読了: Bradlow (2005) 僕のコンジョイント分析ウィッシュリスト (コメント・返答つき)

Bradlow, E.T. (2005) Current issues and a ‘wish list’ for conjoint analysis (with comments and rejoinder), Applied Stochastic Models in Business and Industry, 21, 319-333.

 朝から晩までコンジョイント分析のことを考える日々が続き、もう疲れた… 疲れたよ… と呟きながらぼんやりgoogle検索していて、たまたま拾ったpdf。全く聞いたこともない学術誌に載った、全く文脈がわからない、5頁の短い論文、というかエッセイである。

 えーと、掲載誌はInternational Society for Business and Industrial Statisticsなる学会が発行元。検索すると所属学会のひとつにこれをあげている日本の大学の先生もいるから、そんなにものすごく変な学会ではないかもしれない。Journal Citation Reportの番付では、掲載誌はStatistics & Probabilityで125誌中72位。
 著者についてもよく知らないけど、マーケティング・サイエンスの研究者じゃないかと思う… 読んでる最中に気がついたが、前にこの人を筆頭にして偉い人が名前を連ねた空間モデリングについての概説論文を読んだことがあった。

 全く文脈をつかまずに読んでたんだけど、気になって調べてみたら、この論文の掲載号は”Bridging the Gap between Academic Research in Marketing and Practitioner’s Concerns”という特集号であった。なるほどね、そういう主旨だったのか。
 載っているのは、

  • latent structure MDSでセグメンテーション(Wu & DeSarbo)
  • 本論文
  • 空間モデル(Bronnenberg)
  • 広告反応モデル(Vakratsas)
  • 価格決定支援(Montgomery)
  • 小売の棚管理(Campo & Gijsbrechts)
  • 販促効果推定(van Heerde)
  • スキャンデータで販促の長期効果推定(Dekimpe, Hanssens, Nijs, & Steenkamp)
  • MMM(Hanssens, Leeflang, Wittink)
  • インターネットによるマーケティングの変化(Dreze)
  • 質問行動効果(←なんと!!!)(Morwitz)
  • NPDと顧客ベース分析(Fader & Hardie)

それぞれの論文にコメントと返答がついている。本論文にはLouviere(選択モデル研究の偉い人), Magidson & Vermunt (Latent Goldの開発者のVermuntさんだと思う), Orme(ご存じSawtoothのCEO), Swait (おっと、「ブランドエクイティはシグナリングだ」説のErdem & SwaitのSwaitだ…)がコメントを寄せている。錚々たるメンバーじゃないですか。これは面白そう、読んでみよう。

追記: というわけで、コメントと返答も読んでみました。せっかくなので、本文を読んだときのメモと合成して、会話形式のメモにしてみた。

—–
Bradlow: コンジョイント分析っていいよね[←大意]。みんなよく使ってるよね。でも僕にはちょっとしたウィッシュ・リストがあるんだよね。ほら、僕は行動の背後にある心的過程に関心があるほうだから、こういうことが気になっちゃうんだけどさ、でも実務家のひとたちにとっても大なり小なり気になる話なんじゃないかな。みんなもこれに取り組んでくれるといいな。

1. Within-task learning/variation.

Bradlow: ふつう部分効用は時変しないと考えるが、課題内での変化に注目するのはどうだろうか。実務的観点から言うと、カテゴリ経験の蓄積に伴う選好形成についての含意を持つだろう。

Louviere: 誤差分散と試行順との関係をみればいいんじゃないですか?

Magidson & Vermunt: まずは選好の異質性をモデルに取り込むことが大事で、時変はその次の問題でしょう。潜在クラスモデルの観点からいうと、オケージョンごとに潜在クラスがあってそれらが自己相関を持っているモデルを組むのはどうですか(隠れマルコフモデル)。あるいはマルチレベルモデルとか。

Orme: 前にいろんな選択型コンジョイント分析のソフトを比較する実験をやったんだけど(Johnson & Orme, 1996 ART Forum)、最初の数試行ではブランドへの注意が高かったんだよね。ブランドってのは価格とか品質とかとおおまかに相関しているから、買い手はまずはブランドをみるんだけど、数試行経験するうちに属性が直交していることに気づき、行動を調整するんだと思う。
 Bradlowさんは試行ないし時間に伴う選好変動という問題に焦点を当てているけれど、単一のコンジョイント分析では捉えきれない問題だろう。対象者は製品をほんとに使用するわけでないから。

2. Embedded prices.

Bradlow: 現実場面では、価格と他の属性の水準との関係が明確で、属性そのものの中に価格が埋め込まれていることがある。たとえば a 8x CD-Rom drive が$200というように。こうした場合、効用の決定的要素は(潜在的には)単なる部分効用の和ではなく、水準、それと結びついた価格、そしてもしかすると属性の品質と価格の比、のなんらかの結合である。こういう製品は現実の市場に多いので、この領域の研究にはなんらか価値があるだろう。もっともこうした研究では属性間の相関(たとえばある属性と価格の相関)が必要になり、推定が難しくなるけれど。
[とても面白そうなことを述べているんだけど、いまいち意味がわからない。たとえば{ブランド, 価格, 容量}を属性にとったコンジョイント分析で、回答者が容量の各水準について内的参照価格を持っているような場面を指しているのだと思うけど(たしかにありますね、そういうこと)、それがどういう特別な問題を生むのか良く理解できない。非直交な実験計画が必要になるというのもよくわからないな…]

Louviere: 価格属性とは別に、属性の水準の横にその水準の価格を書けばいいんじゃないですか?

3. Massive number of attributes.

Bradlow: 属性が15~20, ないしもっとあるときにどうするか。現状では部分プロファイル法か、属性の重要性とか水準の望ましさなんかも訊くやりかたが使われている。でも、部分プロファイル法では

  • (a)非表示属性が表示属性と交互作用しない
  • (b)非表示属性の効果は選択時にキャンセルされる

という前提があるけれど、(b)を疑問視する研究もあるし(Bradlow, Hu, & Ho, 2004 JMR)、ある属性の部分効用が他の属性の有無によって変わるという指摘は昔からある(Louviere & Johnson, 1990J.Retailing; Johnson, 1987 ActaPsych.; Meyer, 1981 JCR)。

Louviere: いや、我々、20属性以上の選択実験も平気でやりますけど。なんでだめなんですか?
[ディスプレイの前で大受け。そうきたか…]

4. Non-compensatory decision rules.

Bradlow: コンジョイント分析が仮定している線形モデルは補償的意思決定を含意しているが、実際の意思決定はそうでないという研究がやまほどある。その点、Gilbridge & Allenby(2004 Mktg.Sci.)の非補償的選択モデルの研究は素晴らしいが、しかし交互作用付きの補償的モデルで非補償的選択をどこまで近似できるのかという問題が残っている。
[そうそう! 仰るとおりですね。複雑なモデルの話じゃなくて、単純なモデルでどこまでいけるのかを教えてほしい]

Louviere: 加法モデルが間違っているというのは仰るとおり。コンジョイント分析の結果からは意思決定プロセスはわからない。
[いや、Bradlowさんはそういう話をしてたんじゃないと思いますけどね…]

Magidson & Vermunt: 潜在クラスモデルで、事前に特定された決定ルールが適用される母集団の比率を推定できます。実装の鍵になるのは、その決定ルールによって、除外されるべき水準の組み合わせがうまく除外されるようにするということです。Latent GOLD Choice をお試し下さい。

5. True integration of profile conjoint data with other data source.

Bradlow: 回答者の他の変数との統合によってなにか良いことを起こせるかもしれない。部分効用についての直接の回答と組み合わせるというのはすでにあるけれど(Marshall & Bradlow, 2002 JASA)、購買データとか、もっと幅広いデータと組み合わせるのはどうだろう。

Louviere: おっしゃるとおり。これは統計学って言うより行動理論の問題ですね。

Magidson & Vermunt: 大事なご指摘ですね。最近ではいろんな選択課題をひとつの大きな潜在クラス選択モデルの一部として分析することができます。

Swait: ええと、データ・フュージョンの研究は盛んに行われていましてですね。Louviere, Hensher, Swait (2000, “Stated Choice Methods”), Adamowicz, Swait, Boxall & Louviere (1996 J.Env.Econ.Mngt), Swait & Andrews (2003 MktgSci)をみてください。

6. Experimental design: what can we learn from the education literature?

Bradlow: ACAとか多面体法のような実験計画は、教育測定でいう適応的テストと全く同じ問題に取り組んでいる。なのに教育とのクロスオーバー研究がない。
[ああ、やっぱりね… 私も不思議に思っていたのだ。IRTではクロスオーバー的な研究があると思うんだけど、適応型テストではみた記憶がない]

Louviere: 教育研究からなにが学べるのかよくわかりません。いわゆる適応的手法ってのは従属変数に基づいて処理を選ぶことです。従って選択バイアスを受けます。さらに、最適実験計画はたいていとても小さいので、わざわざ実験計画を適応的に作る必要はありません。
[おおお… Bradlowさんがいってるのは、たとえば選択型コンジョイント分析で個人効用を推定する際、部分効用の推定精度という観点からみた最適計画(d-最適計画)は対象者の部分効用の真値に依存するので、部分効用の個人差が大きいときは推定しながら計画を修正した方がよい、これは適応型テストで能力パラメータを推定しながらそれにあわせて項目を変えていくのと同じ話だ、ということだと思う。いっぽうLouviereさんがいっているのは、要するに、教育測定なんかと違ってパラメータ推定精度はもう十分高いんじゃない? むしろ誤差を含んだ少数の選択回答で推定したパラメータで実験計画を変えていく方が系統的バイアスを生むんじゃない? ということだと思う。結局、部分効用の個人差の大きさと回答誤差の大きさをどう見積もるかという点で意見が分かれているのではなかろうか]

Magidson & Vermunt: CATは人を「既存の」モデルでテストするのに便利な手続きです。教育測定でCATが使われているのは、人の潜在特性を決定するために最良の項目を予測するためで、そのために既知の潜在特性モデルとそれまでに集めた情報を用いるわけです。コンジョイント分析の場合で言うと、コンジョイントモデルで未知の異質性がうまく推定できて、それを使って「新しい」標本に同じ調査を行うとき、設問数を減らすためにCATの技法が使えるでしょう。
[うーん。VermuntさんたちがいってることもBradlowさんの主旨とはちょっとずれていると思う。たしかに、ある標本で部分効用/潜在特性の個人差をモデル化し、別の標本でそのモデルを使って適応的測定を行う、ということもできるけどさ。ある標本で、回答者が増えるごとに部分効用/潜在特性の個人差のモデルを更新しながら適応的測定を行う、ってことも出来ると思うんですよね。Bradlowさんが教育という言葉をざっくりと出しちゃったからこうなるんだろうな]

7. Getting the right attributes and levels.

Bradlow: 一番大事なのは属性水準表の設計なのに、ろくなガイダンスがない。

Louviere: ビジネス場面ではパイロット調査に時間や資源が割かれていないということではないでしょうか。ランダム効用理論の研究では実験によって行動を正確に予測できた例が多く見られます。つまりよい属性水準表を作れているわけです。

8. Mix and match: is that OK? A meta-analysis in the marketing.

Bradlow: 課題の形式をどう選ぶか。ひとつの主張は、予測したい現実の課題の形式を選べ(現実場面で人がn個から1個を選んでいるんならコンジョイント分析も課題もその形式にしろ)というものだが(Krieger, Green, & Umesh, 1998 DecisionSci.)、実証的証拠がない。願わくば、みんなで結果を共有してメタ分析できればいいのに。

Louviere: 選択実験の予測的妥当性を示した研究はもう蓄積されています。
[うーん、答えになっていないような気がする…]

9. People do not make one-off decision: product-bundle conjoint.

Bradlow: バンドル選択やバラエティ・シーキングにみるように、人は財の組み合わせについて考えている。コンジョイント分析のモデルを拡張できると良いだろう。

Louviere: おっしゃるとおり。モデルを拡張しなくても、実験と実市場データを組み合わせていけばいいんだと思いますけど。

(全般的コメント)

Louviere: 選択実験・選択モデルには未解決の深刻な問題がたくさんあります。Louviere(2001 JCR), Louviere et al.(2002 Mktg.Ltters)をみてください。こうした基本的な問題は、既存の実験・モデルの修正とか拡張ではもう解決できないと思います。

Bradlow: みなさんコメントありがとう。私の知らないことがいっぱいあるとわかった。それはまあ私が悪いんだけど、でも分野が広すぎて文献が多すぎて、お互いに結びついていないからでもあると思うんだよね[おっ、開き直った…]。
 たとえば、Louviereさんは部分効用は比較的に安定している(それは誤差分散の問題だ)と思っているし、Madgidson & VermuntさんたちとOrmeさんは選好変化が起きると思っているよね。また、属性数は小さくしろと言うのがマーケティング・リサーチにおけるふつうの教えだけど、Louviereさんはもっと多くして良いと思っているわけだよね。
 きっとどちらも正しいんだと思う。実務家も研究者も、「属性はX個以下にせよ」というように物事を単純化するのをやめないといけない。
 最後に一言。コンジョイント分析を心理学的ないし理論的な発展が遅れている多くの状況に無理矢理あてはめることはできるだろうか。Louviereさんは、そのためにはラディカルな革新が必要だという。たぶんそうなのだろう。でも私としては、単に試してみたい、できるならば境界を押し広げてみたいと思っているし、向こう20年は退屈しないだろうなと思ってます。
—–
 面白かったっす。
 私の初読時の感想は、多属性、他の変数の統合、属性水準票設計、バンドルは「まあたぶんみんなそう思ってんでしょうね」、非補償的決定、適応的実験計画、課題形式選択は「そうそうそうですよね!」、部分効用の時変は「変なことを思いつきますね?」、価格が埋め込まれた属性の話は、「すいませんよくわかんないです」でありました。
 Ormeさんのコメントを読んで思ったけど、部分効用の時変という話は意外に深いですね。それを実市場における消費者のカテゴリ学習のアナロジーとして捉えるのはさすがにナイーブすぎると思うけど、同一形式の試行を反復するという非日常的課題に調査対象者が適応していくプロセスを表現していると考えると、それは対象者の方略形成のひとつの形なのかも知れないし、うまく課題を設計すれば、購買時意思決定過程に新しい光をあてるかもしれないと思う。