読了: Gabor & Granger (1966) 品質の指標としての価格

Gabor, A., Granger, C.W.J. (1966) Price as an Indicator of Quality: Report on an Enquiry. Economica, 33(129), 43-70.

 先日読んだ Gabor & Granger (1964)に引き続き、価格感受性測定の超・古い論文に目を通した。
 古い論文は、書き方が風雅すぎて困ってしまう…

1. イントロダクション
 消費者の選択において、価格はコストの指標であり、かつ品質の指標でもある。現代の需要理論は後者があたかも例外的な現象であるかのように扱っている。実際、後者を無視しないとなると、個人の効用関数の独立変数として市場におけるすべての商品の価格を取り入れなければならなくなる。
 伝統的な需要理論では、消費者は商品の任意の組み合わせについて価格と効用の正しい情報を持っている。このとき品質の指標としての価格という考え方は不必要になる。[…] 需要は価格と共に減少する。
 本論文の主目的は、価格が品質の指標となるということが、一般に信じられているよりもはるかに頻繁に生じるということであり、この現象を認識することが、消費者の市場行動のよりよい理解に通じるということである。

2. 短期需要という問題
 上で述べたような標準的な需要の法則は歴史データに基づき長期的な観点で検証されている。そこでは短期的需要は無視されている。しかし、個々の消費者の日々の行動は可処分所得の固定的なパターンと対応していないかもしれない。
 [話の流れを見失いそうになり、思いあまって、ここからしばらくほぼ逐語訳]
 我々が追求したい第一の問いは、経済理論においては価格の重要性が過大視されているのではないかということである。Gabor & Granger (1961, App.Stat.)で報告したように、多くの主婦は現在価格を知っており、従って自分の選択における影響をexerciseできる[???]。次の課題は、その影響の性質について探求することであるように思われる。需要曲線という伝統的な概念はこの目的のためには適切とは思えない。なぜなら、それが基づいている前提が当然のことのようには思えないからだ。主婦がたとえば洗濯石けんを買いに行くとき、販売されている個々のブランドについての需要スケジュールの集合を胸に抱いた状態で市場に行くとは思えない。仮にそれをある仮説として仕方なく受け入れたとしても、その仮説を直接に検証する方法はない。
 我々はもっと見込みのあるアプローチを採用する。それは二人のフランスの研究者(Stoetzel, Adam)によってインスパイアされたもので、消費者が購入意図を持つ際、2つの価格限界を心に抱いているという前提に基づく。すなわち、その商品が高すぎると判断するであろう上限と、それ以下ではその商品の品質が疑わしくなる下限である。このことは、限界の外側で価格は品質の究極的な指標となるということを意味している。[…] 限界の内側でなにが生じるはずかは明確でない。我々が示唆しているのは、主婦は価格の上下限の間にあるかぎりどんな洗濯石けんでも買うだろうということではなく、その範囲の内側にある価格は購入の絶対的なバリアにはならないだろうということである。それは依然として品質の指標であり続けるかもしれない。特に、購入経験のないブランドの場合はそうである。
 (この命題を需要の幅という仮説と混同してはならない。需要の幅という仮説は、最小知覚差異という概念に基づいている。Wiles(1956)いわく、「異質性のある商品の購入者においては、価格のちいさな差異についてかなりの寛容さがある。そのため、その範囲の内側の価格であればどの産出も処理される。このとき、需要曲線は線ではなく幅となる…」)

3. 方法についてのノート
 ある個人について価格の受容範囲を調べる方法は2つあるだろう。(A)直接に限界を訊く。(B)研究者が価格を提示し、それへの反応を求める。StoetzelとAdamはAを用いたが、AdamはBについても言及していた。[よくいう直接聴取と間接聴取という区別はGabor&Grangerより前、遅くとも50年代からあったということだな」

 設問例をAppendixに示す。
 [著者らによる1963年の価格態度調査が紹介されている。たとえばナイロン・ストッキングについてこう訊いたそうだ。

  • Method A: 「もしあなたが自分用にナイロン・ストッキングを買いに行ったとして、もっとも安くていくらまでなら買いますか? つまり、いくら以下なら品質が疑わしいと思いますか?」「もっとも高くていくらまでなら買いますか?」
  • Method B: 「もしあなたが自分用にナイロン・ストッキングを買いに行って、あなたが探していたshadeと品質であったとして、その価格が…だったら買いますか?」(二択)。Yesだったら価格を変えて再聴取。Noだったら「なぜですか? 高すぎるからですか、それとも安すぎて信用できないからですか? これから他の価格を挙げますので、{Yes, buy; no, too expensive; no, too cheap}から選んで下さい」。価格は36個あり、6分割してひとり6個。

 うーん、Method Bの手続きがよく理解できない。まず二択で訊きNoだったら「高すぎる」「安すぎる」の二択、という設問を6回繰り返す、ということだろうか? 仮にそうだとして、提示価格は上昇するの? 下降するの? それともランダムなの? 回答行動はそういう細かいところで変わってくるので、ちゃんと書いておいてほしいな…]

 Method Bのほうが現実的なデータが得られると期待される。Bのほうが通常の店舗状況に近いからだ。しかし、個人にたくさんの価格について反応を求めるとこの現実性は失われてしまうだろう。また、Aの場合は上限と下限という概念が前提となるが、実際には被験者はそんなものを意識していないかもしれない。Bはそうした概念を必要としない。
 以下ではBによる結果に基づいて話を進め、8節でAとBの比較を行う。

4. 基本関数
 等質な消費者集団\(G\)があり、そのメンバーが価格\(P\)の商品を「安すぎる」と思う確率を\(L_G(P)\)、「高すぎる」と思う確率を\(H_G(P)\)とする。以下では添字\(G\)を省略する。\(H(P)\)は単調増大、\(L(P)\)は単調減少とする。
 \(H(0) = 0\)であり、\(L(0)\)は(少なくとも近似的に)1とする。\(P\)が大きくなるとともに\(H(P)\)は1に近づき\(L(P)\)は0に近づくとする。
 \(L(P), H(P)\)はすべての\(P\)について微分可能とし、\(l(P)=dL(P)/dP, h(P)=dH(p)/dP\)とする。「安すぎる」「高すぎる」の頻度関数である\(l(P), h(P)\)はこんな感じになっていると思われる[ふたつの正規分布みたいな分布の図]。Weber-Fechner法則によれば主観的価格尺度は対数的だし、平均からの個々人のずれは正規法則に従うだろう。
 \(B(P) = 1 – L(P) – H(P)\)とし、これを購入反応関数と呼ぶ。それはこんな感じになっていると思われる[ちょっと右に裾を引く分布]。

 以上は短期的な話である。広告などの諸力の影響によって変化するだろう。そうだとしても、ここから、差別化された非共謀的な寡占という価格構造の剛性についてのこれまでに知られていなかった理由を得ることができる。[難しいことをいうねえ]
 メーカーは、競合の値下げに追随するときでもないと値下げは怖くてできないとが感じるだろう。なぜなら、全体的な価格構造が移動すれば\(B(P)\)曲線もその方向に移動するだろうが、他の供給者が値下げしなかったら、\(B(P)\)は動かず、自社はシェアを失うかもしれないからである。いっぽう需要曲線の理論によれば、供給者が値下げしたくなるのは、競合がその値下げに追随しないであろう場合である。

 ここまでの議論では、現存する価格の構造と\(B(P)\)極点との関係に光をあてた。しかし、これはあくまで主婦の反応についての検討だから、供給者の心理についての直接的な情報は得られない。我々が提供する価格の剛性についての分析は、メーカーが競合による報復的な行為をおそれなくてよいときにもなお自社ブランドの値下げをしたがらない理由を説明するもっともらしい仮説を提供するだけである。

5. limit functions に関する仮説

 仮説A. \(l(P)\)と\(h(P)\)は対数正規頻度関数である。すなわち、\(p = \log P\)として、\(l(p), h(p)\)は正規曲線である。
 この仮説は調査結果の観察から得た。[メモ中略]
 ここで興味深いのは、所与の商品が非常に安い価格であっても思いとどまらない人がいたり、いなかったりするという点である。バーゲンが多い昨今では価格需要範囲に下限がない消費者がいるのだろうか? 我々はそうは思わない。価格とは別に品質を保証する情報があるかどうかのちがいだろう[というような話がだらだらだらだら書いてある。正直、つきあいきれないよ]

 仮説B. 所与の製品と社会経済的集団において、\(l(p)\)のSDと\(h(p)\)のSDはほぼ等しい。
 この仮説も調査結果の観察から得た。[メモ中略]
 このことは、消費者の主観的価格尺度がほぼ比率尺度であることを表している。

 仮説C. 所与の製品において、\(l(p), h(p)\)のSDは社会経済的集団に依存しない。
 この仮説も調査結果の観察から得た。[メモ中略]

 仮説D. \(l(p), h(p)\)のばらつきの平均は、関数自体の平均差と正の相関を持つ。
 この仮説も調査結果の観察から得た。[メモ中略]

6. 購入反応曲線
 \(B(p) = 1 – L(p) – H(p)\)の理論的な形状について考えよう。
 \(B(p)\)は確率密度関数ではない。\(l(p), h(p)\)の平均を\(m_1, m_2\)として、\(b(p) = B(p)/(m_2 – m_1)\)が確率密度関数になる。それは正規分布ではない。
 \(l(p), h(p)\)のSDがともに\(s\)だとして、\(b(p)\)は\( (m_1+m_2)/2 \)のまわりで対称であり、分散は\(v = s^2 + \frac{1}{2}(m_2 – m_1)^2\)となる。

 [Appendixからメモしておく。\(1-L(p)\)が\(N(m_1, s_1)\)に対応し\(H(p)\)が\(N(m_2, s_2)\)に対応するとしよう。すると$$ B(p) = \int_{-\infty}^p \left[ \frac{1}{s_1 \sqrt{2\pi}} \exp \left\lbrace -\frac{1}{2} \left( \frac{x-m_1}{s_1} \right) ^2 \right\rbrace – \frac{1}{s_2 \sqrt{2\pi}} \exp \left\lbrace – \frac{1}{2} \left( \frac{x-m_2}{s_2} \right)^2 \right\rbrace \right] dx$$ となる。\(s_1 = s_2 = s\)と仮定し、\(A=s\sqrt{\pi}, \alpha = (m_1+m_2)/2 , \beta = (m_1 – m_2)/2\)と書けば、$$ B(p) = \frac{2 \exp(-\beta^2/2s^2)}{A} \int_{-\infty}^p \exp \left\lbrace -\frac{1}{2s^2} (x-\alpha)^2 \right\rbrace sinh \left[ \frac{\beta}{s^2} (x-\alpha) \right] dx $$ と書ける。
 これ、\( \beta/s^2 \)が小さければ、\(\alpha\)のまわりでは正規分布に近くなるのだそうだ]

7. 前回支払価格と購入-反応曲線の関係
[いま関心ないのでパス]

8. 直接法質問と間接法質問の比較
 Method Aの回答から受容価格の上下限を求め、Method Bと比べてみたところ、トレンドは似ているんだけどちょっとずれる。標本誤差かもしれないし、Aのほうが価格構造を直接に表しているのかもしれない。Aのほうは店頭での過去経験に依存するだろうし、Bのほうはなにか特別なバーゲンのようなものを考えるのかもしれない。
 Method Bでは”penny-below”価格の効果が現れる。もしこれが本当なら、実際の価格水準とは無関係に、切りのよい数字の少し下の値段をつけるという、近代の流行の背後にある原理を指示しているのかもしれない。第二次大戦前、典型的な「だまし絵」価格と切りのよい価格とのギャップはおよそ5%だった。9ポンド6シリングとか。最近では9ポンド11シリングというようなのが多い。[とかなんとかいろいろ書いてあるけど、全部思弁的な話である… メモ省略]
 3節ではBのほうがよいと述べたがAにも良い点がある。個々人について上限と下限がわかるから相関を調べられる(対数の相関は0.8とかであった)。Bに比べて小さな標本サイズでよい。価格リストがいらない。というわけで、まずAでパイロット調査をやって価格リストをつくってからBをやるのがよいだろう。
 
9. 要約
 [略]
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 Garbor-Grangerがなにを考えていたのか、自分なりに整理しておこう。
 彼らはまず、対数価格\(p\)に対する受容下限の密度分布\(l(p)\)、受容下限を下回る確率\(L(p)\)、受容上限の密度分布\(h(p)\)、受容上限を上回る確率\(H(p)\)を考える。これらは累積レベルの確率であって、個々の消費者は\(l(p), h(p)\)からドローした受容下限と上限を定数として持っている、ってことだと思う。個々人の心のなかに連続的な価格受容性関数があるわけではない(もっとも、Appendix 2bでは個人レベルでの確率を考えるという定式化にも触れているけれど)。
 で、\(B(p) = 1 – L(p) – H(p)\)を購入反応関数と呼ぶ。なぜそう呼べるかというと、個々人においては(下限)≦(上限)であり、ある対数価格\(p\)は{下限より下、下限と上限の間、上限より上}のいずれかになるから、\(B(p)\)は対数価格が下限と上限の間である確率だ、という理屈であろう。しかし、上限と下限が\(l(p), h(p)\)から独立にドローされるなら、必ずしも(下限)≦(上限)にはならないわけで、なにか明示されていない制約のもとでドローされると考えるべきだろう。
 彼らは\(l(p), h(p)\)が等分散の正規分布で近似できると考えている。\(B(p)\)はスケーリングしても正規分布にはならない。つまり彼らは、価格受容性曲線\(B(P)\)を対数正規分布で近似できるとは必ずしも思っていないわけである。ここ、わたしゃちょっと誤解してました。