Suzuki, S., Hamamura, T., Takemura, K. (2019) Emotional fortification: Indulgent consumption and emotion reappraisal and their implication for well-being. Journal of Consumer Behavior, 18(1), 25-31.
都合により目を通した論文。ぜいたく消費が感情制御というか気分修復の方略として用いられていて、その点でwell-beingに寄与しうる、という話。google様いわく、被引用回数14件、うーん、ちょっと寂しい。
第一著者は一橋大の先生らしい… あ、ご褒美消費についての面白い本を書いた方だ! 全然気が付かなかった。
1. イントロダクション
本研究では、無節制的消費(indulgent consumption)を感情制御方略と捉え、well-beingへのその含意について検討する。
本研究では、あるエリアで感情制御に関わろうとする人は他のエリアでもそうしやすいと論じ、これを感情防御(emotional fortification)と呼ぶ。たとえば、自分の感情を認知的に再評価しやすい人は、感情を変化させるためにぜいたくをしやすい。[うーん。ここだけ読むとわけわかんないですね]
無節制的消費が気分修復方略として用いられうるという指摘はすでになされている。しかし先行研究では、無節制的消費は短期的にはポジティブ感情をもたらすが長期的にはネガティブでありうると指摘している。いっぽうAtalay & Meloy は、無節制的消費のせいで長期的に悪いスパイラルに陥ることはないと示している。本研究もこの方向。
1.1 無節制的消費と感情制御
先行研究における無節制的消費の典型的領域はぜいたくと快楽摂食である。
無節制的消費は徳と悪徳との間の自己コントロールジレンマの研究の中で扱われることが多かった(Weternbrock, 1998 MktgSci.)。無節制的消費は後悔、罪悪感、恥などの短期的ネガティブ感情につながり、長期的にもネガティブな結果をもたらすと考えられてきた。
いっぽう最近では、無節制的消費は短期的ポジティブ感情ももたらすと指摘されている。Ramanathan & Willams (2007 JCR), Salemo et al.(2014 JCR)をみよ。またAtalay & Meloy (2011 Psych.Mktg.)は無節制的消費が長期的にネガティブな感情をもたらすことはないと示している。
というわけで本研究では、気分修復的な無節制的消費はネガティブ感情の管理に用いられうると論じる。
1.2 感情制御とwell-being
感情制御とは… [メモを省略するけど、Gross, Richard, & John(2006, Chap)というのを引用している。どうやらGrossという人が第一人者らしい。引用文献リストを見ると、なんとGross (Ed.) “Handbook of emotion regulation”という本まであるらしい。ひええ、怖いなあ]
Gross & John (2003 JPSP)いわく、感情制御の主な方略として認知的再評価と表出抑制がある。前者はネガティブ感情の経験的・行動的要素を減衰させるが後者はそうでない。また前者はwell-beingを高め後者は低める。
本研究では、無節制消費が感情制御方略として用いられうると提案する。というわけで、
- H1a: 消費者の無節制消費の意向と感情再評価への関与しやすさは正の相関を持つ。
- H1b: 消費者の無節制消費の意向と感情抑制とへの関与しやすさは相関しない。
これらの仮説は感情防御という概念に基づいている。つまり、ある領域で感情制御しやすい人はほかの領域でもしやすい(感情再評価しやすい人は無節制消費しやすい)という概念である。感情防御は類似したメカニズムを持つ感情制御方略でしか起きない。過去の研究では再評価と抑圧が関係しないことが示されている。
無節制消費が感情再評価方略と関連しているならば、well-beingにポジティブな含意を持ちうるだろう(もちろん常にポジティブではないだろうけれど)。そこで、無節制とwell-beingの関係における感情再評価の媒介効果を調べる。横断観察データで因果性を検証しようとは思っていないが、無節制の効果を感情再評価と関連する部分とそうでない部分とに分けたいわけである。
というわけで、
- H2a. 消費者の無節制消費の意向は生活満足度と相関し、この相関は感情再評価傾向に媒介されている。
- H2b. 消費者の無節制消費の意向は、感情再評価傾向をコントロールすると、生活満足度に直接の効果を持たない。
- H3a. 消費者の無節制消費の意向はwell-beingと相関し、この相関は感情再評価傾向に媒介されている。
- H3b. 消費者の無節制消費の意向は、感情再評価傾向をコントロールすると、well-beingに直接の効果を持たない。
2. 研究の概観
研究1ではH1を、研究2ではH2, H3を検討する。
3. 研究1
web調査パネルに対する調査、300人。
2つのシナリオを順に与える。(1)すっごい成功して、お祝いに無節制消費したいというシナリオ。(2)すごい失敗をして、気分を修復するために無節制消費したいというシナリオ。それぞれについて、無節制消費意向を9件法評価。で、Gross & John (2003)の感情制御質問紙(ERQ)の日本語版というのに回答してもらう。感情再評価傾向、感情抑圧傾向がわかる由。
結果: 2つの無節制消費意向は感情再評価傾向と相関したが感情抑圧傾向とは相関しなかった。H1a, H1bを支持。
4. 研究2
クラウドソーシングに対する調査、113人。
まずERQ。次にシナリオを与える。今回は気分修復的なシナリオのみ。で、無節制消費意向を9件法評定。次に、生活満足度の尺度(Diener et al., 1985)と心理的well-beingの尺度(Ryff & Keyes, 1995)をやってもらう。どっちも既存の日本語版がある。
結果: 無節制消費意向は感情再評価傾向と相関し感情抑圧傾向とは相関しなかった。媒介分析をやったら、無節制消費意向から生活満足・well-beingへの直接効果はなく(H2b, H3bを支持)、感情再評価傾向を経由した相関はあった(H2a, H3aを支持)。
5. 一般的考察
[…中略…]
今後の課題: 文化差、シナリオ・ベースでない測定。
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要するに、横断調査一発で勝負する相関研究。ターゲットとする効果量は小さかろうに、よくもまあ結果を出したものだと感心した。(何様だ)
私の読解力の問題だと思うけれど、emotional fortificationという概念がよくわからなかった。それはある特定のタイプの感情制御方略を指す概念で、その特殊ケースとして感情再評価とか無節制的消費とかがある、という理解であっているだろうか。だとしたら、そのタイプについての定義を知りたいところだ。それとも、いろんな感情制御方略を並べたとき、それぞれの方略の採用されやすさは独立ではなく一定の相関構造があるよ(その構造がなぜ生まれているかは知らんけど)、ということを指している言葉なのだろうか。Gross & John (2003) を読めばいいのかなあ。