読了: Mason & Cochetel (2006) 30年来のスポンサーが降りてしまったサーフィン競技会で起きたことと起きなかったこと

Mason, R.B., Cochetel, F.C. (2006) Residual Brand Awareness Following the Termination of a Long-term Event Sponsorship and the Appointment of a New Sponsor. Journal of Marketing Communications, 12(2), 125-144.

 仕事の都合で調べ物していて、ちょっと面白いかもなと思ってめくった論文。著者らは南アフリカの大学の人。

1. イントロダクション
 スポンサーシップの効果についての研究は多々あれど、スポンサーが降りてからの効果についての研究は本研究がはじめてです。きっとお役にたちますよ。[ひとりでくすくす笑ってしまった。やばい、面白いwww]

2. 背景
 南アフリカでは、アパルトヘイトが終わった後に国際スポーツへのスポンサーシップが急増したんだけど、1999年のタバコ規制で激減した。

3. 理論的枠組み
3.1 スポンサーシップ
 スポーツ・スポンサーシップにはいろいろある(イベント協賛だけではない)。Crimmis & Horn (1996 J.Adv.Res.)いわく、スポンサーシップによる説得的インパクトは次の3つの要因の積である。

  • イベントと企業のリンクの強さ
  • イベントと企業のリンクの持続
  • リンクのせいで生じる企業への感謝gratitude + リンクのせいで生じる知覚的変化

ここから敷衍するに、スポンサーが降りた後、

  • リンクが強かったら認知 awareness は続くだろう。[スポンサーシップの認知のことであろう]
  • リンクの持続が長かったら認知は続くだろう。
  • 感謝の気持ちは関係なくなるだろう。
  • 知覚的変化は起きなくなるだろう。

3.2 スポンサーシップの持続
 スポンサーシップの持続が認知・再生に効果を持つというエビデンスはたくさんある。しかしそれらの研究の多くはは個々のイベントにおける認知に焦点をあてており、長期にわたるスポンサー認知については研究が3件しかない[よくわかんないけど、「A社が箱根駅伝のスポンサーだ」という認知の研究はあるけど「A社が陸上競技を応援している」という認知については研究が少ないってこと?] ましてやスポンサーを降りてからについては研究がない。

3.3 スポンサーの強さ: イベントとのリンク
 イベントとスポンサーの属性がマッチしている方が消費者の注意を獲得しやすいと考えられている(マッチアップ仮説)。

3.4 オンサイト・スポンサーシップ、感謝、知覚的変化
 オンサイト・スポンサーシップの効果は弱い。[…中略…]
 スポンサーの目標集団を、スポンサード・オブジェクトへの(1)訪問者, (2)関心を持つ人、(3)領域に関心を持つ人, (4)オブジェクトにも領域にも関心を持たない人、にわけよう。本研究は(1)に焦点を当てる。

3.5 スポンサード・イベント
 Gunston 500 サーフィン・コンペティションというのに焦点をあてる。Gunstonはジンバブエのタバコ会社の名前で、ちょっと古いブランドである。30年間スポンサーやってたんだけど、前述のとおり、突然降りる羽目になりました。かわりにMr Princeという服飾小売チェーンがスポンサーになり、Mr Prince Pro という名前に変わった。

4. 命題

  • P1. スポンサーシップの変更は、イベントについての消費者の知覚を変えない。
  • P2. イベントの知覚価値はスポンサーの価値に影響される。
  • P3. スポンサーが降りても長期的スポンサーシップは長期的ブランド認知を提供する。スポンサー名が競技と連合していれば特にそうなる。

5. 方法
 イベント開催週に、イベント会場のビーチでイベントの観客をリクルートしてCLTをやった。調査員は学生。203票を分析する。[たぶんテントにでも連れ込んだんだろうな]
 調査票のなかで、unique, authentic, … など11形容語について5件法で聴取した。形容語はスポンサーのweb頁とかから集めた奴で、たとえばauthenticというのはGunstonが訴求している形容語である。
 [あれ? これ、スポンサーとイベントについてのイメージをそれぞれ訊いたってこと? たぶんそういう意味だろうけど… 読み落としたのかなあ…]

6. 結果
 調査したのはスポンサー変更の2年後だったのだが、81%の人が2年前にも来ていたし、87%が旧イベント名を非助成想起した。
 [どうも調査票の中味がよくわからなくなり、話について行けなくなってしまった。書き方が悪いのか、私の頭が悪いのか、その両方であろう。まあとにかく、事後の横断調査一発で勝負する観察研究だとわかったので急速に関心が薄れ、申し訳ないけど読まずにとばしました]

7. 考察
 というわけで、スポンサーを降りた2年後も、旧スポンサーの認知レベルは高いままだった。新スポンサーはさぞや損していることだろう。だいたい旧名称”Gunston 500″はいいやすいが新名称”Mr Prince Pro”はちょっといいにくい[著者の感想がしれっと忍び込んでいる]。というわけでP3は支持。
 P1に関しては、スポンサーが変わってもサーフィンの基本的な価値は変わってない。だけどイメージはちょっと変わった模様。
 P2に関しては、そもそもGunstonとイベントの間のマッチングが良くなかったみたいで…[とかなんとか、なんだかすっきりしない説明が書いてある… まあいいや、パス]

 本研究の限界は…[省略]
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 どこまでもいってもエピソディックな観察報告であって、消費者行動の実証研究としては張っ倒されるレベルだと思うんだけど(すいません)、問題設定が面白い。いいじゃんね、こういう牧歌的な研究があってもさ。社会人学生さんの卒論とかかなあ?
 スポーツイベントにおけるスポンサー変更の影響というテーマについて、スポンサー変更後のイベント参加者の事後調査一発で論文にまでしようという根性も見上げたものである。というか、よくこれで査読を突破したね。私にはわからない上手さがあるのだろう。
 どうせなら、イベント参加者だけじゃなくてもっと周縁的な人についても調べればよかったのにね。余計なお世話だけどさ。