読了:Acemoglu, et al. (2020) コロナ禍の下でのロックダウン政策をマルチリスクSIRモデルに基づき最適化する(お年寄りだけ厳しくロックダウンするのがよい)

Acemoglu, D., Chernozhukov, V, Werning, I., Whinston, M.D. (2020) A Multi-risk SIR model with optimally targeted lockdown. Working Paper 27012, National Bureau of Economic Research.

 なんかいろいろ考えちゃったら眠れなくなり、仕方がないので明け方まで、SNSでみかけた仕事と関係ない論文を読んでいた。NBER(全米経済研究所)のワーキングペーパーで、日付はMay 2020になっているから、著者の誰かが「書いたぜ」と宣伝したのが拡散したのであろう。
 Multi-Risk SIRモデルというから、感染症の数理モデルの古典であるSIRモデルに、生存時間分析でいうところの競合リスクをいれるのかな? 新型コロナと経済自殺が競合するとか? と思ったんだけど(暗い発想だ)、そうではなくて、一言でいうとリスクと接触性に異質性をいれるという話だった。先日読んだ西浦・稲葉(2006)にmultitype epidemicモデルという言葉が出てきたけど、これもそのひとつかしらん?
 さらに、モデルを当てはめるだけでなくて政策的介入(ロックダウン)の最適解を求めるぜという主旨。なるほど、経済学者だろうしね…と思って著者の名前をよくみたら、筆頭のアセモグルって前に読んだ「国家はなぜ衰退するのか」の著者だ。たぶん有名な経済学者だと思う。へー。

1. イントロダクション
 パンデミックの理解と制御のために使われているのは古典的なSIRモデルなんだけど、最近ではこれに経済的なトレードオフをいれて政策分析に使おうという研究がある。
 政策分析のためにはSIRモデルの3つの想定を緩和する必要がある。

  1. 下位集団のあいだでリスクが異なるはず。また下位集団間の相互作用もいろいろであるはず。
  2. SIRモデルにおける「マッチング・テクノロジー」では、2群間のマッチ数は2群のサイズの積となる。地理的な文脈でいえばこれは相互作用の良い近似になっているけれど、たとえば職場での相互作用なんかを考えると接触はかならずしもランダムでないので、別の形式のマッチング・テクノロジーを考えることが重要。
  3. 接触と感染のパラメータを外生と捉えるのではなくて、経済的・社会的調整の結果として捉えるべき。

 本研究では1と2に焦点をあて、SRIモデルの多重リスク版をご提案します。でもって最適政策の定量分析をやります。
 人口を若年層(20-44), 中年層(45-65), 高年層(65-)に分ける。群間の相互作用はロックダウン政策で決まるとし、このたびのCOVID-19パンデミックに照らしてパラメータを設定したところ、感染率を下げるためのロックダウン政策は、それが一様な政策であれば長期間になり、それでも死者は人口の1.83%に達しGDP減少は23.4%に達する模様。いっぽう政策をターゲティングすればどっちも改善される。高年層だけ厳密にロックダウンするという政策であってもほぼ同じ。
 もっとも、COVID-19のパラメータには不確実な部分が大きいし、最適政策はパラメータに敏感だから、うのみにはしてほしくないけど。
 [本編の予告編があと5パラグラフ、先行研究との差異が1パラグラフ。メモ省略]

2. MR-SIRモデル
 連続時間 \( t \in [0, \infty) \)について考えます。個人をリスク群 \( j=1,\ldots,J \)に分けます。各群のサイズを \( N_j \), その合計を1とします。
 任意の時点において、群 \(j\) の個人はS(疑い)、I(感染)、R(回復)、D(死亡)のどれかだとし、サイズを\( S_j(t), I_j(t), R_j(t), D_j(t) \)と書く[E(曝露済)は考えないわけね]。その合計は \( N_j \)である。\( S(t) = \{ S_j(t) \}_j \)と略記する。

 ここで介入なしの場合の発展方程式について。標準的モデルなら新感染者は \( \beta S I \) だが、ここでは群 \(j\)の新感染者を以下とする: $$ S_j \frac{ \sum_k \beta_{jk} I_k}{ (\sum_k \beta_{jk}(S_k+I_k+R_k))^{2-\alpha}} $$ ただし\(\alpha \in [1,2]\)はマッチングをスケーリングするパラメータ。\(\alpha=2\)なら標準的SIRモデルと一致する。
 [ちょ、ちょっと待って…
 \(\alpha=2\)の場合はわかるよ? 群\(j\)の新感染者は $$ S_j \sum_k \beta_{jk} I_k $$ つまり各群\(k\)からの感染者\(S_j \beta_{jk} I_k\)の和だ。
 いっぽう\(\alpha=1\)の場合は… $$ S_j \frac{ \sum_k \beta_{jk} I_k}{ (\sum_k \beta_{jk}(S_k+I_k+R_k))} = S_j \sum_k \beta_{jk} \frac{I_k}{S_k+I_k+R_l}$$ だから、新感染者数を決めるのは各群の感染者数\(I_k\)じゃなくて、各群の生存者に占める感染者の割合\( I_k / (S_k + I_k + R_k) \) なのだ、ってことになるね。たとえば「ある人がある群の人に単位時間あたりに接する人数は決まっているから、その群の感染者数じゃなくて感染率のほうが問題だ」というような場合がそうだろう]

2.1 モデルの諸想定

感染, ICU, 死亡, 回復
 感染者はなんらか特別な医療処置を受けるかもしれないし受けないかもしれない。医療処置をひっくるめてICUと呼ぶことにする。話を簡単にするために、ICUの必要性は感染後すぐにわかることにし、その割合を\(\iota_j\)とする。

 ICU患者の回復はPoisson arrival \( \delta^r_j \), 非ICU患者の回復をPoisson arrival \( \gamma_j \)とする。[なにいってんの?と悩んだが、ポアソン過程のことをPoisson arrivalっていうんですね、知らなかった。待ち行列をイメージした言い回しなのかしらん。まあとにかく、患者の回復や死亡はいつ入院したかとかに関わらずランダムに起きる、単位時間あたり回復率は\(\delta^r_j, \gamma_j\)だ、ってことであろう]
 死ぬのはICU患者だけで、Poisson arrival \(\delta^d_j(t)\)とする。$$ \gamma_j = \delta^d_j(t) + \delta^r_j(t)$$と仮定する。[あれれれ? 単位時間に罹患から脱する確率は非ICU患者でもICU患者でも同じで、ICU患者の死亡確率 \(\delta^d_j(t)\)と回復確率 \(\delta^r_j(t)\)の両方が時間依存になっている。病床数が足りなくなってきても平均入院期間は変わらず、治って出て行くか死んで出て行くかの比率だけが変わる、というイメージだろうか]

 ICUに入れるべき人数を\(H_j(t) = \iota_j I_j(t)\)とする。ICUのニーズを\(H(t) = \sum_j H_j(t)\)とする。ICU患者の死亡確率をICUニーズの非減少関数と捉えて$$ \delta^d_j(t) = \psi_j(H(t))$$とする。[うわあ…ICUの病床数は増やせないってことね。ここでICU患者といっているのは、ICUに入れた患者というより、ICUに入れなきゃいけないレベルの重症患者と捉えたほうがよさそうだ]

検出: 感染と免疫
 感染を検出され隔離される確率を、非ICU患者について\(\tau_j\)、ICU患者について\(\phi_j\)とする。
 回復した人は免疫を持つと仮定する[ほんとにそうだといいんですけどね…]。回復した人は回復直後にロックダウン解除されるんだけど、検査は不完全で、回復者のうち一部しか解除されない。その割合を\(\kappa_j\)とする(残りの人は未感染ないし罹患中とみなされる)。

ロックダウンとソーシャルディスタンシング
 話を簡単にするために、ソーシャルディスタンシングだろうがなんだろうがひっくるめてロックダウンと呼ぶ。
 労働者による生産を\(w_j\)とし、ロックダウン下で0とする。労働から引き離された労働者の割合を\(L_j(t)\)とする(完全なロックダウンでは1となる)。\(L_j(t) \leq \bar{L}_j \leq 1\)とする。
 労働から引き離されても社会的相互作用は残る。これを\(1 – \theta_j L_j(t)\)とする(\(\theta_j \leq 1\))。[なるほど。ロックダウンによる生産減少より相互作用減少のほうが小さいわけね]

死のコスト (生の価値)
死の感情的コストを\( \chi_j \)とする。

治療とワクチン
ワクチンと治療が時点\(T\)に利用可能になると仮定する。\(T\)より前に予定がわかったりはしない。

2.2 ダイナミクス
 \(t \in [0, T)\)における時間発展について。
 まず感染者は…[左辺は\(dI_j/dt\)という意味であろう]: $$\dot{I}_j = M_t(S,I,R,L)(1-\theta_jL_j) S_j \sum_k \beta_{jk}(1-\theta_k L_k)I_k – \gamma_i I_j$$ [はいはいストップ! 落ち着いて考えよう。
 もっとも単純には 新感染者数は \(\beta SI\)だ。ここに群をいれて \(S_j \sum_k \beta_{jk} I_k\)。さらにロックダウンの効果をいれて\( (1-\theta_jL_j) S_j \sum_k \beta_{jk} (1-\theta_k L_k)I_k\)。これを\(M_j\)でスケーリングする。感染者数の増分は、ここから退出者\(\gamma_j I_j\)を差し引いた値になる、ってことね]
 ただし $$ M_j(S,I,R,L) \equiv (\sum_k \beta_{jk}[(S_k+\eta_k I_k + (1-\kappa_k)R_k)(1-\theta_j L_k) + \kappa_k R_k])^{\alpha-2}$$ $$\eta_k = 1-\iota_k \phi_k – (1-\iota_k) \tau_k$$ [くそう性格悪いな、しれっと\(\alpha-2\)乗になっている点に注意。つまり\(2-\alpha\)乗した値で割るってことだ。\(\alpha=1\) について考えよう。感染者数より感染率が問題なので新感染者数を\(\sum_k \beta_jk(S_k+I_k+R_k)\)で割って調整したい、しかしロックダウンから解放された人\( \kappa_k R_k \)以外の人数にはロックダウン\( (1-\theta_k L_k) \)を掛けたい、さらに感染者には非隔離率\(\eta_k\)を掛けたい、という主旨だと思う。この理解が正しいなら、\(\theta_j\)は\(\theta_k\)の誤記であろう]
 接触係数は$$ \beta_{jk} = \rho_{jk}(1-\iota_k \phi_k – (1-\iota_k)\tau_k)$$ ただし\(\rho_{jk} \geq 0\)。[群\(k\)から\(j\)への感染のしやすさは、検査・隔離がなかったときの係数\(\rho_{jk}\)と、感染者の非隔離率との積だってことね]
 他の状態については以下の通り:$$ \dot{S}_j = -\dot{I}_j – \gamma_j I_j$$ $$\dot{D}_j = \delta^d_j(H) H_j$$ $$\dot{R} = \delta^r_j H_j – \gamma_j(I_j – H_j)$$

 \(t\leq T\)ではがらっとかわって、$$I(t)=0$$ $$R(t) = S(T_-)+R(T_-)$$ $$D(t) = D(T_-)$$となる。[哀しいかな学力不足で、\(T_-\)という記号の意味がわからない… なんかしらんが\(S(T_-), R(T_-), D(T_-)\)という時間非依存な定数になってもう動かないってこと?]

 なお、雇用は以下となる: $$E_j(t) = (1-L_j(t)) (S_j(t) + (1-\iota_j \phi_k – (1-\iota_j)\tau_j) I_k(t) + (1-\kappa_j)R_j(t)) + \kappa_j R_j(t)$$

累積した結果
 仮に群を問わず\( \beta_{jk} = \beta, \gamma_j = \gamma, L_j(t) = L(t) \)としよう。さらに初期値\( S_j(0)/N_j, I_k(0)/N_j, R_j(0)/N_j \)も群間で等しいとしよう。このとき感染者数は単群のSIRモデルと等しくなる。

[話がややこしいので、ここまでに出てきた記号を整理しておく。

  • \( T \): ワクチン・治療法開発時点
  • \( J \): 群の数
  • \( N_j \): 群のサイズ。群間での和は1
  • \( S_j(t), I_j(t), R_j(t), D_j(t) \): 群\(j\), 時点\(t\)における、{未感染者、感染者、回復者、死亡者}の人数。群内での和は\( N_j \)
  • \( \beta_{jk} \): 群\(k\)から群\(j\)への感染率
  • \( \rho_{jk} \): 群\(k\)から群\(j\)への、感染者が隔離されていない場合の感染率
  • \( \alpha (\in [1,2]) \): 感染元のスケーリングパラメータ。2なら標準的SIRモデルとなる
  • \( \iota_j \): 感染者に占めるICU患者率
  • \( \gamma_j \): 非ICU患者の時間あたり回復率
  • \( \delta^r_j(t), \delta^d_j(t) \): ICU患者の時間あたり{回復率, 死亡率}。和は常に \( \gamma_j \)。後者は\( \sum_j \iota_j I_j(t) \)の非減少関数
  • \( \tau_j, \phi_j \): {非ICU患者, ICU患者}の隔離率
  • \( \kappa_j \): 真の感染者数を分母とした回復者検出率
  • \( L_j(t) \): ロックダウン率。その上限を\( \bar{L}_j \leq 1 \)とする
  • \( \theta_j (\leq 1) \): ロックダウンが社会的相互作用を減少させる効果
  • \( w_j \): 生産

って感じですかね。後述するように、\(w_j\)はもしかすると労働者ひとりあたり生産かも]

2.3 計画する問題
 計画者は\(t \in [0, T)\)において\( \{L_j(t)\}_j \)をコントロールできるとしよう。
 以下では目的関数について考える。

ワクチン到着が決定論的な場合
社会的コストの現在価値の期待値は$$ \int_0^\infty \exp(-rt) \sum_j (w_j(N_j-E_j(t)) + \chi_j \delta^d_j(t) \iota_j I_j(t)) dt$$ [総和記号の内側の第1項 \( w_j(N_j-E_j(t)) \) はロックダウンによる生産の損失。第2項は死亡者数\( \delta^d_j(t) \iota_j I_j(t) \) に伴う感情的コスト。その群間の総和を時間割引しながら積分するってことか。これってパンデミックが始まる前の見積もりってことでしょうね。
 細かいことだけど、\( w_j(N_j-E_j(t)) \)というのがよくわからない。\( w_j \frac{N_j – E_j(t)}{N_j} \)ってんならわかるんだけど。ひょっとして\(w_j\)ってひとりあたり生産なのかしらん]

ワクチン到着が確率的な場合 [原文に誤植があるような気がするのでメモは省略するけど、比較的に簡単な話だと思う]

ワクチン発明の限界効用 [ここはなんだか難しいし、本筋と関係ないと思うのでパス]

3. 単純な特徴づけとカリブレーション
[以下ではパラメータの値を仮決めする。あとで動かす部分もある]

  • 群をy(20-44), m(45-65), o(65-)とする。
  • 人口\(N_y, N_m, N_o\)を2019年BLS人口に従い0.53, 0.26, 0.21とする。[BLS人口って米労働統計局(BLS)のCurrent Population Surveyのことだろうか]
  • 年寄りは引退してるだろうから\(w_o = 0\)とし、他の層は\(w_y = w_m = 1\)ってことにする。
  • 一様政策では\( \bar{L} = 0.7 \), ターゲットありの政策では\( \bar{L}_y = \bar{L}_m = 0.7, \bar{L}_o = 1 \)とする。
  • とりあえず、検査はないものし( \( \phi_j = \tau_j = 0 \) ), 回復は完全に識別できるとする( \( \kappa_j = 1\) )。
  • COVID-19を参考にして、感染者は平均18日で回復するか死亡するかするとし、\( \gamma = 1/18 \)とする。[そこに年代差はないってことね。これって実際のコロナ肺炎でもそうなのかしらん]
  • \(\rho_{ij}\)について。同群間では\(\bar{\beta}\), 異なる群間では\(\bar{\beta} \rho\)とする。COVID-19の\(R_0\)(つまり\(\bar{\beta} / \gamma \)に相当)を参考に、\( \bar{\beta} = 0.2 \)とする。\( \rho \) はとりあえず1にする。
  • 感染者の日次死亡率について[原文では\(\delta\)に下線がついているんだけど、latexでの書き方がわかんないので\(d\)と書く]。韓国を参考に\( d^d_y = 0.001/(1/18) \), \( d^d_m = 0.01/(1/18) \)とする。ダイヤモンドプリンセス号を参考に\( d^d_o = 0.06/(1/18) \)とする。
  • ICUの容量制約の影響を受けた死亡率\( \delta^d_j(t) \)について。\( \iota_j = \sigma d^d_j \)とすると[ICUの必要性は元の死亡率で決まるってことね]、ICUニーズは\( H(t) = \sigma \sum_k d^d_j I_k(t) \)である。死亡率はこの関数になると考えて$$ \delta^d_j(t) = d^d \times [1+\lambda(H(t))] = d^d_j \times [1+ \hat{\lambda} \sum_k d^d_k I_k(t) ] $$ ただし\(\hat{\lambda} = \lambda \sigma \)とする。ICUが足りなくなったときに何が起きるのかはわからないが、人口に感染率が30%のときの死亡率はベース死亡率の5倍になると仮定して、そうなるように\(\hat{\lambda}\)を定める。
  • 死のコストについて。全コストを\(\hat{\chi}_j = w_j/r + \chi_j\)とする。第1項は無限の職業生活を表す。で、\(\chi_j = \chi – (w_j / r) \exp(-r \Delta_j) \)とし、\(\Delta_y = 15 \times 365\), \(\Delta_m = 7.5 \times 365\)とする。[うーん、ここよくわかんないや… まあいいや、ひとりの死のコストを、その人の生産に依存するが年齢には依存しない部分\(w_j/r\)と、生産にも年齢にも依存する部分\( (w_j / r) \exp(-r \Delta_j) \) と、生産にも年齢にも依存しない部分\(\chi\)に分けたんだろうな、ということで先に進もう]
  • 一年半後にワクチンが到着するとし、\(T = 548\)とする。
  • 日次の利率を\(r = .01/365\)とする。

[ああそういうことかー! 頭が悪いもんで、ここまで読んでようやく話の筋が腑に落ちたよ… SIRモデルをいろいろと拡張し、パンデミックの社会的コストを定義して、所与のパラメータの下でコストを最小化するように介入の時系列\(L_j(t)\)を定めるんだけど、与えたパラメータはどこまでリアルかわかんないから、\(L_j(t)\)の個々の最適解そのものにはたいしたインプリがない。でも、パラメータをいろいろ変えて試してみた結果、少なくとも高年層の\(L_j(t)\)は他の群のと変えた方がよさそうだよ、って話なのね。なるほどーーー。要は高年層は働いてなくて死にやすいんだからなおのこと外出させないほうがいいってことだと思うけど、それを定量的に示そうとしているわけだ。いやあ面白いなあ、経済学者の考えることって… ]

4. 最適政策
4.1 ベースラインの結果
 ベースラインとして、\( \theta = 0.75, \alpha = 2, \rho = 1, \chi = 20 \)の下での最適なロックダウン政策を求めた。
 一様政策の場合、ロックダウン完全解除は434日目。死者数も経済的損失も大きい。
 高年層だけロックダウン率を変えて良いならば(セミ・ターゲテッド政策)、最適解は「高年層はずっとロックダウン率1、若年層・中年層はロックダウン率ちょっと低め」となり、死者数も経済的損失も激減する。
 層別にロックダウン率を変えて良いならば(ターゲテッド政策)、最適解は若年層のロックダウン率を低く、中年層のロックダウン率を高めにしたものになる。結果はセミ・ターゲテッド政策とたいしてかわらない。

 横軸に死者、縦軸に経済的損失をとり、\(\chi\)を動かして軌跡を描くと[こういうのをfrontierというらしい。なんて訳すんだろう]、下に凸な曲線になる。セミ・ターゲテッド政策とターゲテッド政策はほぼ重なり、一様政策はその右上になる(死者も経済的損失も大きい]。\(\chi\)を相当大きくしても(つまり経済を軽く人命を重くしても)、この差はあまり変わらない。

4.2 グループ・ディスタンシングの役割
 ベースラインに戻し、今度は\( \rho = 0.5\)とする。\(\rho\)を下げるというのは、たとえば高年齢層だけがスーパーにいける時間を決めるとか、高齢の親戚の家に行くのはやめましょうキャンペーンとかに相当する。
 結果。やっぱし(セミ)ターゲテッド政策がよろしい。\(\chi\)を動かして軌跡を描いても同じ。

4.3 マッチング・テクノロジーの役割
 \(\alpha = 2\) というのはちょっと現実的でないし、もしそうなら集団免疫なんて期待できない。ベースラインに戻し、今度は\( \alpha = 1\)としてみる。今度はロックダウンはもっと短くなる。やっぱし(セミ)ターゲテッド政策がよろしい。\(\chi\)を動かして軌跡を描いても同じ。

4.4 ワクチンの期待
 ベースラインに戻し、\(T = 365\)にしてみる。一様政策の場合、ワクチンが届くまでひたすらロックダウンを続けるのが最適になる。ところが(セミ)ターゲテッド政策ではそうでない。\(\chi\)を動かして軌跡を描いても同じ。

4.5 テストと追跡の効果
 ベースラインに戻し、感染者の検出・隔離率\( \phi_j = \tau_j \)を0.4ないし0.6にしてみる。[…中略…] やっぱし(セミ)ターゲテッド政策がよろしい。
 さらに\( \rho = 0.5\)としてみると、もう若年層はロックダウンしなくてよいということになる。

4.6 その他の頑健性の検討
[\(\theta, T, \rho_o, \theta_o, d^d_o, w_o\), 初期条件を動かしている。疲れたので読み飛ばした]

5. 結論
 [結果のまとめ。メモ省略]
 本研究で扱えなかった課題: ロックダウン政策をどう実現するか。こうした「メカニズム・デザイン」の側面は今後の課題である。本研究からは、高年層だけ厳しくロックダウンすれば良いということがわかった。これは一種の「保護拘置」として理解を得やすいだろう。
 繰り返しになるけど、モデルの多くの側面はhighly stylizedだし(回復者は免疫を持つとか)、COVID-19のパラメータはまだ不確実なので、この研究の定量的結果はあくまで例示と捉え、むしろ定性的パターンをみてほしい。
 云々。

 … 眠れないので仕方なく読み始めた論文なんだけど、(素人が無責任に読んでいる分には)とても面白かった。てっきりSIRモデルの拡張が売りなのかと思ったんだけど、それはただの手段で、本命はロックダウン政策のシミュレーションなのであった。途中から、へえええ、ふううん、と面白がりつつ読了。
 しっかし… これって、下位集団別の最適なロックダウン政策はどうなるかという話であって、それはそれで納得できるんだけど、個々の市民からみた素朴なlegitimacyという観点からいうと、なにかい? 働いてる奴は経済を維持するため命の危険を冒して外に出て働け、働いてない奴はずっと家にいろってことかい? じゃあ働いてる奴に補償金だせよ! 生活保護費は減らせ!などという、なんだかよくわからない話になりそう…

 ど素人なのでどうでもいい感想しか浮かばないけど、この研究で最適化したいのは\(L_j(t)\)だから、少なくとも548×3個の値を求めないといけないんですよね。しかも目的関数も制約も複雑だし。数理計画ってからきし疎いんだけど、こういうのってそのへんのフリーのソルバーで解けちゃうもんなんでしょうか… それともCPLEXみたいな馬鹿高い奴が要るのでしょうか…