Fetscherin, M., Usunier, J.C. (2012) Corporate branding: an interdisciplinary literature review. European Journal of Marketing, 46, 733-753.
仕事の都合で読んだ奴。コーポレートブランドについての研究レビュー。
1. イントロダクション
コーポレート・ブランディングについての過去40年間の研究について、計量書誌学的な著者引用分析を行う。リサーチ・クエスチョンは:
- 生産性・影響・貢献が大きい著者所属機関はどこか?
- どのジャーナル・論文、どの著者がもっとも引用されているか?
- コーポレート・ブランディングはどのように進展してきたか? どんな引用ネットワークがあるか? 根底にある流れは? 今後注目される領域は?
こういう分析には主観的・ボトムアップなやりかたと客観的・トップダウンなやりかたがある。従来は前者の分析しかなかった。たとえばRoper & Parker(2006 The Marketing Review),Balmer & Gray (2003)をみよ。本論文は後者。
2. 計量書誌学的分析
計量書誌学的分析とは…[中略]
3. 方法論
ISI Web of Knowledge databaseから2008年12月にデータを得た。1969-2008年の論文のうちタイトルに(corporate|company|firm) & (brand|branding|identity|image|reputation|rebrand)を含む320本を集め、アブストラクトを読んで、ブランディングと政府組織の研究と地域ブランディングの研究を取り除いて264本を残した。で、HistCiteというソフトをつかって引用関係を分析した。[←へー、そんなソフトがあるんですか]
4. 結果と考察
264本の論文の著者は412人、ジャーナルは150誌。論文を領域にわけると、ビジネス41%, 経営16%, 建築12%, アート11%, コミュニケーション8%, その他。
4.1 Center of excellence
もっとも生産的で影響力のある機関は[そういうのを定量化する方法があるらしい]、U.Bradford, Brunel U, Cornell U., Harbard U., Loyora Marymount U., U.Illinoi, U.Michgan, U.North Carolina.
4.2 もっとも影響力のあるジャーナル
論文数、年あたり被引用数(分析対象論文から, グローバルから)を指標としてランキングすると、経営・ビジネス形のジャーナル(特にマーケティング・広告)が上位。本数が少なく影響力が大きいのはAcad.Mgmt.J., JMR, Strategic Mgmt J.. 本数が多く影響力が小さいのはDesign。両方大きいのはJ.Business Ethics, Euro.J.Mktg, J.Adv.R., J.Adv. [なるほど。マーケ分野ではJMR, Euro.J.Mktg, JAR, J.Adv.の4誌をマークすればよさそうだ]
4.3 もっとも影響力のある論文
[上位10件が表になっている。トップ3はGray & Balmer (1998 Long Range Planning), Fombrun & Shanley (1990 Acad.Mgmt.J.), Roberts & Dowling (2002 Strategic Mgmt.J.)。アーカーとかケラーとかは表にはいってない。へーそうなんだ]
4.4 コーポレート・ブランディングの歴史
コーポレート・ブランディングは1970年代に生まれた。経営上の動機のほうが先。学術分野での初期研究として80年代のコーポレート広告の研究がある。
90年代はコーポレート・レピュテーションの研究がさかんだった。Dowling(1993)からコーポレート・アイデンティティの研究が行われるようになった。[…中略…]
2000年代にはコーポレート・イメージとポリシーの整合性についての研究がJ.Business Ethicsに大量に載るようになった。最近のトレンドは、イメージ改善がほんとに財務成績に効くのか、企業の行動がほんとにイメージを改善するのか(Dean, 2003 J.Adv.)。[←これ面白そう]
5. 引用マッピング
[手法のざっくりした説明。メモ省略]
というわけで、27本の重要論文、7つの主要な潮流を抽出できた。
- 1. コーポレートブランディングと(1a)製品評価, (1b)サービス評価, (1c)スポンサーシップ評価。[挙げられている重要論文から新しいのをメモしておくと、1aはBerens et al.(2005 J.Mktg), 1bはLeBlanc & Nguyen(1996 Int.J.Service Industry Mgmt.), 1cはStipp & Schiavone (1996 J.Adv.Res.)]
- 2. コーポレート・ブランディングと(2a)コーポレート・アイデンティティ, (2b)視覚的アイデンティティ。
- 3. コーポレート・ブランディングと(3a)雇用イメージ, (3b)採用応募。
- 4. コーポレート・ブランディングと企業犯罪。
- 5. コーポレート・ブランディングと財務パフォーマンス。
- 6. コーポレート・ブランディングとブランド拡張。
- 7. コーポレート・ブランディングとコーポレート・イメージ。[重要論文はSchimitt et al(1995 Long Range Planning), Dowling(1993 Long Range Planning)]
6. 研究のギャップと今後の潮流
- そもそも基本的な概念があいまい。たとえば、アイデンティティは組織の基本的属性という観点から定義されることもあれば企業の視覚的アイデンティティを支援するためのグラフィック・デザイン上のソリューションとして定義されることもある。Balmer (2001 Euro.J.Mktg) がいくつかの概念について明確な定義を試みている。
- 概念間の因果関係。たとえば、レピュテーションとイメージは類比的な概念だと考える人もいれば、一方が他方の原因だと考える人もいる。
- グラフィック・デザインとコーポレート・ブランディングの混同。
- 実証的証拠が少ない。[←これ、ほんとにそうですよね]
- 異なる国・文化・言語を通じたcross-fetilizationがなされていない。[なんて訳したらいいのかわかんないけど、いいたいことはわかりますね]
- 多国籍の大企業の研究に偏っている。
- 規範的にDOを語るんだけど、理想と現実のギャップを無視する傾向がある。
7. 結論
[略]
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いやーこれは面白かった。bibliometricなアプローチというのはもっと「こんなネットワークになりました」的なものかと思っていた。数量的指標だけでなく、ちゃんと論文の中味まで追いかけていけば、立派なレビュー論文になるのね。勉強になりました。