しました。
  • 2021/12/01: 「點五步」が年末に映画祭上映されるという話を追記。
  • 2022/02/11: 「手捲煙」がNetflixで配信中だという話を追記。
  • 2022/09/18: FFFIのページがリニューアルしていることに気づき、少し追記。
  • 2022/09/21: 「燈火闌珊」が東京国際映画祭2022で上映されるという話を追記。