読了: Agrawal & Maheswaran (2005) たとえば製品への評価がその製品に与えられた賞とかによって影響されてしまうことがあるけれど、どんな動機づけのもとでそうなりやすいか

Agrawal, N., Maheswaran, D. (2005) Motivated reasoning in outcome-bias effects. Journal of Consumer Research, 31, 798–805.

 仕事の都合でmotivated reasoningについて調べている際に手に取って、最初のパラグラフを読んだ瞬間に「これは読みたいのとちがう…」と思った奴なんだけど、せっかくなので最後まで目を通した。
 Google様いわく被引用数107。

 簡潔に書きすぎていてちょっと不親切な論文だと思うのだが、ここでいう帰結バイアスoutcome biasというのは、たとえば製品について評価する際、その製品そのものについてちゃんと調べて考えるのではなく、その製品のもたらしたなんらかの結果(「いま売れてます」とか)でもって評価してしまうバイアスのことである。そのバイアスがどんな動機づけの下で強くなったり弱くなったりするか、というのがお題である。
 イントロで事例を挙げてくれるとわかりやすいのにね。

イントロダクション
 Chen, Shechter, & Chaiken(1996)いわく、メッセージ処理を導く目標は3つある:

  • 正確性(態度の妥当性を見定めること)
  • 防衛(現在の信念を支持する態度を維持すること)
  • 印象(対人的・社会的目標を満たす態度を表現すること)

 本研究は、この3つの動機づけのもとで、帰結が判断にもたらす効果について検討する。

帰結バイアス: motivated reasoningの一事例
 帰結バイアスは、パフォーマンスそのものではなくパフォーマンスの帰結に整合的な推論をするというバイアスで、たとえその帰結が恣意的ルールで決まっている場合でさえ起きる。
 帰結バイアスに動機づけがもたらす影響について、これまでの研究の結果は一致していない。

  • 正確性動機づけの文脈では、帰結はヒューリスティクスとしてはたらき、正確性動機づけが低い方が帰結バイアスが大きくなる。しかし、正確性目標の下での処理を測った研究はない。
  • 防衛動機づけのもとでは、帰結と先行態度が一致していてもいなくても帰結バイアスが起きるという報告もあれば(つまり先行態度よりも帰結のほうが優勢なわけだ)、防衛的な処理においてのみ起きるという報告もある。
  • 印象動機づけのもとでの帰結バイアスについては研究がない。

仮説
判断

  • 印象動機づけ: 帰結というのは他者の意見を表しているわけだから[???]、印象動機づけのもとではポジティブな帰結となった判断がよりポジティブに評価されるだろう。
  • 防衛動機づけ: ポジティブな帰結は選好に合致する、すなわち現在の信念を維持するから、防衛動機づけのもとではポジティブな帰結となった判断がよりポジティブに評価されるだろう。しかしネガティブな帰結は現在の信念を維持しないから判断への評価に効かないだろう。
  • 正確性動機づけ: 正確性動機づけが強ければ体系的な処理によって客観的精緻化が行われるから帰結バイアスは起きないだろう。

というわけで、
H1: (a)印象動機づけのもとでは、判断は帰結がポジティブなときにより好意的になる。(b)防衛動機づけのもとでは、判断は帰結が選好に一致しているときにより好意的になる。
H2: 帰結がネガティブなとき、印象動機づけのもとでは判断は非好意的になるが防衛動機づけのもとではそうならない。

帰結関連的な思考

  • 印象動機づけ: 意見の社会的関連性が重要だから[???]、帰結についての詳細な精緻化が行われるだろう。
  • 正確性動機づけ: 帰結は目的と無関係だから精緻化は最小限にとどまるだろう。
  • 防衛動機づけ: 帰結が選好と一致しないときは、帰結についてもメッセージについても精緻化が行われるだろう。

というわけで、
H3: 印象動機づけのもとでは帰結関連的な思考が増える。
H4: 防衛動機づけのもとでは、帰結が選好と一致しないときに、帰結関連的な思考とメッセージ関連的な思考が増える。

メッセージ関連的思考の感情価

  • 印象動機づけ: 処理は社会的目標の充足へと歪むから、同じメッセージに対しても、帰結がポジティブなら好意的に、帰結がネガティブなら非好意的になるだろう。
  • 正確性動機づけ: 帰結は処理に影響しないだろう。
  • 防衛動機づけ: [よくわからん理屈が書いてあって…] 帰結は処理に影響しないだろう。

というわけで、
H5: 印象動機づけによるバイアスにより、帰結がポジティブな時、メッセージ関連思考はより好意的になるだろう。

帰結のdiagnosticityの知覚

  • 印象動機づけ: 人は他者が帰結をその人の判断に取り込んでくれることを期待するから、帰結のdiagnosticity知覚は高まるだろう。
  • 正確性動機づけ: 帰結のdiagnosticityの知覚は低くなるだろう。

というわけで、
H6: 帰結のdiagnosticityの知覚は、印象動機づけのもとで高くなる。

研究1
 H1a, H3, H5の検証。
 被験者は学生89人。2要因(2×2)、被験者間操作。被験者にとっては無関係な2つの実験である(シナリオを読んで想像する実験と、製品評価の実験)。
 まずシナリオを読ませる。ここで動機づけ{正確性、印象}を操作する。正確性動機づけでは、記者が真実を追求しているというシナリオ。印象動機づけでは、入社志望の会社の面接官とランチに行くというシナリオ。
 次に、X-3000というPDAの製品テストについての雑誌記事を読ませる。ここで帰結{ポジティブ、ネガティブ}を操作する。どっちも性能は同じなんだけど、ポジティブでは製品テストの基準に合格。ネガティブでは不合格。
 で、X-3000について評価を求める(好意、良さ、望ましさの3項目、9件法)。記事を読んだ際に思い浮かんだことを自由記述。あとで評定者がコーディングする(メッセージ関連か帰結関連か;ポジティブかネガティブがニュートラルか)。

 結果。[操作チェックについてはメモ省略]
 評価の3指標をまとめて従属変数とみなしてANOVA。帰結の主効果と交互作用効果が有意。印象目標では、ポジティブな帰結がより好意的な評価につながるが、正確性目標では差がない(H1aを支持)。
 帰結関連思考については動機づけの主効果のみ有意。印象目標のほうが多い(H3を支持)。
 メッセージ関連思考については…[飽きたのでパス]

研究2
研究3
[似たような実験を、要因を少しづつ変えて繰り返している模様。関心がなくなってしまったので丸ごとパス。すいませんね]

全体考察
 […中略…]
 本研究の二重過程モデルに対する貢献としては、社会的に関連するヒューリスティックな手掛かり(帰結)の役割について検討したという点が挙げられる。正確性動機づけの下では手がかりは製品情報と不一致な時に弱まるが、印象動機づけの下ではむしろ製品情報を上書きしてしまうことが示された。もっとも、もし帰結が社会的に受容しがたいものだったら(あきらかに不公平な製品テストとか)、印象動機づけの下でも帰結は用いられないかもしれない。今後の課題である。
[…大幅中略…]
 帰結ベースのマーケティング戦略は、製品に付与された調査結果とか競争とか賞とかを消費者がどう扱うかを理解するために有用であるように思われる。本研究は、帰結ベース戦略の効率性に動機づけの文脈が影響することを示した。たとえば、家を買おうとして情報収集している消費者には(正確性動機づけが高い)、賞をもらいましたというような広告は効かないかもしれない。
 云々。
——–
 消費者行動論の研究の皮をかぶったガチガチの認知社会心理学の研究といえよう。ここまでくると、マーケティング実務との関係は?などと考えるほうが野暮というものである。
 それにしても、研究の文脈というか、想定されている状況がつかめなくて困惑した。実験手続きまで進んでようやく主旨がわかったんだけど、ここで帰結と呼ばれているのは、不確実性下での誰かの意思決定がもたらしたシリアスな社会的帰結というより、「グッドデザイン賞受賞」といった、製品なりメッセージなりを評価する際のちょっとしたヒューリスティック的手がかりのことだし、目標とか動機づけと呼ばれているのは、評価者が課題を通じて達成すべき顕在的な目標のことではなく、もっと暗黙的な、プライミング課題で操作されるようなものなのだ。いくらなんでも書き方がインサイダー向けすぎるのではないか。みんながみんな研究者の文脈を共有してくれるわけじゃないですよ。