論文:データ解析」カテゴリーアーカイブ

読了:Gambino (2009) 「デザイン効果」利用者諸君への注意事項

Gambino, J. G. (2009) Design Effect Caveats. The Americal Statistician, 63(2), 141-146.

 調査データ解析に関してときどき出てくる話題である「デザイン効果」についての資料を探していたら、2009年のAmerican Statisticianに解説が載っているのを見つけた。ありがたや。考えてみれば2009年は最近とはいえないが、話題自体がわりかし古いので、この話題の解説としては新しめであるといえよう。
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読了: Kish(1995) デザイン効果とはなにか

Kish, L.(1995) Methods for Design Effects. Journal of Official Statistics, 11, 55-77.

 調査データ解析のレジェンド、Kish大先生によるデザイン効果の解説。デザイン効果ってのはあれですね、推定量の分散が標本デザインのせいでどれだけ拡大したかってやつですね。調査に関わる多くの人にとってさえ、わりかしどうでもいい話かもしれないが、マーケティング・リサーチにおいては結構深刻な話題である。その深刻さに気付いているかどうかは別にして。
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読了: Williams, et al.(1998) ポアソン抽出デザインにおける母合計推定量を比較する

Williams, M.S., Schreuder, H.T., Terrazas, G.H. (1988) Poisson Sampling: The Adjusted and Unadjusted Estimator Revisited. Research Note, RMRS-RN-4. U.S. Department of Agriculture, Forest Service, Rocky Mountain Research Station.

別に読む必要は全然、全くないんだけど、標本抽出についての資料を作っていて悩んでいるときにぱらぱらめくったもの。ポアソン抽出での母合計推定量を比べるという話。なんであれ、めくったものはとりあえず記録しておこう、ということで…
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読了: Godambe & Thompson (1986) 推定関数の理論から見た母集団特性の推定 (難しい話をより難しく)

Godambe, V.P, & Thompson, M.E. (1986) Parameters of Superpopulation and Survey Population: Their Relationships and Estimation. International Statistical Review, 53(2), 127-138.

 調査データの分析について調べていると、母平均のHajek推定量 (標本の個々の値をその個体の標本包含確率の逆数で重みづけて平均した量)は母平均のデザイン不偏推定量ではないけれど、実はある種のモデルのもとでモデル不偏推定量なのだ… という話がでてきて、そこでこの論文がよく引用されている。
 第一著者のGodambeさんという人は推定方程式アプローチの理論で有名な人らしい。第二著者はHorvitz-Thompson推定量のThompsonとは別人の模様。
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読了: 柳本(1995) 推定方程式に基づく推定

 読んだものはなんでも記録しておこう、ということで…

柳本武美(1995) 推定方程式に基づく推定: 最尤法とモーメント法から. 応用統計学, 24(1), 1-12.

 別の論文に挑戦しようとして(メモしておくとGodambe & Thompson(1986)、有限母集団特性のモデルベース推定の話)、到底歯が立たず、せめてもの手がかりにならないかと思ってめくった。
 正直、これも難しくてよくわからんかった… 悲しい…
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読了: Dorfman & Valliant (1997) Hajek推定量再訪

Dorfman, A.H., Valliant, R. (1997) The Hajek Estimator Revisited. Proceedings of the Section on Survey Methods Research, American Statistical Association.

 標本ウェイティングについて調べ物をしていると、googleの検索結果にはいつもこれが上位に挙がってくる。内容は難しそうだし、そもそも論文ではないし、毎回「これはちがうだろう」と避けていたのだが、あまりによく見かけるので、これもなにかの勉強だろうと思い、メモをとりながら読んでみた。正直、かなり早い段階で後悔しはじめたのだが…
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読了: Delovoye & Savje (2020) Horvitz-Thompson推定量の一致性

 標本抽出について調べていると、値を抽出確率の逆数で重みづけて合計して母集団サイズで割ると(Horvitz-Thompson推定量)、それは母平均の不偏推定値だよ、いっぽう母集団サイズじゃなくて重みの和で割ると(Hajek統計量)、それは不偏じゃない、でも一致推定量だよ、なんていう話が出てくる。で、不偏性の証明は出てくるけど、一致性の証明は出てこない。おまえらユーザには理解できんだろうから省略するよ、というニュアンスがひしひしと伝わってくる。なんだかイライラする。いま文化大革命とか起きたら、私は紅衛兵となってキャンパスに突入し統計家を群衆のもとに引き出して自己批判を迫るかもしれない。(すいません冗談です)
 まあご配慮は正しいんだけどさ。推定量の漸近的挙動なんて途方に暮れるじゃないですか。聞かされても絶対理解できるわけないじゃないですか。でもちょっと覗き見したいんですよね。背伸びして大人の世界に触れてみたい、というか。(いいおっさんが… 我ながらキモイ)

Delovoye, A., Savje, F. (2020) Consistency of the Horvitz-Thompson estimator under general sampling and experimental design. Journal of Statistical Planning and Inference, 207, 190-197.

 そんなこんなで、本文が短いので読んでみた。HT推定量の一致性の一般的条件を示すのだそうです。Google様いわく、被引用件数11件。
 さあ、怖いものみたさでゴー!
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読了: Tille & Wilhelm (2017) 標本抽出デザインの良し悪しを決める三つの原理

Tille, Y., Wilhelm, M. (2017) Probability Sampling Designs: Princeples for Choice of Design and Balancing. Statistical Science, 32(2), 176-189

 Statistical Science誌の2017年の調査特集号に掲載された論文を全部読んじゃおうプロジェクト、その第4弾。この論文は標本抽出デザインの選択という話で、いまの私の関心からちょっと外れているので、メモは粗めである。
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読了: Skinner & Wakefield (2017) 標本抽出デザインと調査データ分析:イントロダクション

 仕事の都合で、調査データのウェイティングという複雑怪奇な問題について考える羽目になることがあるのだけれど、なにか役にたつ資料はないものかと探していると、Statistical Scienceの2017年の調査特集号に突き当たることが多い。去年目を通した Elliot & Valliant(2017)、先日読んだBreidt & Opsomer(2017)もこの号に掲載された論文だった。
 四の五の言わず、この号に載った9本の論文(残り7本)に片っ端から目を通しちゃえばいいのではないか、と思って、とりあえず(おそらくは編者によるのであろう)イントロをパラパラめくり始めたら、これが意外に面白く、かつ難しく… 結局、最初からメモを取りながら読み直すことになった。

Skinner, C., Wakefield, J. (2017) Introduction to the Design and Analysis of Complex Survey Data. Statistical Science, 32(2), 165-175.
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読了: Breidt & Opsomer (2017) 調査データ分析の第三の道、モデル・アシステッド・アプローチ (後編)

前々回前回に引き続き、

Breidt, F.J., Opsomer, J.D. (2017) Model-assisted survey estimation with modern prediction techniques. Statistical Science, 32(2), 190-205.

のメモ、最終回。いよいよ面白い話になってくる。GREG推定でいうところの「作業モデル」を機械学習で組んじゃうのだ。
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読了: Breidt & Opsomer (2017) 調査データ分析の第三の道、モデル・アシステッド・アプローチ (中編)

前回に引き続き、

Breidt, F.J., Opsomer, J.D. (2017) Model-assisted survey estimation with modern prediction techniques. Statistical Science, 32(2), 190-205.

のメモ、その第二回。いよいよ、著者の云うところのモデル・アシステッド推定とはなんなのかが明らかになる。話の先取りになるけど、要するにGREG推定量のことなのだ。ナアンダというなかれ、俺はこういう風に考えたことなかったよ。
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読了: Breidt & Opsomer (2017) 調査データ分析の第三の道、モデル・アシステッド・アプローチ (前編)

Breidt, F.J., Opsomer, J.D. (2017) Model-assisted survey estimation with modern prediction techniques. Statistical Science, 32(2), 190-205.

 標本ウェイトつき調査データの分析方法について調べていて(ときどき仕事の都合でそういうニーズに突き動かされる)、たまたまめくった奴なんだけど、意外や意外、とても面白くて、最後まで目を通すことなく、途中で冒頭に戻ってメモを取り始めた。しかも講演口調で。
 実はいまもって読み終えてないんだけど(記事題名に読了とあるのは現時点で偽りである)、これ、もっと早く読んでおけばよかった… そうすれば先日のToth & Eltinge (2011)ももう少しは理解できていたかもしれない。

 長くなりそうなので数回に分ける。まずは全9章のうち1-3章のメモ。
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読了: Toth & Eltinge (2011) ウェイトつきの調査データでつくった回帰木が一致性を持つ条件

Toth, D., Eltinge, J. (2011) Building consistent regression trees from complex sample data. Journal of the American Statistical Association, 106(409), 1626-1636.

 仕事の都合で標本ウェイトつきのデータを使って分類木モデルをつくりたくなり、あれこれ調べていて見つけた論文。
 少なくともタイトルは知りたいことにぴったりだし、第一著者はサーベイデータに特化した分割木・森モデリングのRパッケージrpmsの中の人だし、これを読めば道が開けるかな、と思ったのが運の尽き… いやあ、えらい目にあった。
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読了: Yao, Lo, & Graubard (2014) ウェイトつき調査データからAUCを求めるには

Yao, W., Li, Z., Graubard, B.I. (2014) Estimation of ROC curve with complex survey data. Statistics in Medicine, 34(8), 1293-1303.

 仕事の都合で読んだやつ。複雑な標本抽出デザインのデータからROC下面積(AUC)とその分散を推定するにはどうしたらいいか、という論文である。
 うーん、マニアックな話だなあ。夢もへったくれもないなあ。俺もChatGPTのマーケティング活用だとかそういうの語りたいのに。なんかこう、カメラの前でろくろとか回したいのに…
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読了: Downes& Carlin (2020) Mr.P (マルチレベル回帰・層化)ってやっぱり良いの? はい、良いみたいです

 代表性のない標本調査に基づいて母集団特性をうまいこと推測する、という話題のひとつに、Mr.P ことMRP(マルチレベル層化・回帰)というのがある。選挙予測で注目を集めた手法で(たしかYouGovがジョンソン勝利を当てたときに使ったんですよね)、私は面白がってGelman先生たちのarXivの論文のメモをとったりしてたんだけど、国内でもあれよあれよという間に有名になり、周囲から「MRPって知ってます?」と訊かれ、学会発表やそのへんの調査結果リリースでも見かけるようになり、なんと日本の伝統的大手メディアの方まで採用を検討しはじめ、ついには「MRPってできますか」と問い合わせが来たりするようになった。さすがにここまで来ると、個人的な熱は冷めてしまう。

 このたびちょっと思い立って検索してみたら、もはや心理学などの隣接諸分野で啓蒙論文が出るレベルにまで普及したようだ。2020年以降の論文は件数が少なく、とっくにハイプ・カーブの峠を越えたという感じである。
 そのなかから試しに一本読んでみた。疫学分野での手法検証研究である。
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読了: Wang, Yue, Faraway (2023) INLAで学ぶ時系列モデリング (モデル編)

 ここしばらく、時系列モデリングの解説書を頼りに、INLA(積分段階的ラプラス近似)の理屈を理解しようと試みていた。目当ての2章は読み終えたので、この本はこれでおしまいにするつもりにするつもりだったのだが、なんとなく3章も目を通してしまった。

Wang, X., Yue, Y.R., Faraway, J. (2023) Dynamic Time Series Models using R-INLA: An Applied Perspective. Chapter 3. Details of R-INLA for Time Series.

せっかくなので、各節のごくごく概要についてメモしておく。ちなみに本章は長いのだが、チャートが多く、実質的な内容はみかけほど多くない。
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読了: Wang, Yue, Faraway (2023) INLAで学ぶ時系列モデリング (概論編)

 前回に引き続き、時系列モデルについてのINLA(積分段階的ラプラス近似)の解説書。全14章だが、第1,2章だけはメモしながら読むことにした。いよいよ第2章。

Wang, X., Yue, Y.R., Faraway, J. (2023) Dynamic Time Series Models using R-INLA: An Applied Perspective. Chapter 2. A Review of INLA.
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読了: Wang, Yue, Faraway (2023) INLAで学ぶ時系列モデリング(準備編)

Wang, X., Yue, Y.R., Faraway, J. (2023) Dynamic Time Series Models using R-INLA: An Applied Perspective. Chapter 1. Bayesian Analysis.

 長く個人的懸案のひとつであったINLA(積分段階的ラプラス近似)について学ぶべく、このたびRue, Martino, Chopin(2019)にチャレンジし、学力不足により涙を飲んで撤退した次第だが、いきなり原典における一般的記述を読もうとしたのがいかんかったよな、というのが反省点であった。気を取り直し、今度は領域を絞った解説書をあたってみた。
 R-INLAについての解説本のうち、特に時系列モデルについての本。本の評判については知らないが、なんだかわかりやすそうだし、きちんとした感じだし、なにより全文が公開されている。ありがたい。
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読了: Laken, Scheel, Isager (2018) 諸君、もっと等価性検定をやれ

Lakens, D., Scheel, A.M., Isager, P.M. (2018) Equivalence Testing for Psychological Research: A Tutorial. Advances in Methods and Practices in Psychological Science. 1(2), 259-269.

 仕事の都合でごくたまに等価性検定の話が出てくることがある。消費財のマーケティングリサーチでは、たとえば原材料や製法をコスト削減しても製品知覚は変わんないことを確認したい、というような場面が典型的である。今回もちょっと似たような用事があって、話のついでにめくってみた。ときどき読まないと忘れてしまう。
 等価性検定や非劣性検定の話をマジメに勉強するならば、それはもう医学統計の教科書をあたるべきなんだけど、今回は心理学者向けの易しい啓蒙論文。週末の気分転換だからね、と自分に言い訳して…
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読了: Rue, Martino, Chopin (2009) INLAを使って楽しい楽しい潜在ガウシアン・モデル (後編)

 前回に引き続き、以下の論文のメモ。

Rue, H., Martino, s., Chopin, N. (2009) Approximate Bayesian Inference for Latent Gaussian Models by Using Integrated Nested Laplace Approximations. Journal of Royal Statistical Society, B. 71(2), 319-392.

 どうやら私の能力を超えている… 辛い…
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