読了: Breidert, Hahsler & Reutterer (2006) 支払意思額の測定手法レビュー

Breidert, C., Hahsler, M., Reutterer, T. (2006) A review of methods for measuring willingness-to-pay. Innovating Marketing, 2(4), 8-32

 仕事の都合で読んだ。WTP(支払意思額)測定手法のレビュー。てっきりCVM(仮想評価法)のレビューだと思って放置していた。

 掲載誌についてはよくわからないのだが、ウクライナで発行されているオープンジャーナルらしい。頑張ってDOIを探したのだが見つからなかった(大丈夫なジャーナルなのかしらん…)。google様いわく被引用回数808件、おや、結構多いな。
 著者らはオーストリアの人々。第一著者は実務家。第二著者はdbscan(クラスタリング手法)の開発者と同姓同名だなあと思ったら、どうやら同一人物らしい。びっくり。→ 調べたところ、dbscanを開発したのは別の人で、HahslerさんはRのdbscanパッケージの中の人らしい。まあとにかく、変な人たちではなさそう。

1. イントロダクション
 企業の価格戦略は重要なのに、潜在購入者の反応にちゃんと基づいて戦略を立てている企業は8~15%程度に留まっている[Monroe & Cox(2001, Mktg.Mgmt.)という一般向け雑誌記事を引いている。ほんとかなあ]。
 価格戦略の構築には妥当なWTP推定が必要になる。手法は山ほど提案されている。でもレビューがない。本論文でレビューします。

2. 手法の分類
 WTP推定の手法の階層分類というのはすでにいくつか提案されている。[メモは省くけど、Marbeau(1987 J.MarketRes.Soc.), Balderjahn(2003 ドイツ語), Nagle & Holden (2002 書籍)が紹介されている。最後のはデロイトが出している本らしい。ふーん]
 我々はデータ収集法によって分けることにする。

  • revealed preference
    • market data
    • experiments … laboratory experiments, field experiments, auctions
  • stated preference
    • direct surveys … expert judgements, customer surveys
    • indirect surveys … conjoint analysis, discrete choice analysis

 [うん、まあオーソドックスな分類である。以前読んだMonroeの教科書では、サーベイ、実験、統計、パネルの4つに分けていたが、あれよか筋が通ってますね。実験の下にオークションが入っているところが面白い]

3. 市場データの分析
 パネルデータと店頭スキャナデータがある。回帰とかで需要曲線を推定する。
 履歴データにおける価格変動ががWTPの欲しいスペクトラムをカバーしているとは限らない、というのが弱み。さらに、普通は累積レベルデータしか手に入らないし、パネルデータは高いし代表性が怪しい。いっぽう、競合環境での現実の購買を使っている点が強み。
 例として、Kamakura & Russell(1993 IJRM), Leeflang & Wittnik(1992 IJRM)がある。

4. 実験
4.1 実験室実験
 古くはSilk & Urban (1978) のASSESSORがある。対象者が実験だと知っている点、状況が人工的である点が弱み。

4.2 フィールド実験
 いわゆるテスト・マーケットを含む。代表性、コスト、時間が弱み。

4.3 オークション
 [なんか気の抜けた論文だなあと思いながら目を通していたんだけど、ここにきて急に熱量が高くなってきたぞ]
 実験の特殊な適用例としてオークションを挙げよう(実験室実験とフィールド実験の両方がありうる)。オークションとは、売り手が顧客の評価を知らないとき、公正な価格でモノを売るたための価値ある洞察を得ることができる手段である。主要な手続きとしてVickreyオークションとBDM手続きがある。いずれも誘因整合的。

  • Skiera & Revenstorff (1999 ドイツ語): VickreyオークションでWTPを測るという実験。対象者の最適bidding戦略がどうなってるのかよくわからない。[よくわからんがオークションを想像して入札させる調査らしい]
  • Sattler & Nitshke(2003 ドイツ語)の実験では、Vickreyオークションの入札価格はWTPより高めになる。
  • Weternbrock & Skiera (2002 JMR): BDMのフィールド実験。
  • Noussair,Robins, & Ruffeux (2004 J.Econ.Psych.): BDMとVickreyオークションを比較する実験。Vickreyオークションのほうが、対象者は最良の入札戦略を素早く学習し、バイアスがすぐに消える。つまりWTP測定としてはVickeyオークションのほうが優れている。[←へー、知らなかった。BDMはわかりにくいってことかなあ]

 オークションと似た手続きとして、いわゆるreverse-pricing (name-your-own-price mechanism)がある。買い手が払いたい値をつけるという手続きである。誘因整合性はないけど(取引が成立する限りにおいて安い価格をつけるインセンティブがあるから)、WTPの測定とみることもできる。現実の適用例が多い。Chernev(2003 JCR), Spann, Skiera, & Schafers (2004 J.InteractiveMkrg.)をみよ。

5. 直接サーヴェイ
 revealed preferenceデータは利用できないことも多い。新製品開発でまだ製品がないとか、お金がないとか、時間がないとか。そういうときにサーヴェイが役立つ。というわけで、ここからはサーヴェイについて。

5.1 専門家の判断
 マーケティング・マネージャーとか、セールス・マネージャーとかにインタビューする。顧客の数が少ないときのほうが向いている。バイアスが弱み。有用だという研究者もいればそうでない研究者もいる。

5.2 顧客サーヴェイ
 古くはStoetzel(1954 フランス語)が、購入価格の上限と下限を顧客に直接に訊いている。Abrams(1964), Stout(1969 J.Mktg), Gabor, Granger, & Sowter (1970 JMR) もみよ。
 Van Westendorp(1976)はこれに安い価格・高い価格を付け加えて4問にし、price sensitivity meterと呼んだ。いまでも広く使われている。
 近年の手法として、ACNielsenのBASES Price Advisorが使っている手続きがある。製品についてvery good value, average value, somewhat poor valueの3つを訊き、ここから価格-購入確率の関係を求める。somewhat poor valueがWTPだと解釈される。
 欠点:

  • 価格に不自然な焦点が当たる。
  • 真のWTPを申告するインセンティブがない。低く答えすぎるという指摘(Nessim & Dodge(1995 書籍))も、高く答えすぎるという指摘(Nagle & Holden(2002 書籍))もある。
  • 顧客の評価が現実の購買行動に翻訳できるかどうかわからない。
  • 課題が認知的に困難。この点はオークションにも共通。[Brown, et al.(1996 Land Economics)というのを引いている。回答形式を比較した実験らしい。地味な話だけど面白そうね]
  • 知覚された評価は不安定かもしれない(特に購入頻度が低い財で)。

 Stout(1969) はフィールド実験・実験室実験・インタビューを実証的に比較している。フィールド実験では価格によって需要が変化したのに実験室・インタビューではそうでもなかった。
 というわけで、顧客サーヴェイというのはあんまりあてにならない。

6. 間接サーヴェイ
 価格付きの製品をみせて買うかどうか訊くこと。
 Camron & James (1987 JMR)は価格やその他の製品属性を対象者にランダム割り付けするという方法を提案している。で、購入意向を聞く。[これ、評価型コンジョイント分析とどうちがうんだろうか]

6.1 コンジョイント分析
 [コンジョイント分析の紹介が延々と続く。これがこの論文のメインパートなのね… 別にいいけどさ…]

6.2 価格スタディにおけるコンジョイント測定の使用
 [いかにコンジョイント分析がよく使われているという統計の紹介があって…]

 Kohli & Mahajan (1991)はコンジョイント分析の枠組みにおけるWTP推定に焦点を当てている。個人\(i\)にとっての想起集合のなかで現在利用可能な製品のうち効用がもっとも高い製品(現行製品)の効用を\(u_i\))とする。注目している製品\(t\)の、価格以外の属性の部分効用の和を\(u_{it|\sim p}\)とし、価格の部分効用を\(u_i(p)\)とする。消費者が現行製品より\(t\)を選好するのは、なんらかの小さな値を\(\epsilon\)として$$ y_{it|\sim p} + u_i(p) \geq u^*_i + \epsilon $$ のときである。[おいおい、\(u^*_i\)ってなによ。ちゃんと校正してほしいなあ。よくわからん説明だが、この式が成り立つ\(p\)の上限がWTPだっていうことですかね?]
 で、著者らはWTPが正規分布に従うと仮定し、その分布を推定している。そこでは、対象者が現行製品を現行価格で買いたいと思っているという仮定がある。
 さらに現行製品を全員共通にしちゃっているという問題がある。これを解決するために調査で個人ごとに現行製品を調べている実験もある。[2件紹介されているけどどちらもドイツ語だ]

 Jedidi & Zhang (2002 MgmtSci)はこれを拡張して…
 [この話、関心はあるんだけど、説明がいまいち理解できないのでメモは省略。元論文に当たった方がいいな]

6.3 現存するコンジョイント・ベースのアプローチの限界
 3つの問題に区別できる。
 その1、理論的問題。[真剣に書いておられるのだがどうも主旨を理解できないので、ほぼ逐語訳してみる]

 価格をコンジョイント研究における一属性として扱うことにより、提示された価格水準に関して部分効用を推定できる。しかし価格とは定義上、効用ではなくて、異なる効用尺度間の交換レートを反映するものである。よって財の価格は財の効用に影響しない。むしろそれは、その財を消費するために、他の財の消費を諦めなければならない程度を指す。
 消費者行動についての新古典派の経済理論においては、価格は外生変数である。価格は顧客に対して、予算が尽きるまでに彼ないし彼女がその他にさまざまな財を何単位消費できるかという情報を与え、それ以上の情報を持たない。価格についてのこの扱い方によって消費者行動と無差別曲線、そして需要関数の構築が可能になる。これらの新古典派的アプローチにおいては、価格は予算制約を通じたいかなるモデルにも含まれる。
 (原注: もっとも、価格は、予算制約についての割り当て関数であるというだけでなく、顧客に情報を伝える。価格は品質の証拠となり得るからだ。このトピックについてはたくさんの実証研究が行われている。Rao(1993 in “Handbookds in OR and MgmtSci”), Brooks et al.(2000 引用文献リストにない。ひでえな)を見よ。これらの研究は品質と価格の間の複雑な関係を示している。非常に低い価格は低品質の指標として知覚され、非常に高い価格は高品質の指標として知覚される。また、価格の割り当て効果が反転する財も存在する。これらの財においては、製品購入選好は価格の直接関数として増大する。これらの財をヴェブレン財という。たとえば、高いワインや香水がそうである。[…] しかし、本研究において我々は「ふつうの」製品に注目しており、価格の割り当て効果と情報効果を分離したいとは思わない。我々は両方の効果を含むWTP推定に関心を持っている。)
 価格水準に部分効用を付与するとき、価格とは新古典派経済理論とは本質的に異なるものとして扱われていることになる。Rao & Gautschi(1982 in McAlister(ed.))が強調しているように、価格に対するこのアプローチは理論ベースドというよりデータ・ベースドである。コンジョイント分析者は価格を単に多属性効用関数のひとつの属性として扱う。Rao & Gautschiの議論に対してSrinivasan(1982)は、価格をこのように扱うことは結局のところあまりよいことではないが、理論的な問題をもたらすことにはならない、と述べている。もしある製品に対するある消費者のWTPが、その消費者の予算制約と他の消費の代替案にのみ依存するならば、2つの財(関心の対象である財と合成財)についての効用関数は[←価格抜きの、ということだろう]、関心の対象である財だけの効用関数に書き直せる。そこでは価格はその製品に価値を付与する属性だということになる。
 しかし我々は、現実の購買場面においては、WTPは合成財と予算制約のみに依存するのではなく、他の財の提供(いわゆる参照製品)にも依存すると考える。従って、コンジョイント分析における属性として価格を含めることの理論的問題はいまだに解決されていない。

 [申し訳ないけど、なに言ってんだかぜんぜんわかんない。価格は価格でしょう。理論的問題もなにも、単に効用という言葉の意味がコンジョイント分析と経済理論でちがうというだけの話じゃないですか? 効用概念の曖昧さを楯にとって言葉遊びをしているだけのようにしか思えないんですけど]

 その2、実務的問題。価格と他の属性の交互作用、価格が重視されすぎる問題、水準数の効果、範囲の効果、価格水準間の補完をめぐる問題など。
 その3、推定上の問題。WTP推定が目的の場合、なんらか比較する情報が必要になる。現行製品とか。

6.4 離散選択分析
 [選択型コンジョイント分析についての解説。読まずにとばした]

7. 手法の比較

  • Kalish & Nelson (1991 Mktg.Letters): 直接サーヴェイ、順位づけ型コンジョイント分析、評価型コンジョイント分析を比較。[だらだらとした説明。メモ省略] hold outに対する予測妥当性はコンジョイント分析で高かった。
  • Sattler & Nitschke (2003 ドイツ語): 直接サーヴェイ、コンジョイント分析、第一価格オークション、Vickreyオークションを比較。一部の学生に実際に買わせた。仮想的セッティングにおけるWTPは高めになる。
  • Backhaus & Brzoska (2004 ドイツ語): コンジョイント分析・離散選択分析で推定したWTPの外的妥当性をVickreyオークションで検討。仮想的セッティングにおけるWTPは高めになる。
  • Volckner (2006 Mktg.Letters): 対象者が言明した金額を実際に払わないといかんかどうかでWTPが変わる。

8. 結論とマネジリアルな示唆
 [表頭に{市場データ, 実験, 直接サーヴェイ, コンジョイント分析, 離散選択分析}, 表側に{コスト, 時間, 新製品への柔軟性, 妥当性, 現実の購買行動か, 観察された選択行動か, 個人レベル推定の可否}をとった星取り表を載せている]
 コンジョイント分析と離散選択分析を組み合わせた手法として以下が考えられる: (1)まず価格抜きでコンジョイント分析をやる。(2)「買わない」選択肢付きの選択型コンジョイントでWTPを調べる。
 云々。
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 いっちゃなんだけど、全体にぬるーーーーい論文であった。説明が要領を得ないし、手法の限界と研究手続きの限界がごっちゃになっているような気がするし。っていうか、Vickreyオークションのような有名な手法についての説明を、他の論文における説明の直接引用で済まそうとするの、やめようよ…。これ、社会人院生の修論の序論とかなのかもしれない。
 でも、まあ、なんであれ、こういう概観論文というのはありがたいもんですね。読まねばならん論文が何本か出てきたので良しとしよう。とりあえずは、Brown, et al.(1996 Land Economics), Jedidi & Zhang (2002 MgmtSci), Volckner (2006 Mktg.Letters)だな。